「人権講演の講師は儲かるのか?」筆者に度々寄せられる質問である。そこで、講演料を情報公開請求で調べてみた。
対象としたのは今年2月19日から3月19日までオンラインで行われた「川崎市人権学校」。講演と対談、合わせて3時間半程度、講師は伊藤昌亮・成蹊大学文学部教授、宮下萌・弁護士、そして作家の古谷経衡氏である。
筆者は実際に受講を申し込んでみた。テーマは「ネットヘイトを止めるために、私たちができること」。録音録画は禁止ということだったので、内容を簡単に文章で説明しておく。
最初に行われたのは、基調講演「ヘイトスピーチを生み出す社会構造」だった。登壇したのは伊藤教授で、主にヘイトスピーチの歴史的背景や社会的要因について解説がなされた。とくに「20世紀を通じて克服されるはずだった差別が、ネット社会の誕生によって逆に目立つようになってきたという矛盾がある」と指摘し、個人の差別意識に加え、制度や構造といった側面からも問題を捉える必要性があるといった内容だ。
続いて行われたのが講演①「ヘイトスピーチの裏側 ― 1万人の調査で見えてきた事実」で、講師を務めたのは宮下弁護士。1万人規模の調査データをもとに、どのような場面で差別的言動が多く発信されるのか、またその実態を取り巻く法的課題について説明した。さらに、「差別的なコンテンツを得るニーズがある限り、売ろうとする人や注目を浴びようとする人が絶えない」と述べ、差別が商業的に利用されてしまう現状があると主張した。
その後の講演②「インターネット上のヘイトスピーチの現状と課題」では、自らもかつて「ネット右翼」だったと言う古谷氏が、SNSや動画共有サイトをはじめとするオンライン空間における拡散性の高さに着目し、ネット上でのヘイトスピーチがどのように生じ、どのような影響を及ぼしているかを具体例を交えて述べていた。自らネット右翼界隈に身を置いていた経験から「日本国内で〝ネット右翼〟と呼ばれる人たちは、有権者の2~3%に過ぎないが、ネット上であまりにも目立ってしまう」と指摘した。
最後には前述の3名による対談が行われ、それまでの内容を踏まえたディスカッションが展開された。社会全体で取り組むべき方策や個人が果たすべき役割などが議題となり、具体的な事例や意見交換を通じて、ヘイトスピーチ対策の方向性を探るという内容である。
全体的に、あくまで役所の講演なので、あまりにも極端な主張を抑えつつも、各人の日頃の持論に沿った内容である。
それぞれの講演時間は伊藤教授が約30分、宮下弁護士と古谷氏が1時間程度、そして最後の対談が50分程度である。
講師にいくら支払われたのか? 公開文書で明らかに
さて、今回の記事として注目したいのは、むしろ「どれだけ講師がギャラをもらっているのか」という点である。
川崎市が公開した文書によれば、収録は令和7年1月7日に一括して一日で行われた。そして、伊藤教授の謝礼は8万円、宮下弁護士は8万8千円、そして古谷氏は22万円の支払いとなっている。

なぜ、それぞれの謝礼に違いが出るのか。伊藤教授と宮下弁護士の違いは、消費税が課税されるかどうかである。伊藤教授にとっては、あくまで副収入である一方、宮下弁護士は課税対象の事業収入として処理しているからであろう。古谷氏の場合は、個人ではなくマネジメント会社である「株式会社オフィス・トゥー・ワン」への支払いとなっている。
さて、この謝礼は多いのか少ないのか? 経産省が公開している国の基準と比較してみる。
国の「謝金の標準支払基準」によれば、大学教授級の講師に対する謝金の標準単価は、1時間あたり7,900円(教授1級)または7,000円(教授2級)と設定されている。今回の川崎市の講演と対談は、収録が一括して行われ、対談には伊藤教授、宮下弁護士、古谷氏の3人が参加しているため、実際の拘束時間は合計で4時間程度と考えられる。
伊藤教授は謝礼8万円を受け取っているため、実際の拘束時間4時間で計算すると、時間単価は2万円である。宮下弁護士は8万8千円で、同様に時間単価は2万2千円となる。古谷氏の場合、謝礼が22万円であるため、時間単価は5万5千円となる。
もっとも、国の基準が安すぎるという考えもあるが、事実としていずれの講師も国の謝金基準で最も高額な大学学長級(1時間11,300円)を大幅に上回っている。今回は交通費は含まれていないが、各講師共に首都圏在住と考えられるので、それでも高額である。
古谷氏の場合はマネジメント会社への支払いであるため、22万円がそのまま本人の手取りになるわけではないが、仮に会社と本人の配分が半々程度であったとしても、他の2人の講師の手取りは軽く上回ることになる。

なぜこの謝礼になったのか。公開された文書に、その根拠となる川崎市独自の謝礼支払基準が含まれていた。
謝礼支払基準によれば、教授や全国的に活躍している者であれば、最大で1時間あたり2万円が支払われることになっている。伊藤教授と宮下弁護士の場合は、4時間の拘束として、この満額を適用したことが分かる。そして、古谷氏については講演会扱いとして限度額の20万円が適用された。あとはそこに10%の消費税が上乗せされたわけだ。
そもそも、川崎市は財政が豊かなためなのか、謝礼の支払基準が高いのである。他の大都市と比べてみると、大阪市では国の基準とほぼ同じ、東京都は区によって異なるが、例えば中野区なら大学教授クラスで税込みで1時間あたり13,700円となっており、いずれにしても川崎市よりもかなり低い。
「人権講演の講師は儲かるのか?」その答えは、国や多くの自治体では大儲けできるほどの謝礼はもらえないが、川崎市のような謝礼が高い自治体をハシゴすれば十分儲かると言えるだろう。
・全国部落調査の件で川口君がおこなった講演の回数
・講演料の累計額
これは概算いかほどになりますか?
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