退陣論が高まる中で石破首相は「続投」の方針を貫く。ところが今月8日の自民党両院議員総会で臨時総裁選開催について党所属国会議員と都道府県代表に意思確認すると決定された。執行部は総裁選を避けたいが、有村治子両院議員総会長の一言で潮目が変わったのだ。また総会前には保守派議員らが独自に意見書を作成して石破降ろしに奔走した。
有村治子会長が総会の空気を変えた
党所属議員295人のうち253人が出席した8日の自民党両院議員総会。石破首相に退陣を求めるムードはあるが、石破首相以下、執行部からは総裁選や進退についての発言が出ない。だが場は急変。
山下雄平参院議員のブログ(8月8日)によると有村治子両院議員総会長が
「党則上、総裁選の前倒しは両院総会には決める権限がない。党則では総裁選管理委員会に対して党所属の国会議員と47都道府県の代表の総数の過半数の要求があれば臨時の総裁選を行うとされている。この規定はこれまで使われたことはないが、両院議員総会の総意として総裁選を行うかどうかを総裁選管理委員会に委ね、次のステージに進むことでいいか」
と党則に定められた臨時総裁選を開催する手続きを提起した。同総会会長の発言だから重い。
「およそ8割が臨時総裁選を行うべきという意見でまとまった」(出席議員)
ここで言う党則とは6条4項のこと。事実上の総裁リコールといった制度だ。条文にはこうある。
総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う
自民党史の中でも異例の臨時総裁選が起こされるぐらいならば、石破首相は自ら辞任した方がまだ名誉が守られるだろう。仮に開催された場合、自身も立候補するかそれとも辞任を選ぶか。
逢沢一郎総裁選管理委員長への意見書
総会当日まで水面下ではせめぎ合いがあった。直近の動向を振り返ってみよう。
先月末、都内で著名記者らと会食をした石破首相は次の役員人事について問われたところ
「私の首がつながっていればね(決められる)」
と明言を避けたという。また政府・与党が掲げる「一律2万円」の給付金の進行状況に対しても、曖昧な態度でかわしたそうだ。昨年の衆院選、都議選、そして参院選と3連敗した石破首相が続投する根拠はどこにあるのか。
もちろん森山裕幹事長の存在が大きい。森山幹事長は周囲に「首根っこをつかんででも政権を維持させる」と強気な姿勢だったという。また読売新聞、FNNといった保守系メディアの世論調査で続投を望む声が多かったことも判断材料になったかもしれない。
一方、この間、保守派議員や支援団体が石破降ろしに向けて動き始めた。


7月末から保守系、旧清和会系、支援団体関係者が逢沢一郎総裁選管理委員長への意見書をまとめて提出を促した。
参議院選挙の結果を受け、国民から示された民意に沿った政権運営を行うべく、結党70年を前に、自由民主党がその存在自体を賭して徹底した自己改革を断行すべきと考え、党則6条4項に基づく総裁選挙を早期に実施することを要求する。
両院総会で提案された党則6条4項の〝総裁リコール〟とそのスキームが説明された意見書だ。
ある政治記者は「国対幹部は文書の存在自体を把握していました。先週月曜日頃(4日)、どの派の誰が書いた文書なのか調べていたようです」と話す。
一部の県連に取材してみると「意見書の存在は知っていたが大っぴらには動いていません。今、解散総選挙をしても参政党に負けるでしょう。正直なところ石破政権が存続してほしい」と本音も垣間見えた。
意外や辞任を求める声は広まっていないようだ。ただそれは石破首相への信任というより、続投の方が「保身」になるからだろう。
臨時総裁選の意見書はどの程度、各県連に共有されたのか不明だ。また自民党執行部も高を括った様子が伺えた。
一方で、当の森山幹事長は先月28日の議員懇談会で辞任を示唆。厳しい立場に立たされた。
とはいえ各県連で意見書提出、署名集めという正面作戦が成功したとは言い難い。そこで「森山幹事長の進退問題に便乗して執行部内部の不信感や離反を促してもいいのではないか」(保守系議員)という揺さぶり戦法も検討されていた。
本来は石破首相が自ら身を処せばいいだけの話。長年の冷や飯食いの時代は身に染みているだけに辞任は政治生命がかかっている。ところが両院議員総会も巧みに切り抜けるつもりが、有村氏の一声によって臨時総裁選への道筋が立ったのだ。
「1時間ほどもやもやした雰囲気が続く中で、有村会長が絶妙のタイミングで臨時総裁選を持ち出したのです」(前出出席議員)
鈴木宗男氏が吠えたが…
SNSでは有村氏の提起に対して称賛の声が殺到している。
また総会でも石破首相擁護の声はほとんど聞かれなかったという。石破擁護の主戦派はあのお騒がせ議員だった。
「総裁選前倒しを求める声が大半の中で鈴木宗男参院議員だけが〝そんなものは必要ない〟と吠えていましたが、周囲はどっちらけといった反応でした。新人の福田かおる衆院議員が〝総理の考えを聞きたい〟と発言したところ、石破さんは関税問題や農業についての話をダラダラと話していました。新人の問いかけに対して総裁らしい振る舞いをすれば印象は違ったでしょうね」(前同)
苦しい石破首相だが、政権維持のための窮余の一策として日本維新の会との連立も囁かれている。だが「新たに選出された藤田文武共同代表は石破首相、森山幹事長の携帯電話の番号を知らない(人脈がないという意味)。むしろ馬場伸幸元代表が約18人の議員を連れて自民に移籍する可能性の方が高いです」(維新議員)
維新との連立で延命策というのも考えにくいようだ。
同時に自民党の「下野論」という奥の手も党有力者の間で囁かれ始めた。下野論については石破擁護派・辞任要求派双方の議員が視野に入れているというが、これは有権者を甘く見た考えではないだろうか。
「野党に政権を譲れば結局は運営できなくて〝やがて自民に戻ってくるだろう〟という考え方ですね。しかしあまりに虫がいいし〝おごり〟ではないでしょうか。また先の参院選でも公明党の議員が続々と落選していきました。公明党がいつまでも自民と歩調を合わせるとは限りません」(前出政治記者)
石破首相はあくまで続投の意思だが、臨時総裁選の開催はあまりに不名誉だ。もし開催された場合は擁護する議員がどれだけいることか。もっとも野党支持者や左翼活動家だけは「石破辞めるな」とプラカードを掲げて応援してくれるだろうが…。
