公益財団法人 人権教育啓発推進センター が茨城の「部落解放愛する会」に 糾弾されていた

By 宮部 龍彦

人気シリーズ「部落探訪」では、昨今茨城県の部落を探訪しているが、これには理由がある。部落関係の資料を所蔵していることから、弊舎も度々お世話になっている、「人権ライブラリー」でお馴染みの政府外郭団体「公益財団法人人権教育啓発推進センター」が「部落解放愛する会茨城県連合会」に糾弾されているという情報が寄せられたので、その調査を兼ねてである。

きっかけは、「推進センター」が作成したパンフレットのささいな文言の訂正を巡るものに過ぎない。しかし、一見部落問題と聞いてもピンとこない茨城県で、しかも全国的な知名度は高くない「愛する会」が絶大な影響力を持っている実態が見えてきた。

古河市 「愛する会の機関誌は 見せられない」

何やら香ばしいポスターが貼られた古河市役所

「愛する会」茨城県連の機関誌は『荊棘けいきょく』で、糾弾の経緯はそこに書かれているようだ。茨城県内の自治体はほぼ漏れなく買っているだろうということなので、古河市を探訪したついでに古河市役所を訪れてみた。

古河市の人権推進課によれば、確かに市役所の各部署で『荊棘』を買っているので、少なくも十数部くらいはあるという。そこで「ぜひ見せてください」と言うと、なぜか「職員用なので」と頑なに見せようとしなかった。

仕方ないので立ち去ると、職員が「訳が分からん」とつぶやいているのがかすかに聞こえた。確かに訳が分からない。

いっそ、「愛する会」の本部で買えばよいのではと思い、下妻市にある「部落解放愛する会 人権センター」を訪れた。敷地内には2台のレクサスが停められており、独特の雰囲気を醸し出している。

しかし、あいにく留守のようで、誰も出てこなかった。

せっかく下妻市に来たので、下妻市役所に立ち寄り、古河市と同じように『荊棘』を見せてもらえないか頼むと、今度は普通に見ることが出来た。下妻市では図書館にも置かれているという。この違いの理由はよくわからないが、とにかく『荊棘』の内容から事のあらましが分かった。

何があったのかは、『荊棘』2022年9月号から連載された、「愛する会」茨城県連の金子利夫書記長の文章から読み解くことができる。該当部分を抜粋する。

公益財団法人・人権教育啓発推進センターを糾弾する=社会的身分(地位)に対する差別待遇は許されない第一弾=

去る二〇二二年八月一日に、啓発冊子「人権アラカルト」の中に書かれている文言(差別されてはならない)の表現は、以前文言を訂正したことを踏まえ、金子書記長が(公財)人権教育啓発推進センターに確認するために電話をしました。そこで電話口に出た総務課長に対して、(差別されてはならない)と言う表現は、間違っているのではないかと尋ねたところ、小笠原氏は問題ないと明言しどうして間違っているのか、とも発言しているのです。

…中略…

差別(人権侵害)を完全に解消するための一歩は、差別問題がどうして惹起するのか背景を正しく知ることです。そして間違いに対しては、それは違うということをハッキリ言える人間性を構築することなのです。

部落解放愛する会以外に指摘されていないと言っていますが、茨城県の金澤人権施策推進室長も、前原人権教育室長も、この表現は問題があると指摘しているのではありませんか。その他にも幾つかの行政の担当者が指摘していますよ。いい加減なことを言われては困りますね。本当のことを言ってくださいな!ここで問題なのは、金澤室長と前原室長に指摘されたことに対しては、(検討しますと答え、次の日に電話で、検討した結果一日に作成するものから文言を訂正します。ご迷惑をおかけしました)と小笠原氏が回答してきたとのことです。それに比べ、部落解放愛する会の金子書記長に対しては、未だに明確に回答することなく放りっぱなしです。

茨城県を使って 推進センターを屈服させた?

その後も独特の文体で、『荊棘』の10, 11, 12月号でも「愛する会」の「推進センター」に対する「糾弾」が続いた。前後関係や具体的に何があったのかが非常にわかりにくい文章である。「推進センター」が発行した「人権アラカルト」の内容と、後述するように実際に金子書記長に取材した結果からすると、概ね次のような経緯である。

「愛する会」金子書記長が、「人権アラカルト」の「差別されてはならない」という記述は間違っていいないかと「推進センター」に口頭と文書で質問。

「推進センター」は、いずれも問題ないと回答。

「愛する会」が、茨城県人権施策推進室長と人権教育室長に問題を報告。

茨城県人権施策推進室と人権教育室が「推進センター」に連絡をすると、「推進センター」は指摘の文言を訂正。

訂正前の「人権アラカルト」
訂正後の「人権アラカルト」


「愛する会」と茨城県で対応が違うのは差別だと、水戸地方法務局人権擁護課に人権侵犯被害として申告。

水戸地方法務局は「人権侵犯の被害なし」と処理。

「愛する会」は矛先を変えて、『荊棘』や茨城県下全市町村行政職員に対する研修会で人権擁護局を糾弾。

「推進センター」から「愛する会に」に謝罪文が届く。

「推進センター」事務局長の謝罪文(『荊棘』2022年12月号より)

分かりやすく経緯を要約しても、不条理さは変わらない。客観的に見れば「差別」というよりは「愛する会」の金子書記長と「推進センター」の私的な意地の張り合いで、最終的には「愛する会」側が茨城県行政に対する影響力を使って「推進センター」を屈服させて“勝利”したように見える。

