「ウチの選挙区の候補者は誰だっけ」 そんな有権者も少なくないだろう。いわんや比例ブロック下位の候補者など確認すらしないのでは？ その点、比例近畿ブロックの名簿順位37番、吉田起代子候補の肩書は「会社役員」などとあるが、政治活動歴が見えない。素性を探ってみると“ 訳アリ候補”というに相応しい人物だ。

不動産業とNPOで 動物愛護活動

自民党比例近畿ブロックの下位の面々。元厚労省技官、元奈良県議、兵庫県連女性局長、行政書士政治連盟役員ら政治活動、行政経験を持つ候補者が並ぶが、その中に吉田起代子氏の名がある。報道各社のプロフィールには「会社役員」「不動産会社社長」「ＮＰＯ法人理事長」などの肩書が紹介されている。ただしインターネット上では政治活動歴を確認できなかった。

「実は訳アリの人物です」と在阪の政治記者。

「吉田氏が運営するNPOの元女性スタッフと和歌山市内でつかみ合いになって現在、係争中なんですよね」（同前）

吉田氏は和歌山市内で不動産会社を経営する傍ら『NPO法人ワンダフル二度目の命』で犬猫の保護活動に関わってきた。同団体は2014年に法人登記され後述する吉田氏の姉、成戸文子氏が理事長を務める。

そんな吉田氏が同NPO法人の元スタッフ、鈴木美子氏（仮名）とトラブルを起こしたのは2019年のこと。

2017年から有償ボランティアで働き始めた鈴木氏だが吉田氏からの暴言被害を受けたという理由から翌年に退職。一方、吉田氏は鈴木氏の勤務態度を理由に進退を問いただしたという。吉田氏は報酬として月額10万円＋アパートを提供していた。退職後は突然、退去を迫っても気の毒だ、という理由から月3万5千円（共益費3千円）で鈴木氏を住まわせていた。ところがアパートの管理状況が悪い上、支払いをめぐるトラブルが発生。

鈴木氏が退去した後、2019年9月20日、和歌山市内の食料品店で2人は遭遇。両者はつかみ合い、押し合いとなり双方が刑事告訴するという事態になった。

その後、鈴木氏は怪我を負ったとして損害賠償を求め和歌山地裁に提訴。また吉田氏も反訴したが結局、双方の訴えが棄却。いずれも証言に矛盾点があり、曖昧との判断である。そして現在、大阪高裁で控訴中だ。

表現は悪いが「おばちゃん同士の取っ組み合い」といったところだろう。立候補に影響するほどの大問題とは言い難い。ただしなぜ吉田氏が比例名簿に加えられたのか不思議だ。もっとも比例名簿の末席でしかも自民党は逆風。よほどの大勝でもない限り当選することはないだろうが、それにしても他に人材がいそうではないか。

和歌山IR誘致が 挫折した穴埋め？

取っ組み合いで係争中の吉田氏が比例候補になった珍事。

さる関西政界通は「実姉の成戸文子氏の影響ではないか」と推測する。

成戸文子氏は農園の他、製麺所も手掛ける和歌山県内では一目置かれた実業家だ。地域おこし、経営に関する講演会にも登壇している。

そして成戸氏は政界ともパイプが深い。

「妹の起代子氏の政治活動といえばせいぜい市議選で幸福実現党の女性候補を応援したぐらいでしょう。ところが成戸氏は二階元幹事長の支援者で自民党とも関係が深いんですよ」（前出政界通）

さらに成戸氏をめぐってはIR推進派という背景も見逃せない。二階氏らが和歌山マリーナシティに統合型リゾート（IR）の誘致を進めてきたのはご存知の通り。成戸氏も誘致を成功するべくサポートしてきた。

「成戸氏は女性経営者３人と『県に統合型リゾート（IR）の誘致を応援する会』を結成し、県知事に署名を提出するなど意欲的に取り組んでいました」（前同）

だが2021年、事業者公募に参加したサンシティグループホールディングスジャパンが撤退。和歌山IR計画は頓挫したのは当サイトも報じた。こうした経緯がある。

二階氏や自民党にもパイプがある成戸氏、不動産業を営む妹が突如、自民党の比例候補になる。この流れについて先の政界通は「あくまで推測」とした上でこう指摘する。

「成戸氏または吉田氏がIR事業を見越して周辺土地を購入したところ誘致は失敗。そこで比例候補は成戸‐吉田姉妹への“穴埋め”ではないかと囁かれていますよ」

事情を聞こうと吉田氏に取材を申し込んだがその後、反応はなかった。常識的に考えれば吉田氏が当選する可能性は皆無だ。しかしトラブルを抱えた吉田氏をあえて比例候補にしたのか謎すぎる。背後関係を考えれば自民党らしい人選には違いないが――。