実録・淡路島5人殺害事件(7)無期懲役

アバター By 鳥取ループ

淡路島5人殺害事件の控訴審も異常な展開となった。一審判決が出たのが2017年3月22日だが、控訴審が行われる大阪高裁に何度も問い合わせても、なかなか期日は決まらなかった。そして、ようやく控訴審の公判が行われたのは1年以上経過した2018年9月28日である。

異常な展開と書いたのは、単に裁判が長引いたということではない。本来、控訴したのであれば被告人、弁護士側はなるべく罪が軽くなるように行動するものだが、むしろ正反対のことをしたからである。そして、結論から言ってしまえば、それでも一審の死刑から無期懲役に減刑された。

平野達彦は事件当時統合失調症を発症しており、心神喪失または心神耗弱の状態だった。これが当初からの弁護側の主張だ。控訴審でもそれを変えたわけではない。

しかし、一審の精神鑑定では統合失調症ではなく薬剤性の精神障害という結果が出ているので、その判断が変わらない限りは、死刑判決も覆せないということになる。

その上で、弁護側は精神鑑定のやり直しを求めなかった。それだけでなく、裁判官が職権で再度の精神鑑定を行うことを提案したのだが、それに対しても反対意見を述べた。

弁護側が再鑑定を拒否した理由はこうである。

平野達彦本人は、自分は統合失調症ではなく、あくまで精神工学戦争を仕掛けられていると主張しており、再鑑定を受けることを拒否している。被告人本人がもう精神鑑定を受けたくないと言っているのだから、弁護士としても再鑑定は拒否するということなのである。

村山浩昭裁判長は弁護士に再鑑定することについて意見を求めて、弁護士が拒否したにも関わらず、その上で裁判所の職権で再鑑定を行うことを決定した。ただ、それに対して弁護士側が抗議することはなかった。

控訴審の初公判が行われるまで非常に時間がかかっていたので、おそらくその間に裁判所、検察、弁護士の間で論点整理されていたのだろう。当然、再鑑定となると検察側には間違いなく不利になるので検察側は反対したが、それも裁判所は受け入れなかった。

2018年9月28日の公判では、職権での再鑑定に対して検察と弁護士が意見を述べる手続きが行われ、そして最後には裁判所が指名した女性の鑑定人が登場した。裁判所は、平野達彦の精神障害の有無、程度、そしてそれが犯行にどのように影響したかを調べるように求めた。

つまり、裁判所としては再鑑定することは最初から決めていたということだ。そうでなければ、鑑定人を既に準備していることはあり得ない。検察官と弁護士とのやりとりは、言わば儀式である。

今思えば、裁判官の腹の中では、減刑して無期懲役にするところまで、「ありき」であったのではないだろうか。

法廷で鑑定人がバトル!

裁判官は2019年1月までに再鑑定を行うことも求めていたのだが、実際に次の公判が開かれるまでは非常に時間がかかった。2回目の公判は、最初の公判から1年近く経た後の、2019年7月17日であった。

再鑑定の結果は、端的に言えば次のとおりである。

  1. 平野達彦は「妄想性障害」「パラノイア」という精神障害である
  2. 犯行当時も精神障害の症状は活発だった
  3. 一審の薬物性精神障害という診断は誤りである

注意すべきは、いずれにしても「統合失調症」ではないということだ。統合失調症であれば妄想以外にも様々な特有の症状が出るのだが、平野達彦にはそれがないこと。平野達彦が「精神工学戦争」等の妄想以外では割とまともで、一見すると普通に社会生活を送れそうに見えたのは、妄想性障害であれば説明がつくというのが鑑定人の意見だ。

そして、平野達彦が妄想性障害を発症した原因として、長らく仕事がうまくいかず、事件当時は経済的に追い詰められた状態で、そのストレスから症状が悪化したと鑑定人は言う。これはあまり触れられなかったが、ストレスというのであれば、交際していた女性と破局したことも大きいだろう。

なぜ平野達彦は転落していったのか。知能指数が低めということは一審でも指摘されていたが、さらに鑑定の結果、平野達彦は幼少期からASD(自閉症スペクトラム障害・アスペルガー)であることが明らかにされた。なじめる職業が見つけられなかったのは、そのことも影響しているだろう。

