朝日新聞の個人情報紛失は
「紛失」なのか!?

三品純 By 三品純

朝日新聞は9月8日、東京本社の記者が業務用パソコン、記者腕章、社員証を紛失したと発表した。これだけ見れば社内事情に過ぎないが問題は「個人情報」である。パソコンに朝日新聞が運営に関わるシンポジウムの申し込み者、約1900人分の個人情報が入っていたためこんな対応になった。本紙やWEB上でお詫び記事が掲載された他、申し込みをした人にはお詫びメールを送付。実は何を隠そう著者もその一人だが、特に実害もなければ怒る話でもない。しかし朝日節的に言えばちょっと待ってほしい“個人情報の紛失”というのは早計ではないか? と思うのである。

8日20時頃、朝日新聞広報部名で「【おわび】11月9日のシンポジウム申し込み者情報の紛失について」と題したメールが送られてきた。11月9日のシンポジウムとは「朝日新聞×ニューヨーク・タイムズ 提携90周年記念シンポジウム~激変時代の羅針盤 社会とメディアはどう動く~」のこと。文面はこの通りだ。

シンポジウムに申し込んでくださったみなさまへ
朝日新聞社

平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。この度、「朝日新聞×ニューヨーク・タイムズ 提携90周年記念シンポジウム~激変時代の羅針盤 社会とメディアはどう動く~」に申し込んでいただいたみなさまの個人情報(氏名、住所、メールアドレス、生年月日、お勤めか学生かなどの属性、性別)の入ったノートパソコンを弊社社員が紛失していたことがわかりました。現在のところ、紛失した個人情報による被害は確認されておりませんが、みなさまには多大なるご迷惑とご心配をおかけしますことを、深くお詫び申し上げます。紛失した個人情報が悪用される可能性もあることから、弊社では警察に届け出、相談しております。つきましては、今後しばらくは、不審なメール等にご注意いただき、お気づきのこと、その他お問い合わせ等がございましたら、恐れ入りますが、下記までご連絡くださいますよう、お願い申し上げます。まずは取り急ぎ、個人情報紛失の状況についてご報告申し上げます。大変申し訳ありませんでした。この件に関するお客様からのお問い合わせは、弊社広報部とお客様オフィスで承ります。

朝日新聞社広報部:03-0000-0000 専用メールアドレス:****@asahi.com
お客様オフィス:0570-05-7616 (平日9~18時、土曜日9~17時、日・祝休み)

朝日関係のシンポジウムはこんな風に案内メールがくる。

朝日新聞は定期的にこのようなシンポジウムを企画している。政治経済、国際問題、文化、環境問題などジャンルは問わず各界の著名人やキーパーソン、注目人物が講演するので関心が高い。今年は9月下旬に「朝日地球会議2018」が開催され、小池百合子東京都知事や野田聖子総務大臣(当時)らが名を連ねた。有料のシンポジウムも開催されるが、今回は無料。参加希望者は専用の申し込みフォームに登録した上で、希望者が多い場合は抽選となる。過去もかなりの高確率で抽選に漏れたから人気があるようだ。

申し込む際の個人情報は住所、氏名、電話番号、メールアドレス、職業(職種からの選択)といったものだ。いわゆる「センシティブ情報」ではない。仮に第三者に知られ営業電話やDM、あるいはスパムメールが来たところで無視すればいいだけ。またこのことが「実害」とは言い切れないし、朝日新聞の紛失と因果関係を証明するのは困難だ。あるいは第三者にシンポジウムへの参加希望が知られたとしても別段、恥ずかしい話でもない。

ただ腑に落ちないのは同社が個人情報の「紛失」としたことだ。個人データを紛失しているならばそもそも「お詫びメール」を送付できない。記者のパソコンにエクセルなどで一元管理されてそれを無くしたならば「紛失」だろう。今回は専用の申し込みフォームがあるからクラウド管理されていたと思われる。管理状況が悪く不正なアクセスで申し込み者の個人情報が盗まれた事案でもない。パソコンを無くしただけで、まだ個人情報が流出したわけでもないのに、ナーバスすぎる対応ではないか。なにしろ「個人情報」というだけでまるで「親の仇」とばかりに怒り出す風潮。「社会の木鐸」を自負する新聞社だからこそ、どっしり身構えてもらいたいところだ。しかし後になって発覚するよりも先手を打ってお詫びをしておこうという方針だろう。お詫びメールに掲載されていた広報部に事情を聞いてみた。

――シンポジウムの申し込み情報の件でお詫びメールを頂いた。全く気にしてないが、個人情報の「紛失」という表現に違和感を覚えた。

このたびは誠に申し訳ございません。担当の記者が個人情報の入ったパソコンを電車に置き忘れて、誰の手に渡った状態か分からないので「紛失」とさせて頂きました。まだ実害などは報告されていませんが、こういう事態は弊社として早めに発表するのが原則だからお詫びをメールをお送りして、お詫び記事も掲載させて頂きました。

