【虻田郡 ニセコ町】「北海道が 中国に奪われる論」は 保守キャンペーン!?(後編)

カテゴリー: 地方, 市民団体 | タグ: , | 投稿日: | 投稿者:
By Jun mishina

「北海道が中国に奪われる論」を疑う! 前編は北海道虻田郡ニセコ町内の別荘地「フォレストアベニュー」内で外国人用宿泊型住宅群「WhiteVillas(仮)」の建設計画に対する反対運動を紹介した。後編は株式会社Planetやニセコ町役場、地元関係者への取材を通じて北海道土地問題を論考していく。結論から言えば建設計画は住民の不安があるにしても正当な開発事業だった。さらにこの周辺で外国人が増加しているのは「収奪」「占拠」と考えにくい。外国資本による投資は何より日本の政治や行政が歓迎してきたことなのだ。もし外資による土地購入や開発が不当と感じるのであればその原因は日本の政策にある。(タイトル画像は羊蹄山。この地域のシンボル)

ニセコ景観条例は規制目的ではなかった

日本各地を取材していると地域の開発事業に遭遇するがその際、ある傾向が見られる。例えば古い町並みや伝統的建築物などの再開発に対して最も熱心に反対するのが共産党自治体議員や左派市民グループということ。逆に自民党議員や保守会派が開発推進派という現象が随所で見られた。本来「伝統」に対して最も敏感であるはずの保守派が伝統を軽視し、「伝統」という概念と一線を画すであろう共産党員が保存を訴えるという構図がある。面白いことにこうした場合、自民系と部落解放同盟の利害が一致する現象もみられるがこの理由は簡単だろう。単純に両者は建設業、土木建築業者が多いからだ。

保守派からすれば「反対のための反対」と揶揄するかもしれないが、そうとも言い切れない。

「伝統を守る」「地域を守る」のウラ側にはこのような特徴があることも保守派は認識すべきだろう。そして後述するが「北海道が奪われること」の責任と正体は日本側の政策にあると最初にお伝えしておく。

フォレストアベニューの入り口付近。
外国人用宿泊型住宅の建設予定地。

マンション、パチンコ屋、工場、商業施設への反対運動は北海道に限らず全国各地で起こる。中には強引に進める業者も散見されるが、株式会社Planetの場合、説明会を重ねるなど逆に丁寧な印象を受けた。それは企業姿勢というよりも制度上の理由がある。

「ニセコ町景観条例」で「町内で「開発事業」(一定規模を超える建築物や工作物、指定事業場の建設や土地開発など)を実施する場合には、ニセコ町長との事前協議が必要」とある。建築物の場合、「高さ10mを超えるもの」「延べ面積が1000㎡を超えるもの」がその条件。株式会社PlanetのWhiteVillasは20棟分(住宅群になる)が延べ面積が1000㎡を超えるため町との事前協議を行う。また町が必要と認めた場合、事業者は住民説明会を開催する。ニセコに限らず観光地がある自治体では景観条例があり開発等への規制をかけることがある。同類の条例と言えば京都市などが有名だ。だが「ニセコ町景観条例」は規制を目的にしていない。

同町都市建設課都市計画係によれば

「一定規模の事業を行う場合、住民への周知を目的にした配慮事項を定めた条例になります。ですので規制を目的にしていません。(WhiteVillasは)予定通り建設すると聞いています」

と説明する。同係によれば「開発に規制をかけるべきだ」という意見は少なからず寄せられているという。これらの意見は、おそらく「俱知安町ひらふ地区」を意識したものに違いない。ひらふ地区に対しては住民からも少なからず反発の声が多く「オーストラリア観光客や定住者向けのペンションやコンドミニアムが乱立して“リトルシドニー ”と呼ばれていますよ(笑)」(俱知安町住民)との呆れ声も。同地区の地価が上昇しているのは全国ニュースでも報じられる。

フォレストアベニューも高騰の余波があるようで「5年ぐらい前までは一区画約50万円(土地代)でしたが、現在は3~4倍に上昇しました」(不動産業者)との指摘も。

WhiteVillasがリトル香港やリトル中国とまでは言い切れないが、ともかく条例上では町との合意、住民との対話が求められる。このため当初計画35棟から23棟に修正。屋根や壁面の塗装まで外部の要望を聞き入れた。「強引な開発」とは思えない。一方、住民が懸念していた除雪作業、井戸水供給はどうなるのか。特に水は生活上、不可欠だ。除雪や水道供給を担当するフォレストアベニュー管理組合の見解も聞きたいところ。

