イロハ社・新原光晴氏が山県市でもトラブルになっていた! 2023年、新原氏は山県市観光協会関係者に「自分はジブリ作品の上映権を持つ」と持ちかけた映画祭が大失敗。地元関係者に損害を与えた。しかも不可解なことに同映画祭は後に『名もなき池』を公開した「洲本オリオン」(兵庫県洲本市)がジブリ作品の使用を仲介していたのだ(写真は豊岡市内のイロハショップ店内)
関市の隣、山県市で新原氏が映画祭を持ちかけた
【関市】映画『名もなき池』騒動 当初キャストは新東名事故〝お騒がせ芸能人〟の広末涼子だった!
【関市】映画『名もなき池』騒動② 撮影現場は監督交代とセクハラで混乱 市とイロハ社の癒着疑惑も!
【映画『名もなき池』騒動③】 関市と新原氏の癒着を暴く 観光案内所タダ貸し&約400万円随契の闇
【映画『名もなき池』騒動④】板取川観光案内所で新原光晴氏を直撃!「何もお話できません」
シン・ベートーヴェンの異名を名乗る新原光晴氏はクラシックの造詣が深いという。またスタジオジブリ作品のマニアで「語りだすと止まらない」(知人)なのだそうだ。
イロハ社は豊岡市城崎町でジブリグッズや和小物の販売店を経営しており、新原氏がジブリ作品に精通したとしても不思議ではない。問題は新原氏がかねてから「スタジオジブリと人脈がある」と周辺に吹聴してきたことだ。
もちろんそのような人脈があるわけもない。そして過去、新原氏はスタジオジブリをめぐり怪し気な行動をとっていた。
『名もなき池』騒動の取材の最中、山県市でも新原氏がトラブルを起こしていたという情報を得た。最初は同市内の〝デカ盛り〟で有名な『みのや食堂』のことだと予想した。映画『名もなき池』の劇中でも登場する飲食店だ。
新原氏ら撮影クルーが飲食をした後、支払いで揉め新原氏が「請求は関市に」と食い逃げまがいの行為を行った件である。これについては地元ニュース番組でも報じられた。しかしみのや食堂とは別件だという。
それは2023年4月29、30日、花咲ホール(山県市洞田)で開催された「ハタチの山県市記念事業ジブリ特別上映映画祭」のことだ。
イロハ社が初めて関市映像作品撮影事業補助金を申請したのが同年5月18日。つまり山県映画祭は『名もなき池』騒動が始まる約半月前の出来事である。
補足すると山県市は2003年に旧山県郡の高富町、伊自良村、美山町が合併して発足。市政20周年を記念するイベントであった。


後に新原氏から損害を被ったという山県ジブリ映画祭実行委員会の関係者A氏はこう振り返る。
「私はとある飲食店を経営していますが、2022年12月末に突然、新原氏が店を訪ねてきました。〝私は映像プロデューサーですが、スタジオジブリの『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ゲド戦記』の上映権を借りているので映画祭をやりませんか。通常だと上映できないが4本まとめて権利を持っています〟と新原氏は提案してきました」
当初、A氏はその提案に魅力を感じたという。同氏はかねてから地域振興に熱心な人物。市政20周年で、観光協会としてもイベントや行事を開催したい思いはあったという。
訪問販売のように突然、訪れて「プロデュース」という空虚な売り込みを成功させてしまうのが凄い。実はこのような突然の売り込みが『名もなき池』の主役・伊達直斗氏との接点になるが、それは後日のレポートに譲る。
また同年7月には、宮崎駿監督の長編作だと『風立ちぬ』(2013年)以来、10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』の公開を控える。映画祭は同作の記念イベントも兼ねており、4作品の上映の合間に新作のプロモーション映像を挟むという計画だ。
A氏らにとっては全く不慣れなイベントだったが新原氏がポスターを制作し、自身のSNSでチケットを販売できるという。そこでA氏らは「山県ジブリ映画祭実行委員会」を結成し準備を始めた。
まずA氏は同市学校教育課に市の後援行事としての開催を相談してみた。ところが市側は「年度末で予算がない。後援もできない」と却下。しかし市からの予算はないが、同市観光協会から10万円の補助金が降りた。