――個人情報を紛失したならメールが送れないはず。正確には紛失というよりも記者さんの管理ミスという気がするが。

確かにその方が実態に近いですね。ただやはりパソコンが見つかっていない以上、「紛失」としています。なぜ記者のパソコンに個人データが入ったかと言うと、この記者はシンポジウムの運営に関わっており、準備作業の関係からデータが必要でした。このため個人のパソコンにデータをダウンロードしていました。

――例えば参加者名簿の作成だとか?

おっしゃる通りです。もちろんデータを取材に活用するだとかそういうことではありません。あくまでシンポジウムの運営上で使わせて頂きました。

――やはり抗議はきた?

はい。何件かとは申し上げられませんが、私が受けただけでも複数ございました。

――むしろ記者腕章や社員証を無くした方がダメージが大きいような。

そのことも社内では問題になっております。

やはり「紛失」とはやや異なる印象だ。ただ何しろ個人情報には厳格な時代だから、「紛失」として先んじてお詫びしたわけだ。広報部の担当者は平謝りで気の毒でもあったが、なにしろ普段、朝日新聞自身も他社が「個人情報」に関わるトラブルを起こせば大きく報じるわけだから、お互い様といったところか。

しかし担当記者にすれば今頃は針のムシロのはず。参加者の個人情報だけではなく、本人の個人情報に関わる記者証を無くすというダブルパンチだ。なにしろ記者腕章は記者にとって必携アイテム。命同然の商売道具と言っても過言ではない。これがあるから新聞記者は一般人がアクセスできない施設、エリアに立ち入れる。加えて社員証を無くしたことの方が「個人情報」的には実害がありそうだし悪用の恐れがある。

何卒、寛大なる処分を、と願うところだがペナルティは免れないだろう。

(追記)

11月13日に朝日新聞から報告メールがあったので追記しておきます。

シンポジウムに申し込んでくださったみなさまへ
朝日新聞社

平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。先日、「朝日新聞×ニューヨーク・タイムズ 提携90周年記念シンポジウム~激変時代の羅針盤 社会とメディアはどう動く~」に申し込んでいただいたみなさまの個人情報の入ったノートパソコンを弊社社員が紛失していたことをお伝えしましたが、本日、ノートパソコンの入ったかばんが見つかったと警視庁から連絡があり、弊社社員に返却されました。弊社社員は6日朝にノートパソコンの入ったかばんを電車内に置き忘れましたが、昼過ぎには駅員が見つけ、本日まで鉄道会社の忘れ物取扱所で保管されていました。返却されたかばんには現金なども全て残っていました。弊社の情報セキュリティー部門でノートパソコンを確認したところ、不正にアクセスされた痕跡はなく、現時点で情報流出の可能性は極めて低いと判断しております。みなさまには多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、改めて深くお詫びいたします。誠に申し訳ありませんでした。個人情報をこうした形で持ち出して紛失したことは極めて不適切でした。以後このような事態が発生しないよう、関係者への調査を進め、改めて管理体制の点検・整備と再発防止に取り組んで参ります。情報流出の可能性は極めて低いのですが、万が一に備えて、引き続き、不審なメール等にご注意いただき、お気づきのこと、その他お問い合わせ等がございましたら、恐れ入りますが、下記までご連絡いただきますよう、お願い申し上げます。この件に関するお客様からのお問い合わせは、弊社広報部とお客様オフィスで承ります。

 

朝日新聞の個人情報紛失は
「紛失」なのか!?
」への2件のフィードバック

  1. 通りすがり

    誰もコメントしていないから、あえてコメントしますけど。
    電車に置き忘れたなら、なぜ、いの一番に電車の運営会社に問い合わせしなかったんでしょうか?
    弊社社員には、それがとても大事なものという意識がなかったんでしょうか?信じられません!
    この前、定期券を道で拾ったので、所有者に連絡したらとても感謝された。八方手を尽くして探す姿勢がこの弊社社員にはないんですね。どーいう神経ですか?
    これ、公務員だったら、当然処分です。それを発表するトップは記者会見で弊社記者にフクロですわ。

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    1. 三品純三品純 投稿作成者

      アナログなその昔、新聞記者や出版社の編集者は新卒時代に原稿を電車の網棚に置くなと
      教えられたものです。電子化時代になり原稿や資料を紛失するリスクはなくなりましたが
      パソコンを無くすってのは不注意過ぎましたね。
      私も忘れ物が多いから我がこととして考えています。

      返信

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