説明会に住民以外の参加者が来て・・

ニセコ町中心部の住民に『後志よみうり』というタウン紙を見せてもらった。同紙を読むと管理組合理事長が取材に応じていたが、コメントのニュアンスは水の供給に否定的で不安を抱く印象を受けた。しかし実際に同理事長にコメントを取ると若干、温度差があった。

「これまで空き地が多かったですが、そこに20棟以上の住宅ができてしかも外国人向けということですから住民も不安があるのは事実ですね。ただ管理組合としては業者側に建設するなとは言えません。分譲地を購入されているわけですから。組合の懸念としては要は建設後、所有者が組合費を払ってくれるかなんですよ。例えば所有後、連絡が取れなくなる可能性もあるし、それから海外からの送金がとても厳しくなっているから組合費のトラブルは避けたいところです。会社側(Planet)がまとめて払うという話だからその点は信頼しています。ただ事業から撤退した場合、住宅群はどうなるのか、そういう心配はありますね」

問題の井戸水と除雪作業については

「20棟分はPlanetさんが井戸を掘ると言っています。それ以外の数棟(3棟)に現在の井戸から供給してくださいということなんです。3棟分については供給困難になる可能性もありますよ、という説明は確かにしました。それから除雪作業については組合費に含まれています。確かに棟数が増えると作業は面倒になりますが、しかしその分収入が増えるというメリットもありますね」

当初、「組合も困惑」という話を聞いたが、そうではなかった。それから反対運動について気になる証言を地元で得た。町関係者の話。

「説明会にはフォレストアベニュー住民以外も参加します。その人たちが意見を言うから当の住民が発言できないんですよ」

当事者よりも活動家の声が大きい。町の開発話ではこれもよくある現象。市民運動“あるある ”だ。 Planet社は反対運動を受けてどう対処するのか。同社担当者の話。

「弊社としては多様な意見があるということで極力、ご要望にお応えしていく方針です。住民の方との対話は事業者としての責任ですので。屋根の色をグレーにしたのも(反対派の)要望を採用しました。ご心配されている井戸水の確保ですが20棟分については弊社が独自で井戸水を整備しますし、組合費も従来の住民の方よりも上積みした額をお支払いする予定です」

またフォレストアベニュー以外の住民の声が強いという指摘に対しては

「地域外の方が住民説明会に参加されているのは事実ですね。このまま同意が得られない場合は、住宅建設を止めて土地だけを販売するという選択肢もありえます」(同)

住民の不安は分かるが、やはり当事者以外の声が大きいのは悩ましい。

「外国資本による開発、土地取得に対して反対意見があるのは承知しています。しかしニセコ町、俱知安町もこの地域は自治体が外国人移住や海外投資を推進しています。それに対して土地を売ってはいけない、開発を止めろという意見は事業者として当惑しています」(同)

ここに北海道土地問題の核心部分がある。もともと外資系企業の参入や外国人定住者の増加も元をただせば国策であり自治体の方針なのだ。事業者たちはもその方針の下、ビジネスをしているにすぎない。

90年代に始まった外国人誘致策

ニセコ町、俱知安町、蘭越町でニセコ観光圏を打ち出している。特にスキーについては「世界有数のパウダースノー」がPRポイント。三町がまとめた「世界が選ぶニセコ NISEKO, My Extreme-ニセコ観光圏整備計画 –」からいくつかデータを引用する。

「俱知安町ひらふ地区のようにしてはいけない」という証言を裏付けるように倶知安町は長期滞在の外国人がとても多い。「外国人が殺到する」という言説の中で「中国人」がクローズアップされるがむしろオーストラリア、ヨーロッパ諸国出身者が中心。ホテル、公共施設、共有スペースのデザインやオブジェは英語圏出身者を意識した印象だ。とりわけ倶知安町ひらふ地区は「リトルシドニー」と言われるようにオーストラリア出身者が中心。

