岐阜県関市の「関市映像作品撮影事業補助金」を受け「IROHA STANDARD」が製作した映画『名もなき池』をめぐる騒動。本作は市が提示した条件を満たしていないため市側は同社へ補助金2千万円の返還を請求する一方、同社側は拒否の構えだ。そこで関連資料を検証してみると「補助金狙い」ではないかと勘繰りたくなる。
ネットでバズった観光地の代表例

山梨県富士吉田市の中心商店街「本町通り」富士河口湖町の「富士山ローソン」などSNSなどで話題になった写真映えスポットは全国各地に点在する。伝統的な景勝地ではなくネットで〝バズった〟ことをきっかけに観光地化したものだ。
関市板取(旧武儀郡板取村)にある通称〝モネの池〟こと「名もなき池」はその代表例だろう。根道神社参道脇の灌漑用の池だったが、地域住民がスイレンを植え環境整備した。すると2015年頃から池の風景がSNS上でフランスの画家、クロード・モネ(印象派を代表する画家)の『睡蓮』に似て美しいと話題になった。写真はネット上で拡散され一躍、人気スポット。現在ではバスツアーまで企画されるほどだ。
本来は限界集落といってもいいこの地域に「モネの池前」というバス停留所ができた。次々にバス路線が廃止される中で異例。まさに〝名もなき池効果〟というものだろう。当初、観光とは全く無縁のこの地域に人が一斉に押し寄せた。このため駐車場、トイレ、来訪者のマナーが問題化したが現在は解消されたようだ。
ネット発観光地の悲喜こもごもといったところだろう。その「名もなき池」をめぐり今、騒動が起きているのをご存知だろうか。

刃物の町、関市がロケツーリズムを狙って映画製作補助金
関市といえば通常、刃物の町として知られている。ゲーム好きならば『刀剣乱舞』に孫六兼元(関の孫六)が登場するのをご存知だろう。室町後期にこの地で活躍した刀の名工だ。ただお世辞にも観光資源に恵まれた町でもないし、かつては活況だった「本町通商店街」も今はシャッター通り。そこで地域振興と観光客誘致を目指して市は2023年、「関市映像作品撮影事業補助金」を創設。関市を舞台にした映画を製作する団体へ補助金を出し支援することになった。
2023年6月2日、関市映像作品撮影事業審査会を開始。山下清司(現)市長が副市長時代に審査会委員長を務めて選考した結果、株式会社IROHASTANDARD、株式会社ファニーパンドラが選ばれた。株式会社IROHASTANDARDが騒動の渦中の会社である。
池付近の「板取川流域観光案内所SEKIMORI」や「いろは 風のとおり道」を経営している。


そして同年6月30日に株式会社IROHASTANDARDは同補助金1千万円(交付1期目)を交付された。これにより同社は映画製作に入るのだが、最初の案は『名もなき池』ではなく『はもん』というタイトルだった。


