本当に“埼玉化”した埼玉県平和資料館

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By 三品純

今年も“あの戦争”週間がやってくる! メディア、文化人らの間で好んで使われる「あの戦争」という呼称。日本の戦争史上、「あの」で通じるのは、第二次世界大戦、とりわけ太平洋戦争のみである。これからの季節、新聞社説の類では、どこかで「あの戦争」が多用されることになるだろう。自身も戦争体験者、被害者であるかのような振る舞いは、とても冗長に見える。この一語で”憂う反戦青年”が演出できるのだ。

もう戦争世代も姿を消しつつある。代わって「原爆の語り部二世」「戦争の語り部二世」といった人々が出てきた。もちろん平和教育は、尊いものに違いない。しかし彼らの言説にどれだけの史実性やリアリティがあるのか疑問だ。「あの戦争」を伝えるという行為そのものがどこかチープになってはいないか。

そんなチープさを最も体現しているのが「埼玉県平和資料館」(東松山市岩殿いわどの)だと思えてならない。同館は、1993年8月に開館。13年のリニューアル後は、「ピースミュージアム」という愛称もついた。

もとは、旧社会党衆院議員出身のはたやわら知事時代の85年に「平和を考える資料の調査研究費」として100万円が計上されたことにある。資料館建設の機運が高まった背景として畑知事の政治スタンス、また県内に陸上自衛隊・朝霞駐屯地(朝霞市)、航空自衛隊・入間基地(狭山市)などの軍事施設を抱えていることにあった。革新系の畑氏は、知事選でも「埼玉に基地はいらない」と訴えた人物。このため資料館構想にも理解があった。さらに建設が検討され始めた当時は、バブル経済の最中さなか。これも大きい。県内では、他にも多くのハコモノが建設される中、平和資料館も約30億円の費用が投じられた。「平和の希求」といった目的とは別に「ハコモノ行政」の一環という性質も帯びていた。

かつて同館の運営は、県内の有識者らで構成される「埼玉県平和資料館運営協議会」が進めた。もちろん協議会のメンバーは、左派色が強い面々。そして同館の展示をめぐり全国ニュースになったことも。06年、館内に展示されている歴史年表の「南京大虐殺、従軍慰安婦問題、三光作戦」の記述をめぐり騒動に発展。この時は、マスキング(テープなどで覆い隠すこと)で事態を沈静化させた。

仮に日本にとって不都合な歴史であっても「史実」ならば伝えるべきだ。しかし同館の展示は、問題だった。特に三光作戦は、旧日本軍の具体的な作戦名ですらなく、あくまで中国側の呼称にすぎない。中国側の主張を埼玉県が認めた、ということになる。県内外の保守派が憤慨したのは、言うまでもない。
現在は、指定管理者制度により運営体制が変わり、管理を「株式会社サンワックス」(行田市)が請け負っている。年間の予算(今年度実績)は、管理運営委託費として4556万8千円、資料収集、展示、普及啓発、管理費として239万9千円。自治体の財政が苦しいご時世で年約5千万円という大金が投じられている平和資料館。果たしてそれだけの価値があるかどうか見学してみた。

ALWAYS 三丁目の夕日1945バージョン!

仕事柄、特殊な分野の資料館をよく取材するが、弊舎では、ある合言葉がある。「○○の歩みと資料館には、ネタがある」と。○○の歩みとは、各種団体が発行する記念誌にありがちなタイトルのこと。このような文献には、業界内で“常識”でも世間的にはロクでもない“非常識”な事柄がさらっと書いてある。資料館も同様だ。今回も何か面白いことがある、と思っていたが逆に拍子抜けすることに…。

同館は、東松山市内の物見山公園に隣接する。交通のアクセスは、よくない。駐車場から小高い丘をあがると資料館がある。入館は、無料。写真撮影は、事前に許可をとれば誰でもできるが、展示物単体の撮影は不可だそうだ。

