検証・朝鮮学校裁判(前編) 前川喜平は何を語ったか

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By Jun mishina

先日、朝鮮学校が高校無償化の対象にならないのは適法とする大阪高裁判決を報じた。本誌は、裁判内容を検証してみたが興味深い事実が判明するとともにやはり「朝鮮学校」という存在の異様さが浮き彫りになる。裁判では今や“市民団体の星”と化した文部科学省・前川喜平前事務次官が陳述書を提出していた。今回はまずその全文を読んで頂こう。

2017年11月27日

第1 身上・経歴

私は1979年(昭和54)年に、当時の文部省に入省しました。2017年(平成29)年に文部科学省を辞するまでの経歴は別紙のとおりです。私は、民主党が政権与党になった2009(平成21)年当時、文部科学省大臣官房審議官(初等中等教育局担当)をしておりましたので、無償化法の制定、施行段階、検討会議が数回開かれるまでの時期に、直接に担当をしておりました。また、2010(平成22)年7月に大臣官房総括審議官になった後も、京都、大阪、神戸の朝鮮高校の視察に行きましたし、各局の事務を調整する立場から、就学支援金に関する報告を受ける立場にありました。

第2 無償化法制定の背景について

無償化法の基礎となったのは、野党であった民主党が2009(平成21)年4月に提出した、「国公立の高等学校における教育の実質的無償化の推進及び私立の高等学校等における教育に係る負担の軽減のための高等学校等就学支援金の支給等に関する法律案(高校無償化案)」です。この法案の作成は、後に鳩山内閣、菅内閣において文科副大臣を務めた鈴木寛参議院議員らが中心となっていました。この法案の段階から、「何人にも学習権を保障する」との視点が強調されており、朝鮮高校を含む外国人学校が支給対象となることが既に想定されていました。この法案自体は、2009(平成21)年7月の衆議院の解散により審議完了のまま廃案となりましたが、その背景や考え方は、民主党政権下で制定された無償化法にもそのまま引き継がれていると認識しております。なお、前者は市町村長から保護者に対して就学支援金を直接支給するという方式を採用していましたが、後者では教育施設等が都道府県知事から就学支援金を「代理受領」して、その後授業料債権と相殺するという方式が採用された点が異なります。

第3 無償化法の制定過程

1 無償化法制定過程において、朝鮮高校への適用が前提とされていたこと朝鮮学校が指定の対象になるということは、制定段階においても関係者の共通認識でした。私は、無償化法が国会で議論されていた2010(平成22)年3月当時、初等中等教育局の担当審議官でした。初等中等教育局担当の審議官は2名おり、その2名で局内に10個ほどあった課を分担して担当するのですが、無償化法を所管する高校就学支援室が含まれる財務課は、私の担当でした。ですので、私は、高校無償化法については、実質的な責任者としての地位にありました。そのように実質的な責任者の地位にありましたから、立法段階での文部科学省内での議論は全て把握していますが、当時文部科学省には、朝鮮学校を対象として指定しないとする議論は存在しませんでした。無償化法の趣旨は、高等学校の教育費について我が国の社会全体で支えることにあり、日本社会を構成するものについては国籍や在籍する学校を問わず対象とすることは、法案作成段階から共有されていました。朝鮮高校は、既に在日3世、4世という世代が中心になっており、まさに日本で生まれ育った子どもたちが通っています。また、日本の大学にも多くの学生が進学しているという実績があり、朝鮮高校に通う子どもたちは日本社会の一員として生活し、この社会をともに支えていくために、朝鮮学校で学んでいると言えます。したがって、朝鮮高校が指定の対象になることは、文科省内では当然と考えられていました。

他方、ドイツ人学校、フランス人学校といった外国人学校に通う生徒たちの多くは、日本の居住は一時的にすぎず、これらの外国人学校では日本社会の一員を育てるという側面はあまり大きくありません。それでも、朝鮮高校と同じく外国人学校であるため、朝鮮高校を対象にすることとの均衡を図る必要があり、就学支援金の支給対象としたという経緯があります。仮に朝鮮学校が対象とならないのであれば、ドイツ人学校やフランス人学校などが対象となることもなかったと思います。ドイツ人学校などと比べれば、朝鮮学校の方が遥かに日本社会に溶け込んでおり、日本の高等学校と同等レベルの教育を行っているということが文部科学省内では常識でした。

