天下の 朝日新聞『落日新聞』へ 転化の道⑥「ツキノワグマ遭遇」誤報記事は なぜ起きた?

By 三品純

朝日新聞サン大丈夫? このところ同紙の記事が失策続きだ。「灘高OBがサイトを開設」→本人取材ではなかった! ジャーナリスト・西谷文和氏が朝日新聞にアフガニスタン写真を提供→盗用だった! いずれの記事もSNS上で物議を醸し出し同紙はすでに該当記事を削除した。だがこの2本の記事よりもお粗末さが際立つのが富士吉田市・新倉山浅間公園あらくらやませんげんこうえんのツキノワグマ目撃記事ではないか。9月12日山梨県版「ツキノワグマ遭遇思わずパチリ」と題し掲載されたクマの写真はモンゴル人女性から提供されたというが、実は長野県庁提供によるもの。そればかりか過去、朝日新聞が紙面で使用していた写真だった。朝日新聞は9月14日、紙面上で「取り消し」と発表したが、ちょっと待ってほしいそれで済ませていいものか。

即座に誤報と発覚したツキノワグマ遭遇記事

朝日新聞9月12日号山梨面

「クマが出た」「クマと遭遇した」こうしたニュースにどれだけの価値があるか分からない。クマは危険な動物だから死傷事故ニュースになるのは分かる。それか北海道、東北一部地域で注意喚起の意味もあるだろう。だが単に「クマと遭遇した」という場合、娯楽性を帯びる。「お前、何なんだ!」 暗闇でクマと気付かず格闘(秋田魁新報9月18日)などは最たるもの。75歳の男性がクマと格闘し撃退したという内容だ。見出しからして“ウケ狙い ”がありありとうかがえた。「クマが出た」記事は報道機関の一種の「風物詩」「季語」といった類だろう。

その点、今回の朝日新聞9月12日、「ツキノワグマ遭遇 思わずパチリ」記事はこれほど誇大な扱いをする内容だろうか。クマ撃退系ニュースはしばし発生する。高齢者が素手でクマを撃退するのは確かに興味深い。ご本人にとっては恐怖体験だが一種の脱力系ニュースの雰囲気もある。

ただ朝日新聞の同記事は新倉山浅間公園(富士吉田市)の山中でフルーレ・ノミンさんというモンゴル人女性が撮影しただけの話。携帯電話にカメラ機能が搭載された時分ならばニュース性も分からんでもない。あえて同記事に価値を見出すならば望遠レンズではなくスマートフォンで成体クマを撮影できたことか。それにしても顔写真まで掲載するほどの話題なのか判断は難しい。

同記事はネット上でも配信されたが、瞬時に記事のクマ写真の“ 素性”が判明した。SNSユーザーらによるファクトチェックだ。

朝日新聞が2020年10月26日に報じた「クマに死んだふりは有効か 8回襲われた専門家の教え」で掲載されたクマ写真と同一のものであることが判明。しかも「長野県提供」とある。長野県から提供された写真を昨年、掲載し今回、市民から提供を受けた写真として掲載した―――誤報としてもあまりにレベルが低い。

朝日新聞の代表的な不祥事としてKY事件こと「朝日新聞珊瑚記事捏造事件」(1989年)がある。アザミサンゴに刻まれた「KY」という落書きを問題視した記事だが、実は朝日新聞カメラマンの自作自演だった。当時、環境問題の高まりを受けて「啓発」の意味合いがあったのだろう。朝日新聞に限らず反権力を掲げるマスコミには「報道のためなら違法行為も許される」という行動原理がある。おそらく当該カメラマンも同様の意識だったとみられる。

ところが9月12日、ツキノワグマ遭遇記事には新聞社臭い「啓発」「説話」「演説」もない。強いていえば「注意喚起」程度の話だろう。写真も昨年の記事と同一のものであるのは明白。瞬殺的に誤報と発覚した。9月14日、朝日新聞は紙面、ネット上でお詫び記事に至る。

さてお詫びが掲載され記事も撤回されたわけだが、疑問は尽きない。特にフルーレ・ノミンさんという女性の存在を疑う声は強い。記事は誤報ではなく「創作」と疑念を抱くウォッチャーも少なくない。

過去、朝日新聞が掲載した写真をなぜノミンさんが提供したのか。この流れも妙だ。

長野県庁ジビエ振興室「誰でも使っていただける写真です」

長野県庁林務部森林づくり推進課鳥獣対策・ジビエ振興室提供

県庁、市町村から写真を提供してもらうことは著者も経験がある。過去例をお話すると「琵琶湖の外来魚駆除」「日本海側の漂着ごみ」などだ。この場合、情報開示請求といった面倒な手続きではなくおおかた担当者に依頼して「情報提供」という形で入手できる。いわんや新聞社ならより手慣れたものだろう。