そうした事前の手続きがあったわけだが、施設内に足を踏み入れた瞬間、同館の何たるやを察した。吹き抜けがある広いエントランスホールの壁に『青い目の人形物語』のアニメ絵がずらりと並ぶ。“この手”の資料館にありがちな現象だ。展示物が脆弱であると、このような“空間美”の世界になる。またアニメ絵の展示がどれだけ歴史学習になるのか疑問だ。

さらに進むとタイムトンネルなるものがあり、エスカレーターで別の展示室につながっている。戦時中にタイムワープするというコンセプトだ。さっそくトンネルを進む。

「これはテーマパークだ」

そこにあるのは、当時の住居、小学校の教室や防空壕を再現したアトラクションの数々。戦争の陰惨さというよりか“昭和の暮らしのエトセトラ”といった感じ。ALWAYS 三丁目の夕日1945バージョンというべきだろうか。それに同館でしか知りえない情報でもない。これぐらいならば本場、南京大虐殺紀念館なんきんだいぎゃくさつきねんかんばりに蝋人形製の日本兵像で残虐シーンを展示してもらった方が清々しい。

場所を移して高さ約40mの展望塔へ。ここからは、都内や富士山も一望できるという。夏休みで来ている子供たちもここが一番楽しそうである。

とにかく館内は、小奇麗で無垢な空間だ。慰安婦、南京事件、三光作戦などのイデオロギー臭満載な展示物は、皆無。かといって靖国神社内の遊就館ゆうしゅうかんのように復古調でもない。なんだか右の人、左の人、両陣営に配慮した感がたっぷりで無味無臭。平和資料館というよりも平和で波風立たない資料館なのだ。

ここで覚えた不思議な感覚。あえて表現するならば実に“埼玉化”的である。埼玉化とは、全国各地の都市構造、景観や消費スタイルが均一化し、没個性的になっていく様らしい。そんな埼玉化をなぜか平和資料館で垣間見た気がした。なお同県広聴広報課によれば年間の来場者数は、約4万3千人という。この数字の多寡は、なんとも判断がつかない。ただ確実に言えることは、毒にも薬にもならない埼玉県平和資料館。こう評しても決して失礼ではないだろう。

まさか来場数が? と思ったら世界の人口だった。

まさか来場数が? と思ったら世界の人口だった。

玄関から展示室に続く。エントランスホール。資料館の大部分を占める。

玄関から展示室に続く。エントランスホール。資料館の大部分を占める。

ここでタイムワープすると、戦時中の世界に。

ここでタイムワープすると、戦時中の世界に。

学校を模したアトラクション。入ることもできる。

学校を模したアトラクション。入ることもできる。

二宮尊徳像。最近の学校ではあまり見なくなった。

二宮尊徳像。最近の学校ではあまり見なくなった。

ここでは実際に机に座りビデオ上映で模擬授業も体験できる。

ここでは実際に机に座りビデオ上映で模擬授業も体験できる。

平和資料というよりも民俗博物館のような…

平和資料というよりも民俗博物館のような…

アメリカ本土への攻撃を目的に開発された風船爆弾。

アメリカ本土への攻撃を目的に開発された風船爆弾。

航空機の燃料にもなった松根湯の製造機。

航空機の燃料にもなった松根油の製造機。

町の郷土資料館でもよく見かける品々。

町の郷土資料館でもよく見かける品々。

展望台から埼玉、東京を望む。

展望台から埼玉、東京を望む。

資料館の全景。となりに埼玉のゆるキャラ、コバトンが。

資料館の全景。となりに埼玉のゆるキャラ、コバトンが。

三品純 について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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本当に“埼玉化”した埼玉県平和資料館」への1件のフィードバック

  1. 小鳥

    松根湯→松根油

    あと、三光作戦の記載がありますがこれ、わかんない人多いと思いますよ。
    最も、皇軍は、軍律厳しいので、奪いつくし、殺しつくし、焼き尽くすなどしてません。

    返信

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