行政ウォッチャーとしてメディアにも情報提供することがある白鳥氏から先日、「地方改善事業」に関して不可解な話があると弊社にレポートが寄せられた。これは隣保館の運営事業であり、事実上の同和事業であるのだが、同和地区のない北海道ではアイヌ対策に使われていることは本サイトも把握していた。
それに加えて、北海道同様に同和地区のない沖縄にも予算が割り当てられているという。それはいったいどのような趣旨なのだろうか? 今回寄稿して頂いた、白鳥氏の体験談を読んで頂こう。
行政文書開示請求とは?
皆さんこんにちは。白鳥と申します。
厚生労働省に行政文書開示請求って、難しそうややこしそう…そう思われる方も多いと思います。
まず、行政文書開示請求とは何ぞや?から。お役所は大量の「行政文書」で仕事を回しています。
これを「文書主義」といい、法律でそうしろと定められています。
この「行政文書」という言葉には、紙の文書だけでなくメールだったりメモまでも含みます。
そして、役所は国や自治体問わず、国民市民の税金で動いていますから、国民には、役所の仕事・情報を知る権利があるんです。
では、国(政府)や自治体(都道府県や市町村)の情報を知るにはどうすればよいか?
ホームページで見る、議会を傍聴するなどの他に、情報公開を求めることができます。
そこで、「行政文書開示請求」という方法が出てくるんです。
要は「役所で公務として作った文書を見せてください」という手続きをこう言うんですね。
さて、今回私が会った不思議なこととは…
この寄稿をご覧ということは、もちろん部落に関心がある方だと思います。
私もそうで、これまであちこちの役所にいろいろな「文書」を請求し開示してもらいました。
旧同和地域に限って注ぎ込まれた税金が結構あるのは、皆さんご存じの通りだと思います。
これは、名前に変遷はありますが、最後は「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(通称:地対財特法)」という名前になって、平成14年3月31日をもって失効し、旧同和地区だけに向けた根拠法令が無くなり、他の法令などで一般施策としてカバーすることになりました。
要は特別扱いは辞めます、と国が決めたわけです。
今回、今まで請求してきた流れで、厚生労働省の「部落」に今も関係する部署に
「平成28年度地方改善事業費(隣保館運営費等)補助金にかかる事業実施報告書」
という行政文書の開示請求をしました。
ちなみに今回は、厚生労働省に請求しましたが、他の省庁でも、もちろんそういう施策はあります。
「行政文書開示請求」の流れをお話ししますと、
●「文書開示請求書」を提出する
これは、省庁や都道府県市町村の担当部局宛てに、「こんな内容がある文書」を開示してほしい、と開示実 施手数料(大体数百円です)を印紙・証紙か電子納付で付けて、郵便なり電子申請なりで送ります。
●「開示決定通知書」が発行される
これは、求めた内容の文書がまずあるかないか(「存在」「不存在」といいます)、あれば、開示するか不 開示か、開示であっても不開示部分はあるかないか、が書かれています。「不開示」の部分があるならば必 ず不開示にした理由が書かれています。
求める文書が「存在」して「開示」されるなら、次に進みますが、不満ならば「異議申立」ができます。
●「開示の実施の方法等」の選択
私の今回の場合には、文書も存在し不開示部分も無しでしたので、開示してもらえることになります。
その方法の選択にいくつか種類があります。
当該役所での閲覧、写しの交付(コピーのことですが、紙のコピーと、電磁的記録=CD-RやDVD-R などにデータとして焼いてもらう)、オンライン交付(メールにPDFファイルが添付されてくる)などです。
私は、写しをDVD-Rに焼いてもらって郵送してもらう方式を選びました。
そのための焼く実費と郵送料は負担しなければいけません。
こうやって、手元にほしい情報が載った文書が届くはずなんですが・・・
先ほどあげた「開示決定通知書」が届いていたのに、肝心の「文書の写し」がなかなか手元に届かず担当者に尋ねても「郵送した」の一点張りだったのです。
担当部署(原課という言い方をします)ではらちがあかなかったため、厚生労働省の文書公開を統括する「公文書監理・情報公開室」にお電話して尋ねてみました。
ここで、決裁(役所で何かを決める際に回す文書のことです、今回なら文書を公開するという案の文書)は回り終わっていて、とっくに届いているはず…となりました。
この担当者さんが優しい方でいろいろ調べてくださったんですが、速達や書留など特別扱いの郵便物で無い限り文書収受簿に載らないので届かない理由は分からない、もう少し待って届かないならもう一度原課に作らせて送らせるとのことでした。
そうして、実は「郵便番号の間違い」だったと分かったのが一週間後に手元に届いた時でした。
原課の担当者さんからはとってもとっても丁寧な謝罪のお言葉を頂戴しました。
ところが、開示された文書に不審な箇所が。
隣保館運営費等の経費なのに「沖縄県」の道路工事があったからです。
皆さんご存じのとおり、沖縄県には部落はありません。
北海道にも部落は実質無いのですが、この経費は出ています。
実はアイヌ政策として「生活館」という隣保館的施設の経費が、ここから出ています。
話が逸れました。
沖縄県の謎を解こうと、さらに厚労省に対して平成29~令和2年度の同じ文書の開示請求を担当者にするとなぜか、
「請求を取り下げてほしい、情報提供はするから」
と、連絡がありました。
私も知らなかったのですが、文書公開請求は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(通称:情報公開法)」に基づいていて、その第二十二条に「情報の提供」というのが定められています。
これは、そんなに手続きを煩わせるほどでは無いときに、「利便を考慮した」情報を提供できる、とするものなんです。
役所の窓口で配ってるレベルの文書とかを、いちいち文書公開請求で取り扱ってたらメンドクサイですよね?
で、担当者はどうやらこれで行きたいと思ったようです。
ちなみに行政文書開示請求だと手数料などが必要となりますが、情報提供でしかもメール添付だとDVD制作料の実費や郵送料がかかりませんし、そもそも開示請求もしないので請求実施手数料も要らず無料です。
こちらも早く情報を得られますし、向こうも手間が省けるウィンウィンなので、了承をしました。
数日後3通のメールに分割され届きました。
そうすると、「整備費」で、沖縄どころか長崎県や鹿児島県の、とても部落とは思えないところでも道路工事がありました。
もちろん隣保館の工事もありましたが。
そこで、返信メールをお礼かたがた送りつつ、なぜ沖縄が入っているのかを電話で聴いてみました。
結論はこうでした。
まずこの経費は、地対財特法失効後、一般施策として行われていること、国交省の道路整備と違い、厚労省のこれは「生活福祉のため」の工事であることと。
要は、改良住宅が全て部落というわけでも無くスラムも含め生活福祉の面から整備されたのと同様なのと解釈は変わらないみたいなことのようです。
じゃあ、予算はどうやって組まれているのか、予算枠はどう確保し割り振っているかを尋ねたところ、毎年ヒアリングを都道府県・政令市・中核市に行い、優先順位の高い順に予算を割り当てているいるそうです。
「地方改善事業費」とは部落の改善と思い込んでいたので面食らいました。
では「どうやってその経費の『対象となる地域』と判別するのか?」と聴いたところ、「事業の実施主体は、都道府県・政令市・中核市なので、そこから上がってきたのをそのままに扱っている」という、驚く答えが返ってきました。
国は対象地域を把握してないというのです。
実に不思議なやりとりになりました。
ただ、担当者の「旧同和地区向けでは無く一般施策に移行したので」という一言が気になっています。
長文駄文失礼いたしました。