当サイトも取材を続けた愛知県知事リコール署名偽造事件。今年4月、運動団体元事務局長の田中孝博氏に懲役2年執行猶予4年という幕引きだ。田中氏から真相が語られることはなかったが、一連の愛知維新の会の取材の中で維新サイドから見たリコール騒動の内情を示す資料を入手した。内部の混乱が伝わる内容だ。
愛知リコールの会 問題も浮上
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昨年から日本維新の会の地方議員が離党、除名が相次ぐ。表向きは「身を切る改革」(議員報酬からの寄付)の不履行だが実際は一部役員による排除の可能性を指摘した。
特に愛知維新の会の場合、週刊誌スキャンダルになった岬麻紀衆院議員のパワハラ問題対応は深刻だ。対応を求めた小村貴司北名古屋市議は「身を切る改革」不履行を口実に除名処分になった。事実上の不祥事隠しとしか思えないやり方で、だ。それでなくても、以前から同会は組織としての体を成していない。興味深いことに筆者もこれまで取材してきた「愛知リコールの会問題」が党運営に影響を与えていたのだ。
念のため補足する。2019年、「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で『遠近を抱えて PartII』(昭和天皇の肖像写真を燃やし、その灰を靴で踏みつける)や『平和の少女像』(従軍慰安婦がモチーフ)が反日的だと批判が殺到。大村秀章県知事に責任を求め「愛知100万人リコールの会」が結成され、2020年8月に署名活動を開始した。だが大規模な署名偽造が発覚して2021年5月19日、元事務局長の田中孝博氏が地方自治法違反で逮捕。今年4月に懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受けた。
田中氏は事務局長当時、日本維新の会衆院選愛知県5区の支部長という立場。結局、法廷でも田中氏は真相を語っていないが、自身の選挙のための実績作り、PR活動という証言や批判は今でも根強い。また愛知リコールの会騒動は愛知維新の会の内紛にも影響を及ぼした。
今回、愛知維新の会取材の中で愛知リコールの会との関係性を示す貴重な資料を発見したのだ。
維新側からみた 愛知リコールの会 の貴重資料
愛知維新の会草創期の元幹事長、常滑市では地域の名士、杉江秀一氏が今年2月に死去した。元愛知県議、音響会社の経営者、地元で人気の「煙突バンド」のメンバー。地域では名物男として親しまれた人物だ。愛知維新の会から離れた関係者から現在も信頼が厚い。
そして同時に杉江氏は愛知維新の会によって排除された一人でもある。2021年10月、愛知維新の会は山下幹雄幹事長名で「杉江秀一氏を除名、また副代表の元蟹江町議、安井興紹氏を離党勧告処分」とした。理由は杉江氏が政党助成金で飲食したこと、また安井氏の処分は杉江氏の行為を黙認していたという理由だ。安井氏はこう訴える。
「最初、私には離党勧告の理由として(ア)副代表在任中に多額の行方不明金を生じせしめたこと(イ)飲食、料飲、短期の人件費など内規に違反する出費をさせたこと(ウ)杉江元幹事長による利益造反行為、解散法人との契約など不法行為を見逃したこと、この点をあげて2020年6月9日に離党勧告決議通知書を送付してきました。では行方不明金とは何か、料飲とは何かと反論しましたが納得がいく説明はありません。結局、公式HP上では“杉江氏の行動を管理することなく黙認 ”が理由になっていました。ならば最初の(ア)~(ウ)までの理由は何だったのかといいたい」(安井氏)
詳細は別稿で解説するが処分は証拠の明示がなく、党紀委員会すら開かれなく問答無用の形で決定したもの。生前、杉江氏は“ 政党交付金の不正使用というのならば告発すればいい”と反論したが全く聞き入れられずに終わった。
