映画『名もなき池』は2度のキャスト案変更を経て、昨年10月4日に主演が伊達直斗氏に決定したとイロハ社は関市に報告した。それではなぜ伊達氏が起用されたのか? 新原光晴氏の人脈ではなく昨年夏に知り合った羽島市在住の実業家M氏からの紹介なのだ。だがM氏はわずか2ヶ月程度で新原氏を見限った。「裏切られた」と怒りが収まらないM氏が当時の状況を告発する!(写真は「いろは 風のとおり道」で接客する新原氏)。
「裏切られた思いです」怒るM氏
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映画『名もなき池』は今年3月31日までに公開することが関市映像作品撮影事業補助金の条件の一つ。驚くことに主演が伊達直斗氏と関市に報告したのは昨年10月4日のこと。公開半年前にしてようやく主要キャストが決まる。しかも同日に監督が恵水流生氏から新原氏に変更したことも報告された。まさに異常事態だ。
その際、提出された企画書に初めて伊達氏の名が登場する。伊達氏がキャスティングされた経緯を岐阜県羽島市在住の実業家M氏が明かす。



M氏は携帯電話関連事業やドローン事業を営む実業家だ。多彩な趣味を持っており俳優、タレントとも親交がある。M氏が運営する店舗には俳優らとの記念写真も貼り出されている。同氏のもとへ新原氏が訪れたのは昨年、初夏のことだ。
M氏は「新原氏には裏切られた思い。人の好意を平気で踏みにじっていく人間性です」と話を切り出した。
「俳優を紹介してほしい」突然、新原氏が現れた

「岐阜市内の携帯電話ショップを任せている親族から電話で〝映画プロデューサーという人が来店して私に会いたいと言っている〟と連絡を受けたことが始まりですよ。何だろうと思いつつ会社で新原氏と会いました。最初に実名の記載がない〝ShinBeethoven(シン・ベートーベン)〟と書かれた名刺を渡されました。今にして思うと、こんなふざけた名刺を渡すなんて社会人としてありえません。
後に関市にもシン・ベートーベンというプロフィールを提出していたと知り呆れました」
唐突な申し出に困惑したM氏だが、それでも饒舌な新原氏のペースで話は進んでいった。
「〝社長さん、たくさんの俳優さんとお知り合いですごいですね〟こんな風に切り出しました。今思うと私が俳優と交流があるとどこかで知り、接触してきたのかもしれません。
モネの池前で「風のとおり道」というカフェやジブリショップを数店舗経営しており、そしてドラマや映画のプロデューサーをしていると言いました。ところが出演者が降板してしまったので主演俳優を紹介してほしい、と言うのです。突拍子もない依頼だし〝映画に出演しませんか〟などと大きなことを言うから胡散臭く感じました。
しかしモネの池でカフェを経営していること、また映画製作は関市から補助金を受けていることも事実だと判明しました。関市の公認ならば大丈夫だろうと考え、以前から面識があり実績豊富な伊達さんを紹介したのです。
その時は新原氏は〝伊達さんは織田(主人公)のイメージにピッタリだ〟と、とても喜んでいましたよ。ただそれも伊達さんとつながったことが嬉しいのではなく単に〝キャストが確保できた〟という打算と安心感でしょうね。
この頃になると進行が遅れているので関市から指摘を受けたと後で知りました。ここで伊達さんを逃したらもう映画が撮れないと焦っていたと思います」
面識がないM氏の会社に突然、訪問して映画の主演俳優を紹介してもらうという常軌を逸した行動。よほど切羽詰まった状況に違いない。

「伊達さんに映画の件を伝えると〝ともかく一度会ってみよう〟と返事をもらえました。そして昨年9月19日、熱海市で伊達さん、私、そして新原氏で話し合いの場を持ちました。新原氏が状況を伝えると伊達さんから脚本、進行、撮影体制までダメ出しを受けていましたね。
もともと彼は映画論を語るというのか、プロデューサーとして自分が優れていると考えていました。ところが伊達さんから〝脚本が薄すぎる〟と否定されてしまいます。
内心は舌打ちしたかもしれませんが〝伊達さん、さすがです〟などと褒めちぎっていました。新原氏の態度は終始、素直でしたよ。正確には伊達さんを怒らせて逃げられたら元も子もありません。必死でつなぎ止めたのでしょう」

