保守フェスタ化した「愛知リコールの会」への疑問

By 三品純

昨年から「あいちトリエンナーレ」の運営や展示物、またその後の関係者の対応について当サイトは検証してきた。そして愛知県・大村秀章知事の責任問題も追及されるべきと考える。だから現在、活動中の愛知100万人リコールの会(お辞め下さい大村秀章愛知県知事 愛知100万人リコールの会)に対してもシンパシーは感じている。しかしどうも会の内情を見るに大村知事追及というよりも保守派のお祭り、日本維新の会の政治活動という側面を感じざるを得ない。リコールの会に対しては左派政党、活動家、マスコミによる包囲網が敷かれている中、揚げ足取りをされないようしてほしいものだが…。

高須院長、デヴィ夫人、著名人が多数

リコールは住民による直接請求の中で代表的な制度だ。問題がある首長や議会に対して住民が直接「ノー」を突きつけられ有権者にとって最後の武器。地方自治体のリコールで大きく報じられたのは鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長であろう。ブログ選挙や過激発言など発信力がある人物でリコールが起きた際も全国メディアで報じられた。

そして愛知県・大村知事へのリコールはまだ成立していないものの話題性があるのは同会主要メンバーにある。会長に高須クリニック・高須克弥院長、応援団長として名古屋市・河村たかし市長、賛同者に作家の百田尚樹氏、工学者の武田邦彦氏、竹田恒泰氏、ジャーナリストの有本香氏といった保守派に人気がある著名人が集まった。

逆にこのメンバーは左派から憎悪の対象でありリコールの署名活動が始まると“ イチャモン”がついた。その最たるものが映画評論家の町山智浩氏、精神科医・香山リカ氏、そしてそもそもの張本人、津田大介氏らが「大村秀章解職請求代表者証明書」をツイッター上で拡散したことだろう。要するにリコール賛同者の氏名・住所が書かれたリストだ。昨今、「個人情報を公開する」という行為が一種のペナルティーや脅し文句、圧力として使用されることがある。

町山氏、香山氏、津田氏らがネガティブキャンペーン的に拡散したのは明白だ。リコールに参加する市民を委縮させようとの魂胆が見て取れた。

なお弊社としてはWEBで公開されている証明書名簿を公開することが問題行為とは思わない。しかしもし左派が河村市長のリコール活動を始めたとして保守派の何某かが解職請求代表者証明書を拡散した場合、下手をすれば職を追われるほど激しく糾弾されるだろう。

またリコール活動に対するカウンター集会が開催された他、今月20日は署名活動をしていた男性に暴行を加えたとして名古屋市北区の会社員が逮捕された(23日に釈放)。「表現の自由を守れ」とリコール側を批判しつつ、リコールという政治活動を妨害、抗議するというのは筋違いではないか。こうしたアンチの行動という点からしてもリコールの会にシンパシーを感じている。だが同時に問題点も指摘せざるを得ない。

署名集めハードルの高さに厭戦感!?

通常、リコールの署名は請求代表者、その委任を受けた受任者によって集められる。例えば愛知県の場合、請求代表者は同県民ならば居住地はどこでも構わない。しかし受任者の場合、同じ市区町村内の住民の署名に限られる。大村知事リコールには約86万人もの莫大な数の署名が必要だが、これを限られた請求代表者と受任者で集めるのは並大抵のことではない。ここが保守派の悩ましいところ。

労働組合などが絡む左派の署名ならば労組事務所や自治労働センターなど活動拠点もある上、専従的に活動できる実働部隊も組織できる。例えば平日昼間にデモや裁判支援、街宣活動ができている点からしても環境的に有利だ。労組、特定団体の活動家でなくとも、一声かければどこからともなく“世捨て人 ”のような人物がやってきて血眼になって活動する。

加えて労組十八番のいわゆる「1人5人ルール」(1人の活動家が5人以上の協力者を集めること。選挙などでも使われる)もあり戦闘力、波及力は高い。

それに比して保守派の場合、こういった根拠地、運動員を確保するのは難しい。名古屋市内で署名活動に関わった男性はため息をつく。

「街宣をやって署名集めをしたとしても同じ区の住民とは限りません。各選挙管理委員会ごとの範囲でしか活動ができないためハードルが高いですね。今思えば名古屋市議会のリコール(2010年)は本当によくやれたと思います」

あいちトリエンナーレに問題意識を感じて取り組もうと思ったリコール活動だが予想以上に大変な作業だったようだ。これが首長の収賄、脱税、不正会計、闇社会との交際、利益供与、こういった問題でのリコールならまだしも旗印が「あいちトリエンナーレ」というのが一般的な有権者のモチベーションになるとは考えにくい。その多くは“どうでもいい ”というのが本音ではないか。