ニセコ町学習交流センター(図書館)の外国人向けコーナー。英語圏出身者と思しき利用者がいた。

外国人が増加して地元住民の生活に支障をもたらしてはいけないし、先に示したフォレストアベニュー住民が不安を抱く気持ちもよく理解できる。しかし繰り返すがこれは日本側が進めた観光政策の結果なのだ。

このことはなぜニセコ圏にオーストラリア出身者が増加したのかと密接に関わる。観光産業に貢献した実業家を選定する観光庁の「観光カリスマ」俱知安町の項目にロス・フィンドレー氏(オーストラリア出身者)の名がある。同氏はスキーインストラクターとして俱知安町に移住。夏季の観光が乏しかったことから1995年にラフティング(川下りレジャースポーツ)を事業化したNAC(ニセコアドベンチャーセンター)を設立した。フィンドレー氏が先鞭をつけオーストラリアからの投資を呼び込んだ。

海外投資を政治や自治体は抑制したかと言えばそうではない。むしろ投資を歓迎したからフィンドレー氏は外国人初の「観光カリスマ」に選ばれたのだ。2006年に国交省の「都市再生プロジェクト推進調査費」を活用し俱知安町とニセコ町は『地域活力によるニセコ羊蹄「国際リゾート都市」の構築―リゾート景観づくり調査』を実施。この調査に基づき両町は「観光振興計画」を策定した。つまりニセコエリアへの外国人誘致は国策であり、自治体の方針なのだ。もちろんそれは自民党が推進してきたこと。

逆にこのようなケースも紹介しておこう。『ブルームバーグ・ニュース』の「ここは外国か」北海道ニセコに外国人定住-高齢化日本で人口増」によれば元ニセコ町長で立憲民主党の逢坂誠二衆議院議員は「これ以上投資を過熱させないべきだ」と答えている。同党議員は「反日左翼」と揶揄され、国際共生を是とする同党の議員ですら海外投資を疑問視していた。

「国益重視」「領土問題」を掲げる自民党だが海外投資、外国人移住を促進させたのもまた自民党という現実。

「外国人が増加する」ということについて事業者を批判するのは酷というものだ。

地元自治体議員は声を潜める。

「住民から“暮らしにくい ”という意見はよく寄せられます。確かに外国人誘致が行き過ぎた面もあると思います。しかし本当に危惧すべきは開発ラッシュのその後、なのです」

倶知安町の地価上昇率は全国一を誇る。この点も同町の開発ラッシュを物語る。ニセコ圏は今、バブル期なのだ。歴史を振り返ればバブルは継続しない――。何より日本人の記憶に強く刻まれているはずだ。いずれ投資熱が冷め観光客が減少した後、残るはリゾート施設の無残な残骸。このことは北海道に限らず全国各地で起きた事態だ。同議員が指摘する「その後」の意味が理解してもらえるだろう。「事業者が撤退したらどうなるのか」という点についてはフォレストアベニュー管理組合理事長も懸念していた。しかも不運なことにコロナウィルスの蔓延という問題もある。仮にコロナが収束しても従来のような往来ができるのかどうか。

あるいは「開発事業といっても地元企業に金が落ちない」(同前)という実態も見逃せない。海外投資への不満はこうした事情も影響しているのではないか?

北海道を買う中国人たちの本音

「北海道が中国に奪われる論」の原点をたどるとオーストラリア人による投資、リゾート事業があった。それが経済発展で中国資本の投資が増加し「水資源が奪われる」「自衛隊周辺土地が買われ監視される」「森林が奪われる」との説が浮上した。この関連の質問を地元の不動産業者にすると反応が面白い。

「またその話か」

という態度がありありと伺える。あるディベロッパーの話。

「我々も商売だから“土地を買いたい ”と言われたら誰にでも販売しますよ。それが売地であればどこでもです。外国人の購入を規制しているわけではありませんしね」

日本の国土を売り飛ばす、中国に加担する、こういった意識ではなく単純な商取引だ。しかし「騙されている」「中国側の企み」と言われたらもう返す言葉がない。

同氏は不動産投資をする中国人の心理をこう説明してくれた。

「例えば中国人実業家や投資家が自然景観の良い場所の別荘を購入するでしょ。本国に戻った時、ビジネス仲間たちに自慢するんですよ。日本の高級リゾート地でしかも西洋人も進出しているニセコだ、という風にね。北海道に限ったことではなく長野県白馬村なども同様の現象が見られますね」

