本サイトで取り上げた広島市西区都町の改良住宅の駐車場管理を巡る裁判(広島地方裁判所民事第1部、担当:光岡弘志裁判官)で、新たな展開があった。原告被告双方が本人訴訟で進行する裁判であるが、駐車場管理組合の会計の実態を明らかにするという原告側の目的は達成されつつある。
裁判官の指示により、管理組合側の証言や関係書類が明らかになったことにより、会計帳簿は一切存在せず、収益や管理費用が個人口座に振り込まれていることが分かった。
また、裁判外で事実上明らかにされた駐車場利用状況の管理台帳からは、駐車場を転貸して利ざやを得る行為が黙認されている可能性が高い実態も見えてきた。
一人で何区画も契約は本当だった
今年の7月17日に会計書類等を開示するように住民が駐車場管理組合を相手に訴訟を提起し、8月22日、9月25日、10月23日、そして12月11日に口頭弁論が行われた。
駐車場の管理組合は「法人格なき社団」であり、それに対して帳簿類の開示を求めるという裁判の先行きは不透明なものであったが、裁判となれば組合側も応じざるを得なくなり、結果的に様々な実態が明らかになっている。
双方本人訴訟の裁判とはどのようなものかと興味を持たれる方も多いと思うが、答弁書はこのようなものである。裁判所が用意したテンプレに手書きしている。
そして、裁判所の書記官が法廷でのやりとりをまとめた調書を作成する。これは当事者なら裁判所でコピーできる。当事者が請求しない限り、裁判所が自主的に提供することはないため注意が必要だ。
裁判のやりとりの中で分かったのは、車場管理組合は自治会とは別で、規約上は駐車場収益の半分を自治会に寄付するということになっているのだが、実際は組合と自治会の口座が一緒になっている。会計帳簿は存在しておらず、駐車場料金は自治会の口座に入っている。市営住宅の指定管理者からは毎年26,800円が駐車場管理委託費用として振り込まれるのだが、なぜかそれは個人口座に振り込まれているとされる。そもそも会計帳簿が存在しておらず、今のところ通帳が開示されていないため、実際の金銭の流れは分かっていない。
しかし、自治会のような法人格のない団体相手に、つたない本人訴訟でも思い切って実行すれば、ここまで実態を明らかに出来るというのは、貴重な事例だろう。
これが駐車場の利用状況の台帳で、管理組合が裁判外で原告に提供したもの。x 6と記載されているのは、6ヶ月分をまとめて徴収しているためだ。一世帯で何区画も契約できるというのは事実である。
「その他」というのは必ずしも4台目という意味ではなく、個別の契約者の表には「地区外」とある。そして6区画も契約している人もいる。すると利用料はそれなりの金額になっているが、都町は広島の市街地の中心部に近いので法外な安さである。ネットで都町の月極駐車場の相場を調べると、例えば16,500円という金額が出てくる。すると、本来はこの4倍以上してもおかしくない。これは住民以外に転貸されている可能性が非常に高い。
問題の根源は公有地の無償貸与
今回の問題は根深く、落とし所を見つけるのが非常に難しい。問題の根本にあるのは、広島市が市営住宅の住民に対して公有地を駐車場として利用することを無償で許可していることによる弊害である。
国交省の平成3年4月1日住宅局長通達によれば、公営住宅の敷地は地方自治法第238条の4第4項による「目的外使用許可」により住民に駐車場としての利用を認めることが出来るという見解だ。しかし、それは無償ではなくて、自治体が相当な料金を徴収することが想定されている。無論、住民以外の者に駐車場を転貸するこなど論外である。
今回のケースでは実質的に市が住民に利益供与しているような状態になっている。例えば本来の駐車料金を1区画あたり月に1万円と安めに見積もったとしても、66区画ある駐車場の年間の収益は792万円が見込まれることになる。住民側が駐車場の修繕を行うにしても、それだけの費用がかかることはない。その差額が、市から住民に提供された価値だ。
公有地から利益を得るのであれば、不当利得とみなされる可能性がある。同様の問題は他の自治体でも起こっている可能性が高い。実際、本サイトで取り上げた「解放同盟三重県連委員長による伊賀市八幡町市営住宅駐車場収益横領疑惑」は、ほぼ同様の問題である。
そのことを是正することは、住民にとって不利益になってしまうというジレンマもある。不適切な状況で利益を得ているのは住民である一方、住民が住民監査請求等で是正を求めれば、市が直接管理して適正料金を徴収するということになる可能性が高いので、住民にとって負担が増える可能性がある。
正直者がバカを見ることがないように、全国の自治体で同様の問題が一律に是正される必要があるのではないだろうか。