製作サイドは企画意図をこう綴っている。
関市は世界三大刃物の街として刃物産業を支えています。かつては刀鍛冶の名産地として栄えましたが、現代ではその伝統が失われつつあります。この映画を通じて、昔ながらの鍛冶技術や伝統的な製法を持つ刀鍛冶の姿を描き、その技術のすばらしさと魅力を伝えます。そして、映画を通じて関市で有名スポットとなっている名もなき池(モネの池)を含め、それ以外にも伝えるべき美しい風景や伝統文化、職人達の情熱を魅力的に表現し、困難に直面する主人公達の心情に寄り添うことで観客の共感と関心を喚起します。これにより、映画を観た人々が実際に関市を訪れ、地域経済の活性化につながることを期待しています。(原文ママ)
監督・脚本は恵水流生氏。同社が市に提出した作品資料に添付されたあらすじを拾ってみよう。
経済的にも後継者問題でも悩む刀鍛冶の壱の元へ元同僚の篠田が買い手の斡旋に来るが断る。娘との確執も広がったときに弟子になりたいという寡黙な少年が現れる。壱は最初は断るが、少年の熱意と忍耐強さに弟子になることを許し、少年を信頼するようになる。しかし少年にはある秘密があった。少年が過去に起こした事件が町に知れ渡るようになり、壱の家族も窮地に立たされる。壱自身も過去に妻が亡くなったことがトラウマとなり人間不信となっていたため、少年を信じきれず破門とする。モネの池の波紋を見つめる少年。人を信じれないが信じたい心の葛藤がある壱。美しい刃文を目指して一心不乱に槌を打つ。鍛錬される玉鋼はまるで壱そのもののよう。そんな中、壱の師匠である茂が訪ねてくる。
果たして彼は人を信じる心を取り戻すことができるのか。(原文ママ)
はもんとは「波紋」「破門」「刃文」を意味するのだそうだ。本作の雑さや製作サイドの胡散臭さなどはとりあえず脇においてこのストーリーから何か伝わるものがあるだろうか。
弟子を「破門」、モネの池の「波紋」、刀の模様を意味する「刃文」、だからタイトルが「はもん」。非常に安直である。「関市に関係したワードを見つけてね」といった観光客用のガイドマップのようだ。
驚くのは「はもん」ではプロデューサー、「名もなき池」では監督になる渦中の人物、新原光晴氏の実績が乏しいことだ。略歴に各種ドラマのプロデュースとあるが、その痕跡が見えない。よく選考されたものだ。通常、自治体の事業は大手広告代理店、有名建築家など大手、ブランド頼みになりがちだ。ところが素性の知れない会社を選んだのは公平で意欲的なのかそれとも目が節穴なのか。
ロケツーリズムや芸能活動を通した地域振興は全国各地で行われるものだ。この分野では昨今、吉本興業が力を伸ばしており時には自治体との癒着といった反発を招くこともある。しかしIROHASTANDARDのようなトラブルは自治体にとって避けたいものだ。その点、吉本興業のような所属タレント、業績、会社規模いずれも秀でた団体は自治体にすれば確実で安心なのだろう。

そしてさらに驚いたのは当初、予定されていたキャストである。

企画書に掲載された主演には永瀬正敏、柄本明、渋川清彦といった一線級の俳優が並ぶ。さらにキャスト候補として市に提出されたリストは興味深い。なんと広末涼子氏も候補に挙がっていた。広末氏は今月8日、静岡県内の新東名高速道路で事故を起こし搬送先の病院で女性看護師への暴行で逮捕。サービスエリアでは「広末でーす」と他利用者に声をかけるなどの奇行も衝撃ニュースだ。
仮に本作に出演した場合、広末氏は2つの騒動の渦中にあったかもしれない。
メンバーをみるとローカル作品ではなく地上波ドラマでも遜色ない顔ぶれ。しかし「キャストスケジュール都合により変更になる場合がございます」との但し書きは後の予防線といえる。その通り、失礼ながら「名もなき池」では知名度が劣るキャストになった。また監督も恵水流生氏から新原氏に交代することになる。

これもおかしい。「候補」といっても企画書に永瀬正敏、柄本明、広末涼子、宮崎美子、前田敦子といった知名度がある俳優が並ぶ。提案を受けた関市としても期待したことだろう。だが2024年10月4日、IROHA STANDARD側から「関市映像作品撮影事業補助金交付申請変更等承認申請書」が提出された。
そもそも新原氏に映画監督としての実績は乏しい。恵水監督は高名な大御所監督というわけではないが、気鋭の若手として作品作りを重ねてきた。恵水氏だからこそ選考で評価ポイントになったはずだ。関市映像作品撮影事業審査会での評価点を紹介しよう。文字潰れで読みにくいのはご容赦頂きたい。

下から2番目の「監督、スタッフ、キャスト等の実績、知識及びノウハウなどは十分であるか」という項目では審査員1人を除き10点。競合相手に10ポイント差をつけた。それも当初の監督・スタッフ・キャストが評価されたのである。変更となると最初の提案は役所へのPRのための〝見せ球〟と思われても仕方がないだろう。
後編は本命『名もなき池』のIROHASTANDARDと関市役所の攻防に迫る。
キャンドル屋は狙ったんでしょう。普通ろうそく店かな。
しかしキャンドルショップならまだしもキャンドル屋って違和感があるな。
今回の事件、有名芸能人が奈良まで車で行くなんて、そこまで落ちたと言う説と公共交通機関だとどんな騒ぎを起こすかわからないから乗せれない説とあるようですが。
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