舞台に例えれば演者よりも脚本家や裏方が気になる――。そんなところだろうか。合流組を含めた新・立憲民主党と残留組の新・国民民主党が9月15日、結党した。新味もなく菅内閣誕生ムードもあり両党ともに有権者の関心はとてもじゃないが高いと言えない。むしろ特に政界、メディア関係者は両党自体より支持母体である連合傘下の労組、諸団体の動きに興味があるのではないか。なにしろ立民、国民双方に連合傘下労組の組織内議員が横断的に在籍する。このため立民・国民の合流失敗は連合にとっても不協和音につながりかねない。各団体の動きを検証して見えてくるものは?
脱原発運動家が電力総連を包囲した過去
連合と旧民主党、その系統の政党とは絶対的な関係にある。2009年9月、民主党政権が発足したわけだがさかのぼること数か月前。当時はすでに総選挙における民主党優勢が伝えられており政権交代直前であった。その中ですでに新政権下の運営についていくつか協定が結ばれていたという。
「首相と連合会長が半年に一度、官房長官と事務局長が三カ月に一度、会談する」
両団体の首脳が定期的に意見交換し合うという点からしてもその関係性がご理解頂けるだろう。しかしその後、下野、民進党、分裂、という状況に追い込まれたのはご存知の通り。そして今回の合流新党騒動に至るのである。
立憲民主党と国民民主党の合流新党のプランが頓挫したのは一つに合流新党の新綱領の「原発ゼロ」という文言をめぐる対立だろうか。立民・国民両党に組織内候補を持つUAゼンセン(繊維、衣料品など生活関係産業)、自動車総連、電機連合(電機メーカー)、電力総連(電力会社)と国民を支援するJAM(機械・金属製造)と基幹労連(鉄鋼、造船、航空など)6つの産業別労働組合(産別)が難色を示したことだった。
このうち電力総連は特に立憲民主党支持者から反発が強い。この点については説明も要らないだろうが原子力発電所で働く組合員もいるからだ。
福島原発事故発生当時からしばらく原発関連のデモや集会が連日のように続いた。そして脱原発運動家たちは政府、東電とともに電力総連を目の敵にするようになった。そもそも原発は国策だから電力の労働者に抗議したところで意味があるとは思えない。しかし電力総連が組織内候補を抱えていたことから政治的影響力があると考えたわけだ。
印象的な出来事を紹介しよう。2011年、原発を支える一団体として電力総連に活動家が押し寄せた。中には連合傘下の団体が参加する「平和フォーラム」の活動家の姿も。これに総連側も職員が玄関口で立ちふさがりにらみ合いが続いた。原発をめぐり連合内部のいわば親戚同士が対峙したという格好だ。
おそらく立民支持者からも批判的に見られがちであろう電力総連だが「国民側に組織内議員を抱えていることから支援はしますが、連合との関係上、立憲民主党も支援していきます」ということだ。国民民主党の支援は継続し、意外にも立憲民主党も支援するという立場である。というのは
「連合は9月中に立憲民主党と「理念」をまとめて文書として確認する方針です」(連合関係者)。
理念とはすなわち政策協定だが連合総体として立民を支援する以上、電力総連も方針に従わざるを得ない。国民と同時に立民も支援するという難しい立場だ。
また連合と言えば左派色が強い日教組、自治労のイメージが強いが、全日本労働総同盟(同盟)の系譜を引くUAゼンセンは反して保守色が強い。旧民主党政権下で永住外国人の地方参政権が論議されたが、UAゼンセン(当時UIゼンセン)も反対集会に参加した。
ところが「15日の定期大会で会長から立憲民主党を支援する政党とする、と発表がありました。ただ国民民主党は連合と政策協定を結んでいるわけではないので連携関係が構築されていない以上、まだ国民民主党は支援できないという立場です」(UAゼンセン担当者)と説明する。
国民民主党支援の含みを残しながら現状は立憲民主党支持のようだ。またその他団体は「公表する予定はありません」(基幹労連)、「方針は明かしていません」(自動車総連)、「公表は考えていません」(電機連合)、「検討段階ですが、支援など公表する予定はありません」(JAM)といった状況。はっきりと支援政党を明言しない団体もあったが、しかし連合との関係上、「立民支援」の立場であるのは間違いない。
