今年2月、愛知維新の会から除名処分を受けた北名古屋市・小村貴司市議が同会を提訴したことは同時に地元政界の闇を炙り出しかねない。さらに提訴を発表後、今度は衆議院愛知7区支部長だった鷲見洋介氏の公認が取り消された。「地元活動歴が少ない」のが表向きの理由だが、真相は想像以上に理不尽な対応だ。
愛知自民のドンと 岬衆院議員
所属議員は少なく組織としてはまだ脆弱な愛知維新の会だがスキャンダルだけは東京、大阪に匹敵するかもしれない。副代表の杉本和巳衆院議員は政治資金で「ほら貝」を購入していたことが批判され、また「オーム・チャンティング」なるヨガ儀式を議員会館で開催されたことも問題視された。
また同じく副代表・岬麻紀衆院議員は経歴詐称、そして小村市議除名、提訴までの原因である岬氏のパワハラは“ 文春砲”のターゲットになった。地元選出の国会議員2名がこの惨状だ。各地の維新支部でトラブルが発生するが、愛知維新の会の場合、地元政界独特の事情が影響している。
なぜ愛知維新の会は党の体を成していないのか? それは岬麻紀衆院議員のとある事務所の外観が全てを物語る。
名古屋鉄道「西春駅」、小牧空港への最寄り駅としてかつては東海地方の「空の玄関口」と呼ばれた。その西春駅すぐ隣の「株式会社名北」の事務所には岬氏のポスターが無数に貼りだされている。名北の看板(写真右)を反対側から見ると巨大な岬氏のご尊顔が…。
選挙事務所や連絡所にポスターや看板を設置することは法令上、問題はない。しかし政治的には大きな意味を持つ。そもそも同地は愛知16区。しかし巨大看板には「岬真紀 愛知5区」とある。不自然とは思わないか。
実はこの株式会社名北は地元政界のドン、自民党・水野富夫愛知県議の実兄が経営者で県議の支援者。つまり自民のドンとその支援企業が維新の衆院議員を応援するという不思議な相関図である。
自民党・水野県議一族がなぜ維新所属の岬氏を支援するのか。普段、自民党や保守治家を目の敵にするマスコミ。ところがまるでショーウィンドウのような状態の岬‐水野両氏の関係を不問にしているのが不思議でならない。
常識的に考えれば「反党行為」でないのか。しかし今の維新本部、愛知維新の会には是正を促すだけの指導力や誠意はないし、国会議員優先の方針で不問にされるだろう。
この看板だけでも愛知維新の会が組織として成立していないことが伝わるはずだ。今後、岬氏と水野氏については別稿でレポートしたい。
こうした状況を踏まえた上で鷲見氏の支部長解任を読み進めれば同会の惨状、維新の体質が鮮明になるだろう。
公募の面談で 杉本衆院議員が いきなり「やめたほうがいい」
鷲見氏は会社員として働く傍ら共同親権の導入に向けてNGOで活動してきた人物だ。党の中で共同親権を唯一、公約にしたのが日本維新の会。このため鷲見氏は政党の部会、勉強会でも積極的に発言してきた。意欲的な鷲見氏が7月23日、たった電話の一本で解任が告げられたのである。表向きの理由は「党員獲得ノルマの未達」だ。鷲見氏自身も「ノルマ未達は事実」として冷静に受け入れた。
しかしこれまで維新内部で起きたトラブルを考えると裏事情があるのは容易に想像できる。
真相を確認すべく鷲見氏本人を直撃してみた。
「数年前の公募の話ですが、面談の時に杉本和巳副代表(愛知10区)から“ 衆議員なんてやめた方がいい”と言われたことがあります。その時は私に3バン(カバン、看板、地盤)が無いからと思いましたが今、思い起こせば、これから党勢を拡大しようという時に役員がそんな事をいうでしょうか? 今回の支部長公認の多くは私と同様に3バンの無い方々です」
スタート時点でやる気や熱意を問われる幹部の態度だ。しかもカバン、看板、地盤と無縁でしがらみがないのが本来の維新のウリのはず。
政治家を志す新人にいきなり“ やめた方がいい”という役員も珍しい。そもそも杉本氏は比例で当選組だ。邪推だが、ご自分の票のために若い芽を摘む意図があったとしか思えない。
「解任についてはXに投稿した通り、党員ノルマ未達は事実なので特に反論もなく受け入れました」
問題の党員ノルマについて鷲見氏はすでにペナルティを受けていた。それは今年1月24日のことだ。日本維新の会 藤田文武選対本部長 井上英孝選対本部長代行 浦野靖人選対本部長代理の連名で電子メールによる通知文が送られてきた。
それは党員獲得ノルマの達成基準や処分に関する明確なルールを策定したという内容。次のようなものだ。
【一般党員維持(ノルマ)】
・国会議員:選挙区内外含めて200名以上
・国会議員選挙区支部長:選挙区内外含めて100名以上
*選挙区支部長で支部長就任から6ヶ月間の猶予を設けます。
*各総支部において上記以上の基準を定めている場合もありますが、本ルールにおいては上記数字を対象とします。【ペナルティ内容】