市関係者によれば「年度末が理由というよりも単純に市側は地域振興や観光政策について後手なんですよ」と不満気だ。「山県は明智光秀の生誕地(*一説)とされており、光秀の墓もあります。明智光秀の生涯を描いたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2020年)の放送時はPRのチャンスでした。その末裔一族が〝自分たちで墓を守りたい〟という方針もあって地域振興には結びつきません」(同)
観光資源はないし、SNSユーザーを歓喜させる〝映え〟要素もない。そんな山県市にスタジオジブリが来る――。実現できれば大きなイベントになるだろうと地元関係者は思った。加えて新原氏が打ち出す計画は随分と華々しいものだから期待も膨らむというものだ。
新原氏「鈴木敏夫代表取締役とトークショーもできる」
「新原氏の計画は2023年4月29、30日の両日で上映を4回行うということでした。新原氏は〝自分は鈴木敏夫氏(代表取締役議長)と懇意にしておりトークショーもできます。しかもジブリファンの芸能人も呼ぶから合計で2千人は入りますよ〟と言っていました」(A氏)
ジブリファンならずとも鈴木敏夫氏の名はご存知だろう。宮崎駿監督、故・高畑勲監督と並ぶスタジオジブリの象徴的存在であり、アニメ業界の大物である。鈴木氏が山県市でトークショーを行うということはそれ自体が大イベントであり、ニュースバリューも高い。
それならば市外からもジブリファンや報道陣が集まったに違いない。1作品の視聴チケットが1枚2千円。2日間で2千人ならば単純計算で400万円の収益が見込める。A氏によれば「新原氏からは上映料が1作品30万円と説明された」というから4作品×30=120万円としても280万円が残る。その他、諸経費を引いても黒字になるというのが当初の予想だった。

だが、鈴木氏が来るはずもない。代わってジブリに詳しいユーチューバー・タレントの太田唯氏を呼びトークショーを開いた。太田氏は『名もなき池』に出演した俳優の一人である。
同氏には失礼だが鈴木氏のインパクトには遠く及ばない。この辺りは『名もなき池』のキャスティングとも酷似する。当初、新原氏は有名俳優の名を挙げ審査で関市から高評価を受けた。
だが最終的に俳優を集められず、主役の伊達氏にキャストを丸投げすることになる。人脈で大風呂敷を広げるのは『名もなき池』でも見られた現象だ。
それでも地元関係者のモチベーションは高い。会場の「山県市文化の里花咲きホール」前にはキッチンカーイベントも併設。A氏も自ら出店し腕を振るった。
だが当初、新原氏が見込んだ来場者2千人を大きく下回ったのだ。時代はサブスク全盛。『君たちはどう生きるか』の記念イベントを兼ねているとは言え、2千円を払って旧作を観に行くのはかなりハードルが高い。
「結局、2日間で来場者は合計370人。もちろん大赤字ですよ。『ゲド戦記』に至っては15人ぐらいの客入りでしたね。施設費が16万円ですが観光協会からの補助もあったので残りの諸経費は自費で支払いました」(A氏)
A氏ら地元有志はもともと収益狙いではなく、地域振興が目的だ。少々の負担は覚悟したが、あまりに新原氏の話と違う。さらに驚くのは後日のこと。
「イロハスタンダードから約170万円の請求書が届いたのです。またゲストとスタッフの宿泊費も請求されましたが、それは断りました」(A氏)
現在でもSNS上には映画祭の様子の一部が残っている。盛り上がらなかったどころかむしろ地元住民を傷つけた結果に過ぎない。それから数年後に関市でトラブルを起こすとは山県市関係者も予想だにしなかったことだろう。
ジブリ社「新原氏と商取引、交流はありません」
「どうあれ映画祭は開催されたわけですから、文句は言えません。損失の分は一生懸命働いて取り戻してますよ」とA氏は前向きだ。確かに実際にジブリ映画は上映され成功か否かはともかく一応、映画祭としての体裁は保ったのだ。しかし腑に落ちない。
「新原氏がスタジオジブリから上映権を任されている」といった話は真実なのだろうか。不発だったとは言え映画祭自体は行われた。スタジオジブリに無断で上映したとすれば著作権法違反だ。ということは何らかの「許諾」があったと見る他ない。
そこでスタジオジブリ広報部に書面で確認したところ意外な事実が判明した。
ースタジオジブリ様はイロハスタンダードまたは新原光晴氏にジブリ作品の上映権を認めましたか?
