日本三大中華街といわれる 横浜市中区山下町、神戸市中央区南京町、長崎市新地町は歴史があり観光地としても人気スポットだ。地域社会にも溶け込んでいる。それに対して各地で新しい中華街構想が浮上すると反発が起きるものだ。その背景としてはいわゆる「チャイナマネー」と一部政治家のごり押しによって進められる点にあるだろう。では西成で起きている中華街構想にはどのような問題が潜んでいるのか迫った。
西成のおっちゃんたちの遊び場が…
「ソース二度漬け禁止」。串カツ店のお約束である。さて中華街構想の話をするのになぜ串カツが出てくるのか不思議かもしれないが、実は密接に関わっている問題なのだ。話を進めよう。 特に「串カツ田中」の全国展開によってこの独自ルールは一般的になりつつあるが、もとは大阪・新世界(浪速区)が発祥地というのが通説だ。この周辺には大小、新旧の串カツ屋がひしめき合っている。センベロ(千円以内で飲める)ということから伝統的に西成の労働者や高齢者の憩いの場であったが、むしろ最近では串カツを目当てにした一般の観光客やインバウンドで訪れた外国人観光客が目立つ。このため明らかに“インスタ映え ”を狙った演出、メニューを生み出す店も少なくない。こういう店舗におっちゃんや労働者は不向きだ。居心地も良くないだろう。
串カツ屋という居場所を追われた“おっちゃん ”たちはどこに行ったのかといえば商店街に乱立する中国人経営の「カラオケ居酒屋」なのだ。最も有名な飛田本通商店街などここには10か所の商店街がアーケードでつながっている。そして地元関係者によれば商店街全体で約150店のカラオケ居酒屋があるという。特徴的なのは「看板が派手」「屋号が日本人女性名」「一曲100円」といったところだ。おおかた外から店内の様子が見えるが高齢者、労働者風の男性がカウンターにひしめき合って昼から一杯やりながら熱唱している。中にはごく普通の若者の姿も確認できた。若者たちにするとキャバクラやスナック代わりなのか。古参の飲食店経営者の話が興味深い。
「今まで串カツというとおっちゃんや労働者が長居して一人当たり3~4千円で3回転していたよ。ところが観光客になると一人2千円で10回転するんですわ。おっちゃんらやと話相手になったり、悪態ついたり結構手間がかかったけど、観光客だとそういうこともないしね。悪いけど観光客の方が正直、楽だし儲かりますわ」
もともと串カツ屋といっても観光客向けと地元住民向けの店舗があったが、なにしろ昔ながらの店舗に行列ができるほどだ。通天閣下のまるでアトラクションパークのような串カツ店におっちゃんが行くとは思えない。これでは従来のお馴染みさんたちの居場所がない。こんな訳で中国人のカラオケ居酒屋が注目されるようになった。もともと西成の商店街には日本人経営のカラオケ居酒屋が存在していたが、経営者の高齢化などで閉店してしまう。そこに着目したのが地元の中国人・実業家で不動産会社「盛龍」を経営する林伝竜さんだった。
商店街の空き店舗が増えたこと、遊び場を失った労働者やおっちゃんたちの受け皿として中国人のカラオケ居酒屋を考案した。林さんの管理物件を中心に中国人経営者たちが居酒屋を経営し始めた。なにしろもとのカラオケ居酒屋は高齢者の経営だが、中国人のカラオケ居酒屋は若い中国人女性が接客してくれる。これは労働者やおっちゃんたちには嬉しいことだ。
このところあまり西成で見かけなくなったが、一時期、労働福祉センター付近で若い女性がリアカーを引いて一つ1000円前後のお菓子を販売する業態があった。お菓子というのは「チーズケーキ」や「クッキー」などいかにも観光地のお土産にあるようなもの。食費も苦労する労働者やおっちゃんたちにすれば1000円は全く安くない。ところが面白いことに意外とお土産が売れた。当時知り合ったホームレスのアサノさんという男性は笑ってこう教えてくれた。
「女の子と話せるから買うんや」
なにもそんなくだらないものを買う必要はないと思うが、それも男の性だろうか。そこをいくとカラオケ居酒屋で千円あれば一曲ワンドリンクは楽しめる。若い女と触れ合うにはよほどコスパがいいというやつだ。西成の特殊な地域性を上手く活かした業態である。このビジネスセンスには正直、感心してしまった。商店街の店舗で聞き込みをしていると明らかに中国人と思しき女性が業務用の酒や食品を買いに来ていた。少なからず地元の商店街にもお金は落ちているようだ。