・現職国会議員は支部政党交付金を50%減額とする
・選挙区支部長は支部政党交付金を20%減額とする
*減額日は4月支給日から適用します。
*6月末までに達成の場合は7月支給日より減額を解除します。
鷲見氏は当時の状況についてこう明かす。
「この通知が送られた頃、実は共同親権の活動仲間を中心に90人ぐらいは確保できてはいたんです。ところが6月25日、勝股修二総務会長が“22人足りないからなんとかしなさい ”と言ってきました。地域的な人脈はまだ乏しいため私の人徳のなさは認めます。しかし不足したのはそれだけが原因とは思えません」
あと10名分でノルマ達成のはずだが僅かに届かず。原因は今年5月に成立した改正民法で実施される共同親権だった。「 成立したのは選択的共同親権であって、原則共同親権とする維新案とはかけ離れたもの。しかし維新は結局、対案を提出しないで終わったのです。共同親権推進派の皆さんから骨抜きとお叱りを受けました。“ 裏切者”とか“ うそつき”と怒って党員を辞める人が続出したのです」(鷲見氏)
賛否があった共同親権だがそれでも党の公約にした以上、推進派の人は維新を信じて投票した人もいたはずだ。ところがそうした支持者からは維新が“闘い”すらしなかったと映る。反発が起きるのは当然だろう。鷲見氏はその煽りを食ったわけだ。
そして6月1日に藤田文武幹事長名でノルマ未達が「反党行為」として「厳重注意処分」の通知が送られてきた。これ自体は特に大きな意味を持つ処分ではない。
次いで6月27日、今度は柳ヶ瀬裕文総務会長名で送られたメールには「一般党員維持基準未達成者の氏名を公表いたします」としてリストが添付されていた。
全国各支部の市議を入れて38人がノルマ未達成として党員に公開されたのである。支部長のノルマは100人、現職市議は10人。維新のお膝元である関西地区では11人もいる。だがリストに掲載された支部長、市議で解任されたという情報はない。
また愛知県内に限っていえば来本健作、山本耕一、肥田裕士、皆川雅一4氏は現在も党HPに掲載されている。しかし鷲見氏はすでに削除。鷲見氏以外のリスト掲載者は6月27日から一気にノルマを達成したのだろうか。
しかし疑問は残る。党員獲得ノルマについてはこれまでが杜撰すぎたからだ。あまりに個人差がありすぎる。やはり愛知県内の元維新市議は声を潜める。「ある国会議員の方から“党員ノルマがある”と聞いたから一人500円の党費をとりあえず自費で立て替えて数人の方に党員になって頂いたのです。獲得党員は微々たるものだけど、問題視されたことはありませんでした」
またお隣、三重県内の元党員は「50人という党員ノルマを指示されましたが、後に三重の独自ルールだったと知りましたよ」と耳打ちする。この通り、党員ノルマ基準が曖昧だからルールを厳格化し通知してきた。だが裏返せばそれまでいかに杜撰な状況だったことか。「身を切る改革」にも通じる話だ。
この辺りが維新はガバナンスが効いていないという証左だろう。鷲見氏の疑念は収まらない。
意見をしても 幹部が「大阪はそんなこと してへん」と封殺
行政、一般企業、政党も同様に真面目に向き合う人ほど馬鹿をみるという構造は本件にも当てはまることを痛感する。
「アイツは元反社」「元前科者」
驚くなかれ。特に関西の維新議員にはこの手の人物が存在する。だがごく普通に党員として活動しているし、中には役員に就く人物もいるのだ。そうした中、鷲見氏はまだ議員ではないが、むしろ現職よりも積極的に意見してきた。
「例えば電子メールのやり取りです。添付資料の中には重要な内容もあります。だから一般企業ではグループウェアを使うとか、あるいは最低限パスワードロックをかけるなどの配慮をします。維新の会に入って驚いたのは重要な書類を当たり前のように一般メールにパスワードロックすら掛けずそのまま添付したり、LINEに貼り付けて送ってくることです。国会で“情報機密を保護せよ”なんて議論をしているのですよ? 管理が甘いというレベルではありません。しかも困ったことには党本部(尾張旭市)は留守のことが多いのです。そこで共有カレンダー、月一度の定例会議、議事録を作成しましょうと、あらゆる提案をしてみました」
ところがけんもほろろな対応が待つ。
「浦野靖人代表や守島正副代表は“大阪ではそんなことしてへん ”とこんな風に大阪を持ち出し話を遮ってしまうのです」
実は、同様の経験を持つ地方の維新議員は少なくない。維新の勢力が弱い地域でせっかく当選した地方議員を簡単にポイ捨てする風潮を象徴している。結局のところ本音はいまだに「大阪維新の会」なのだ。要は最終的に大阪だけが残ればいいという思想が透けて見える。
反党行為はどちらか?
