大和高田市議会「会派絆・日本維新の会」所属の仲本博文市議が一般社団法人葛城メディカルセンター(同市西町)に移転候補地を売却。総額約5千万円と高額だが、メディカルセンターが建設できない土地だった! 当の仲本市議に〝土地転がし疑惑〟が囁かれており、売却に関する説明を求めたがいまだ返答はない。
沈黙する仲本市議、センター関係者たち
今年4月から開始した連続記事「奈良の闇」。大和高田市・森本尚順市議の黒い人脈を追ってきた。その取材の最中、新たに不可解な情報を入手。森本市議と同会派で自由同和会奈良県本部会長の仲本博文市議らが(一)葛城メディカルセンター(大和高田市西町)に移転先候補地(同市市場616‐1、617‐1)合計562坪を売却。だがその土地はセンター施設が建設できない市街化調整区域だった!
売却額は総額で約5千万円。同センターは利活用できない雑種地を高額で買わされた格好だ。これに対し地元関係者らは仲本市議による土地転がしではないかと指摘している。枯れた雑草で覆われ荒涼たるかの地。周辺で聞き込みを行ったが、メディカルセンターが移転するという話は誰も聞いたことがないという。
事実を確認しようと仲本市議に対して質問状を送付したが回答はない。また売却当時のセンター代表理事にも取材を申し込んだが応じてはもらえなかった。
ともかく、この一件がいかに無理筋な取引であったかをお伝えしよう。
大和高田市都市計画マスタープラン
現在の葛城メディカルセンターは近鉄高田駅、JR高田駅、市役所までいずれも10分内でアクセスでき至便だ。しかし施設が手狭になったことから移転先を探していた。
それではなぜ葛城メディカルセンターは市場616‐1、617‐1を購入したのか。考えられるとすれば「市議会議員」という社会的立場に信頼性を置いてのことだろう。不動産業者ならば重要事項説明で土地の状況や利用目的、用途を買主に伝えるのが通常だ。通常の土地取引ではありえないことが起きた。
センター側が市場の土地を購入したのはこの土地に何らかのメリットを感じたからだろう。あるいは有望な土地といった説明を受けたかもしれない。
これを読み解くには「大和高田市都市計画マスタープラン」が重要になる。
マスタープランは2012年度から2021年度を計画期間として策定し昨年、素案が発表された。同プラン概要版の図版を引用する。
問題の土地「市場616‐1、617‐1」は地図上の赤丸。正面には高田西中学校が建つ。この一帯は市街化調整区域で開発行為には制限がある。
補足をしておくと都市計画法で定められた「市街化区域」とはすでに市街地を形成し区域及び10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域のことだ。対して市街化調整区域は市街化を抑制する地域のこと。原則として商業施設や住宅の建設は認められていないが、都道府県知事の許可を得れば可能となる。
問題は同地は将来的に利便性が向上する可能性があることだ。
マスタープランでは大和高田市中心部から葛城市に至る大和高田当麻線を東西交通のための重要幹線という位置付け。「まちづくりの方向性」として「都市計画道路大和高田当麻線の整備推進による東西交通の円滑化と幹線道路沿道の土地利用の活性化」を掲げた。
当麻線沿線は何らかの開発行為、商業施設誘致等いわゆる「沿道サービス」が行われる見通し。つまりこの沿線は開発、建設は可能だが、ただし繰り返すが市街化調整区域は法令上、制限がある。分かりやすくまとめたサイトから引用しておく。
都市計画法第34条:第2種特定工作物(ゴルフコース、1ha以上のグラウンドや墓苑など)
都市計画法第34条1号:周辺居住者の日常生活に必要な店舗・事業所および社会福祉施設・医療施設・学校などの公益上必要な建築物
都市計画法第34条2号:市街化調整区域内の観光資源等の有効活用に必要な建築物
都市計画法第34条3号:温度・空気等について特別な条件が必要なため、市街化区域内での建築が困難な建築物
都市計画法第34条4号:農林漁業用または農林水産物の処理・貯蔵・加工用の建築物
都市計画法第34条5号:中山間地の農林業の活性化基盤施設の建築
都市計画法第34条6号:中小企業の事業共同化または工場・店舗等の集団化に寄与する建築物
都市計画法第34条7号:市街化調整区域内の既存工場と密接に関連し、効率化に必要な建築物
都市計画法第34条8号:危険物の貯蔵・処理用の建築物等で、市街化区域内での建築が不適当な建築物(ガソリンスタンドなど)