中華街構想の仕掛け人は中国人実業家
「林さんは最初、中華料理店を経営していたんだけど、一念発起して不動産会社を興しました。それで10年ぐらい前から空き店舗を購入してカラオケ居酒屋として貸し出すようになったんですわ」(地元商店経営者)
不動産事業で成功を収めた林さんは地元の活性化を目的に2017年、中国人実業家らと「大阪華商会」を発足させた。現在、西成の中華街構想は林さんと華商会が中心になって進めている。構想の青写真はこうだ。温泉娯楽施設「スパワールド」(浪速区恵美須東3)の南側、動物園前一番街商店街入り口を北門に東西約400メートル、南北約600メートルのエリアを中華料理や物産店などが集まる飲食街、ショッピング街にするというプランだ。大阪華商会が作成した企画書によるとそれぞれ東西南北の入り口に中国風の門を建設する計画もある。
今や西成には様々な国から観光客がやってくる。すでに爆買いブームは終息しつつあるが、それでも中国人観光客というのは多い。なにしろ南海やJRには大きなキャリーケースを持った中国人が続々と乗り込んでくる。こうした観光客も取り込みたいという思惑があるかもしれない。
活気がある商店街とはいえやはりシャッターが閉まった店舗が目立つのも事実だ。また活性化させたいのはもちろん日本人の商店街関係者も同じ思いだろう。かといって西成は特に中国文化との接点やゆかりはない。しかも現状、中国めいたものは「カラオケ居酒屋」だけである。中華料理店もあることはあるが、しかし中華街を形成するほどでもない。
参考の話になるが、東京・池袋も中国人が経営する中華料理店は少なくない。だから池袋にも中華街構想が浮上して反対運動が起きたこともあった。しかし当の中国人経営者ですら「池袋駅前に24時間の中華食材スーパーがあるから中華料理のイメージが強いんでしょ。だけど実際には中華料理屋は点在しているから中華街としてまとまられるとは思えなかった」と振り返った。
池袋ですらこんな反応だ。だから現状の西成の商店街に中華料理店が賑わい、中華風のオブジェが立ち並ぶというのはどうしても想像できない。
ところがこうした開発話というのは意外と当事者というよりも日本の政治家が食いつくもの。今回の中華街構想では複数の政治家の名が挙がったが、いち早く関心を寄せたのが大阪維新の会幹事長、日本維新の会副代表の今井豊大阪府議である。同府議については本誌読者の方ならかつての部落解放同盟組織内候補というイメージが強いかもしれない。また今井府議は大阪府議会日中友好親善議員連盟会長職も務める。いわゆる親中派政治家だ。今井府議は昨年9月の大阪府議会定例会でこう話を切り出した。
次に、日本最大規模と言われる大阪中華街構想について質問させていただきます。二〇二五年万博の開催なわけですが、この年に大阪中華街構想も具体化すると聞き及んでいます。中華街といえば横浜、神戸、長崎のイメージです。どの地域も観光名所となっておりますし、皆さん方も行かれたことがあるというふうに思うわけですが、例えば横浜中華街は、横浜観光客全体の五五%が中華街に足を運んでいる。平成二十六年度は約千八百万人が中華街に行ったと。あのランタンフェスティバルで有名な長崎でも、同様に四六%の観光客が中華街に足を運んでいる。これは、平成二十八年度実績で約三百三十万人が中華街に足を運んでいる。また、お隣の神戸の中華街は、神戸市観光客の四割が中華街を観光しているということを聞き及んでいます。
二〇二五年大阪中華街プロジェクトは、中国大阪総領事いわく-大使級の李天然総領事はこう言われています。大阪中華街を「今世紀最大と言われる規模の中華街となり、まさに日本一となります」、「新時代の多文化共生社会と地域経済活性化、関西経済の起爆剤にしたい」、あるいは「一流の料理人を大阪中華街に集結させたい」、あるいは「ほんまもんの中国料理を食べてもらいたい」というふうに語られています。
万博開催の二〇二五年オープンを目指した大阪中華街プロジェクトの主体は、天王寺に本部を持つ福建省経済文化促進会と、日本国籍を有する華僑・華人団体、そして在阪中国領事館と伺っております。 ところで、その内容なんですが、パネルを見ていただきたいんですが、ちょうど関西空港から電車で四十五分、神戸から三十五分、直線距離で一応十キロぐらいということで、万博開催地と中華街ということです。