伊達氏とM氏の前では平静を保ったはずだが、新原氏は焦燥していたに違いない。なぜなら熱海での初顔合わせとなった9月19日には大きな意味があるのだ。
その前日の18日、「関市映像作品撮影事業補助金交付の対応について」(*画像参照)という通達文がイロハ社に送付され「既に交付した補助金の返還を求めることがあります」と関市から通告された。市が初めて補助金返還に言及した時だ。
監督変更、トラブルやスケジュール遅れなどを重く見た市側がついに新原氏側に改善を促した。
つまり伊達氏との面会は補助金交付を受けるための最後の賭けであり、一寸の光明でもあったのだ。
「製作費がないから300万円貸してほしい」
本件の取材中に映像関係者に8月の段階でキャストが決定しておらず、翌3月までに映画が公開可能なのか聞いてみた。皆、一様に「ありえないスケジュール」だと困惑していたものだ。しかもすがったのが芸能事務所ではなくて、岐阜県内の実業家というのは人脈の無さの裏返しだろう。どうにか伊達氏の紹介で出演者が決まっていく。
そして10月12日にクランクインを迎える。
「ジブリショップを開店させる権利を持っている」だとか新原氏は初対面の時から大きなことを言っていました。ところがだんだん様子が変わってきたのです。一番、印象的だったのが人の悪口が多いこと。〝関市の職員のあの人はダメだ〟とか〝関市の某社長は金を出さない〟そんなことばかり言っていましたよ。
そんな話は聞きたくないし、逆によほど上手くいっていないのかと心配になりますよね。この人、大丈夫かな?と思うようになりました。そして繰り返すのは「金がない」です。
〝関市から補助金が交付されない可能性があるから金策に追われている〟と言い始めました。それもまるで関市側やスタッフに落ち度があるような物言いでしたね。
それがどんどんエスカレートして〝すぐに用立ててくれる闇金を知らないか〟とまで言ったり、挙句の果てにクランクイン前日の夜、私に〝300万円貸してくれ〟と泣きついてきたのです。もし根負けしてお金を貸していたらと思うと、ゾッとします。
そして最初から俳優の紹介とお金目当てで接近してきたのだと確信しました。
10月16日、私はLINEで〝人をバカにするのも大概にしとけ〟と一喝して関係を切りました。撮影が始まるとトラブルだらけだったというのは報道でもあった通りです。
最初はひどかった脚本を手直したり、演出まで考えてくれた伊達さんに対して新原氏は〝撮影現場でセクハラをしていた〟などと作り話で悪人扱いしました。あれも新原氏らしいです。
私にも金は貸さないと言った途端、もう用済みといった態度でした。当初、ドローンで空撮をするシーンが予定され私が協力することになっていました。ところが私との関係が切れたのでドローン撮影は中止。周囲にはドローンの禁止区域という説明をしたそうですが、それもデタラメです。
新原氏の人間関係はこの通り、人を踏みつけて生きてきたと思いますよ。その積み重ねが『名もなき池』ではないでしょうか」
わずか数か月の付き合いだったがM氏にとっては狐につままれた思いだろう。それにしてもなぜ新原氏は「金欠」とこぼし続けたのだろう。少なからず自己資金もあり、市から補助金が交付されたにも関わらずクランクイン前から資金難というのが解せない。
ロケ弁当代65万円は本当か?
【映画『名もなき池』騒動②】でイロハ社が関市に提出した収支予算書を紹介した。資料によるとクラウドファンディングで800万円が集まったという。しかしある撮影関係者は「ありえない」と断言した。「せいぜい100~130万円ぐらいだったと記憶しています」(同)。クラウドファンディングサイトからプロジェクトページが削除されており、検証する術はない。いずれにしても懐事情は苦しかったに違いない。
M氏はこう振り返る。

