大阪メトロ駐車場(大阪市中央区)に並ぶ〝EVバスの墓場〟。その製造元であるEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は4月14日、負債総額57億円を抱えて民事再生手続開始を申し立てた。逆に大阪メトロはEVMJへ購入代金の返還や違約金の支払いを求めているが、回収できる可能性は低いだろう。「ゼロエミッション」に溺れた行政と企業の末路と言えないか。(写真=大阪メトロ駐車場)
補助金ありきの事業だと自認したEVMJ

(トラブルメモ)2025年大阪・関西万博で運用された大阪メトロのEVMJ製EVバスは閉幕後、市バスに転用される予定だった。ところがバスは不具合が報告され使用中止。バスの購入には国、大阪府からの補助金も使用されており議会でも追及中だ。
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大阪森ノ宮の大阪メトロ駐車場で眠るEVMJバス群。不具合によって100台以上のバスが整然と並んでいる。異様な光景だが、一台一台に税金が投じられたことには、怒りを禁じ得ない。
EVMJは4月14日、民事再生手続きを申し立てたと発表した。

この間、一部ウェブメディアにおいて、弊社が販売した EV バスに関し、車両の不具合により急ブレーキや暴走が発生したとする等の事実と異なる内容が含まれた記事が掲載されるなどしたことにより、弊社の新規営業及び弊社製品を購入いただくお客様への補助金交付に著しい支障が生じることになりました。また、2026 年3 月 31 日には、大阪市高速電気軌道株式会社より納入済みの全車両について今後の使用をしない旨のリリースがなされ、同年 4 月 1 日には契約解除の通知を受領することとなりました。このような状況のなか、今後、弊社の資金繰りが維持できなくなる懸念が生じたことから、民事再生手続においてスポンサーを選定し、スポンサー支援の下で事業を再生させるべく、本申立てに至った次第です。(原文ママ)
特にこの箇所は他責感が溢れている。あたかも同社が風評被害を受けたかのような主張だ。電動車に詳しい電子機器メーカー関係者はこんな感想を漏らした。
「EVMJは、自社の販売不振について、顧客への補助金交付に支障が出たことまで理由に挙げています。裏返せば同社のEVバス事業は補助金制度が前提と公言したようなものです」
その上で、発表内容について3つの問題点を挙げる。
「まず第一に国交省関係か、自治体関係か、何の補助金を指すのか明示されていません。第二に記事のせいで補助金が止まったのか、実際には品質問題やリコール対応、事業継続性への懸念が審査上不利になったのか、そこはこの文書では立証されていません。そして第三に販売先が補助金を前提にしていたなら、メーカーの品質不安は補助金審査や交付判断にも当然響きますよね。何ら弁明になっていない文章です」
またEVMJをめぐる報道は誤解を招く内容だと訴える。いち早くEVバス問題を追及してきたモータージャーナリスト・加藤久美子氏の記事だろう。
ブレーキをめぐっては不具合を訴える現場のドライバーの意見や報告がたびたび報道されてきた。
これに対してEVMJは3月23日、「一部メディアにおける弊社に関する事実と異なる報道について」としてブレーキの不具合を否定。そして今回4月14日のニュースリリースでも同様にブレーキの不具合について異を唱えた。
しかしこの反論は疑問だ。昨年9月5日の記者会見で中野洋昌国交大臣(当時)はEVMJ製バスについて走行中の車両の停止やドアの開閉不良など複数の不具合を指摘。
また同年10月17日の記者会見でも中野大臣はブレーキホースの損傷など合計113台の車両で不具合が起きたことを報告した。
一方で大阪メトロ関係者はこう話すのだ。
「EVMJが昨年9月8日に開催した社内説明会で大手コンサル会社出身の幹部社員M氏は〝不具合は運転手の操作ミス〟と説明したのです」
これも他責的思考だ。しかもバス運転手は同社にとってクライアント側。エンドユーザーに責任転嫁するのはメーカーの態度としておかしい。仮に運転手の操作技術に問題があるならば、EVMJが証拠を出すべきだ。他でも疑問は尽きない。
中小企業基盤整備機構と50億円の資金調達契約