当該映画祭において、スタジオジブリが上映権を許諾していたのは、株式会社兵庫県映画センターでした。同社は、劇場以外の上映(学校やイベントでの上映など)について、永くジブリ映画の上映を扱っていた会社です。なお、2023年に契約は終了し、それ以降契約関係はありません。イロハスタンダードまたは新原光晴氏に対して、スタジオジブリから上映権を付与したことはありません。
ー新原氏は鈴木代表取締役議長と懇意にしているのでトークショーができると提案したそうです。そうしたオファーはありましたか。
そのような事実はありません。
ースタジオジブリ様が新原光晴なる個人に特定の権限を付与するとはどうしても思えません。実際に御社はこの新原氏と商取引、交流があるのかお教えください。
スタジオジブリは、グッズ類の企画・製作・販売を行う業者に対して、ジブリグッズのライセンスを付与しています。その業者のうちの一社が「ベネリック株式会社」です。イロハスタンダードは同社の取引先であり、卸売りと小売りとの関係になります。従って、イロハスタンダードまたは新原光晴氏とスタジオジブリとの間には、商取引、交流はありません。
スタジオジブリ側は新原氏、イロハ社との関係を完全に否定した。関係どころかイロハ社はジブリグッズを扱う小売店の一社に過ぎないのだ。また映画祭も上映権が認められたのは「(株)兵庫県映画センター」であって、新原氏とイロハ社ではない。兵庫県映画センターのWebサイトを見ると株主にはスタジオジブリと二馬力(宮崎氏の個人事務所。2016年にスタジオジブリに吸収合併)が名を連ねる。
同センターとスタジオジブリが関係していたことは理解できた。では新原氏と兵庫県映画センターはどのような関係なのか?

兵庫県映画センターが上映権を保有していることを新原氏が山県市関係者に説明していればまだ納得もいく。しかしA氏に確認したところ「(兵庫県映画センターは)全く知りません。聞いたこともありません。新原氏が上映権を持つと聞かされただけです」と話す。
新原氏はあくまで自身が「上映権を持つ」という前提でA氏らに話を持ちかけたことの証左だろう。これだけでも〝騙り〟と言うに十分ではないか。しかし不可解な話はまだ続く。
洲本オリオン支配人が新原氏と兵庫県映画センターを仲介

主催者ですらジブリ上映の経緯を全く聞かされない不思議なイベントだ。本来は上映権を持ったのは兵庫県映画センターであって新原氏ではない。しかし主催者は同センターの存在すら知らないのは複雑怪奇である。
映画祭の関係人物が首を傾げる中、当時を知る新原氏の知人はこう明かす。
「山県市の映画祭は兵庫県映画センターが直接、関与した訳ではありません。私は『洲本オリオン』(兵庫県洲本市)の野口仁支配人が同センターからフィルムを借りて、洲本オリオン経由で新原氏が上映したと聞きましたよ」
〝洲本オリオン〟の名を聞いてただ驚くしかなかった。3月28日、『名もなき池』を最初に公開した映画館だ。同作を公開した数少ない映画館である。また野口氏とは新原氏の協力者と聞いていた。
まず兵庫県映画センターに事実関係を確認すると新原氏との関係を否定した。
「確かに洲本オリオンの野口さんからスタジオジブリ作品を上映するということでお申し出がありました。しかし新原光晴氏という人には心当たりはありません。上映料も支払ってもらっているのでこちらは特に問題はありません」
洲本オリオンの野口氏が関係していたことははっきりした。ただし構図としては〝又貸し〟ということになる。ジブリとの契約上は問題ないのだろうか。
