4月14日、筆者は和歌山県・岸本周平知事が心肺停止と速報したが、翌15日に死去が発表された。突然の不幸に関係者がショックを受ける中、自民党の一部では後継者選びに入ったという。そこで浮上したのが鶴保庸介参院議員。鶴保氏は岸本知事擁立に尽力したが、人望という点で疑問視されており党内の対立は必至である。
和歌山県政のしがらみはどこまで続く?
筆者は2019年の和歌山市芦原地区連合自治会長事件を契機に和歌山取材を深めることになった。その中心には常に自民党・二階俊博元幹事長がいた。そして二階氏を軸に大方、同じ人脈が集まってくる。しがらみが切れない土地柄なのだ。そして二階氏が県政に与える影響は大である。
2022年、岸本知事の誕生も二階氏の意向がなくてはありえなかった。もともと仁坂吉伸前知事はコロナ対応で評価され5期目に意欲を持っていたという。ところが両氏は関係が悪い。特に2021年、故・安倍晋三元首相の経済ブレーン、本田悦朗氏の副知事起用案に対して二階氏が激怒し潰した。
【和歌山県】仁坂知事5選断念! VS 二階俊博“ に・に戦争”は痛み分け
国会議員時代から岸本知事は二階氏と懇意にしてきた。その縁から知事選に擁立。実働部隊として動いたのは二階氏側近の鶴保庸介参院議員だった。
岸本知事は2009年の衆院選(和歌山1区)以来、自民党候補を退けてきた実力者。選挙の強者である同氏を知事に送り出して1区を自民に取り戻す狙いがあったのだ。
しかしその狙いは失敗。2023年の衆院補選で二階氏子飼いの門博文元衆院議員は日本維新の会新人の林佑美氏(現衆院議員)に敗れた。地元で「岸本党」と呼ばれるグループが林支持に回ったからだ。
門氏に言及した時点で再び〝あの写真〟に触れざるを得ない。以下は芦原事件当時に報じた金井克諭暉(金正則)元連合自治会長(前列左)と二階氏とのツーショット写真。
門氏の斡旋でこの面会が実現した。門氏の後ろに写るのは彼の後援会元副会長だが、覚醒剤使用で逮捕歴がある。つまりこの写真の中には2人も刑事事件の当事者がいるということだ。

金井氏(前列左)の後ろに控える人物は地元で公共事業に強い良誠工業の中山勝裕社長。和歌祭四百年祭実行委員長を務める人物であり金井氏の還暦パーティーの発起人の一人である。中山氏については当サイトもたびたび取り扱ってきた。

さて岸本知事が倒れた前日、大阪・関西万博の和歌山県ブースで神輿を担いでいたことが報じられた。実は展示物の神輿についても関係者から疑問視されている。
「神輿は和歌祭で使用されますが、市外の住民はほとんど知らないでしょうね。万博のブースは観光振興が目的ですが神輿が役に立つとは思えません。高野山や熊野古道にちなんだ展示物の方が外国人観光客にも関心を持ってもらえたはずです」(県職員)
問題の岸本知事が神輿を担いだシーン。これも和歌山県のしがらみを象徴する一枚と言える。当日の様子は中山氏のインスタグラムに投稿された(動画は削除)。撮影したのは中山氏の関係者とみられる。岸本知事が前列中心にいるが、知事と同じく紫の法被を着たのが中山氏の実弟である。

つまり和歌山県の観光振興というよりも中山氏らによる和歌祭のPRでしかない。二階氏と金井氏のツーショット写真にも同席した人物が万博のブースにも関与しているという事実。なんとも和歌山らしい。