都市計画法第34条9号:前各号に規定するほか、市街化区域内での建築が困難または不適当な建築物
都市計画法第34条10号:地区計画または集落地区計画で定められた内容に適合する建築物
都市計画法第34条11号:市街化区域に隣接または近接し、市街化区域と一体的な日常生活圏を構成している地域で、おおむね50以上の建築物が連担している地域(50戸連担地区)のうち、条例で指定する区域内での開発行為で、予定建築物の用途が環境の保全上支障ないもの
都市計画法第34条12号:周辺の市街化促進のおそれがなく、市街化区域内では困難または著しく不適当な開発行為として、都道府県の条例で、目的または予定建築物の用途を限り定めたもの
都市計画法第34条13号:自己の居住・業務用建物を建築する既存の権利にもとづき行う開発行為
都市計画法第34条14号:上記のほか、市街化促進のおそれがなく、市街化区域内では困難または著しく不適当な開発行為で、開発審査会の議を経たもの(分家住宅や流通業務施設など)
開発や建設が全く不可能というわけではなく市場616‐1の付近には靴下工場が建設予定だ。しかし靴下は奈良の特産品のため、「地場産業の振興」が目的として認可された。
他方、葛城メディカルセンターは病院ではなく検査やリハビリなどを主とする医療関連施設で34条1号から14号まで該当しない。通常、困難または不適当な開発行為であっても都道府県知事が開発審査会の協議を経て許可される場合もある。この場合、市場616‐1、617‐1も奈良県知事の認可が必要だ。
しかしすでに「不可」と結論付けられている。
「県から葛城メディカルセンターの建設は困難だと指導されています。市街化区域への編入も不可能ではありませんが、となると市内の別の土地を代わりに市街化調整区域に変更しなければなりません。当麻線が開通して沿道サービスの一環としてマスタープランの計画変更や知事の許可で可能性がゼロではないでしょう。しかし少なくとも許可まで10年はかかります」(都市計画部)
市場の土地の用途変更になるとマスタープランそのものを修正する必要さえ出てくる。もっともかなり可能性は低い話だが、センターが建つ「余地」は若干、残る。しかしそれには10年もの時間が必要だ。その間、センター側が市場の土地を塩漬けにしておく。これも考えにくい。というよりもありえない話だろう。
有力県議に依頼するも断られる
しかも、だ。皮肉なことには市場616‐1、617‐1は左右を市街化区域に挟まれている。かといって仮に同地一帯を市街化区域に変更した場合、税率が変わるため他の地主が納得しないだろう。地主らにすれば固定資産税が安い市街化調整区域にしておきたい。
とにかくセンター建設は無理筋の上の無理な開発話なのだ。
「実は仲本市議も葛城メディカルセンターが建設できるように動いたようなんです」とは市関係者の証言だ。
「仲本市議が都市計画部にかけあった姿が目撃されています。また仲本市議は県知事に用途変更を認めてもらえるよう地元自民党の有力県議へ依頼しました。ところが〝無理な話だ〟と一蹴されたそうです」(同)
仲本市議は別の名刺があるが、どうやらその威光も役に立たなかったのだろう。国内ではある意味「無敵の名刺」が――。
無理な開発行為といえば当サイトも長らく追及した静岡県熱海市土石流。発災の起点となった伊豆山造成地の開発行為について県や熱海市は自由同和会神奈川県本部前会長・天野二三男氏へ杜撰な許可を出したばかりか指導ができなかった。
仲本市議は自由同和会奈良県本部会長。「同和の名刺」に不慣れな静岡県と異なり、この地はなにしろ「奈良県」だ。どう働きかけたとしてもマスタープランを変更するのは一介の市議に不可能である。
沈黙する仲本市議と葛城メディカルセンター。
土地取引にも精通する取材協力者はこう頭を抱える。
「一般社団法人には評議員、評議員会、理事、理事会、そして監事を設置しています。約5千万円もの土地を購入するにあたって評議員会や理事会でどんな手続きをしたのか不思議です。マスタープランで大和高田当麻線が幹線道路と位置付けられ沿道サービスも充実するので資産価値が上がる、または交通の便がよく利用者が増える、こんな説明を受けたのかもしれませんよ」
その上でこう苦言した。
「センター側は何らかの形で事実関係を公表した方がいいでしょうね。でなければセンター職員の何某かが購入させてキックバックを受けるという可能性もありえるわけです。このままではあらぬ誤解を受けますよ」
センター側としては内々で処理したいというのが本音だろう。しかしはたして不可解な購入を隠しおおせるのか疑問だ。