ではこのクマの写真はマスコミ以外でも提供されるものなのか。長野県庁に尋ねると担当部署は「林務部森林づくり推進課鳥獣対策・ジビエ振興室 」だった。担当者は「提供可能」とした上で、当初はメール等で写真を送付するという方法になった。ところが後日、同室から連絡があり「県庁HPで公開されている写真なのでスクリーンショット等で使用してください」との説明を受けた。

同ジビエ振興室のページに長野県に生息するのはツキノワグマです。どんな姿でしょうか。としてPDFで配信されていた。同室によると公開されている写真だから誰でも使用できるという。また朝日新聞には抗議の予定もないとの説明だ。

「長野県に生息するのはツキノワグマです。どんな姿でしょうか。」より。問題の写真は上段1枚目。

一般市民でもアクセスでき、そして使用可能な写真が新聞に掲載される? 『いらすとや』状態である。購読料を要する新聞に掲載される意味が分からない。

次なる疑問は新倉山浅間公園付近にクマは出没するのか。またフルーレ・ノミンさんは実在する人物なのか、だ。なにしろサンゴに自作自演で傷をつけるメディアだ。「フルーレ・ノミン」という架空の人物を作り出した可能性も排除できない。 そもそも新倉山浅間公園周辺、または富士吉田市内でクマの目撃情報とはどの程度あるのか。現地に行ってみた。

トイレにまで注意ビラが。

新倉山浅間公園駐車場に行くと9月12日の記事でインタビューに応じていた駐車場管理人氏がいた。同氏によれば「フルーレ・ノミンさん? 実在する方ですよ。市長さんが“ クマが出たから観光客に影響があったらどうするんだ”と怒っていたけど大丈夫ですよ。こんなふもとでクマが出没することはありません。生息しても相当、山奥の方じゃないかなあ」という。

新倉山浅間公園は桜の名所であり、また富士山が一望できる展望デッキがある。シーズンになると桜をバックに富士山を観望できることで人気スポットなのだ。それから新倉山の中腹にある忠霊塔まではウォーキングコースとして市民に親しまれている。長い階段もあるため中高年の運動にはちょうどいい。

展望デッキからの富士山の眺めは素晴らしい。

登山中の地元夫妻の話。

「朝日新聞の誤報は知っているけど、クマなんて出るのかなぁ。というのは富士吉田はクマが出没すると防災無線が鳴るんですよ。ところが最近、ほとんど聞いていません」

またクマよけ鈴をつけたトレッキングポールを持ち登山中の女性は「クマはいる派」だ。

「大人のクマじゃないけど、小さなクマが木登りして遊んでいるところなら写真を撮影した人はいますよ」

各所にクマ出没を注意する看板が設置されていた。管理者側としても「クマはいる」という認識なのだろう。ただ人を襲うほどの成体クマが生息するのかは不明だ。

一方、フルーレ・ノミンさん情報について有力な手がかりはないが、ただ心当たりがあるという利用者によると「新倉山をウォーキングするグループがあるんですよ。ノミンさんはそのメンバーの一人です」ということだ。フルーレ・ノミンさん実在が濃厚になってきた。

ノミンさんが朝日新聞記者にデータを丸ごと渡していた

新倉山浅間公園での取材で得た結論としては「クマは生息するが写真(記事に掲載された)ほどの大きな成体の目撃例はない」といったところだろうか。では富士吉田市内ではどの程度、クマの出没情報があるのか気になる。

同市農林課に質問したところ「クマの出没データは県が管理しています。ただ防災無線でクマの出没をお知らせしたのは今年度実績だと7月18日、7月29日の両日です」と説明した。目撃情報は市民から市への通報、また市民から警察→市役所、市民→市役所→警察という流れだそうだ。その上で防災無線を鳴らすが、もちろんクマを目撃しても通報しない市民も存在する。だから防災無線2回以外でもクマの出没はありえただろうが、ただ富士吉田市民を恐怖に陥れるほどの目撃例はなさそうだ。

目撃頻度は少ない、また出没してもあの写真のような大きな成体の目撃例は乏しい。そんな中でもしあのクマ写真をノミンさんが撮影したならば確かに快挙だ。一体、どういう経路でノミンさん→朝日新聞記者に渡ったのか不思議である。

