旧敷島町に下条町屋南区という16軒の古村があったという記録がある。塚原美村『未解放部落』によれば、1965年には20軒あったという。地域は「中下条」と記載されている。

ここには菊池山哉も訪れており、「中之條村」と記載している。地方でありながら都市化が進んでおり、分かりにくくなっているのではと思ったが現地に来て驚くことがあった。

現在の住所表記は中下条だが「町屋」という案内板を見つけた。

ここが町屋という地区で、この南ではないかと想像できる。

南に向かってあるくと、大きなスーパーや文具店がある。高速道路のインターも遠くないし、車があれば住み心地のよさそうな地域である。

菊池山哉は次の通り記している。

○上條村と大下條村の中間にあるから、中之條村と云。田畝の間で、重要路線には接しない。

○鎭守は無い。

○此附近が，水田にならない。山藪時分からの草分けであると云。伝説通り大用水工事の起らない時代は、此辺一帯は荒野であったであらう。

この村の隣村は、長塚村の名のある位に、古墳が群をなして居る。或は上代の守戸であり、中世の山番であったらうか。

戸数は今も昔も十四戸で変らないと云。農家である。

上條村と大下條村の中間という位置は合致するが、「中之條」は誤りであろう。昭和初期の地図でも記載は「中下條」である。また上條も地図では「島上條」とある。

『未解放部落』でも「本宿の島上条に南接している孤立ムラ」と書かれている。中世には市が開かれていたという。番人・野守などの雑役をしあまり土地を持っていなかったとする。

現在は新しく大きな家が立ち並び、その間にいくつか畑があるだけで、都市化が進んでいる。過去の航空写真を見ると、都市化が進むのは1980年代以降の、新しい時代だ。

例によって『未解放部落』の記載は詳しい。職業構成は表の通り。この時代は農業が多いが、明治の頃は草履づくりが主で、皮革関係の仕事をする家もあったという。

上は増補版の再調査結果。10年足らずで職業構成ががらっと変わっているが、農業と書かれていた世帯も、農地はあまり広くはないので、もともと兼業農家だったのではないだろうか？

歩いていて、「町屋南区」という記載が目に入った。自治会の名称は戦前から変わっていなかったのだ。

公民館が老人いこいの家でもあるところが、善光寺との共通性を感じさせる。

古くからの家は、中根という名字が多い。

わずかに農村だった名残があるが、古くからの住民の田畑は、今では集合住宅等になっている。

そして、古村をクエストする度によく見かけるのが太陽電池パネル。

「長田太陽光発電所」という名前だ。長田と言えば、御坂町下黒駒と関係があるのではと思ったが、甲斐市のこの近辺では、もともとありふれた名字である。

平日の昼間ということもあって、誰にも会わず。働いている若い人が多いためだろう。