先の大阪メトロ関係者はこう明かす。
「EVMJは2024年、中小企業基盤整備機構の『革新的技術研究成果活用事業円滑化債務保証制度』を活用して総額50億円の融資契約を締結。資金調達が順調であるかのような印象を与えました」
同社の2023年(第5期、2023年1月1日〜12月31日)決算は黒字だった。『自動運転ラボ』(2024年4月25日)も「住友商事出資のEVモーターズ、驚異の売上高44倍!黒字転換も達成 第5期決算」と報じたほどである。ところが翌年の第6期には赤字に転落した。
内部からは「保証制度の融資契約で資金調達するための黒字決算ではなかったか」という疑問も投げかけられている。
前出のメーカー関係者はこう疑問視した。
「『革新的技術研究成果活用事業円滑化債務保証制度』の審査でEVMJの技術であるアクティブ・インバータが評価されています。中小企業基盤整備機構の発表でも〝高いレベルの省電力とバッテリーの長寿命化を実現する独自システム〟とべた褒めされました。確かに独自技術かもしれませんが、先端的な技術と言えるのか疑問ですよ」
同社の公式説明では2016年の深圳での走行テストで0.78kWh/kmを達成したとアクティブ・インバータの効果を挙げている。
しかしそれはあくまでメーカー内のテスト走行に過ぎない。第三者機関による比較試験、査読論文、主要OEMとの性能比較表、業界標準に照らした優位性の検証が行われたのだろうか。
また中部経済局が2024年1月11日に開催したビジネス交流会『MEET UP CHUBU』でもEVMJについて「高性能電池制御技術」と紹介された。しかしこれは単に会社側の説明を要約したものだ。
「EV向けインバータ技術そのものは世界的に成熟した分野。モーター制御、高速応答、熱損失低減、統合電源制御などは各社が長年しのぎを削ってきた領域です。車載インバータや統合電源変換に関する既存特許は多数ありますし、EVMJのシステムが新基軸というわけではありませんよ」(前同)
つまり中小企業基盤整備機構はEVMJの技術を過大評価した可能性があるのだ。同機構はどのように審査したのか、また同社が民事再生手続きに入ったことで債務保証契約をどうするのか。広報・情報戦略統括室に聞いた。
―民事再生手続開始申立て後の債務保証契約はどうなりますか。
中小機構は、現時点において同社に対する直接の債権者ではありません。債務保証契約に基づく今後の対応については、関係する貸付金融機関等と連携し、制度に則って適切に対応を検討してまいります。
―融資金額50億円の実行状況及び回収状況について教えてください。
個別の融資実行額や借入残高の状況については、回答を差し控えさせていただきます。回収等については、先の質問と同様、中小機構は現状直接の債権者ではないことから、貸付金融機関等と連携し、制度に則って対応していく予定です。
―技術的な不具合が続いたが当時、どのような審査をしたのですか。
本制度は、産業競争力強化法第21条の5に基づき、経済産業省より革新的技術研究成果活用事業計画の認定を受けた事業者を対象としています。この認定を前提とした上で、中小機構においても、関係書類の確認等を行い、審査を実施しています。
審査からわずか1年程度で不具合の連続。見抜けなかったとすれば、中小企業基盤整備機構の審査能力も問われるだろう。
またEVMJにも
「ニュースリリースで掲載された事実と異なる一部ウェブメディアとはどの社のどの記事のことか」「昨年9月8日の社内説明会で〝不具合は運転手の操作ミス〟と説明していたのは事実か」「50億円の資金調達契約の審査状況と今後の対応について教えてほしい」
といった質問を送付した。
これに対し同社広報の回答は事実上のノーコメント。
1 「返金等に関するお問い合わせについて」 返金等に関する事項につきましては、民事再生手続において対応いたします。
2 「その他のご照会事項について」 その他の事項につきましては、2026 年 4 月 14 日付け「民事再生手続開始の申立てに関するお知らせ」に記載のとおりです。
1は大阪メトロへの返金に関する回答のようだ。おそらく他メディアへも同一のものを送っているのだろう。それ以外の質問については無回答ということだ。
なぜ大阪メトロはEVMJ製バスを大量購入したのか
無論、不具合だらけのバスを販売したメーカー側の責任もある。だが大阪メトロが大量購入したことも大問題だ。
再利用の可能性は消滅し、EVMJ製バスは車両としてほぼ無価値。大阪メトロはすでに購入代金返還を正式に求めているが、資力や民事再生手続の進み方次第で、回収の実効性は不透明だ。
大阪メトロが購入したEVMJのEVバスは190台で総額約75億円。そのうち約44億円が国・大阪府・大阪市の補助金である。その内訳は、国から約39億円、大阪府・大阪市から約4億8000万円とみられる。
しかも国からの補助金制度は多様だ。
令和3年度自動車環境総合改善対策費補助金
令和4年度自動車環境総合改善対策費補助金
令和4年度万博を契機としたバス事業者の脱炭素化促進事業(臨時支援)における補助金
令和4年度訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金
令和4年度万博を契機としたバス事業者の脱炭素化促進事業における補助金
令和4年度地域公共交通確保維持改善事業費補助金
令和5年度万博を契機としたバス事業者の脱炭素化促進事業における補助金
グリーンイノベーション基金事業費助成
このうち国交省所管分の約6億円については、国が大阪メトロに返還を求める意向とされる。いずれもインバウンドとゼロエミッションを目的にした補助金である。
外国人観光客と環境問題を口実に金をばら撒く構造は必ずしも産業振興に結びつくとは言い難い。今回の騒動を機に本格的に補助金制度を見直してもらいたい。
それに大阪メトロによるEVMJ製バス購入が合理的な判断で行われたとは思えない。
試験的に数台のEVバスを導入して成果が確認でき次第、台数を増やすというのならば理解できる。いきなり実績の乏しいEVバスを大量に購入する根拠は何だったのか。
「EVバスの運行管理とエネルギーマネジメントシステムを一体化させた各種先端技術開発実証」(実施者名: 大阪市高速電気軌道株式会社 、代表名:代表取締役社長 河井英明)にまとめられた事業戦略ビジョンを分析してみよう。
以下の資料で100台以上のEVバスを導入する根拠が説明されていty