話は尽きない。2023年、地元の一企業に過ぎない良誠工業の創立記念パーティーに出席した岸本知事。当日は鶴保参院議員、尾花和歌山市長も出席した。
25周年という脈絡のなさ。そのようなパーティーに知事・市長・国会議員が出席する意味や必要性があるのか疑問だ。このしがらみは次の知事でも引き継がれるものだろうか。
鶴保氏擁立の声の一方で反発も
岸本知事の訃報を受けて自民党和歌山県連の一部ではすでに後継レースが囁かれ始めた。県連内部で名が挙がったのが鶴保参院議員。もともと鶴保議員は岸本知事を1区から引退させて、自身が衆院鞍替えを画策していた。
ところが衆院鞍替えは断念。鶴保氏の元秘書、山本大地氏が現職、林衆院議員を破り当選した。当初の構想も面目も潰れたわけだ。となると鶴保氏に残されたキャリアハイの道は知事職ということになる。
しかし鶴保氏を望む声といっても限定的というのだ。ある議員はこう明かす。
「数人の県議が鶴保氏を推しているだけですよ。そのうちの一人があの〝過激ダンスショー〟のリークに関与した人物です」
過激ダンスショーはご記憶にあるだろうか。2023年11月、「青年局近畿ブロック会議」で開催された余興である。露出の多い女性のダンスショーに興じた自民党員へ批判が殺到。企画した川畑哲哉県議は離党処分になった。
自民青年局近畿 ブロック“過激ダンスショー 騒動”の 伏線は 企画県議の 市長選狙い
当時から不祥事が相次いでいた自民党にとって、手痛い事件となった。リークした自民党関係者にとっても選挙の上で不利益だが、何が目的だったのか。
一つには川畑県議が岩出市長選を狙っておりその立候補を潰すこと。そして同県議は世耕弘成衆院議員と懇意のため世耕派潰しという目的もあった。
確かに川畑県議排除には成功したものの、自民党全体にとっては大きなマイナスだった。むしろ県連内部ではリークに関与した関係議員、そして直接的な当事者ではないにしても鶴保議員へも反発が強まった。
このため反鶴保の声は次期参院選でも少なくない。この夏の参院選で鶴保議員と内縁関係にあったという実業家の末吉亜矢氏が立候補したことを当サイトはいち早く報じた。
さて4月某日のこと、市内で年配の女性が末吉氏のリーフレットを配布していた。その女性は末吉氏の母だという。
もとは鶴保氏の支援を受けての立候補だが、自民候補ではない。しかし無所属とはいえ地元の有力選挙プランナー、中谷哲久氏が応援に回り、決して泡沫候補ではなさそうだ。

