IR整備法(特定複合観光施設区域整備法)が成立し、いよいよ日本にカジノがやってくる。最初にIR施設の設置が認可されるのは三か所で、大阪府市、横浜市、長崎県、和歌山県、北海道などが誘致活動を進めている。では一体、どんな企業がIR事業を請け負うのか。カジノといっても日本企業には運営ノウハウがないため外資系企業が虎視眈々と日本市場を狙う。そこで最も有力なカジノ企業はどこかを検証してみた。
「訪日客6千万人」「経済効果」「雇用創出」などと景気のいい言葉は並ぶが実際問題、統合型リゾートといっても博打には違いない。この点に不安を抱く人は多いだろう。またギャンブル依存対策、治安対策についても十分に論議されたとは思えない。しかし国や自治体にとってこれほど“旨味 ”のある事業もない。納付金という名の「あがり」が得られるからだ。同法192条「国庫納付金の納付等」、193条「認定都道府県等納付金の納付等」でカジノ事業者は月ごとにカジノ行為粗収益から国と認定都道府県にそれぞれ15%の「納付金」を収めなければならない。要するにカジノ利用者が損すれば当然、粗収益も増え国と自治体が潤うのだ。 公が賭場を貸し出して胴元から巻き上げるというのは地獄絵図のようである。
では現状、最もIR事業誘致をリードしているのはどこか? やはり大阪万博の開催が決まりIR施設とセットで開発を進めている大阪府、大阪市だろう。大阪万博の会場になるのはご承知の通り大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲」だが、同時にIR施設もセットで開発を進めてきた。
むしろ「カジノ施設ありきで万博を誘致した」と言い切る地元議員もいる。その意欲を示すのがカジノ業者との接触だ。平成23年から大阪府知事、市長がカジノ業者と面談を続けてきた。(リスト参照)。大阪万博は2025年の開催で、大阪のIR施設が実現すれば2024年の開業予定だ。もちろん万博客をカジノに引き込みたいのは当然の話である。しかしまだ大阪はIR事業の一候補地にすぎず大阪メトロ中央線の夢洲延伸はまだ先だ。果たして残り5年で事業者を選定し施設が整備できるものか。このため「万博客に建設途中のIR施設を見せるわけにはいかない」(推進派の関係者)と焦る関係者もいた。
カジノ事業者選定の流れは?
そもそもIR誘致を目指す自治体は 今後、どのような手続きが必要なのか。IR開業までの流れは以下の通りだ。
カジノ管理委員会設置→基本方針の策定・公表(国土交通大臣)→実施方針の策定・公表→ 区域整備計画の認定申請(都道府県等、IR事業者) →区域整備計画の認定・公示(国土交通大臣)→実施協定の締結→カジノ免許申請(事業者)→カジノ免許付与→完成検査→開業
カジノ管理委員会は整備法制定から一年以内の設置が求められており、誘致に名乗りを挙げた自治体はこの4月にも委員会を決定するとみられる。ところが実際には「実施方針の策定・公表の前に事業者を選定する自治体もある」(前出関係者)との証言もあった。しかしこれもおかしな話だ。例えば本場のラスベガスやマカオなど本場に倣った雰囲気、あるいは和テイストであるとか、コンセプトがあるはず。そしてそれに見合ったプランを持つ事業者を選定するというのが本来のはずだが、「事業者ありき」で計画が進む可能性がある。日本らしい手法といえばそれまでだが、特に大阪の場合は2024年の開業という目標がある。このため実施方針の策定は「待っていられない」という本音もあるだろう。
そしてどのカジノ企業が有力候補なのかが気になるところだ。
日経新聞記事広告は外資選定フラグ?
IR事業に限らずグローバル企業による公共サービス参入を読み解く際には「新聞記事、特に日経新聞にヒントがある」(外資系企業に詳しいメディア関係者)との指摘が興味深い。つまり外資参入案件の場合、推進派の政治家・学識者、事業者による新聞社主催のシンポジウムが開催されレポート記事が掲載されるという。ところがこれは記事広告。「事業に参入する企業の幹部インタビューなど実に分かりやすい」(前同)。中でも日経記事はその傾向が強く、参入のフラグ(伏線)になるというのだ。
補足をすると記事広告とは記事に見立てた広告のことだ。通常の広告とは異なり読者の目からすると「一般記事」のように読める効果がある。広告に対する警戒心が軽減されるというべきだろうか。その法則に当てはまるのが昨年12月12日の日経新聞の2面にわたる「統合型リゾート特集」だ。
特集では昨年11月21日に開催された「日経統合型リゾートフォーラム」の内容がレポートされている。同フォーラムには自民党・細田博之IR議連会長、 東洋大 ・竹中平蔵教授、特定複合観光施設区域整備推進会議議長で一橋大学大学院の山内弘隆教授、オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン、吉本興業の大崎洋CEOらが登壇。公共事業・公共サービスの民営化やPFIの反対派からすれば竹中氏や宮内氏などはもうお馴染みの顔だろう
そしてフォーラムに登壇したカジノ事業者にも注目だ。
メルコリゾーツ&エンターテインメント会長兼CEOのローレンス・ホー氏、
ギャラクシー・エンター テインメント ・グループ副会長のフランシス・ルイ氏
日本MGMリゾーツ代表執行役員兼社長のジェイソン・ハイランド氏
シーザーズ・ エンターテインメント 日本社長兼代表執行役員のウィリアム・シェン氏
ウィン・リゾーツディベロップメント日本代表のキース・ヘンリー氏
セガサミーホールディングス代表取締役社長グループCOOの里見治紀
上記のカジノ企業は大阪府知事、市長の面談リストにも入っている。いずれも世界有数のの総合リゾート企業だ。そして記事にはメルコのローレンス・ホー氏 、ギャラクシーのフランシス・ルイ氏のコメントも顔写真付きで紹介。さらにその記事下には メルコリゾーツ&エンターテインメント、 ギャラクシー・エンター テインメント ・グループの広告付きである。この通り、意図がミエミエの記事広告なのだ。先の日経新聞のフラグからすれば日本のIR事業をリードするのはメルコとギャラクシーということになる。すでに両社ともIR事業の参入に名乗りを挙げており資本、実績、経営ノウハウも十分だろう。最初にIR事業を誘致する三か所のいずれかに参入する可能性は大だ。
もちろん「外資即悪」という見方は短絡的かもしれないが、それでも不安は払拭できない。この両社も、また政府も関係自治体も「訪日客の誘致」「観光立国」などをアピールする。だがIRに詳しい国会議員 は「訪日客の獲得を掲げているが、実際のカジノ利用者の7~8割は日本人客との予測もある」と内情を明かす。だとすれば日本人から金が吸われ、外資と国と自治体が丸儲けということになりかねない。すでにIR整備法が成立した以上、開業を待つのみだ。しかし我々の心構えとしては「統合型リゾート」などと生易しいものではなく単に「公営賭博」という意識を持つ他ないだろう。