愛する会 書記長は 部落出身ではない

2017年に阿見町役場に停められていた、愛する会の車 海野隆ーひと・まち・くらし・しぜん通信より

それにしても「部落解放愛する会」とはどのような団体なのか。事情通によれば、発祥地は埼玉県で「部落解放同盟埼玉県連合会」から分裂した「部落解放正統派埼玉県連合会」からさらに派生したものである。そして、茨城県では「部落解放同盟茨城県連合会」から利権がらみの問題で除名された一派が「愛する会」に合流したということである。ちなみに、何を愛するのかというと「部落解放運動を愛する」という意味のようである。

古河市の葛生水海関戸小堤稲宮の旧総和町の部落探訪では、同和地区指定がされている様子が見られなかったが、それにはこんな裏話がある。昭和50年代、羽部栄作町議会議員が「愛する会」の委員長であった。総和町は一度5地区を同和事業対象地区として報告して国から予算を得たが、同和団体に関わる揉め事嫌って有力議員が同和事業に反対し、結局同和事業を実施できなかった。そのために、羽部氏は愛する会のトップを降ろされた。一度得た予算は事実上同和事業と関係ないことに使われたという。

なお、「部落解放同盟茨城県連合会」は部落解放同盟中央本部から離れて「部落解放同盟全国連合会茨城県連合会」(全国連)となった。つまり、茨城県では部落解放同盟の本流は活動していないという特殊事情がある。

ともかく、これは当事者である金子書記長に直接聞いてみるしかないであろう。なお、前評判では金子書記長は部落出身ではないと聞いていた。

「愛する会」茨城県連合会に電話し、金子書記長と話をすることができた。意外だったのは、「金子書記長は部落出身ではないのでは」と指摘したら、本人があっさりと認めたことだ。筆者は再び茨城県を訪れ、下妻市内のファミリーレストランで取材に望んだ。

現れたのは、坂本正美執行委員長、金子書記長、そして書記次長の3名である。高齢の執行委員長は黒スーツで胸にウクライナ国旗のピンバッジ、書記長は作業服、比較的若い書記次長は黒スーツにシャープなメガネという出で立ちである。写真撮影はしていないが、雰囲気はこの文章から察していただきたい。なお、「推進センター」に対しても同じ3人で直接訪れて『荊棘』を手渡したという。

筆者がまず疑問を持ったのは、茨城の「愛する会」が東京の「推進センター」を糾弾することで、何の得になるのかということだ。

「公的機関なら誰に対しても同じ対応をするべきなのに、部落解放運動団体に県と違った対応をするのはおかしいんじゃないですか、ということです」

金子書記長によれば、そのようなことである。要は『荊棘』に書かれている通りである。

部落出身でない人が差別糾弾とは奇妙な感じもするが、「愛する会」は部落差別解消のための団体であり、その運動を行うのは部落出身者でなければならないということはない、ということなのだ。既に同和事業は終わり、行政は同和地区の資料も廃棄してしまったが、茨城県は関西に比べて同和事業の開始が遅れており、未だに差別が残っているという主張だ。

部落差別解消の取り組みとしては、例えば、先述の糾弾の経緯に出てきた茨城県下全市町村行政職員に対する研修会。これは「愛する会」が主催して行っているもので、毎年500人くらいが参加するという。これはコロナの影響で少ない方で、その影響がなければ700人くらい。当然、タダではないと思うので、筆者が「会費は2000円ですか?」と聞くと否定しなかった。

なお、『荊棘』は一部200円なのだが、それなりの収入になっているということだ。部数までは聞けなかったが、少なくとも先述の研修会の参加人数くらいは売れているであろうと推定されるので、単純計算すると毎月14万円からの収入ということになる。

ついでなので、茨城の同和団体事情についても聞いてみた。茨城県内で活動しているのは「愛する会」の他は先述の全国連、保守系の全日本同和会、共産党系の人権連である。「愛する会」は全国連と全日本同和会とは概ね協力関係だが、人権連とは考え方が大きく違い「喧嘩になっちゃうから」真正面から何か言うことはないという。

筆者は「推進センター」に電話し、文章に出てくる「小笠原総務課長」にも話を聞こうとした。しかし、残念ながら取材には応じられないということであった。

詳しくは検索してみると分かるが、「推進センター」と言えば法務省や中小企業庁等の委託で、同和問題の関する講演会や、えせ同和対策セミナーを行っている団体。その団体が茨城県の「愛する会」から糾弾して謝罪に追い込まれてしまうとは。全国にはまだまだ筆者の知らない世界がありそうだ。

なお、筆者は茨城県内の部落探訪はしないように泣き落としされかけたが、神奈川県人権啓発センターは決して謝罪に追い込まれることはないので安心して頂きたい。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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公益財団法人 人権教育啓発推進センター が茨城の「部落解放愛する会」に 糾弾されていた」への5件のフィードバック

  1. うましかの一つ覚え

    >えせ同和対策セミナーを行っている団体
    食い扶持を取り上げるような活動されたらそりゃターゲットにするのかなぁと思ったり

    返信
    1. 匿名

      公益財団法人のための永久機関と思えばどうでしょう?
      その団体もセミナーがなくなると困りますから
      持ちつ持たれつなんですよきっと

      香ばしいポスターも街宣等の抗議活動へのけん制にもなります
      #424fb214beb552b00b0e305db3839786

      返信
    2. 宮部 龍彦 投稿作成者

      人権教育啓発推進センター自体は同和推進の団体なので、えせ同和対策セミナーをやっているから狙われたというわけではないと思います

      返信
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