「高等学校の課程に類する過程」について

外国人学校が就学支援金の支給対象校として指定されるためには「高等学校の課程に類する課程を置く」という要件を充たす必要があるとされました。この点、法が「類する」という文言を採用したことには重大な意義があります。「類する」という文言については、「準ずる」などとしてもっと該当する学校の幅を狭くするということも考えられますが、中学校卒業程度の学力を前提とした教育課程を置いている学校がなるべく広く該当するようにという趣旨で、「類する」という用語が採用されてきたと認識しています。当初、対象として想定されていた各種学校は外国人学校だけでしたが、その後、2014(平成26)年の制度改正により、各種学校のうち国家資格者養成課程に指定されている学校(例えば、理容師養成施設など)も就学支援金の対象とされています。したがって、大学入学資格が得られない学校もたくさん対象になっています。

このように、対象を広げる議論こそすれ、諦める方向での議論はなされませんでした。

朝鮮高校を対象から外すという議論が立法段階でなされていないこと

就学支援金制度を立ち上げるにあたり、予算編成の根拠とした人数には朝鮮高校に通う生徒も含まれていたことことからも明らかなように、朝鮮学校を排除するという立場での問題の検討、議論は一切ありませんでした。朝鮮学校が朝鮮総連や北朝鮮と一定のつながりがあることは、その設立経緯から明らかであって、当然立法サイドも認識していましたが、それは民族教育を行う以上当然であること、あるいは私立学校の進学理念や運営主体が多様であることの範疇にとどまるということが、当然の前提として共有されていました。

第4 検討会議設置の関与

2010(平成22)年5月26、「高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議」が設置され、第一回会議が開かれました。私は、この会議の設置に際し、教育に関する専門的知見を持つ方々に、委員への就任をお声掛けし、その承諾を得るという役割を担いました。先ほどもお話ししたとおり、この当時私は初等中等教育局担当の審議官であり、この問題の事実上の責任者の地位にありましたので、候補者に私自身が直接面談してお声掛けをしました。委員の氏名は非公開とされているため、申し上げることはできませんが、最終的には、数名の方から承諾をいただき、検討会議を構成にする至りました。教育行政の専門家や、法律の専門家など有識者の方々でした。

委員の候補者に声をかける段階で、私は、この検討会議では外国人学校の指定のため基準作りを議論することになるが、審査の対象としては主に朝鮮学校が想定されること、文部科学省としては朝鮮高校を就学支援金の対象とすることを前提に考えていることなどを率直に説明していました。これらの点を説明した結果、否定的な感触を示されたので、委員就任に至らなかった方もいらっしゃったと記憶しています。最終的に確定した検討会議のメンバーは、このような方針を認識したうえで委員就任を承諾していただいた方ばかりですので、朝鮮高校の指定を対象とすることについて、積極的な反対を表明されている委員はいませんでした。なお、検討会議のメンバーは全員が、その後発足した「審査会」の委員に横滑りしました。

第5 検討会議での議論状況

1検討会議で共有されていた認識について

第一回の検討会議の際には、当時の鈴木寛文部科学副大臣により、外国人学校の指定について、外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべきものであるということが法案審議の過程で政府統一見解として示されていることが説明され、改めて構成員の認識として共有されることになりました。私は、2012(平成24)年7月までは担当審議官の地位にありましたので、検討会議にも実際に出席して、議論状況を直接見聞きました。なお、私は、2010(平成22)年8月19日に開催された第5回検討会議に報告されたとおり、同年7月8日は京都の、同年7月9日には大阪及び神戸の朝鮮高校を訪問しました。この第5回検討会議には、私自身も出席して、訪問に同行した立場から報告したと記憶しています。実際の訪問時には、各学校で実際の授業を参観させてもらった後、先生方から学校運営の実体についてヒヤリングを行いました。このとき訪問した3つの学校は、それぞれ学校の規模や財政状況も異なりました。大阪の朝鮮高校は校舎も非常にしっかりしていた印象があります。大阪もそうですが、京都や神戸の学校も、卒業生や同胞の方々の支援を受けながら、立派に学校運営されているという印象を持ちました。記憶に残っていることとしては、日本語の授業を参観していたときに、古典をしっかり教えており、生徒らがその場で和歌をつくる授業をしていたことです。自民族の言葉や歴史だけではなく、日本学校で行われている授業内容も参照しながら工夫をして教えている様子がうかがわれました。また、校舎内に貼られていた朝鮮語の張り紙の内容について質問したときには、「これは、日本語のくだけた表現を朝鮮語でどのように表現するかを書いた張り紙です。」と教えてもらいました。朝鮮学校の生徒たちの母語は日本語であり、朝鮮語をいわば第二言語として習得していることから、口語表現の習得に努力している様子がよくわかりました。