しかし末吉氏を擁立した鶴保議員に対して党関係者の間で反発が強まる。鶴保氏の親玉、二階俊博氏も激怒しているかもしれない。
「当初の末吉氏擁立の目的は同じく参院選に立候補した二階伸康氏への後方支援でした。世耕氏に近い前有田市長・望月良男氏も参戦することから末吉氏には望月氏の票削りという役割があったのです。ところが鶴保氏と末吉氏の関係は解消したとされ、当初の目論見が外れました。しかもむしろ末吉氏が伸康票を食っていると指摘されています」(自民党議員)
鶴保氏と末吉氏の関係についてはまだ謎が多い。「まだ関係は続いているという説もあるんですよ。逆に末吉氏が事前活動をしているのは公選法違反だと鶴保陣営が警察にタレこんでいるという情報もあります」(同議員)と事情は複雑だ。
あるいは「末吉陣営に鶴保氏の支援者が混じっていました。偵察目的でしょうね」(末吉氏周辺)という物騒な証言も得た。
事情は複雑だが、どちらにしても末吉氏出馬は確実に二階陣営へのダメージになってしまった。それでなくても伸康氏の支持は伸び悩んでいる。
なにしろ自民県連、また県内の首長会の全面協力があったにもかかわらず昨年の衆院選(和歌山2区)で世耕氏に大敗。その上での参院選だからもう後がない。
「鶴保が仕掛けると必ずコケるんや」(古参の党員)と失笑されるのも当然だろう。
また仮に岸本知事が存命だったとしても伸康氏を支援したのか疑問だ。先の衆院選で本来の関係ならば岸本知事は伸康陣営へ応援に駆けつけても不思議ではなかった。衆院選の最中、岸本氏は外国へ出張。偶然の公務とは思えない。つまり二階離れの可能性が高いのだ。
加えて知事選の〝応援団長〟である鶴保氏と岸本知事の関係は冷え切ったとみられる。
「岸本知事の国会議員時代の秘書を鶴保事務所が受け入れたのです。ところが給料カットなどで岸本知事の元秘書たちは鶴保事務所を去ることになりました。岸本知事にすれば顔を潰されたと思ったでしょう」(前出自民議員)
もはや鶴保氏の味方になるのは元秘書だった一部の県議らだろう。
「内部では〝鶴保が出るくらいなら石田(県連会長、真敏衆院議員)さん、アンタが手を挙げてくれ〟という声もあるほど。実際に2022年の知事選でも一時期、石田氏を推す声があったのです。しかし現状、石田さんは年齢的(73歳)にも厳しいかもしれません。このため石田氏の擁立は現実的ではありませんが、鶴保氏に対する反感の表れと言えますね」(同前)
他にもサプライズ候補が取り沙汰されている。
「仁坂吉伸前知事ですよ。本来は5期目に意欲がありました。二階氏の影響が薄れた今、再チャレンジしたいのではないでしょうか」(地元記者)
仁坂前知事の再挑戦はまんざらでもなさそうだ。知事退任後、独自に勉強会を開催していることは布石か。また本人のブログも非常に興味深い。4月14日に配信した記事から知事職への未練がにじみ出る。記事によると仁坂前知事は大阪・関西万博の和歌山県ブースを訪問したという。
開会式が始まるまでの間、出席者は日本政府館や大屋根に行く機会がありました。そうしたら懐かしい方にたくさん会いました。万国博を所管している経済産業省の方はとりわけたくさんで、皆さん、お客さんなのか現場の案内人なのかよくわからない感じでお客さんのお相手をしているように見えました。そのうちの一人が現在経済産業政策局長の藤木俊光さんであります。実は大阪・関西万博誘致に特に熱心に取り組んでいた、当時関西広域連合副連合長の私は、担当局長である商務流通審議官の藤木さんをよく訪ねていました。(原文ママ)
知事時代の活動を綴りつつ成果をアピールした。そして気になった記述が以下だ。
今回開会式に出席するにあたって、一つだけ残念なことがありました。それは、関西館と中でもその中の和歌山ブースが見られなかったことでした。13日からのオープンに備えて、準備作業をしているので、お見せする環境にないというのが関西広域連合の事務局の方のお話でした。この関西館にはとても思い入れがあります。初めは、大阪館は予定されていたけれど、関西、その代表としての関西広域連合はパビリオンを建てる計画はなかったのです。私は、せっかく大阪・関西万博と名付けてくれたのだから、関西館がなくてどうするかと同僚の知事さんたちを説得して関西館建設にこぎつけました。一部反対の知事は残りましたが、関西広域連合の申し合わせである、反対であるプロジェクトには参加はしなくてもいい。その際資金分担もないが意思決定にも参加しないというルールを用いて、全体としての関西館建設に漕ぎ着けました。(原文ママ)
和歌山ブースを見学できなかったことについて不満を述べた。そして岸本知事へもチクリ。
次は和歌山県のブースをどうするかですが、私のアイデアは観光の宣伝塔にしよう、ここでバーチュアルな和歌山の観光スポットの体験をしてもらって万博会場を出たら次はリアルな和歌山観光に来たくなるような仕掛けを作ろう、そのため3Dでバーチャルな観光体験をしてもらったらどうかというものでした。どうせブースも広くないし、高邁なコンセプトの展示をしてもなかなか人の心を捉えられないのではないかと思ったからでもあります。さすがにこういう観光客を万博を機に和歌山に呼び寄せようという実利オンリーの企画は和歌山県の新政権では採用されず、東大先端研の俊才吉本秀樹特任准教授のデザインになる高邁なコンセプト「和歌山百景-霊性の大地」が採用されて、これは見ものだと大いに期待しているところです。今回は大屋根と日本政府館以外は見られませんでしたが、また機会を見つけてゆっくり見学したいと思います。(原文ママ)
恨み節とも受け取れる内容だ。
「ブースは準備中とは言え前知事の訪問ですよ。普通ならどうぞ、どうぞと顔パスでしょう。現場スタッフに嫌われていたかもしれません。知事在職中、幹部職員への𠮟責は有名でしてね。会議中、部下に激怒して〝お前、ここから(階下へ)飛び降りろ〟と詰め寄ったという話もあります。仁坂氏再挑戦なら戦々恐々とする職員も多いはずです。改革という点では仁坂氏の方が長じていますが、職員の間では岸本知事の方がやりやすいとの評判でした」(前出記者)
政策通として定評があった仁坂前知事だが、望まれていない模様。出馬しても支持されるか微妙だ。
そして最も注目されるのが世耕氏の動向だろう。政治資金問題の逆風の中、伸康氏を破ったのはさすがに実力者である。
政治資金問題をめぐり21日の予算委員会で参考人招致される予定。これを乗り切れば世耕氏は参院選、知事選にも集中できるだろう。

「前回の知事選で当時、青森県の総務部長で現在、副知事の小谷知也氏が候補になりました。または市原市元副市長の東宣行氏も候補になり得ます。特に小谷氏は父親が県庁OBで地元人脈もしっかりしています。世耕氏が〝りんご(青森県副知事)よりもみかん(和歌山県知事)が甘い〟と小谷氏を口説き落とした場合、強力な候補になるでしょう」(前同)
年齢的、キャリア的にも小谷氏は有望株と言えそう。しかも世耕氏がバックにつけばサポート体制も万全だ。
国会議員のキャリアは長い鶴保氏だが何しろスキャンダルも多数。フレッシュな小谷氏と明らかに見劣りしてしまう。それに県連内でも孤立化しているとすればなおさらだ。
仮に鶴保氏が知事選に立候補するならばかつての盟友、岸本知事の弔い合戦になるだろう。もちろん有力候補の一人には違いないが「人徳」という点で支持は広まらないとの見方が大半である。どちらにしても和歌山自民にとって内紛確実の知事選、参院選になりそうなのだ。
非常に興味深い情報ありがとうございます。
今後の知事選、参院選とも和歌山は色々波乱がありそうですね。二階陣営が今回の県知事選でどうでるか興味深々です。
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ありがとうございます。
他方、参院選に維新の浦平県議が擁立されるということでさらに混迷を深めております。