衆院選も終盤。政治資金問題で非公認の自民党候補たちが苦闘する中、和歌山2区から無所属で出馬した世耕弘成前参院議員は好調だ。同区は“和歌山のドン”二階俊博元幹事長の三男、伸康氏と世耕氏が対決する注目区。世耕氏優勢の要因は公明党が応援に回ったとされ、公明党への返礼品が“ 伝家の宝刀”名簿というのだ。
二階氏の 影響力は低下
自民党和歌山県連には石破首相と引退した二階氏のポスターが貼られる。いまだに県連は二階元幹事長頼みという状況だ。自治体議員の経験もない新人の伸康氏をいきなり県連副会長に据える辺り忖度というものだろう。
10月17日、自民党・森山裕幹事長が田辺市で開催された伸康氏の演説会で参院選から鞍替えした世耕氏へ苦言を呈した。森山幹事長と二階氏は昵懇の仲というから生じた世耕氏批判なのは明白だ。
また20日、海南市内で石破首相が伸康氏の応援に駆け付けたが聴衆もまばらで効果なし。明らかな伸康氏へのテコ入れである。
「1区の自民党、山本大地候補には首相の応援演説はありません。山下直也代表代行が山本氏の選挙事務所を訪問しましたが、そそくさと帰っていきました」(地元記者)
伸康氏と山本氏の待遇差は歴然としている。
ところが伸康氏のごり押しは党本部と県連一部だけの話。世耕氏の支持に回った自民県連所属の議員や地元首長は少なくない。それを察知して県連側は公示日前から世耕シンパをけん制してきた。10月4日には石田真敏会長名で世耕氏の応援を“ 党規違反”とする通達文まで発したのだ。
だが先の森山氏の苦言や上記のお達しといい焦りの裏返し。党幹部の思惑に反して“二階離れ ”は確実に進行中だ。露骨な形で現れたのが和歌山県・岸本周平知事の公用スケジュールだ。まるではかったように公示日の15日からアメリカ、南米を訪問し、帰国後も佐賀県のスポーツ大会に出席予定。
もともと岸本知事は衆院議員時代から二階氏と関係が良好。知事選も二階氏の協力無くして当選はできなかった。となると本来は伸康氏の応援に入っても良さそうなもの。本来は岸本知事も自民党県連の街宣車に乗り、支持を呼びかけるのが通例だ。ところが出張を口実に知事が衆院選を回避したというのが地元関係者の専らの見方である。
何しろ自民党全体が逆風の選挙。いわずもがな伸康氏に流れを食い止める力量、魅力はない。
安倍昭恵氏が 世耕氏応援に串本入り
一方の世耕氏、22日には安倍元首相夫人、昭恵氏が世耕氏の応援のために串本町入り。
「支援者ら100人が集まった」(参加者)
「本州最南端」で知られる串本町はなにしろアクセス困難。そこに100人とは「盛況」ととらえた方がいいだろう。
各社調査は世耕氏リードという結果だが、先週の共同通信の場合はダブルスコアだ。「世耕氏が有利と思われたが、まさかここまで差がつくとは思わなかった」と地元有力者。
確かに2区は世耕家のルーツ、新宮市があり、世耕氏が理事長を務める近畿大学の関係施設も並ぶ。しかし落日とはいえまだ二階元幹事長の影響や威光も強く、党を挙げて伸康氏を応援している。それを無所属で党の公認、支援もない世耕氏が優勢という点に関係者らは首を傾げていた。
しかし世耕氏リードを決定付けた原因を先の地元有力者は明かす。
「公明党が世耕氏の応援に回ったのですよ。その代わり世耕氏は在阪の近畿大学関係者2000人の名簿を公明党に渡したといいます。大阪選挙区で公明党は4選挙区で日本維新の会と直接対決しますがいずれも苦戦中。公明党にとっては大きな“返礼品”というわけです」
関西屈指のマンモス校、近畿大学のマンパワーは公明党をも動かしたというわけだ。世耕家にとってはまさに伝家の宝刀たる「マル秘名簿」。二階王国打倒のために近大名簿というジョーカーを切ってきた。
毒を以て毒を制すという事態になってきた和歌山2区。二階王国が崩壊を迎えつつあるのだ。