党員ノルマが未達で「反党行為」とされた鷲見氏。ならば先の岬氏をはじめ愛知維新の会の面々の行為はなぜ問題視されないのか。
反党行為的な人物は他にもいる。町長によるパワハラ、セクハラが発覚し辞任した東郷町長選をめぐり高橋道則町議は他党が担いだ元タレント・佐竹美紀氏の応援に回った。結局、佐竹氏の出馬は取りやめになったが、そもそも佐竹氏は維新公認でも推薦でもなく応援は党の方針ではない。
「高橋町議は一時は私にも協力してくれましたので、党員ノルマが足りないことも相談していました。
その度“ 私に任せろ”というのですが、その結果ゼロ。年末にノルマを相談した時も“ 私に任せろ”といってゼロ。挙句の果てに山下幹雄幹事長に叱られたから“ 党員獲得の手伝いはしない”といってきました。私に任せろというのは話半分だったから構いませんが、問題は東郷町長選の時です」
高橋氏の申し入れに愕然としたという。LINEでこんな依頼をしてきた。
今回の町長選挙で保守系の票を大量確保する為、維新カラーを隠してほしい旨、地元から話しが入りました。道路側の看板をズラしますので御理解願います
そこで鷲見氏はこう返答した。
承知しました。高橋さんのご自宅の敷地内なのでご自由にどうぞ。ですが、そうすると高橋さんは維新の看板を隠す=おろす?事になりませんか?私だけではなく幹事長にもその旨を伝えた方が良いと思いますので、私の方からも幹事長に報告しておきます
「驚いたのはその後の山下幹事長の対応です。この問題を私と高橋市議の個人的な問題としたのです」
反党行為を黙認したことにならないか。それに高橋町議のLINEで非常に興味深いのが保守票を固めるには「維新の看板」が邪魔と判断されたこと。つまり地元で維新は「保守政党」とみなされていないようだ。
結局、「愛知維新の会」という組織の体はあるが、内情はバラバラ。党ガバナンスという以前の問題かもしれない。特に新人にとっては奇異な集団に見えたはずだ。
「政治家を諦めた訳ではありません。子供を守り、家族の在り方は国家の基本だからこれからも頑張っていきますよ」
と強引な解任にも関わらず前向きな姿勢を見せる鷲見氏。だが当然、無念の思いもあるようだ。
「もともと入党した直後に例の岬議員のパワハラ問題を知ったのです。私は当事者ではないから事実は分かりませんが、総支部内では公然と話題になっていたのです。だから公になるのは時間の問題でした。公になれば大ダメージですよ。とにかく内々でも処分すれば被害者にも納得してもらえるし党の名誉も保たれます。それで対応を求めてきましたが、それが“ 反乱分子”のように判断されたことは残念でしたね。実は解任された7月23日、山下幹事長が初めてウチの事務所(日進市)に来ました。私はてっきり解任についての説明だと思いました。ところが“小村とはどんな関係なんだ ”という一点張り。提訴されまた大きく報じられたのがダメージだったのでしょうね」
結局、「党員ノルマ未達」で解任というのは明らかに疑わしい。鷲見氏の場合、さらに共同親権という問題が残るがここにも維新独自の「闇」があった。それは次回の話にする。
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