「岸田首相が本気を出した」「カジノ屋が集まったな」。今月7日、国交省が発表した人事をみて関係者はこんな感想を漏らした。4月統一地方選の最中、政府は大阪府と大阪市のIR整備計画を「認定」。これで国内初の統合型リゾート施設(IR)誕生が近づいた。国交省人事を見ても岸田政権の本気度は一目瞭然だ。
IRプロ職員たちの人事
「世界最高水準のカジノ規制」
IR推進派が掲げるスローガンだ。射幸心を刺激するギャンブルに「最高水準の規制」というのも不思議な話である。推進派の説明も説得力に欠けて党派性を問わずIRについては反発が強い。
だが4月に大阪府・大阪市の事業計画に対して政府は「認定」とし、開業の見通しが高まった。
そんな中で発表された7日の国交省人事はとても意味深だ。「航空新聞社」同日の記事より。
国土交通省・観光庁は7月7日付の人事異動を発表し、観光庁の秡川直也次長が内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)に転じ、後任に加藤進大臣官房総括審議官が就任した。新たに観光庁次長に就任する加藤進氏は1990年に当時の運輸省に入省。自動車局貨物局長、内閣官房特定複合観光施設区域整備推進本部事務局参事官、観光庁総務課長、大臣官房審議官、北海道運輸局長、総合政策局次長などを歴任。昨年6月から大臣官房総括審議官に就任していた。
見出しには「秡川氏は内閣官房内閣審議官に」とある。秡川直也観光庁次長のことで国交省きってのIR通。「特定複合観光施設区域整備推進本部」の事務局次長などを歴任してきた。
IR反対派からは「カジノ屋」などと反発を受けてきた人物。2018年、第197回国会国土交通委員会では「特定複合観光施設区域整備推進本部事務局審議官」の立場で政府参考人として出席した。
審議官にIR職員が集中
2019年に立教大で開催されたシンポジウム「日本統合型リゾート~健全社会のIRを目指して」に秡川氏が登壇。当時、シンポジウムをレポートしたが、秡川氏は日本型カジノは規制を強化し健全な運営であることを強調した。
7日の人事では秡川氏が内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)となった。
他にも注目すべき異動がある。
「後任の観光庁次長に大臣官房総括審議官・加藤進氏。加藤氏は元内閣官房特定複合観光施設区域整備推進本部事務局参事官、つまりIR事業の担当者です。カジノ通の観光庁次長が審議官になって、カジノ通の審議官が観光庁次長になるというミエミエの人事ですね。審議官はカジノ担当か! と失笑する関係者もいました」(同前)
一方、別の職員の異動に注目するのはIRに詳しい行政関係者。
「長崎県副知事の平田研氏が官房総括審議官です。平田氏は長崎県IRの司令塔役で、IRに関するメディア取材も平田氏が対応してきました」
長崎県もIR整備計画を国に提出していたが「認定」とはならず、「継続審査」となった。同県の旗振り役・平田氏が副知事職を離れたのは今後の審査にどんな影響が出てくるのか。
以上のような国交省人事によって岸田首相がIRに対して“ 本腰”と考える関係者は少なくない。
ナベツネも「カジノは非倫理性」?
政府の観光立国推進閣僚会議は5月に「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を策定。観光立国を目指す岸田政権にとってIRは目玉の一つになりそうだ。
だがここに来て「認定」を受けた大阪でも懸念の声が強まる。
「もともとはIRを推進してきた関西経済連合会・松本正義会長(住友電工会長)ですら4月17日の記者会見で“ すべてがハッピーではない” “カジノ事業で(IR の)全体収益の 8 割を上げるとする計画に課題がある ”と語りました」(在阪の反対団体役員)
先の統一地方選でも維新の大阪W選挙(府知事、市長選)に対抗して「アップデートおおさか」が結成されたが、呼びかけ人の一人、サクラクレパス・西村貞一会長もIRの慎重派だ。財界人の“IR離れ ”が顕著である。それもやむを得ないだろう。大阪のIR計画は国の審査報告書も 657・9 点(1000 点満点)で、認定条件(600点以上)をかろうじてクリアしたレベル。しかも点数以上の難題が残る。
「大阪の計画は地域の合意がないこと、地盤沈下対策、ギャンブル依存症の検証不足など7項目の改善点が求められています。その中でも高い国際競争力に欠け事実上、日本人がターゲットになっているのは見逃せません。IRが観光立国の起爆剤なんて大ウソですよ」(前出役員)
つまり最低基準をクリアしただけの話で娯楽施設として不十分なのだ。
開業前からこのグダグダだから当然、メディアも“ ツッコミどころ”を虎視眈々と狙う。先の政治記者によればマスコミ界の大物がカジノ嫌いであるとの話だ。
「読売のドン、ナベツネこと代表取締役主筆の渡邉恒雄さんは“カジノは国民の勤労意欲や家庭の財政基盤、生活環境を破壊しかねない。非倫理性の行為だ ”と不快感を示しているといいます」
5月には読売新聞の子会社「読売連合広告社」が大阪市のIR広報業務を辞退すると表明した。いかにもクリーンな判断のように見えるが実はドンへの忖度という可能性も? 加えて取材対象としてもIRはネタの宝庫のようだ。
「東京五輪汚職は東京地検特捜部が動くほど大きな事件になりました。マスコミもIRで何か起こるだろうと臨戦態勢。“カジノ疑獄”なんて見出しはインパクトがあるでしょ」(前出記者)
唯一の認定自治体である大阪でも評価点が低く、おまけにマスコミはもちろん財界からも懸念の声が強く状況は悪い。だがIR事業という大博打からは降りられなくなった。プロ職員たちの手腕に注目だ。