犯行当時に妄想性障害の症状が極度に悪化していたと鑑定人は主張した。しかし、仮に隣人が電磁波攻撃を仕掛けていると思いこんでいたとして、そこから離れるのではなく殺害するという行為を選ぶのは、本人の資質ではないかと思われる。それについても、鑑定人は殺害するという行為を選ぶということも妄想そのものであると言い切った。控訴審の鑑定人は、まさに一審とは正反対の結論を下した。

その一方で、法廷で熱い議論が繰り広げられたのは、平野達彦が過去にリタリンを服用していたことと、犯行との関係である。

これについては、一審の鑑定人も法廷に証人として立ち、控訴審の鑑定人と互いに批判し合うという展開となった。無論、当人は真剣なのだが、滑稽にも見えるほどであった。

一審で薬剤性精神病とされた理由は、薬物を止めた後でも、精神障害が発生することがあるという学術論文が複数あるということだ。筆者も別の精神科医に意見を聞いてみたことがあるが、確かに薬物を止めて長く経過した後でも、薬物を使用していた時の状況がフラッシュバックするということはあるというのだ。

しかし、それに対して控訴審の鑑定人は噛み付いた。一審で根拠とされた論文は、全てコカインのようなリタリン以外の薬物をしていたか、あるいはリタリンを使用した例であってもリタリン単剤ではなく他の薬物を服用していた例ばかりである。そして、自分が様々な論文を探し、薬剤性精神病の専門家にも話を聞いたが、平野達彦のようにリタリンだけを乱用し、その後長期間経過後に精神症状が出たという事例は1つも見つからなかったというのである。控訴審の鑑定人は、そのような例があるなら出してみろと言うように、一審の鑑定人に迫った。

それに対して、一審の鑑定人は、自分は直接平野達彦と臨床心理士との面談に立ち会ったが、控訴審の鑑定人はほとんど一審の鑑定記録の書面だけで判断していると批判した。そして、それにまた控訴審の鑑定人が反論するということが続いた。

一方で、控訴審の鑑定人が、何が妄想と言えるのかは究極的には分からないと漏らしたのに対して、一審の鑑定人が不可知論的だと批判する場面もあった。

しかし、この「不可知論」というのは、どうしても精神障害の診断には付きまとうようだ。物理的に脳が損傷を受けているといった場合は、実際に外科的に頭の中を見れば分かるが、妄想性障害や統合失調症のように内的な要因で起こっている精神障害の原因を特定するのは難しい。

結果的に控訴審の精神鑑定をもとに、裁判官は平野達彦が犯行時心神耗弱状態であったと認定し、無期懲役に減刑した。

それにしても、誰が鑑定するのかによってこれほどまでに結果が変わってしまう精神鑑定で、死刑かそうでないか分かれてしまうというのは釈然としないものを感じる。また、裁判官が最初から望み通りの鑑定結果を出すような鑑定人を選ぶということも出来てしまうのではないだろうか。

平野達彦を無期懲役とする判決文が読み上げられ、閉廷が宣言されたあと、遺族の男性の一人が「裁判官を精神鑑定しろ!」と正面に向かって罵声を浴びせた。

平野達彦、最期のメッセージ

裁判で平野達彦は精神障害者だったと言う結論が出てしまい、なおかつ彼が言わば「左翼陰謀論者」だったためか、もうメディアに取り上げられることもほとんどない。

少なくとも平野達彦の精神状態がまともではなかったことは理解できる。しかし、そのことが減刑の理由になるのであれば、触法精神障害者から社会を守る仕組みが広く議論されるべきだろう。

彼の狂気を少しでも理解するために、彼が5年前に各所に送っていたメールの内容を掲載しておかなくてはなるまい。今後、同様の兆候を持つ人物を判断するためにも。

以下が、平野達彦が日本共産党の志位和夫委員長に送ったメールである。

また、「テクノロジー犯罪」の「被害者」支援団体には次の内容のメールを繰り返し送っていた。

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