破産者情報サイト 裁判所が国の停止命令を適法と判決 サイト側は控訴へ

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By 宮部 龍彦

2019年に炎上したサイト「破産者マップ」の事実上の後継サイトである「破産者情報通知サービス」に対する国の個人情報保護委員会の停止命令を取り消すようにサイトが求めた裁判で、東京地裁は命令は適法であるとしてサイト側の訴えを棄却した。サイト運営者である遠藤有人氏は、控訴する姿勢を見せている。

一方、新たに登場した「新・破産者マップ」は個人情報保護委員会の停止命令を無視し、同委員会に刑事告発されているにも関わらず、サイトの更新を続けており、個人情報保護法の実効性が疑問視される事態になっている。

破産者情報の 公示との違いについて 裁判所の苦しい判断

官報で公示された破産や民事再生者等の情報を地図上にマッピングした「破産者マップ」は紆余曲折を経た後、地図ではなく単に破産者情報を検索可能なサービスである「破産者情報通知サービス」に生まれ変わって再開した。しかし、2022年3月23日に個人情報保護委員会からサイトの停止命令を受け、それに対してサイト側が停止命令の取り消しを求める法的措置に出た。

過去の経緯は本サイトでも掲載している。

事態が混沌とする中、3月9日に東京地裁が「破産者情報通知サービス」に対する個人情報保護委員会の停止命令は適法であるという判決を下した。これは実は画期的な判決であり、官報によって公に公示されている情報でも、個人情報保護法による規制対象になるとの司法判断が出た初めての例であろう。

個人情報保護委員会の判断に対して、言わば裁判所がお墨付きを与えたわけだが、個人情報保護委員会はこれでほっと胸をなで下ろしたのかと言えば、そうとも言えず、ますます事態を混沌とさせる可能性もある。

時事通信は「破産者情報は権利保護の必要性が高い個人情報に当たると認定。不特定多数に拡散させ、原状回復も困難なことから「官報よりも広く権利利益を侵害している」と結論付けた」と報じている。

これについて、遠藤氏は筆者の取材に対して「官報は破産者の権利利益を侵害していると、裁判所が認めたことはとても驚きをもって受け止めてます」と説明した。

しかし判決文によれば、「破産者情報通知サービス」は破産者情報に特化した検索が可能になっていることから、「本件サイトは官報で既に公告されている情報を基にデータベースが構築されていることを踏まえても、官報により生じ得る権利利益の侵害よりも広い範囲での権利利益の侵害を来しているというべきである。したがって、本件サイトにより、破産法等が想定している範囲を超えて破産者等の破産手続等に係る情報が提供されており、破産者等の権利利益の侵害が切迫しているといえる」と判断している。そもそも、この裁判は個人情報保護委員会の命令の適法性が争点であって、官報で破産者情報を公示することの是非を判断するものではない。その上で、裁判所はむしろ官報の破産者情報の公示は、破産法の趣旨に従う、適法なものと追認したように読める。裁判所は、官報にも個人情報保護委員会にも責任が及ばないように結論有りきで判断をしたのではないだろうか。

特に筆者が注目したのは、個人情報保護法が報道を規制対象から除外している点に関する裁判所の判断だ。

裁判所は破産者情報通知サービスについて「本件サイトは、利用者が提供又は通知を希望する特定の情報のみを、個々の検索又は登録により提供するというものであるから、個別の情報伝達の機能に特化したものであり、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせるものに該当するとはいえない」と判断している。これはいかにも苦しい。裁判所が何を言っているのかよく分からないと感じた読者が多いと思うが、実のところ筆者も同感である。

信じられないかも知れないが、個人情報保護法の報道の規制対象からの除外は、平たく言えば「こっそり個人情報を提供することは規制対象だが、堂々と個人情報をばらまくなら報道なので規制対象ではない」というものである。裁判所もそう解釈するしかなく、破産者情報通知サービスはまさにこれに該当するのではないかと思われるところ、国側を勝たせるために裁判官は「ちょっと何を言っているのかよく分からない」ことを書かざるを得なかった印象である。

裁判所の判断を文字通り受け取るのであれば、検索機能もなくただ情報をばらまいていた「モンスターマップ」なら規制対象外と言えることになってしまうだろう。昨今の個人情報保護やプライバシーに関する裁判所の判断全般に言えることだが、とてもこの判決に規範性があって実効性があるようには見えない。

情報の公示と 報道と、個人情報保護の関係は 最大のタブーでは?