これには受任者であるリコール協力者も同調してくれた―――

「名古屋市議会リコールは減税という大義があったから成しえたことでしょう。生活がかかっていますからね。だけどトリエンナーレ問題はいわゆる歴史認識問題ということでしょ。一般の有権者がそんなことに関心を持つとは思えません。果たしてリコールという方法が正しかったのか疑問に思っています。例えば大村知事を倒せる県知事候補を立てて盛り上げていく方が有効かもしれないですよ」

同氏は健闘は祈りたい、と言い残したがこうした声は保守層からも少なからず漏れてきた。

明らかに広報戦略ミス

河村市長があいちトリエンナーレについて批判的なのは当サイトも報じた通り。また愛知県が起こした負担金請求訴訟でも市長は証人として出廷したほど。裁判では河村市長は朝日新聞、中日新聞などメディアにも批判を加えている。過去報道を見てもリコールについて好意的に報じたメディアは少ない。

だから支援者らの「大手メディアは報じない」という心境は理解できる。しかし9月25日、名古屋市内のホテルで開催された活動報告記者会見は支援者からもブーイングが起きた。

会場入りする河村市長。

会場には高須院長、河村市長、デヴィ・スカルノ夫人、百田尚樹氏が出席。一連の活動報告と、担当弁護士から署名活動への妨害行為に関する対応策が説明されたという。その後、名古屋駅前で一同が揃って街頭演説する流れだ。

櫻井氏は欠席だった。

高須氏がツイッターに投稿した案内状を見ると特に参加条件は明記されていない。誰でも開放とも読み取れた。だが県政記者クラブの加盟社以外は会見場に入ることができずその他メディア、フリーランスは入場不可であった。これに対しては複数のフリージャーナリストらが主催者側に抗議をしていた。特に自身で動画配信、実況中継をしたい参加希望者にとってはこの措置は厳しい。

関西から来たという映像系フリーランスは憤懣やるかたない様子だ。

「テレビや新聞はどうせ報じないじゃないですか。仮に扱ったとしてもテレビなんてせいぜい数分でしょ? それならリコールに賛同するメディアやジャーナリストを入れたらいいのに。なぜ好意的に見ているのに排除なんですかね」

この不満も当然だ。しかし運営側のこのような措置は心情的に理解できる部分もある。というのは過去の総会ではアンチのジャーナリスト、活動家も会場に入り「いきなり質疑応答のようになってしまい口論が始まって収集がつかなくなったのです」(事務局)ということだ。相手はあからさまにケンカ腰でやってくる。制止すれば「言論弾圧」などとレッテルを貼られかねない。

こうした事態を未然に防ぐため記者クラブ限定となったようだが、このことによって遠方から来たシンパの取材希望者も排除されてしまった。

実に皮肉なことである。それから登壇者の写真だけでも撮りたいという要望もあったが、受付スタッフらが「肖像権があるから写真撮影は控えてほしい」との説明があった。公の場に出てきて肖像権というのもおかしい話だ。せめてもの爪跡ということでドアの隙間から一応、壇上の写真を収めた。

署名活動の苦労、拙い広報、この2つの点はある意味、悲哀すら感じる。要するに保守系団体はこういった活動スタイルに不慣れだ。

驚くことに左派の活動ならば役所が代行してくれることすらある。それがどういう団体なのか当サイトが報じる以上、察してもらえるだろう。リコール支持者にとって高須院長という著名人がイニシアティブを取ることに頼もしさを感じるはずだ。だが裏返せば根拠地も動員力も乏しいから著名人のネームバリューに依存せざるを得ない。なお個人的には初めて生のデヴィ夫人を目撃したが、驚いたことに姿を現した時点で一瞬にして場が華やいだ。さすがである。だがこのことは署名数の向上を意味しない。そして次の問題に移ろう。

維新の政治活動という疑問

リコール問題に関心を寄せている人ならばすでご存知のはず。リコール活動が日本維新の会の政治運動になっているという指摘だ。

ネットでも出回った田中事務局長の名刺。
田中氏が日本維新の会愛知五区の支部長になったことを報じた。

リコールの会の事務局長には元愛知県議の田中孝博氏が務めている。田中氏は次期衆院選愛知県5区の支部長に就任。この立場からしてリコール活動と選挙活動の関係性を取沙汰されても無理からぬこと。さらにリコール活動の街宣車は維新の選挙カーを流用しているという指摘も根強い。意外にも反大村、反あいちトリエンナーレの保守層からも疑問視する声が起きている。

