さいたま市「九条俳句訴訟」は保守本廃棄に救われた!?

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By 三品純

梅雨空に『九条』守れの女性デモ

さいたま市内在住の女性が詠んだ「九条俳句」が三橋公民館(同市大宮区)の「公民館だより」に掲載されないのは違法として市に掲載と損害賠償を求めていた訴訟で、10月13日、さいたま地裁は、市に慰謝料5万円の支払いを命じた。市は判決を不服として控訴する方針だ。俳句は、2014年6月、原告女性が東京都内で遭遇した女性デモに共感し、思いを詠んだもの。女性は、同館の俳句サークルの会員で、公民館だよりに掲載する作品として提出したが、公民館側が「誤解を招く」として掲載拒否していた。判決を受け、支援者らが10月24日、さいたま市内で報告集会を開催。集会はいわゆる護憲派の有識者、運動家も参加しており、いわば護憲イデオロギー闘争の体。判決は原告勝訴に違いないが、しかし右・左の立場を越え一考すべき問題を孕んでいる。

1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまでの年5分の割合により金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、これを70分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

判決で公民館職員が原告の思想を理由に俳句を掲載しないのは、国家賠償法上、違法であるとしさいたま市に5万円の支払いを命じた。ところが原告の請求は200万円だったこと、また俳句の再掲載は認められなかったため、支援者らからも勝訴であるか否か疑問の声も挙がった。これに対して、説明に立った弁護団からは、市の違法性が認められたこと、また同類の裁判の慰謝料として高額である点を挙げ、判決の意義を訴えていた。しかし原告及び支援者らの間に“勝訴感”が薄いのも確かだ。というのもやはり再掲載については退けられた点が大きい。

裁判では、公民館職員が教育現場で、国旗・国歌の掲揚、斉唱をめぐる対立を経験していたことから「憲法アレルギーに陥っていた」と指摘。このため不掲載について明確な根拠や理由がなかったとしながらも「公民館だよりという特定の表現手段による表現を制限されたにすぎない」と再掲載を退けられていたのだ。

判決後、原告女性とさいたま市側が話し合いの場を持ち、原告側は改めて公民館だよりへの掲載を訴えたが、市側は、編集権は市側にあるとし拒否している。5万円の慰謝料以上に、九条俳句を市に認めさせるのがより重要な目的だから、“試合に勝ったが、勝負で負けた”という表現もできるかもしれない。


自治体職員の困惑が目に浮かぶ・・・

判決を受け、新聞各紙は訴訟の意義を書き立てている。いくつか見出しを紹介しよう。

東京新聞(2017/10/17)「市民の言論を守りたい」

埼玉新聞(2017/10/14)「事なかれ主義に警鐘」

朝日新聞(2017/10/14)「政治的な表現排除相次ぐ」

朝日新聞の同号では、元NHKプロデューサーの永田浩三・武蔵大学教授の「政治的なものに触れないという現代を象徴している」というコメントを紹介した。

新聞各紙が原告側に対して擁護的な論調で報じている。これ自体、さもありなんだろう。しかしこれを逆の立場で考えてみる。仮に俳句の作者が保守寄りの人物で、改憲を訴える内容だったらば、こうした判決結果、またメディアの論調になっていただろうか。もっともこうした内容であったとしても公民館側は拒否したに違いない。集会に参集した有識者、支援者らも「市民の教育権」を訴えていたが、仮に“九条破棄の女性デモ”などという内容であれば、目を吊り上げて「右傾化」「ヘイト」と断じていたことだろう。

むしろ「公民館だより」という無味無臭、政治性と無縁な媒体で、「政治的な表現排除」「市民の言論」と言われても、現場の職員にすれば“たまったもの”ではないはずだ。これが改憲・護憲であろうが、いざ掲載されれば、左右双方の過酷な突き上げが待っている。この点においては「憲法アレルギー」と断じられた職員たちに同情を禁じ得ない。

他方、新聞などを見れば、特定のイデオロギーを込めた俳句・短歌などは散見される。例えば東京新聞が一面に掲載していた「平和の俳句」など。万一、「梅雨空に『九条』守れの女性デモ」という俳句が東京新聞か朝日新聞、週刊金曜日に掲載されていても、何ら問題もトラブルもなかったはずだ。

しかし自治体にとってはまさに地雷的存在だ。慎重な扱いが求められる。市区町村では俳句、短歌、書道といった文化サークル、生涯学習が存在し、広報などでの発表や、あるいはパブリックスペースの展示は珍しくない。この際、右派・左派の立場は無関係で、イデオロギーに満ち満ちた創作物が持ち込まれた場合、今後どう判断するのか? 自治体は苦しい判断を強いられることになるだろう。その時に、今回の判決を支持したメディア、有識者、運動家たちが、自身の主義主張と異なる内容だった場合、これを容認できるのか見物ではある。

判決の根拠は船橋市西図書館蔵書破棄事件!?

それに加えて、注目すべきは、今回の訴訟で拠り所になった判例が「船橋市西図書館蔵書破棄事件」(2001年)という点だ。おそらくご記憶にある人も多いだろう。船橋市西図書館の司書が、保守系作家や新しい歴史教科書をつくる会会員らの著書計107冊を、自らの政治思想に基づき、廃棄基準に該当しないにも関わらず廃棄した事件だ。

俳句訴訟で弁護団からは「5万円の慰謝料は高額」という説明があったが、確かに船橋市西図書館蔵書破棄事件と比較すれば“破格値”と言ってもいいだろう。同事件の賠償金は、原告一人あたり3000円に過ぎない。俳句訴訟の弁護団の一人、佐々木真一弁護士に確認すると「船橋の場合は、著作者の利益、表現の自由、俳句訴訟の場合、公民館の利用者の利益で違う」としながらも、「裁判では船橋市事件の言及はなかったが、裁判官側は意識していたでしょう」と話す。つまり九条俳句を救ったのは、保守系の表現物という言い方もできる。護憲派が忌み嫌う保守反動の刊行物をめぐる訴訟が判例になったとすれば皮肉な話である。

三品純 について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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