2本件規程13条の趣旨

検討会議は合計5回開催された会議を経て、2010(平成22)年8月30日、「高等学校の課程に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について(報告)」(以下、「検討会議報告」といいます。)をとりまとめ、公表しました。その後実際に制定された「公立高等学校に係る授業料の不撤収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程(平成22年11月5日文部科学大臣決定)(以下、「本件規程」といいます。)は、検討会議の議論を直接見聞きする立場にありましたので、外国人学校指定のための要件をどのように定めるかについて検討会議でなされていた議論はよく知っています。なお、担当審議官を離れた後も随時報告を受けていましたので、実際に制定された本件規程の趣旨についても理解しています。本件規定の13条に、「指定教育施設 は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」という規定があります。

この規定が置かれた趣旨として、私が理解しているのは、「代理受領」という制度になった関係上、学校に支払われた就学支援金が間違いなく生徒の授業料債権と相殺されることを担保して、生徒の授業料負担が現実的に軽減されるようにするという点にありました。また検討会議では、その他の法令違反がないことも要件の一種として議論されていましたが、私が知る限り、検討会議で「適正な学校の運営」に関して議論されていたのは、就学支援金の管理に関係する問題や情報公開と経理の透明化の問題に限られ、実際に参照された関係法令も学校教育法や私立学校法の規定だけでした。検討会議の中で、教育基本法の条項への抵触が問題とされたことは一度もありませんでした。

仮に検討会議の段階で、「不当な支配」の有無などを教育基本法違反についても審査するという議論がなされていたのであれば、検討会議の議事や、実際の規程の文言に、教育基本法についての言及があったはずです。本件規程13条では、「法令に基づく学校の運営」の前に、例示として「就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当」が掲げられています。例示というのは通常、典型例として想定されるケースを掲げるものですが、仮に教育基本法の問題が議論されていたのであれば、高位の法である教育基本法が例示にも掲げられていたと思います。

第6 審査会での議論状況

2011(平成23)年7月1日に設置された「高等学校等就学支援金の支給に関する審査会」(以下、「審査会」といいます。)では、規則ハ号に基づく規程及び留意事項に関する議論をしておりました。このような審査会ないし審議会を設置することは、教育行政全般においてよく見受けられます。その趣旨は、専門家の合議体による、専門的かつ公正中立な判断をすることにありますから、設置した以上はその意見を聞き、十分に尊重して処分を行うことが通常です。

審査会の会議次第、議事要旨、配布資料をみますと、2012(平成24)年3月26日に開催された第6回の審査会において、「審査基準のうち、審査の余地のない外形的な基準(教員数、校地・校舎の面積等)については、全校が満たしている。」。「報道内容のうち、①審査基準(法令に基づく学校の運営)に抵触しうる事項、②申請内容の重大な虚偽となりうる事項については、指定の可否に関わることから確認を行ったが、重大な法令違反に該当する事実は確認できない」と記された「高校無償化に係る朝鮮高級学校の審査状況(概要)と題する資料が配布されており、同日の審査会ではさらに「朝鮮高級学校への留意事項(素案)」が議論されています。また201(平成24)年9月10日に開催された第7回の審査会においても、引き続き「朝鮮学校への留意事項(素案)」が議論されています。文部科学行政においては、審査会、審議会など専門家らによる第三者機関の議論を経て認可、認定、指定等の行政処分を行うことが頻繁に行われますが、一般に「留意事項」とは、審査会、審議会等の会議体が組織として、認可等の行政処分を「可」とする旨の最終判断を行う際に補足的に付すものです。「留意事項」の案が議論されているということは、その会議の議論が最終段階に至っており、かつ、組織として審議事項について肯定的な結論を出すことが前提となっていることを示すことができます。審議事項について結論が出る見込みが立っていない段階で、先行して「留意事項」だけを議論するということは、少なくとも私の経験上は考えられません。実際の審査会において「朝鮮高級学校への留意事項」が議論されていたということは、審査会の議論が最終段階に達しており、かつ、朝鮮高級学校を就学支援金の対象として指定することを前提に議論が進んでいたことを明確に示すものです。