左は当日、駐車場にあった街宣車。右は維新・馬場幹事長の街宣車。

当日、会場に駐車してあった街宣車は「わ」ナンバーだからレンタカーであるのは分かる。それで日本維新の会の馬場信幸幹事長の過去の投稿を見ると同一のナバーがの街宣車が出てきた。

レンタカーだから偶然、一緒の車種になったという反論もできるかもしれない。しかしSNS上で入手した軽自動車の画像を見ると維新選挙用とリコール街宣車のナンバーは一致した。

街宣車のナンバーが同一。

さらに地元ではこんな声も囁かれていた。

「今年の都知事選で維新の候補になった小野泰輔前熊本県副知事をいずれ愛知県知事に担ぎ出すと囁かれたことも」(地元記者)

となるとリコール活動を衆院選、知事選の前哨戦にして一定の支持層を確保しようという思惑があるのだろうか。リコールの会の「個人情報保護規定」3項目にはこうある。

3.個人情報の利用

当会は、ご提供いただいた個人情報について、解職請求(リコール)活動、当会が認めた選挙活動(知事選挙等)に利用させて頂き、利用目的の達成に必要な範囲内で利用致します。 その利用目的の範囲を超えて個人情報を利用する場合は、事前にその利用目的をご連絡のうえ同意をいただいた場合に限り利用致します。

この項が示す通り集めた署名はその他、選挙活動に使用される可能性も否定していない。

大村知事もトリエンナーレも追及されるべきだし、当サイトも今後、継続して取材していくつもりだ。しかし特定の政治活動に与するのも抵抗がある。このリコールの会と政治活動との関連性について田中事務局長を直撃した。

「まぁ、ったく違いますよ。そういうことを言っている人はたくさんいますね」

と強く否定した。そして

「公式的に考えてください。発言をしたのは維新と共産党だけでしょ。共産党はリコールに反対です。松井(大阪市長)さんは維新はやりません、愛知県の人がどうぞという立場。それに対して他党は発言していませんよね。維新(の幹部)が発言したから関連付けられただけです」

という説明だ。会見準備で事務局長は多忙そうだから、これだけ回答してくれただけでもとりあえずは良としなければならないがまだ確認すべきことはある。

加盟社以外は不可ということで田中事務局長に抗議していた先の映像系フリーランスも収まらない様子だ。

「田中さんに維新の政治運動ではないなら、記者会見の場で“ 日本維新の会の選挙化活動とは無関係です”と説明してくださいよ。こう言ったら“ それは維新に迷惑がかかるからできません”と田中さんは言っていました。これもおかしいでしょ。なぜ言えないんだって。これぜひ書いておいてください」

こう言い残して名古屋駅前の街宣取材に向かったが、その表情は徒労に満ちていた。公の場で維新の政治活動と無関係と宣言した方がより信頼性を高めるはずだが・・・。

また後日、改めて車種とナンバーが分かる画像を合わせて田中氏に質問状を送ってみたが現在のところ返答はない。

接触できた事務局男性スタッフによれば

「それは私には分かりませんが、少なくとも自分が管理している車ではありません。事務局長(田中氏)に聞いてもらうしかないですが、多忙で連絡がつかないことがあるので質問があればメールが早いと思います」

ということであるからもう少し粘り強く質問を続けて説明を待つとしよう。しかしこの街宣車の件は弊社の保守派であろう読者からも疑問が寄せられている。反大村であってもリコール活動に疑念を抱く主要な原因はこの「街宣車問題」にある。

「リコールが成功することよりも保守の支持層の協力者を集めたいだけ。そう思われても当然でしょ」と断じる自治体議員もいた。なお、同議員はいわゆる「左派」ではない。仮に「86万筆」という数字に到達しなくても、数十万の署名が集まるのは大きい。そこで個人情報保護規定にあるこの文言に戻ると

当会が認めた選挙活動(知事選挙等)に利用させて頂き、利用目的の達成に必要な範囲内で利用致します

リコール外目的だ、と取沙汰されても仕方がない話だ。繰り返すがリコール活動自体を否定しているわけではない。ただリコールと特定政党の活動とは切り分けて考えるべきだ。もっとも仮に維新の会と協力関係があったとしてもそれ自体が問題行為というわけでもない。一部で取沙汰される維新との関係も堂々と説明すればいいはず。

確かに街宣活動も盛り上がり市内では多くの聴衆を集めることも。関心度は決して低くない。だが結局は維新の政治活動で、保守派のフェスティバルで終わってしまった…。老婆心ながらこうした事態に陥らないよう本稿を活動の一助としてもらいたい。

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