「露出が多いダンサーが舞台に立ち、議員が口移しでチップを渡す」。発想が昭和、バブル? 昨年11月、自民党青年局近畿ブロック会合後の過激ダンスショーにアンチ自民はもちろん保守層からも批判が殺到中だ。しかも単なる不祥事ではなく内紛が絡んでいた。発覚した背景にはショー企画県議の市長選狙いがある!
会合は公金が 投入された可能性も
昨年は女性局が“エッフェル姉さん騒動 ”、そして今回は青年局が“セクシーダンスショー”だから今の自民党は緊張感の欠如というレベルではない。
産経新聞によるとショーは昨年11月18日、「ホテルアバローム紀の国」(和歌山市)で開かれた「青年局近畿ブロック会議」で、党本部青年局の国会議員や近畿2府4県の若手地方議員、党関係者など約50人が参加。
5人のダンサーがステージやテーブル周辺で踊り、参加者へのボディータッチやチップを口移しで渡す参加者もいたという。政党の余興としては明らかに適切ではない。また会合の費用は県連の予算から支出された。つまり公金(政党助成金)が含まれている可能性が高い。
ダンスショーを企画した青年局長の川畑哲哉県議はすでに自民党和歌山県連に局長職の辞職願を提出した。
それでもなくても自民党には逆風の中、またしても大きな失態となったが単に“ 不謹慎”と騒ぐだけでは問題の本質は見えてこない。
だいたいなぜ昨年11月の行事が今になって露見したのだろうか。一部では川畑県議が世耕弘成参院議員(県連会長代行)の元秘書ということから二階派との対立という見方もある。取材してみると確かに世耕派‐二階派という側面もあるが、それは一要素に過ぎなかった。
騒動の伏線は 紀の川市長選
これを紐解くにはまず伏線が紀の川市長選であったことを挙げておきたい。
2022年2月の紀の川市長選。小沢一郎衆院議員の秘書、旧民主党で衆院議員を1期務めた岸本健現市長が自公、国民の推薦を受けて初当選。07年に民主党を離党して自民党入党を希望するが当時は強い反発を受けた。その後、2011年に自民党公認で県議に。現在に至る。
無論、党内には岸本氏推薦に対して少なからず疑問の声もあったが、二階氏の意向である以上、従わざるをえない。そもそも実績や能力が評価された訳ではない岸本市長。しかも生粋の自民党員ではない。二階氏と懇意にしていた故・中村愼司前市長路線を引き継がせるためには岸本氏が扱いやすかった。
それ以来、党議員団に妙な空気が流れ始める。
「岸本が市長になれるなら…」
長年、自民党で活動してきた議員にすれば岸本市長擁立に対し不満が起きても当然だ。すると和歌山県内の自民県議らが市長選に意欲を見せ始めた。その一人が川畑県議。
「岩出町時代を合わせて通算7期を務める中芝正幸岩出市長(80歳)は高齢で病気をしたり、体調不良を訴えるようになりました。市長が今期で勇退とみられる中で、川畑県議が市長選を狙っているというのです」(地元記者)
また海南市、有田市でも同様に県議の市長選狙いが囁かれ始めた。名が浮上した党関係者の中には川畑県議と犬猿の仲の人物も。しかも鶴保庸介参院議員の元秘書も散見される。鶴保氏といえば先の衆院補選をめぐって世耕県連会長代行と対立したのは過去記事で指摘した。
党員限定の会合で リークしたのは誰か?
川畑氏をめぐる県内の政治情勢を踏まえた上で、次に誰が産経新聞にダンスショーをリークしたのかが問題となる。会合は関係者のみだから必然的に内部の人物が情報提供したということになる。
現在、和歌山県連内ではかん口令が敷かれており、そんな中で取材に応じてもらった経緯があるためここかはら匿名での証言にさせて頂く。
情報をリークしたと囁かれるのは党関係者A氏、B氏。両氏とも鶴保氏と関係が深い人物でその内、一人は選挙区で川畑氏と対立する。確かに世耕派‐二階派(鶴保)という構図は当てはまるだろう。
そのうちA氏は著者の質問に対して「私が売ったという話が出回っているのは不本意」とした上で内幕を明かす。
「他の青年局や青年部メンバーがあんな企画を立てたことはないし第一、予算がありません。当日、会場にいた人が動画や静止画を撮影してそれが党員らに拡散されました。そのうちの一人が私の支援者の方で“ こんな破廉恥なことはケシカラン。何を考えてるんや自民党”ということでご連絡を頂いたということはあります。岩出市長選潰し? (川畑県議が)市長選を考えているのは事実ですがそれとは無関係ですよ」
つまりこの周辺がネタ元ということだが、A氏がリーク主というのは当たらずも遠からずではないか。要はA氏周辺から産経に情報提供されたことになる。
そして問題はリークのタイミングだ。11月18日の会合の動画が関係者の間で広まり、それが反川畑陣営の眼に止まった結果、3月に報道という流れ。この時間差にも背景があるようだ。
党関係者は内幕を明かす。
「川畑県議に青年局長を辞任しなければマスコミにダンスショーをリークすると対立する県議らが迫ったのです。ところが“ 青年局長の任期はもう数か月だからええやないか”と擁護したのが世耕派グループ。結果、川畑県議が辞任しなかったため産経にリークとなったのです」
ダンスショーは政治家の会合には相応しくない上、しかも公金が投じられた可能性が大。この点を問題視した上でのリークではなく、むしろ政局、対立が起因となったものだ。裏返せば対立さえなければ過激ダンスショーという事実は内々で処理された可能性が高い。
さらに問題の岩出市長選を深堀すると川畑氏への反発が非常に強いことが判明した。
「現職の中芝市長は大病をされて一時は次(8期目)を諦めるという話だったけど、最近また元気になられました。コロナ禍で地域懇談会を中止していたのも再開して出席されたし、後援会活動も開催しているんです。なんでも“県庁出身者で良い候補者がいれば喜んで譲るが、川畑だけはアカン ”ということで最近は次も出馬するんとちゃうか、と見られていますよ」(前出党関係者)
つまり鶴保派県議、そして渦中の岩出市長から同時に反発を受けていた。どうやら“川畑排除”は各所にメリットがありそうだ。繰り返しになるが、ダンスショーのリークも党内の風紀を正す目的ではなく川畑県議の「市長選潰し」という政治的事情も自民党らしい。
いずれにしても安倍元首相死去、そして旧統一教会、政治資金問題で揺らぐ自民党にあってあまりに意識を欠いた行動だった。
一方で「政局」という観点から前出記者はこう失笑する。
「川畑が市長に出馬するのは気に入らんが、オレが市長選をやってやるという県議がいるわけですよ。こんな大騒ぎにしてしまったら自民の支持率が落ちて自分の選挙も危ないというのにね」
正義感に基づいた情報提供でもなければ、政局的にもメリットがなかった今回のダンスショー騒動。党内のモラル意識の欠如はもちろんのことだが、目先の選挙と党略だけで動いた結果とも言える。
しかも先の衆院和歌山一区補選でも候補者選定を巡り県連内部は揺れた。ただでさえ一枚岩ではない自民党和歌山県連は今回の騒動で一層、内部に亀裂が入るのではないか。