そんな杉江氏が知人にあてたLINEや関係文書を入手した。そこには「愛知100万人リコールの会」に対する疑念が述べられており、維新側から見た貴重な証言といえよう。
「杉江さんの母は旧陸軍大将に奉公しており戦後も顕彰に当たった方でした。その影響から杉江さんも保守思想の持ち主。だからあいちトリエンナーレの表現の自由展は反対の立場。ただし政党色を出すな、政党とは切り離してやれ、という考え方でした」(画像提供者)
杉江氏が生前、知人にあてたLINEには愛知100万人リコールの会に関する記述がある。愛知維新の会としては田中氏に維新の支部長か、リコールの会事務局長かいずれかを選択すべきだったという考えだ。確かに当時、日本維新の会代表だった松井一郎大阪市長、吉村洋文大阪府知事もあいちトリエンナーレに対して不快感を示した。しかし現地の愛知維新の会が組織として参戦することも難色を示す声も少なくなかったという。
ある時期まで杉江氏は愛知維新の会のキーパーソンだった。というのもあいちトリエンナーレ当時、同会代表だった杉本和巳衆院議員と河村たかし名古屋市長は関係が薄く「杉江がパイプ役だった」(安井氏)という。松井一郎代表の意向を受けて「表現の不自由展・その後」に対して何らかの形で反対の意思を示さなければならない。「杉本氏は愛知関係者には高圧的ですが、大阪本部幹部に平身低頭。馬場伸幸現代表の秘書にも90度でお辞儀しています」(杉本氏知人)
また河村市長との関係を築くためにもとにかく愛知維新の会としての行動が必要だった。
そこで大村知事宛てに提出されたのが一部展示物の即刻中止を訴える要望書だ。杉本氏名で書かれている。公式文書で「愛知トリエンナーレ」という表記に意欲のなさを感じてしまう。とりあえず「伝えることは伝えた」という程度の内容ではないか。「突然、事情が分からない秘書に書かせたもので杉本氏のトップダウンで提出したものです」(安井氏)。
モチベーションが低い文書というのは「愛知トリエンナーレ」という呼称からも見てとれた。
2019年8月、杉本氏、リコールの会事務局幹部の山田豪元常滑市議、そして杉江氏は愛知美術館を訪れて同文書を手渡した。
なおこの写真を撮影したのは愛知維新の会現幹事長の山下幹雄尾張旭市議である。少なくともこの時点までは杉江氏は愛知維新の会役員メンバーと関係良好だったようだ。
やがて杉江氏は除名処分になるがその決定は杉本氏、山田氏が主導で行われたという。
「山田氏は杉江さんの支援で市議に当選したようなものです。しかし当選後も“ 活動報告を忘れるな”と杉江さんが後見人のようになったのを嫌がったのでしょう。当時、愛知維新の会は非議員でも役員になれる規約がありました。山田氏らからすると“現職でもない人に大きな顔をされたくない ”という考えだったと思います」(元愛知維新関係者)
2019年(令和元年)9月8日に山田氏の名で提案書が提出され愛知維新の会から現職議員ではない役員を辞任させることが提起された。しかし本来は提案書の説明会にも関わらずいきなり「辞任採決」。つまり結論ありきの会議である。
減税と維新の選挙とリコールが混在
現在、愛知維新の会の内紛についてレポートを続けているが結論からいえば同会と地域政党「減税日本」との混乱が発端である。ここに愛知リコールの会が絡むのでさらに複雑だ。
もともと2012年、減税日本は日本維新の会への合流を断念することになったが、その後も合流の打診→白紙が続く。このため愛知県内で減税と維新は極薄の協力体制という表現が妥当だろう。両党の関係を示すのがこの一枚。
中央に河村たかし名古屋市長、その右隣に田中氏。後ろに河村市長秘書。「不正使用を認めるな!」というプラカードを持つ女性が2019年に減税公認、維新推薦で参院選に出馬した奥田まり氏。左端に減税の島袋朝太郎愛知県議も。維新人脈と減税が混在している。プラカードの文言こそ語気は強いが内心は――。
「奥田氏はご主人(故人)の意向で立候補を決めたお人形のような存在。表現の不自由展が許せない、といった怒りではなく単にお世話になった河村氏の応援で来ただけ」(リコールの会元関係者)