なお審査の過程で初等中等局財務課修学支援室長をしていたのが和田勝行氏で、就学支援金問題の実質的な担当者ですので、当時の省内の事情を詳細に把握していると思われます。

東京訴訟において、望月禎氏が、審査の継続中、高校教育改革プロジェクトチーム内において、規則ハ号の削除をすることを内容とする省令改正の準備を進めていたと証言していると聞いています。私は局担当の審議官をしていた当時、高校教育改革プロジェクトチームでは望月氏の上司にあたりました。また、総括審議官になってからも、さらにはその後官房長になってからも、当該チームからの報告は受けていました。私の記憶では、いずれの段階でも、ハ号を削除する議論はしておりません。

さきほどご説明したとおり、「審査会」のメンバーは、その全員が、検討会議のメンバーが横滑りして就任された方々です。つまり、審査会のメンバーは、本件規程の元となった検討会議報告を作成公表したメンバーです。自らの議論の結果作成された基準をを否定するような議論を、審査会のメンバーがしていたはずはありません。少なくとも民主党政権時代には、規則ハ号を削除する必要があるということを組織的に議論していたということはありえないと断言できます。民主党政権の末期である2012(平成24)年10月には、田中真紀子氏が文部科学大臣に就任しました。報道等でも指摘されたとおり、田中大臣は、朝鮮高校を就学支援金の対象として指定することに前向きでした。結果として、新設大学の不認可問題を巡って省内が混乱したため、朝鮮高校の指定は実現されませんでしたが、指定に前向きだった田中大臣のもとで、指定のための根拠規定である規則ハ号を削除する準備をすることはできなかったはずです。

第7 不指定処分の過程について

2012(平成24)年11月16日に衆議院が解散され、12月16日に総選挙が行われました。私は、解散・総選挙の当時大臣官房長の立場にあり、省内の事務的な手続きの取りまとめをしていました。衆議院が解散された時点で、自民党が政権に復帰することは必至の状況でしたが、私は、自民党になれば、朝鮮学校が就学支援金の対象から除外されるという結果になるだろうと想像していました。自民党は野党時代から、朝鮮学校指定のための根拠規定である規則ハ号を削除する法案を提出するなどをしており、自民党政権になればそれまでの審査会の議論とは無関係に、朝鮮学校を除外することは容易に想像できました。

不幸にも、私の想像通り、自民党政権発足直後に、下村文部科学大臣は、規則ハ号を削除する省令改正を指示し、朝鮮学校に対する不指定処分を行いました。審査が続いているのに、根拠規定を削除し、不指定にするということは通常ありえないことです。このような省令改正とそれにともなう不指定処分は、無償化法が想定していた指定のための要件である「高等学校の課程に類する課程」を有するかどうかは全く無関係になされたものであるといわざるをえないと思います。政権交代により、朝鮮学校が不指定になったことについて、私は忸怩たる思いですが、後は司法の判断に期待するしかありません。

争点の一つになった規則ハ号の削除という問題。法律施行規則(平成22年文部科学省令第13号)第1条第1項第2号では無償化対象になる各種学校をこの通りに定めた。

(イ)大使館を通じて日本の高等学校の課程に相当する課程であることが確認できるもの(民族系外国人学校)
(ロ)国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けていることが確認できるもの(インターナショナル・スクール)
(ハ)イ、ロのほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

朝鮮高校はこのうち(ハ)に該当し、対象になっていたが2013年2月20日の改定で(ハ)を削除した。朝鮮学校への無償化に反対する声は保守層だけではなく、在日本大韓民国民団からも反対の意見書が提出されていた。また前川氏は朝鮮学校の視察によって正常な運営を確認したという。だが実際に裁判資料を検証してみるととても普通の学校とは思えない事態が起きていた。これは次号で明らかにしていきたい。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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