事業戦略ビジョンの実証計画は興味深い。会場外輸送の特定路線で大型路線バス『F8 Series 2 City Bus』65台を電動化すると、その路線の運行車両の100%をEV化した状態を再現できる、としている。
つまり「その路線を全部EVに置き換えた世界」を模擬したというのだ。チャートを活用しており、一見すると詳細な説明に見えるが、「根拠」としては非常に薄い。

事業戦略ビジョンはただの未来予想図
29ページの「万博実証(2025 年)の実施目的・全体像(必要台数の根拠)」から重要箇所を抜粋する。
全体像 大阪万博会場の外周路において、35台の小型EVバスにより、大阪万博来場者に高頻度輸送を実施。
小型バス35 台を導入する妥当性 大阪万博外周トラムにて、計画日来場者数の10%の輸送力を担うモビリティとして、35台(36,400人)の導入が必要。全台数を電動化することでEV普及期の完全電動化社会を模擬。
来場者数の10%を小型EVバスが輸送するとの説明だ。しかしこの10%とはどのように算定されたものか。
「その10%は何人か」「計画日来場者数は何人か」「1台あたりの定員は何人か」「ピーク時需要に対応するのか、日平均需要なのか」「1日あたりの運行便数」
このような条件が明示されるべきだ。次いで会場外輸送65台についての記載を抜粋する。
大阪万博会場周辺のシャトルバスにおいて、65台の大型EVバスにより、大阪万博来場者に高頻度輸送を実施
大阪万博の会場外輸送の特定路線の65台、OCB運行車両数の100%を電動化することで、EV普及期の完全電動化社会を模擬。
非常に不可解な説明だ。35台の場合は曲がりなりにも「10%の輸送力」という数字があった。ところが65台の場合、「特定路線の65台」「OCB運行車両数の100%」を電動化するというのみだ。根拠になっていない。(*OCB=大阪シティバス)
これは「なぜ65台必要か」という輸送需要の説明ではなく、既存または計画上の運行車両数を丸ごとEV化するという「目標」でしかない。
「特定路線とはどこか」「既存ディーゼル・ハイブリッド車との比較検証」「1台あたりの輸送能力はどれぐらいか」などの前提条件が欠落している。莫大な費用が必要なのに、導入コストや効果を省略した内容だ。
また「EMS・FMSの接続」を根拠にしている点も疑問が残る。
大阪・関西万博のEVバス運行ではEMS(エネルギーマネジメントシステム)、FMS(運行管理システム)が活用された。
会場内輸送では「EMS・FMSの相互接続による運行計画を遵守しながら充電機会を指示するシステム」「限定的なエリア内でのDWPTの充電」
会場外輸送では「EMS・FMSの相互接続による運行計画を遵守しながら充電機会を指示するシステム」
会場内外でそれぞれの目的が説明されている。この100台導入は単なるEVバス導入ではなく、EMS・FMS・DWPTの実証のための負荷、運行対象、実験素材としてEVバスを使う構想だ。
実績が不透明なEVバスを大量導入するにしてはあまりに楽観的ではないか。
「EMS・FMSの実証であれば、本当に100台すべてが実車である必要があったのか」「一部を実車、一部をシミュレーション負荷にする選択肢はなかったのか」「充電管理システムの検証に、全台新規導入が必要だったのか」「不具合時の冗長性やメーカーリスクは評価されたのか」
この資料を見た関係者はこのような疑問を持たなかったのか。自己資金で購入するならば綿密な購入計画を考えたに違いない。ところが大阪メトロが提示した事業戦略ビジョンの説明は不十分だ。
「なぜ100台なのか」「なぜEVMJなのか」「なぜ全台EV化なのか」「なぜ段階導入ではないのか」「その費用対効果はどうか」
このような基本的な説明がまるでなく「万博では大量かつ多様なEVが走るスマート都市を想定する」といった未来構想の〝宣言文〟でしかない。「未来の模擬」という抽象的な言葉で大規模導入を包み込んでいるかのようだ。それも補助金ありきという事業スキームが原因だろう。
万博自体が未来像を示す一大イベントだ。EVMJバスを使った輸送も未来ビジョンの一つだったのだろう。だからといってコスト、安全性、透明性を無視していいことにはならない。その結果が森ノ宮のバスの墓場ではないか。