当時、リコール活動に自民党関係者が加わらないことに不満を持つ人も多かったが愛知県議会では大村秀章県知事との協調路線ともう一つには「“ とにかく議員になりたい”が口癖で理念のない人物。田中が事務局長で成功するはずがない」(元自民市議)という思惑もあった。
筆者自身もあいちトリエンナーレに対する疑問が多いが万に一つでもリコール活動が成功するとは思わなかった。
では愛知県公認の反日展示物に対して抵抗する意地や心意気があったかといえばそうでもない。なにしろ当の事務局長が「(高須克弥院長のサポートで)宝くじに当たった」「不労所得(衆院愛知5区支部長で30万円が支給)が入るんだ」と小躍りしている状態。ここにいわゆる「保守文化人」が加わった結果が保守フェスティバルに陥ってしまう。
「選挙目的」「選挙の延長戦」と考える主要メンバーにすればフェスタ化した時点で目的を達成したともいえよう。リコールの会が選挙目的になった原因の一つに元関係者らは「政治コーディネーターの平野一夫氏の影響」で一致する。
署名集めが進められた頃、河村たかし事務所に常駐した平野氏は自身もリコール請求代表者という立場だ。名簿の管理に関わった一人である。令和2年分の小出(岬)麻紀氏の政治資金収支報告書によると「政策研究会活動コーディネイト費」として平野氏に20万円が支払われた。
岬麻紀現衆院議員が2019年参院選に出馬した際、杉江氏とともに選対委員長に加わった。先に杉江氏がバンド演奏する写真を掲載したが、参院選に出馬する岬麻紀氏の資金集めパーティーのことだ。これを企画したのが選対委員長の平野氏。そして同じく選対委員長の杉江氏が自身のバンドで余興をする。後に明確な説明がなく除名された杉江氏には同情の声が少なくないが、同時に“ お手盛り的”という指摘があったのも事実だ。
さらに「懇親会の会計報告が不明瞭のため岬氏が平野氏に激怒した」(前出元維新関係者)という顛末だ。その上で平野氏はリコールの会に関わっていくわけだが、同氏も「理念」というよりも河村市長との関係から関わったにすぎない。
当時、熱心に署名を集めたボランティアは気の毒である。一応、リコールの会という組織は作られたが残念ながら初めから魂が吹きこまれた組織ではなかったのだ。
「実はリコールの会には2億円近いカンパが集まったのです。もちろん田中氏がこのカネの管理を狙ったのは間違いありません。当初、河村市長にすり寄り、次に平野氏に接近し、資金が自由になると各氏を袖にしていきました。田中氏の振る舞いについては杉江氏の耳にも入ったことでしょう。LINEにはそんな不満が刻まれていますね」(前出元維新関係者)
まさにリコールの会には維新関係者たちの裏切りと欲望が詰まっていた。改めて愛知維新とは未熟な組織だったことを実感する。
それは田中氏逮捕を受けてNHKのインタビューに応じた当時の代表、杉本氏の談話にも表れている。
「田中氏は、ことし2月に離党しているし、愛知維新の会は、署名が始まる前の段階でリコール活動に組織として関わらないことを役員会で決めたので、維新とは関係のない個人の問題だ。ただ今回の逮捕については、同じ組織にいた者として極めて無念だ。今後は警察の捜査や司法の判断を注視していきたい」
つまり田中氏が離党したから愛知維新の会としては関知しないという方針だ。この対応について「矛盾する」と憤るのは先の安井氏。
「私は離党勧告処分が下される前に離党届を出して受理されています。ところが離党勧告処分の時にわざわざ『離党届受理』と併記されていました。離党しても追い打ち処分をするなら田中、山田両人も同じように処分を下すべきでしょう」
愛知リコールの会からもみえた愛知維新の会の混乱ぶり。そして安井氏、杉江氏を狙い撃ったかのような処分である。実はここにも「身を切る改革」問題が大きく影響され同時に愛知維新の会の闇が隠れているのだ。