2016年に衆議院内閣委員長として「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR法)を強行採決させた秋元司衆議院議員がIR参入を狙う中国企業からの収賄容疑で逮捕。また日本維新の会・下地幹郎衆議院議員も中国企業から現金を受け取っていた。他にも中国企業との接触が報じられた国会議員が浮上し、巷では「カジノ疑獄」との声も挙がっている。正直、IRをめぐってはロクな話がない!というのが普通の感覚だろう。本当にこのままで大丈夫?
アジア人はギャンブル中毒のリスク高?
市民運動や野党にありがちな「なんでも反対」というわけではない。また保守層にありがちな「野党はパチンコを批判しない(在日コリアンが経営に関わっているという歴史的経緯から)」という議論をするつもりはない。とにかくかかる一切の予備知識や先入観を排除してもIRは慎重になるべきではないか。IR法制定以前、カジノ推進本部で安倍首相は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と述べ安全性を訴えた。しかし現段階でこれだけきな臭い話が飛び“カジノ規制 ”と言われても不安は払拭できない。
またすでにカジノを導入している国からもその危険性は見て取れる。その一つがまず韓国だろう。通常、韓国のカジノ施設は17か所中16か所が外国人向け(*小規模の施設を合わせると25~30という意見もあった)だが、同国江原道チョンソン郡にある「江原ランド」は韓国人も利用できる。もともとチョンソン郡は炭鉱の町だ。しかし廃坑に伴い、地元産業の代替案としてカジノ施設を誘致した。約4000人が関係施設で働くが、ざっと半数が地元住民という。このため雇用対策という点については成果があった、という見方もできるだろう。
ところがそれ以上の弊害をもたらしたのも事実だ。
「江原ランドの質屋」というのはすでに一部メディアで報じられてきた。つまりギャンブルに訪れた利用者が金に困り、例えば車まで質草にする。金が無くなり路頭に迷うと、元炭鉱労働者用の集合住宅に住み着く。このため相談所も設置されている。「潤ったのはカジノ業者とサアチェ(闇金融業者)だけ。町のあちこちに闇金のチラシが貼っている」と同地を知る韓国人は言う。
中にはギャンブル中毒として治療を勧めるケースもあるが、アル中や麻薬中毒者と異なり、表面化しないため対処が遅れる場合も少なくない。
糸数慶子元参議院議員が制作した『カジノの町はいま09』を見ると、地元業者のインタビューの中で興味深いデータが紹介された。
「アジア人の方がギャンブル中毒になりやすい。(カジノの利用者で)西洋人の場合、ギャンブル依存症の発祥は2~3%、中国人と日本人は6~7%、韓国人は8%だ」
と指摘していた。このデータからすれば日本人も依存症リスクが高いことが分かる。このデータがどれだけの医学的な根拠を持つか分からない。しかし先にカジノを導入した国の専門業者の発言だけに耳を傾ける価値があるはず。こうしたリスクが「世界最高水準のカジノ規制」によって抑制されるのかは不明だ。どちらにしてもカジノが持つ危険性と不安要素は残る。
若者の意欲を奪ったマカオのカジノ
またカジノと言えばマカオ。税収の約7割がカジノの収益と言われるからまさにカジノ大国だ。マカオのカジノの特徴としては性風俗とセットという点が挙げられる。その背景として大陸側から容易に往来できるようになり、中国人女性が大勢、出稼ぎにやってくるわけだ。
長らくマカオのカジノ産業はSTDM社(マカオ複合観光会社)の独占市場だったが、2002年カジノライセンスの解禁によって外資系企業も参入した。その一つがラスベガスサンズ。同社はトランプ大統領の肝いりで日本の首相ら要人にも紹介されたとは以前、報じた。外資カジノ企業がマカオに参入した結果、収益は上がったが市内の家賃、地価も上昇し、廃業する商店も出てきた。
従来から産業が乏しく「消費するだけの町」と言われたマカオだから、カジノ産業以外の雇用は脆弱。若者の就職活動も「公務員」が花形というのはマカオの現状を物語っている。それでもカジノに依存するのはもちろん雇用創出という点。学歴がなくてもカジノ産業で相応の年収を得られる。あるいは「庶民レベルの年金が約4万ドル(夫婦)」という経済事情も大きいかもしれない。日本円でおよそ500万円だから老後の生活資金という点では最低限の保証があるようだ。
ただ大学など高等教育を受けなくても、カジノ雇用という逃げ道があるということは、同時に産業のイノベーションも起こらないことを意味する。なにしろライセンス解禁によってカジノのディーラーなど雇用は豊富という。一方、意識の高い高校生は海外の大学進学を希望するため有能な若者たちが地元に残らない実態もある。こうした現象が近い将来、マカオに歪みをもたらすかもしれない。
横浜市の説明に対して紛糾
こうした海外の情報は一般メディアだけではなく、ネット上でもある程度、知ることができる。それに加えて国会議員と中国企業の癒着が発覚した以上、住民が不安になるのは当然だ。そこに今、IR候補地として名乗りをあげ紛糾しているのが横浜市だ。林文子市長の支援者、「ハマのドン」こと横浜港運協会の藤木幸夫会長がカジノ絶対反対を訴えたことも話題になった。
しかし当の横浜市側はIR実現に向けて住民説明会を実施している。
説明会では資料が配布されるのだが、横浜IRに反対する市民オンブズマンはこんな指摘をする。
「住民の間でも“ IRの経済効果についての資料がおかしい ”という声が挙がっているんです。一番、重要なところじゃないですか」
つまりこういうわけだ。配布された資料のIR効果という項目には訪問者数、経済波及効果、雇用創出、財政の改善の数字について「委託先の監査法人が整理、確認したものです」とした。
ところが同様のデータが掲載された『広報よこはま』(12月特別号)の注釈には「 委託先の監査法人が整理したものです」となっている。
より敏感な住民が集まる説明会では監査法人による数字の「確認」を強調する。しかし普通、一般市民はほとんど目を通さない広報にはただの「整理」とする。ただ整理したというのはすなわち概算や理論値を掲載したに過ぎない。とにかく見切り発車するために都合のいいデータを並べただけという可能性もありえる。本当に監査法人による数字の確認があったのか? これはまた別稿で追及したい。
推進派議員の逮捕に、悲惨な海外の状況、拙速な行政、とにかく不安要素が詰まった日本のIR。再検討する価値はあると思うが…。
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