「破産者情報通知サービス」に関する動きと並行して、最初の破産者マップと同様に、破産者の情報をマッピングした「新・破産者マップ」が登場した。「新・破産者マップ」は身元を隠して運営されており、遠藤氏は関与を否定している。実際、「新・破産者マップ」のやり方は初代破産者マップから「破産者情報通知サービス」に至るまでの遠藤氏の「やり口」とは明らかに一線を画しているように見える。

「新・破産者マップ」は個人情報保護委員会から停止命令のみならず刑事告発も無視し、現在でも新たな破産者情報を掲載し続けている。しかも、掲載情報を削除する対価として暗号資産を要求している。筆者の経験上、実際に削除のために暗号資産を支払っている者は少なくないであろう。筆者が検証したところでも、ここ数ヶ月でピンがいくつか減っている。

外国から運営していることを標榜しているが、昨今の広域強盗の例からも分かる通り、それが事実であるということは十分にあり得る。破産者情報の公示については各国のルールはまちまちであり、その情報を規制する国際的な枠組みはない。国際条約のある著作権や、詐欺や強盗などの破廉恥罪と違って、この件については国外の行為を摘発することは極めて難しい。

「破産者情報通知サービス」に関する判決を報じたのがネットニュースでは時事通信以外にないということは、判決の実効性があまりなく、国もメディアもこの件にあまり注目されて欲しくないというのが本音ではないだろうか。

政府がIT化を推進するにつれて、公示される情報と個人情報保護との矛盾が顕著になっている。それを象徴するような出来事として、昨年は企業などの登記情報に関する問題があった。

2022年2月15日に、法務省はインターネットの登記情報提供サービスについて、企業の代表者の住所を掲載することを同年9月1日から止めると発表した。

ところが、反対意見が多かったために、8月になって一転してその方針を撤回した。省庁が一度決めた事柄を土壇場で撤回するというのは極めて異例なのだが、この件はあまり大きく報道されていない。

個人情報保護と言えば「人権問題」として弁護士等が非常にヒステリックな反応を示す一方で、公示される情報の背景にはまた別の大変な利権が控えている。破産者情報にしても、登記情報にしても、金融や不動産をはじめとする、企業の営業活動全般に活用されており、それらはもはや壊すことはできない巨大な市場になっていると考えられる。

また、個人情報保護法の規制対象から報道が除外されていることも、個人情報保護の規制が強まれば強まるほど、逆に報道機関にとっては極めて大きな利権なっているのだが、あまり触れられることがない。

官報による破産者の公示という根本部分に手を加えない限り、「破産者マップ」問題に対する実効性のある解決方法はあり得ない。しかし、政治家も官僚も「個人情報保護 VS 巨大利権」という虎の尾を踏みたくないことから、今後も官報による破産者の公示は現状維持のままで、国はこの問題になるべく注目されないようにするものと筆者は予想する。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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破産者情報サイト 裁判所が国の停止命令を適法と判決 サイト側は控訴へ」への5件のフィードバック

  1. 匿名

    ちょっとごっちゃにしてる感があるのですが、官報に出てくる情報はインフォメーションで、破産者マップはそのインフォメーションを収集、分析して破産者の情報(インテリジェンス)として配布してますよね。

    まあ経営が苦しくなった新聞社が破産者マップを運営することはないと思いますが。
    #f857347230aa04caa579b8288c2c414c

    返信
    1. 宮部 龍彦 投稿作成者

      スマホで数GBの動画データを扱える時代に
      画像でも数十MB、テキストにすれば数MBのデータを
      インフォーメーションとインテリジェンスに分けて議論する意味がないです
      オープンリールの磁気テープをぐるぐる回していた時代じゃないんですから

      返信
  2. 匿名

    地元の新聞社では個人情報保護法ができるまで大学の合格者名を堂々と載せてましたね。どこから情報が来てたのか・・・

    返信
    1. 匿名

      永久に名前が保存されているわけです。縮刷版が図書館にあるわけですからネットじゃなくてもわかるわけですよね

      返信
    2. 宮部 龍彦 投稿作成者

      昔は堂々とメディアに提供されてたと思いますよ
      名前が張り出されてましたし

      返信