市関係者はこう明かす。

「朝日新聞記者がフルーレ・ノミンさんが参加する登山グループに接触したところノミンさんから“ 複数のクマの写真がある”と申し出を受けました。ただ写真は複数あるため記者が“私たちで選びたいので画像データを全て送ってもらえないか ”とノミンさんに依頼したのです。それで画像データ一式を朝日記者に送ったところよりによって、あの長野県提供のクマ写真を選んでしまったのです」

ではノミンさんはなぜあのクマ写真を保存していたのかそれも疑問。

「なんでも立派なクマの写真だったから自分で楽しむために保存していたそうですが」(同前)

個人的に楽しむためならより状態の良いクマ写真はいくらでもあるはず。長野県庁がPDFで公開した画像を保存したのは著作権フリーということだろうか。にしても解像度が低いあの写真を保存しておく意味が謎である。

ぜひノミンさん自身に話を聞いてみたいがなにしろ有力情報がない。唯一の手がかりは「富士河口湖町の有名なホテルに勤務」という証言しかない。とりあえず時間も限られているので富士吉田市を後にした。

ホテル側「個人情報なので本人につなぐことはできません」

今回のクマ誤報について朝日新聞はどう答えるのだろうか。「長野県HPで公開済みの写真だがノミンさんからはどのように入手したのか」「西谷文和氏の提供写真も他メディアからの盗用だった。なぜこうしたミスが続くのか」「誤報についてどのような検証をしたのか」などの質問項目を同社広報部に送付した。すると

まとめて回答いたします。実在する女性が提供してくださった写真を弊紙に掲載しましたが、その写真が長野県から弊紙も過去に提供を受けたものと同じものと判断しました。掲載にあたり、確認が不十分でした。女性がこの写真をどのように入手されたのかは確認できておりません。写真に関する一連の問題へのご指摘については真摯に受け止め、今後はこのようなことがないよう、提供写真の確認を徹底して参ります。なお、取材先とのやりとりは平素から公表しておりません。どうぞご理解のほどよろしくお願いいたします。

との回答。おそらくこうした不祥事の場合のテンプレートに近い内容だ。またフルーレ・ノミンさんの勤務ホテルも判明。事情を聞こうと富士河口湖町船津のKホテルに連絡してみた。担当者にフルーレ・ノミンさんに話が聞きたいと依頼してみたが―――

「個人情報についてはお答えできないことになっています。本人につなぐことはできません」(担当者)

ではフルーレ・ノミンさんの承諾を得た上で連絡をもらうという形はどうか? と依頼を変えてみた。

「申し訳ありませんが、それでも個人情報に関わることなので連絡はできないと思います」(同)

ということだった。

もちろん犯罪でもないし、朝日新聞の作業体制に問題があるだけなので彼女の責任を問うつもりもない。ただこのような場合、どう記者と接触し、どのように流れで情報を提供したのかぜひ聞いてみたかったので残念だ。当初は、ノミンさん自身、「架空の人物」と勘繰ったが、一応実在する人物なのはお伝えしておく。

クマが出た出た記事はなぜ定期的に報道されるのか

それにしても朝日新聞に限らずなぜ定期的に「クマの出没」は記事になるのだろう。先述した通り、死傷事故でもない限りクマ出没は一種の娯楽記事という意味合いがある。だがどうやら新聞社特有の事情があるようだ。その答えは朝日新聞を代表する記者、本多勝一氏の著書『事実とは何か2』(未来社)で読み解ける。本書の中で本多氏はジャーナリスト、小和田次郎氏と対談したが、その中で小和田氏が語る朝日新聞出身のジャーナリスト、酒井寅吉氏のエピソードが面白い。

小和田 そう、酒井はいわゆる横浜事件関係者として敗戦前年の一九四四年六月、『朝日』の宿直室でつかまった。その酒井が『ジャーナリスト』という本で、自分の伝記みたいなものを書いているんだが、その中に、デッチ上げの記事を書いたおもしろい告白があるんですよ。昭和八年に、早稲田を卒業してすぐ入社して、長野支局に行ったんだ。その長野で毎年夏になると「戸隠山にクマを出す話」というのがあるんですよ。とてもおもしろい話でね。夏はニッパチ(二月、八月)、夏枯れでニュースがなくなるでしょう。だから記者クラブの誰かが、「また戸隠山にクマを出そうよ」って言い出す。恒例になっているわけだね。そうすると、恐らく幹事がスラスラとモデル原稿書くわけだろうね。翌朝の新聞にこんな記事が出る。「×日×時×分ごろ、××村字××地先××番地××××さん方の畑に目方五〇貫の大熊があらわれ、これを発見した同村××××さんの急報で直ちに消防団、青年団など百五十名余名がこの熊を包囲したが×時×分ついに取り逃がした。今後のクマの対策について同村××××村長は次のように語った。・・・」ざっとこういった全くのつくり話記事が、朝刊各紙に三段見出しぐらいで載るというわけだ。酒井は「こんな記事なら、誰の名誉を損なうものでもなし、人畜に害があるわけでもないからよい」というように書いている。

