探偵に相談した経験がある、あるいは探偵に依頼中の女性にとっては恐怖の事件に違いない。業務上で知り得た情報に付け込んで岐阜市内在住の女性から現金3000万円を脅し取った上、性的暴行をし恐喝と強制性交の罪を問われた探偵事務所元代表、長坂健太被告の裁判が昨日、岐阜地裁で開かれた。検察側は長坂被告に懲役10年を求刑した。
週刊誌記者の経験を持つ長坂被告
90年代の人気ドラマ『古畑任三郎』(第1シーズン)『殺人特急』で俳優・鹿賀丈史扮する医師が探偵(河原さぶ)に浮気の証拠を掴まれる。逆に探偵を買収しようとした際に
「依頼人を裏切ったらこの世界終わりなんだ」
と突っぱねるシーンがあった。探偵の仁義を感じさせる。不倫、男女トラブル、素行調査などセンシティブ情報が集まる探偵には探偵業法10条で守秘義務が義務付けられている。だが長坂被告は業界のルールを破った上、恐喝の上、依頼人と肉体関係を持った。無罪を訴えるがそもそも探偵業の一線を越えた行為だ。
事件の概要を説明しておく。
探偵事務所元代表の長坂被告は昨年5月22日、依頼主の女性から3000万円を脅し取った疑いで逮捕された。当時の報道によると長坂被告は女性から知りえた情報につけ込み、2022年3月、愛知県豊橋市内で「全財産を持ってくるのが当たり前だろ」などと女性を脅迫。
同年5月、岐阜市内で女性から3000万円を脅し取った。翌年5月に女性が警察に相談し事件が発覚。また「女のお前が男の俺に差し出せるものは一つしかないだろう」と脅して豊橋市内のラブホテルで性的暴行し、強制性交の罪にも問われている。
SMプレイ風の性行為をさせる
また性行為といってもサディスティックなやり方で被害女性に「奴隷」「奉仕」という言葉を浴びせたり、裸で土下座する様子を撮影したという。
長坂被告は別れさせ屋などでも活動。メディアでも取り上げられていた。もとは『週刊宝石』(光文社)の記者経験もあり作家・岩井志麻子氏の『シマコの週刊!?宝石』(光文社)でも長坂被告は紹介されていた。探偵業の他、BARも経営していた長坂被告。
このマスター長坂健太さんは、なんと元週宝の記者であり、脱サラ?して探偵に転身したという。週宝臭がツーンと目に染み入る御仁なのである。
週刊誌記者に探偵、いかにも無頼漢を気取りそうな職歴だ。ラブホテルで会った理由は週刊誌記者時代の経験だという。取材という目的があったとしても男女が一対一で会うほど週刊宝石という媒体は非常識だったのか。
カラオケボックスでも面会可能という指摘に対しては「会員になる必要があった」と説明するが苦しい。
なぜ女性はつけ込まれたのか
事件の概要だけをみると悪徳業者に狙われた女性という印象だ。しかし被害者女性側にも長坂被告に付け込まれるだけの〝脛に傷〟があった。
被害者女性は40代の医師だ。親族も医師という家柄である。なるほど、3000万円を用意できたのも納得だ。これまでの公判では意外な事実が浮かび上がった。
女性は妻子ある男性と不倫しており、相手の妻と別れさせるために怪文書や離婚マニュアル本を送っていたという。これではストーカー行為で逆に罪に問われる可能性がある。
そして女性が不倫相手の男性の行動調査を依頼したが、被害者女性の行為を知った長坂被告が逆に脅迫の材料とした。女性側は仮に逮捕された場合、「医師免許を取り上げられるのか」「政治家に頼めばもみ消せるのか」などと長坂被告に質問したという。かなり女性側はかなり動揺した様子がうかがえ、そうした心理的恐怖や不安を利用したのだろう。
3000万円について長坂被告は相談料、性行為については被害者側が言い出したと反論している。ラブホテルで会ったというのも週刊誌取材で利用することがあった、女性が騒ぎ出したからなどと説明。
あくまで長坂被告は女性の意思であったと訴え、「被害者が守って欲しいと3000万円を出してきた」「被害者が医師免許証を出した」「被害者が抱かれてもいいといった」としている。
求刑は10年に対して弁護人は無罪を主張
迎えた1月23日の論告求刑。「反省の態度がなく非道極まりない」として検察側は10年を求刑した。逆に弁護側は被害女性の証言が曖昧で誇張していること、3000万円の交付と性的行為は証拠隠滅や長坂被告にサポートを求めた合意によるもので「無罪」だと主張。
長坂被告は「私が扱う証拠は重要で悪用しようと考えたことはありません。なので23年間も探偵業を続けられました」と無罪を訴えた。
確かに被害女性は不倫相手に対してのストーカー行為が発覚することを恐れていた。だからといって長坂被告を頼りにして3000万円を支払いその上、SM風の性行為まで応じるものだろうか。これを単なる「対価」とするのはかなり無理がある主張だ。
判決は3月13日。どのような判決が下されるのか。