ただ「神津会長は基幹労連の出身なのに旧官公労系(自治労)に取り込まれたかのようです」(労組関係者)といった批判もくすぶっていた。
証人5人中5人が市役所職員
さて一方、立憲民主党の岩盤支持基盤と言えば自治労、日教組、部落解放同盟などがあるのはご存知の通り。解放同盟と立民の関係については以前も報じた通り。やはり選挙においては「公務員」という立場は民間よりも有利に働くような気がしてならない。
一つ驚いたことがある。ご存知の通り、現在弊社は解放同盟と『全国部落調査』をめぐり係争中だが、14日に口頭弁論が開催され証人尋問があった。先方からは5人が証言に立ったが、なんと5人とも市職員(退職者含む)だったのだ。となると普通は環境衛生の部署と思いがちだが、年金担当など一般職もあった。
証人は決して職種などで選ばれたわけではなく、様々な地域の実情を知るために広範囲の地域から選定された。解放同盟内に公務員が多いのはかねてから知っていたが、まさかこうも高確率で公務員だとは想像すらしなかった。
ある人権担当の部署に勤務している証人によれば「職務中に解放運動をしているわけではない。もし平日に活動がある場合は年休を取る」と言っていた。活動のために年休が取りやすい環境にあるのだろうか。この点、少なくとも民間企業よりも圧倒的に年休は取得しやすいはずだ。こういった事情も連合左派団体の運動の強さの根源が垣間見えた気がした。
枝野代表がJR連合に祝電
また鉄道系、交通系の労組も立民、国民の合流失敗に戸惑っているようだ。立憲民主党、社民党を支持する私鉄総連中小自動車部にSNS上で支持政党について聞いてみると
「単産本体も翻弄されているんじゃないですかね?況して私ら末端は、お分かりと思いますがね」
とやはり戸惑っている心境が伝わってきた。それから鉄道系と言えばかつてはJR総連は旧民主党の有力な支持団体で山岡賢次、田城郁を支援していた。だがそんなJR総連に加盟するJR東労組(東日本旅客鉄道労働組合)が約3・3万人の離脱者を出したのは大きく報じられた。
元東労組の組合員によれば
「やはり高額な組合費が納得できませんでした。組合費は給与の1000分の33が基本です。これに分会費などが加算されていきます。中堅以上になってくると数年でコンパクトカー一台分にはなりますよ。これに政治集会、演説会などの動員、護憲活動、デモなどの参加があるわけだから金銭的、心労的に限界でしたね」
これにレクレーション、チャリティイベントも加わる。だが現実問題、労働環境の向上には役に立っていないのだろう。だから大量の離脱者を出したわけだ。
JR総連が離脱者を出し混沌とした状況だが、一方で存在感が高まっているのはJR連合。ネット上では立民・枝野代表とJR総連を現在でも取沙汰しているが官房長官時代にすでに関係をについて「絶縁」を明言している。もちろんJR総連との現在との交流を示す資料などは存在せず、むしろ2年前に開催された「JR連合」の決起集会では祝電を送っている。また民進党、希望の党の合流を見送って無所属だった小川淳也衆議院議員も祝電。
JR連合と言えば国民民主党・榛葉賀津也参議院議員を支援しており国民民主党を支持していると思いがち。だが「立憲民主党、国民民主党、どちらを支持ということはありません。基本的に非自民、非共産で政党とは別にあくまで人物本位で判断させて頂いています」(JR連合政策担当)との説明だ。
この通り主要な労働組合の反応を紹介してきたが、まず確実に言えることは連合が立憲民主党を支援団体とした以上、旧社会党、旧民主党から続く関係は新・立憲民主党に引き継がれることになる。もちろん産別に見れば国民民主党も支援する団体もあるが現状はごく少数派とみられる。
国民・玉木代表は「改革中道」路線を打ち出し立民との差別化を図っているが、支持基盤で言えば非常に脆弱。一部既存の保守層から玉木代表の方針を支持する風潮もあるがしかし党に影響を与えるほどではない。それにもちろん両党ともに政治目標や理念があるだろうが現状のところ選挙区調整の事情で分裂しているとしか思えない。あるいは次期総選挙の結果によっては再び合流の道がありうるのか。いずれにしても労働者たちにとって恩恵がある話ではないが…。