つまり中国人にとって日本のリゾート地所有は一種のステータスシンボルのようだ。中国の場合、土地の個人所有という概念がなく基本的に土地は国家に属する。そういう国情があるため海外のリゾート地を所有するのは羨望の的ということだろう。また富裕層が万一の時に海外の不動産投資で資産を温存する狙いもあるという。だがそれも「土地を奪う」とは別問題である。

それに海外の土地、建物を買い漁るという点では日本人も“いつか来た道 ”だ。他国のことばかりあげつらうことはできない。

いかに反中国であっても「北海道が中国に奪われる論」の正体を見たり! という心境にはならないだろうか。それでも中国の謀略説を唱えるならばこの論が勃興して以来、どう自衛隊基地が監視され、どう資源が奪われたのか明示してほしい。もちろん個人的にも安全保障上、中国は脅威と認識しているが北海道の森林や別荘地、保養地の購入が安全保障問題や水資源の収奪というのは相当な無理がある。

現状、土地を買う中国人よりも「北海道が中国に奪われる論」のアジテーターの方が潤ったというのが実態に近い気がしてならない。ただこうした主張を支持する心境も痛いほど分かるのだ。行き過ぎたインバウンド政策の上、観光客とトラブルが生じれば左派から「差別」「分断」「ハラスメント」と槍玉に挙げられる。もうインバウンドに疲弊しているのだ。そんな心理的な不満や不安を巧みに刺激するのが「北海道が中国に奪われる論」の正体ではないだろうか。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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【虻田郡 ニセコ町】「北海道が 中国に奪われる論」は 保守キャンペーン!?(後編)」への4件のフィードバック

  1. うましかの一つ覚え

    国やその地方自治体が外国からの投資や移住者募ってたから乗り気でいたら現地で反対運動にあったでござる、の巻
    屯田兵や移民の子孫が自分で募った投資家や移民を否定するとか意味が分からんw

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      前回に続いてコメントありがとうございました。
      北海道土地問題について初めて取り組みましたが、非常に
      難題だと痛感しました。
      まず不動産投資、開発事業は日本人ならよくて外国人はダメなのかという問題。これは外国人の土地購入とは別問題でバブル的な投機が後々、
      禍根をもたらす気がしてなりません。
      また外国人の投資といっても日本企業が代行すればいいし基地周辺とか
      購入してどうなるんだという気がしています。
      「行き過ぎた投資」があるからどう規制できるのかも分かりませんしね。関心の高いテーマだから今後も追跡してみます。

      返信
      1. うましかの一つ覚え

        こちらこそ返信ありがとうございます
        日本・日本人が購入してれば話は別なんでしょうが、その力が今の日本・日本人にはなくそこに新たな価値を生み出せないってことなのかなぁと
        外国・外国人の誘致はそういうことなのかなと個人的には思います

        返信
  2. ななし

    北海道出身者ですが、フジサンケイグループの「北海道が 中国に奪われる」キャンペーンにはウンザリさせられます。そういう主張をした人を見かけると、「土地は買っても施政権は変えませんよ」「わざわざ中国人名義で土地を買う馬鹿なスパイはいませんよ。」「水利権や輸送費を考えたら水を奪うのは無理ですよ」と指摘しても聞く耳、理解する知能持たずなので諦めました。

    そもそも中国政府は2017年の「海外投資に関する政策意見」によって国外不動産の買収を制限してます。せっかく中国人がコツコツ働いて儲けた金が、北海道の原野を買うことで流出してしまうのですから、自称愛国者ネトウヨにとってはいい事だと思うんですけどね。

    ただしニセコがバブルというのは違うと思います。本家バブルは1987年から1990年までのわずか3年間でしたが、ニセコ“バブル”は20年続いています。その間にフィンドレーさんのような外国人はアルバイトで貯めた金を投資して億万長者になり、より有利な立場にあったくせに冷笑していた地元民はリフト係や清掃など経済的カーストの最下位になりました。

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