どうやら戦前からクマ出没記事はニュースがない時の「穴埋め」の意味があった。ただクマが出没では面白くない。加えて今のご時世、架空のクマ話を書く訳にもいくまい。そこで高齢者が素手で撃退した、スマホで撮影できた、こういう味付けをしながら伝統のクマ出没記事を継続しているのだろう。戦前から続くとなると、クマ出没情報は一定量のニーズと読者層があるかもしれない。おそらくフレール・ノミンさんの目撃情報も伝統のクマ出没記事の延長、応用版であろう。

小和田氏は「クマ出没記事」を“人畜無害ニュース ”と論じた。なるほど言い得て妙。町にクマが出て人を襲わない限りは微笑ましい記事として紙面が埋められる。写真付きならなお関心を集めるというわけだ。

結局、今回のツキノワグマ遭遇誤報記事の正体は戦前から続く新聞社の伝統芸といえる。そして今後も続くことだろう。

ただしこの一件を伝統芸で済ませるわけにはいかない。

結論から言えば「市民から提供を受けたクマの写真が本人撮影ではなく、なおかつ過去掲載した写真だった」という話に過ぎない。

トラブルの概要だけ見れば実にくだらない話だ。ただ誤報、ミス、取り消しでは許されない。なぜならここ数年、新聞社とりわけ左派色が強い新聞を検証していると「政治批判」あるいは「反戦、人権、環境」こういった左派色が強い主張をするためなら誤報も不法な取材も許されるという風潮を強く感じる。

今回、対象が存在しないクマだったという話。しかしこれが政治、事件、あるいはイデオロギーを含む問題だったらどうだっただろう。仮に誤った情報、それも写真込みで印象付けてしまえばその後は謝罪してしまえばいい。誤報したところでペナルティなどないし、被害側による名誉棄損というのも相当ハードルが高い。政治家、企業、団体の場合、抗議をすれば“圧力”として活動家肌の他紙記者や座付き学者が騒ぎ出す。逆に誤報の被害に遭った側が「悪者扱い」になってしまう。

ところが問題は誤報によって生じる被害についてマスコミ陣営はまるで無自覚だ。そして相変わらず続く冗長な演説記事と特定団体、特定活動家の主張の垂れ流し、逮捕後のメディアスクラム、そしてニュース不足になれば伝統芸のクマ出没記事。

それも悲しいことに過去、行政から提供され掲載した写真を、市民が撮影した写真として再掲載するという荒業。チェック体制自体も機能していないならばいよいよ「落日新聞」は現実味を帯びてきた。

天下の 朝日新聞『落日新聞』へ 転化の道⑥「ツキノワグマ遭遇」誤報記事は なぜ起きた?」への2件のフィードバック

  1. 白山のび太くん

    はぎうだ光一の永田町見聞録(※2021年10月01日の記事より抜粋)
    ■岸田新総裁誕生
    (略)
    永田町は人事が始まりにぎやかです。本日、党では新執行部がスタートしました。昨日夕刻には朝日新聞の誤報で「萩生田官房長官」がネットに配信され、仕事ができないほど皆様からお祝いの電話やメールをいただきました。私自身は何も聞かされておらず、その後、松野さんの内定が報道されました。わざわざご連絡をいただきご心配をいただいた皆様には結果として大変ご迷惑をおかけしました。通常は裏どりと言って本人等に確認するのが常識です。しかし、私の部屋に来た同社の記者にも「何も聞いてない」と申し上げましたがおかまいなし。
    本日、社の政治部長が謝罪に来ましたが日本を代表する大新聞、もう少ししっかりしてほしいものです。(珍しく素直にお詫びの文章まで持参されましたので記念にアップしておきます。)
    因みに私自身は文科大臣室の荷物の片づけは終わりましたが、未だ何も言われておりません。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      ありがとうございます。
      萩生田さんの話は知りませんでした。
      どうしてこんなに不遜でいい加減な仕事ができるんでしょうね。

      返信

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