津市の水道修繕工事をめぐる贈収賄事件で津地検は5日、津市上下水道管理課の副主幹・中村一男被告と担当技能長・松岡泰成被告を収賄で起訴し、『新英工業』代表取締役・新居利英被告を贈賄で起訴した。筆者は本事件について「津市相生町自治会長事件」の延長と訴えてきたが、それを裏付ける証言を関係者から得た。(*写真は前葉市長と新英工業が組合に加入した当時の代表理事、吉村哲夫氏)
組合の修繕業務当番表を検証

2022年7月から昨年4月頃までの水道工事で「新英工業」へ優先発注した見返りに約20万円の物品を受け取った中村、松岡両被告は収賄を問われている。また新英工業は贈賄の他、市から約25万円を詐取したとして追起訴される見通しだ。
しかし釈然としない関係者、市民は少なくないだろう。
もともと本件の調査を開始した当時、関係者が問題視したのは設立間もない新英工業の受注額が億単位に至ったことだ。
組合経由の工事(令和5年度分)が1億250万1900円というケタ違いの発注額(従来のトップ受注額は3000~5000万円)が出発点。しかし罪に問われているのは収賄側、贈賄側それぞれ20数万円に過ぎない。
このため水道局のみならず津市水道指定事業者協同組合に対する業者の不満は強い。というのはシステム上、新英工業だけに発注が偏るはずがないからだ。
通常、津市水道指定事業者協同組合は事業者の当番制で緊急工事に備えている。令和6年分の「修繕業務当番表」を入手した。
当番事業者は新英工業、また同社が組合入りした当時の代表理事、吉村哲夫氏が会長を務める吉村工業、また相生町自治会長事件でトラブルになった事業者など10社。約6日間刻みで当番が交代する。
表には担当事業者名、担当責任者(代表者)、従事職員の氏名、携帯電話番号が書かれていた。当番日が特定の一社に集中するわけではなく均等に割り振られている。

それでも抜きん出た新英工業への発注額。つまり当番日以外でも、秘密裡で新英工業へ工事を発注していたとしか考えられないのだ。
新規組合員をめぐり見解が異なる!
疑問は続く。当番表をみると最大手の吉村工業を筆頭に老舗事業者が並ぶ。その中でなぜ新興の新英工業が参加できたのだろう。
「吉村工業の吉村哲夫会長が事業者組合代表理事、津市役所元理事級の古谷貞博氏が専務理事の頃に新英工業が加入しました。新英の組合入りをとても〝急いた〟印象でしたね」(関係事業者)
吉村氏は水道組合理事の一人。津保護司会会長、津更正保護協力雇用主会会長も務める地元の名士だ。前葉市長とも親交が深く市のWEBサイト「市長活動日記」にもたびたび登場する。「市長にも顔が効くので理事として残ってもらった」(市職員)という。
周辺を取材してみると吉村氏が新英工業の組合入りを〝ゴリ押し〟したかのような証言が相次いだ。
設立間もない新英工業をなぜ組合に入れたのか吉村氏に聞いた。
「口利きということは断じてありません。その当時は緊急工事の当番を組むのが大変でした。そこで新規の事業者に入ってもらえればもう少し円滑に当番が回るという判断でしたよ」
また津市水道指定事業者協同組合にも当時の状況について確認した。
「基本的に組合は誰でもお入りくださいという方針です。また現在もあと数社、加入してもらえればもう少し楽にローテーションが回ると思います。(新英工業が)特別ということではありません」(同組合)
吉村氏とほぼ同様の説明である。
ところが吉村氏をよく知る市関係者はこう疑問を呈した。
「それはおかしいですよ。以前の吉村さんは〝業者が増えると仕事がその分、我々の仕事が無くなる〟といって新規の加入者を増やさない方針でした」
このように新英の加入について見解が食い違う。水道工事は市民生活に大きく影響するため、会社の実績や技術力が問われる。このため新規加入にしても十分な審査が必要だ。
そうした手続きがなく新英工業だけは異例のスピード加入。そればかりか短期間のうちで組合発注額のトップになった。組合入りには別の事情があるようだが、それは後述しよう。
次いで元専務理事の古谷貞博氏に対しても批判は強い。古谷氏は津市役所に在職中は事務畑で理事を務めた人物である。
古谷氏「産廃運搬の許可はとってある」と説明
昨年、新英工業への発注問題と並行して、組合の産業廃棄物の収集運搬許可問題が浮上した。水道工事を行う場合、がれき類や汚泥が排出される。
本来は組合は「元請け」の立場にも関わらず収集運搬許可を取得していなかった。各組合員事業者は収集運搬許可を得ているから組合自体は無許可状態。だがその場合、下請けに当たる各組合員と契約が必要だ。ところが契約なしで運搬させていた。
昨年、組合員事業者は三重県からの事情聴取を受けた。とばっちりだ。ある事業者は「以前、許可について古谷元専務理事から組合員に〝産廃の収集運搬許可は取得している〟という説明でした」と明かす。
このため三重県は11日、同組合に対して収集運搬許可の取り消し処分を行った。今後、5年間、同組合は収集運搬許可を取得できない。
読者におかれては「もともと許可がなかったのに、収集運搬許可の取り消し処分とはどういう意味か」と思ったことだろう。こういう理由だ。
つまり産廃の収集運搬許可にも種別があり、コンクリートがらなどのがれき類、また汚泥などはそれぞれ許可が必要になる。古谷氏が許可を取得済と説明したのは「汚泥の収集運搬許可」のことだった。水道工事で排出されるのは主にがれき類。必要なのはこのがれき類の運搬許可なのだ。
組合は浄水場の管理業務を請け負っており、そのための汚泥の収集運搬許可だった。
古谷氏は事務畑出身とはいえお粗末な対応。しかし後任の専務理事らは市の水道、建設畑出身だ。無許可ということに気付けなかったものか。もっとも取り消し処分といっても組合のダメージは皆無という。
「まあせいぜい組合は恥をかいたぐらいでしょう(笑)。業務上の支障は何もありません」(水道局OB)
結局のところ馬鹿を見たのは事情聴取を受けた組合員事業者ということになるだろう。
新英工業を組合入りさせたのは中村被告の可能性