「新原氏がクラウドファンディングで800万円を集めたのは疑わしいと思いますよ。私も本人から〝クラウドファンディングが百数十万円〟と聞きました。それから掲載された資料に「『ロケ弁、ケイタリング』費用が65万円を計上しているのを見て仰天しました。ありえないと思います。スタッフさんたちにドラッグストア「ゲンキー」の199円の弁当を値札を取って配ると新原氏は言っていました。キャストやスタッフの宿泊先も後払い可のところを探していましたね」
ゲンキーとは北陸、東海地方で展開する安売りのドラッグストアだ。米の高騰で今でこそ値上がりしたが199円の弁当が販売されていた。ゲンキーの弁当が悪いという意味ではない。ロケ弁当として提供するには相応しくないのだ。さらにロケ弁65万円についても疑問が尽きない。先の撮影関係者は内情を明かす。
「確かに最初の方はゲンキーの弁当でした。唐揚げとご飯だけの199円のものですよ。スタッフは一日一食が支給されて後はそれぞれが自腹。あまりに内容がひどいので伊達さんが〝もう少し弁当の質を挙げないとみんなのやる気が出ない〟と苦言したのです。すると500円程度の弁当に変わりましたが、後でキャストの弁当もたいして変わっていないと聞きましたよ」
弁当をめぐってはもう一つ見逃せない情報を同関係者は知る。
「弁当を購入していたのはB制作会社。イロハ社が経費の水増し請求に利用したとされる会社です。事前に新原氏から弁当代を渡されるのではなくB社スタッフが自腹を切っていました。スタッフにすれば精算してもらえるのか不安でしょう。〝いつまでこんなことをさせるんだ〟と新原氏に交渉しました。精算は済んだと思いますが、ロケ弁代に65万円も使ったとは到底、考えられません」
過酷な撮影現場の上、架空請求のダシに使われたB社には同情を禁じ得ない。クラウドファンディングや自己資金が乏しくともそれでも補助金2千万円がある。なぜ新原氏が資金難を訴えたのか理解に苦しむ。再びM氏の話に戻る。
「なぜそこまで資金難だったのか私も理解できません。約4千万円は集まったという話でしたしね。まだ撮影が始まっていないのに予算がないというのはどう考えてもおかしいでしょう。もし私的流用していたとすれば大問題ですよ。新原氏は私に〝競艇場に通うほど競艇が好きだ〟とか〝映画撮影の資金がないから競艇に賭けるしかない〟と漏らしていたものです。ギャンブルで補助金やクラウドファンディングで集めた資金を使ってしまったとしか思えませんでした」
ロケ用の自動車も地元ディーラーから提供されたもの。また地元有志の協力も多々あった。ところがあまりに完成度は低い。どこに費用がかかったのか作品から痕跡が見えないのだ。
同氏は現在、板取地区住民と交流を持ったことからモネの池付近でキッチンカーを呼び、活性化に一役買っている。そこからは「いろは 風のとおり道」が一望でき、新原氏の姿も目撃しているという。
「新原氏は〝自分が(M氏に)モネの池付近の住民を紹介した〟と言いふらしているそうですが、誰かを紹介してもらったことは一度もありません。私自身で交遊関係を作りました。それを言うなら私が伊達さんを紹介しなければ、映画撮影どころか関市からの残りの補助金1千万円の交付はなかったと思います。それに最初の1千万円の返還要求もされていたでしょうね。
それに現状、関市の対応も甘いように思えます。今後、市側がどう動くのか分かりませんが、映画の協力者や地元の方にすごく迷惑をかけたと思いますよ。補助金の返還だけではなくて、出演者や協力者の人たちにも正式に謝罪してほしいですね」
2千万円も公金が使われた挙句、誰も得をしなかった映画『名もなき池』。地域振興どころか多くの関係者を傷つけてしまった。