場所は、このエリアにあります。天王寺・新世界エリア。エリア内は、南北に六百メートル、東西に五百メートル、総延長一・一キロメートルということで、見てもらうとわかるように、ちょうどスパワールドから南側が北門になります。この東西南北の入り口にそれぞれ中華門を整備する予定と聞き及んでおります。
中華街の内部では、演劇や雑技団の公演、演奏会などが公演される劇場、ショッピングや食事を楽しむなどいろいろな要素が盛り込まれると聞いております。既に空き店舗の商店街に公募を始め、半数以上が参加の意思表示とも伺っています。G20サミットまでに、その具体計画も明らかになると言われています。まさに、これも万博効果の一つではないかと思います。
そうしたことを考えると、大阪、関西の一大観光拠点となり得るわけでありますし、新しいにぎわいの創造拠点ともなり得るわけです。この件に関しまして、知事の所見をお伺いいたします。
この質問に対して松井知事(当時)はこう回答した。
「お示しの構想は、国内最大規模の中華街として、新しい関西経済起爆剤となることを狙いとしており、民間でこうした構想が進められていることは非常に興味深く感じております。この構想が実現すれば、大阪の新たな観光名所として国内外から観光客を呼び込むことができ、万博開催の追い風にもなると思うので、期待はいたしております。今後、民間事業者の創意工夫のもと、地域の皆さんと一体となって構想が具体化をすれば、府としてできることは何かを考えてまいります」
今井府議の質問によってマスコミでも中華街構想が報じられるようになった。ある商店街会長はこう不思議がるのだ。
「なんで貝塚市の今井さんが西成の商店街のことを、しかも府議会で取り上げるのかよう分からん。筋でいえば同じ維新なら辻(淳子大阪市議)さんがやるべきとちゃうの」
会長はこう続ける。
「商店街としては話はちゃんと聞きますよ、という態度。中国だからアカンということは言ってないしね。中国居酒屋もゴミ出しの問題とかいろいろあるけど話あって解決してきたから。で、地元としてはちょっと急な話すぎやしないかと意見が出ていたところ、柳本顕( 自民党元大阪市議)さんが間に立ってくれて昨年12月に説明会みたいなのをしたんや」
ご存じ通り柳本氏は先日の統一地方選の大阪市長選に立候補するも松井前知事に敗れ落選した。説明会では賛同する意見はほとんどなかったという。というよりも「できるとは思えない」(前出商店街会長)というのもうなづける。「とにかく降ってわいたような話で今井さんが質問をした後、大阪市の人がビックリして商店街に聞きにしたんだから。そりゃいきなり構想だ、プロジェクトやって見せられてもなあ」(前同)。
これは中国ビジネスにありがちな話だ。日本の場合、特に開発プロジェクトとなれば地域住民や関係者、関連団体へ根回しをしてプランを説明するものだ。しかし中国の場合、いきなりどんと構想をぶち曲げる。これはダイナミックなビジネススタイルと受け止めるのか、強引なフライングと考えるのかは難しい。しかしともかく大阪府議会で取り上げられた上、知事まで理解を示した以上、夢物語というわけでもなさそうだ。なにしろ中国側は大阪中国総領事館まで乗り出してきている。(次回へ続く)
維新がダメなところはこういう新たな利権に自分たちが関与することです。
既存の利権を打破するのはいいんだけど、今度は自分らの利権にしたい議員がいるというところ。
こういう議員は淘汰されるといいんですけどね。
今までの自公や解放同盟や労組の利権を打破したのはいいことですし、柳本氏が全然出来なかった西成の健全化に改善が出来てきているのはいいですね。
商店街は柳本支持ですから、こういう答えになるのはさもありなんですけどね。
インバウンドで、それまで常連客のみでしたが、外国人が新世界や商店街を訪れ儲かっていたんだけど、中華構想が出来ると死活問題ですからね。
外国人に来てもらうって発想の時点で日本がだいぶ落ちぶれてきてるなぁっていうのがわかる気がする
大阪民国と揶揄されるのもなんとなくわかる気がする
傍から見てて大阪という地域と住民がいいようにおもちゃにされてるなぁって思いました