昨年の夏、鳥取県東伯郡琴浦町で同和対策固定資産税減免(同和減免)の廃止を巡って、賛成派と反対派の攻防が続いていることをお伝えした。現在でも事態は進行中でありる。
過去の例からすると、地方議会で「差別発言」とされるものがあれば、大抵は当事者が謝罪に追い込まれるか事実上議会から追放されるかのどちらかである。しかし、今回の場合は差別発言をしたとされる町議が抵抗し、共産党議員はもちろん自民党議員も加わって、解放同盟及び旧社会党系勢力との“ガチバトル”に発展するという異例な事態になっている。
以前の記事から間が空いてしまったので、琴浦町においてなぜ同和行政廃止を巡る攻防が起こっているのか、事態の経過と関係者についておさらいしよう。
発端は2018年6月11日に高塚勝町議が同和減免を問題とし、小松弘明町長に対して同和減免の対象地域はどこであるか質問した。 小松町長はそれを答えるのは不適切であるとして回答しなかった。高塚町議はそれに対して、対象地域を答えられないような制度自体がナンセンスだと畳み掛けた。
町議会でのこのやりとりを差別事象として問題にしたのが部落解放同盟琴浦町協議会。その干渉を受けて、小椋正和議長が高塚議員に発言の撤回を促したが、高塚議員は拒否した。
そして琴浦町教育委員会人権・同和教育課から鳥取県人権局に議会でのやりとりが「差別事象」として報告された。この時、鳥取県人権局の担当者がこれが差別事象であると認めるような発言があったとされる。
これに対して高塚町議が大いに反発、以前から同和事業廃止を求めてきた共産党の青亀壽宏町議はもちろん、他の複数の若手町議や自民党の大平高志町議、井木裕町議、さらには旧東伯町の同和地区の区長である福本まり子町議も高塚町議に賛同した。
これを期に部落解放同盟町協議会への補助金など、町の他の同和事業も槍玉に上がり、事態は同和行政廃止を支持する側と、それに抵抗する側の攻防に発展している。
2019年の3月議会では、同和減免の廃止を求める議決がされ、6月議会では解放同盟補助金に対する監査請求を求める決議、高塚町議の発言を差別事象として県人権局に報告したことを撤回すること求める議決がされた。結果的に町教育委員会から県人権局への報告は撤回されている。
しかし、同和減免については、廃止を求めた議会の意向を無視して、2019年は町長の権限で減免が行われた。
琴浦町議会では同和地区の議員が3名おり、前出の福本町議は下伊勢地区、そして澤田豊秋町議と前田智章町議が出上地区から出ている。このうち澤田・前田議員の2人が人権局への報告を撤回する議案に反対しており、下伊勢地区と出上地区で対立があるかのように見えるが、事態はそう単純ではない。
前田智章町議は自民党に所属し、かつては自由同和会の活動にも関わっていたとされ、澤田町議と同調して行動しているように見えても立場は異なる。
澤田町議は実質的には解放同盟員であり、最初に高塚議員の発言を部落差別であると問題提起した1人であるが、予想外に高塚議員が抵抗し、問題が大きくなってしまったため、本人は戸惑っているのではないかという声も聞かれる。
条例から「部落」の文字が削られる
2016年12月9日に国会で部落差別解消推進法が成立したが、琴浦町では全く正反対の動きが起きている。琴浦町には2004年9月1日に施行された「琴浦町部落差別撤廃とあらゆる差別をなくする条例」が存在したが、2019年12月19日に、この条例の名称を「琴浦町あらゆる差別をなくする条例」に変更し、内容を大幅改正する条例が可決された。
表題だけでなく条例の内容からもことごとく「部落」の文字が削られ、解放同盟との連携を町に求めると解釈できる内容も削られ、部落差別についての調査や背作の策定を町に義務付ける部分も削られた。
改正した理由は、人権問題に上下関係や優先順位はないので、ことさら部落差別を強調する必要はないということである。しかし、それは表向きのことであって、解放同盟に対する補助金の廃止、そして同和減免の廃止のためになされたものであろう。なぜなら、琴浦町が解放同盟に補助金を出したり、同和減免を行ったりしていることの、拠り所の1つになっているのがこの条例であると考えられるためだ。条例から町に対する義務的な条項を削れば、前述の施策を町が行う根拠が1つなくなることになり、同和行政の廃止を後押しすることになるからである。
この方法はいかにも共産党・人権連らしい考え方である。実際、高塚議員および保守系の一部議員が「理論」の面で密接に共産党の青亀町議と連携していると言われている。
筆者自身が肌で感じていることだが、実際のところ鳥取県では(…鳥取県に限らず同和行政が盛んな地域に限らず共通していると思うが)共産党だけでなく保守系の人々の間からも本音では解放同盟は嫌われている。
ただ、自民党系をはじめとする保守系の議員も様々なしがらみから公然と解放同盟や同和行政を批判しにくいという事情がある。しかし、一度解放同盟や同和行政への反発が広がると、一気に憤懣が表面化し、部落問題に限っては裏では右翼を自称する人々まで共産党に協力するという現象が見られる。2005年に鳥取県人権救済条例が制定されてそれに対する反対運動が起こった時にそれが起きたのだが、琴浦町でもそれに近いことが起きている。
そして現在、2020年の同和減免が行われるかどうかで攻防が続いている。
上記の資料は町内の同和地区に対する町による説明会で配布された資料である。これによれば、町が同和減免を2020年度から廃止するとしている。
実はこの説明会の前に、それに対抗するように解放同盟が「事前学習会」を開いた。
これは「事前学習会」で配布された資料である。同和減免だけでなく、地区進出学習会(同和地区の子供に対する特別な補習授業)を地区住民による運営にすることや、隣保館の生活相談員の廃止を町から提案され、それに対して解放同盟が抵抗していることが分かる。
議会では同和減免継続派が圧倒的に不利だが、議会の外でも攻防が続いており、土壇場で同和減免が継続される可能性もある。
福本町議が村八分にされた?
ここにきて、同和地区である下伊勢西大区の区長の立場でありながら同和減免廃止に賛成した福本町議が区長を降ろされ、村八分になっていると噂されている。この噂の真相はどうなのか?
実際に琴浦町下伊勢地区を訪れ、さらに住民から聞いたところでは、 福本町議が下伊勢西大区長でなくなったのは事実である。そして、現在下伊勢西大区長になっているのは、澤田陽子連合鳥取副会長である。かつては自治労鳥取委員長、自治労中央本部執行委員長を歴任した人物で、もろに旧社会党系、つまりは解放同盟寄りである。
そうなった理由は、当然福本町議が高塚町議に同調し、さらに同和減免の廃止に積極的に賛成して同和行政を批判したからである。ただ、「村八分」というのは大げさで、本人は区長という立場にこだわったわけではないし、文字通り火事と葬式以外は付き合いを拒否されているというわけではない。
下伊勢地区では解放同盟へは個人加入ではなく、自治会として解放同盟と連携しているような状態であるが、当然ながら地区内には共産党員もいる。分かりやすく例えれば、自治会として神社に寄付をしているが、それに対して創価学会員が反対するということがあるようなもので、地域の方針と個人の思想信条が相反するということはあり勝ちなことで、それで村八分になるということはない。
福本町議が村八分にされていると言われているのは、区長交代のことを指して、あくまで例え話として言われていることであろう。当然、下伊勢地区内でも同和減免の継続が住民の総意というわけではなく、福本町議に同調する住民も多いと言われる。
さらに、筆者は解放同盟補助金に関係する文書も入手したので、追ってレポートする。