洲本オリオンの野口支配人に映画祭のいきさつを聞いた。
ー2023年の山県市記念事業ジブリ特別上映映画祭で新原氏は「自分がジブリ作品の上映権を持っている」と地元の関係者に持ちかけました。野口さんはこのことをご存知でしたか。
取材ということでしたらお話できません。
「取材」以外であるならば真相を語ってもらえるのだろうか。さらに山県映画祭とは別に洲本オリオンには肝心な問題が残っている。
まずここで補足をしておかなければならない。イロハ社側は会計報告で映画製作に関わる請求書を市に提出した。だが中には偽造された請求書があるというのだ。
例えば撮影で主要的な役割を果たした大阪市内のB制作会社はイロハ社から約280万円を支払われた。ところがイロハ側は約800万円の請求書として市に提出していた。経費の水増しということだ。補助金返還どころか刑事事件にも発展しかねない。実は洲本オリオンにもその疑惑が向けられているという。
ーでは『名もなき池』についてお尋ねします。洲本オリオンさんにはイロハ社へ架空の請求書を送ったという疑惑があります。このことは事実ですか?
関市に対してすでに回答しています。また取材ということでしたらお話できません。
一方、当の新原氏は代理人を通じて「私がジブリ映画を紹介できると伝えましたが、どんな話をしたのか正確な記憶がありません。野口氏が上映権を保有していると思っていました」と説明した。だがこれもおかしい。なぜなら繰り返すが地元実行委員会は「兵庫県映画センター」「洲本オリオン」のどちらも聞かされていない。あくまで新原氏が上映権を持つという前提で開催したものだ。
ここは映画祭のみならず『名もなき池』騒動にも連なる重要な問題だ。洲本オリオンは山県映画祭も新原氏に協力した上、映倫審査を受けていない自主製作以下の映画を上映させた。両者は単に映画製作者‐映画館だけの関係とは思えないのだ。しかも『名もなき池』騒動における核心部分と言うべき架空の請求書疑惑でも洲本オリオンは名が挙がった。
では洲本オリオン側は何らかの回答を関市に提出したのだろうか? 関市観光課に請求書に関する説明を求めた上で、情報公開請求は可能か確認した。
「今後の法的対応を含めて協議中です。市の方針もありますので、現時点では公開は難しいかもしれません」
洲本オリオンからの説明の有無だけでも確認したかったが「現時点ではお答えできません」(観光課)とした。市が回答を保留したのはやはり法的措置を視野に入れてのことだろう。現に今月7日、関市議会臨時会で関市は「刑事、民事裁判の両方を想定して弁護士と相談中」と説明した。請求書問題については緊迫した問題のようだ。
本来は山県ジブリ映画祭実行委員会を取材するはずが、思わぬところで『名もなき池』との接点を発見できた。繰り返すが新原氏にジブリ映画を仲介した洲本オリオンが『名もなき池』を公開というのはただならぬ関係とみる他ない。
当の新原氏は代理人を通じて「私は山県市民の方にジブリ映画を紹介できると伝えましたが、具体的にどんな話をしたのか正確な記憶がありません。洲本オリオンの野口氏が上映権を所有していると思っていました。野口氏との関係は以前、映画の上映で協力してもらい知り合いました」と説明した。
しかし新原氏が映画祭関係者に野口氏らの存在を説明した痕跡はなく〝詭弁〟としか思えない。今後、新原氏が自らが広げた大風呂敷の後始末に苦慮することだろう。