以上の事実関係をふまえて、本事件の核心部分に移ろう。筆者はかねてから本件、水道局贈収賄事件は相生町自治会長事件の延長であると主張してきた。組合取材の中でその一端が見えてくる。
相生町自治会長事件は全国的にも大きく報じられたのはご存知の通り。
印象的なのは2021年3月9日放送の『とくダネ!』(フジテレビ系)。司会者の故・小倉智昭氏が「なぜ市役所は自治会長の言いなりになったのか」との質問に対してキャスターが返答に窮してしまう。
するとコメンテーターのお笑い芸人、カズレーサー氏が「詳しいことはネットで」と補足したのも記憶に新しい。マスコミは同和タブーを言及できないことが浮き彫りになった一幕だった。
さて自治会長事件とは大別すると2つの現象で進んだとご理解いただきたい。一つはクレーマー体質の住民に手を焼いた市側が元自治会長に依頼し、排除させたこと。
もう一つが水道工事をめぐり組合元代表理事のS社(故人)から自治会長が多額の金銭を受け取ったことだ。
事の起こりはS社代表者は相生町の水道工事を断ったこと。理由は相生町と隣接する地域の自治会長らが相生町の工事を問題視したことにある。これを津市側が歪曲して「部落差別」として元自治会長らと糾弾した。もっとも「糾弾」といっても人権絡みの話題はわずか。大半は水道工事や対立する自治会に関することだ。その結果、和解金として事業者は自治会長に700万円を支払ったという。このスキームを考案したのが当時の人権担当理事、水道局長というのが専らだ。
筆者は元自治会長とS社らの音声を入手し、過去記事にて公開した。支払い方など生々しいやり取りが記録されている。
S社には水道局内部でも同情され優先的に水道工事が発注された。この内幕を知る関係者は現在でも組合の運営に関わっている。それが現在の組合専務理事と事務長だ。
興味深いのは「元自治会長とS社のやり取りの音声の中に水道組合現事務長の声が入っていた」(前出OB)という指摘である。相生町事件と水道局の関係を物語っていないか。もちろん組合側としても相生町事件は脛に傷に違いない。
そして中村被告も内幕を知る一人。このため中村被告に遠慮して新英工業の関係を放置せざるをえなかったと予想する。またこうした背景を考えると吉村‐古谷体制が新英工業の加入を進めたというよりも、中村被告が新英を組合に〝ねじ込んだ〟と考えた方が自然だろう。
さらにある関係業者から貴重な証言を得た。
「中村被告からある水道工事についてS社に発注するので入札を見送って欲しい、と頼まれたことがありました」
つまりS社が元自治会長に支払った和解金の損失補填のため同社への発注を優先させたというわけだ。
周辺によれば相生町事件の報道が過熱した当時、中村被告も相当、気に病んだという。自身にも火の粉が飛んでくるのではないか。そんな不安があったのだろう。
結局、相生町事件は補助金詐取のごく一部だけが刑事事件化された。また市側も幹部は責任をとることがなく市民館館長(有罪判決)に責任転嫁して終わった。
もし仮に相生町自治会長事件を徹底的に追及し原因と責任の所在を明確にしていれば? あるいは今回の贈収賄事件は起きていなかったかもしれない。
よく取材してくださいました。
腐ってウミだらけの役所をもっと糾弾してください。
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