保守派からのLGBT施策が 持つ意味と課題(後編)

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By Jun mishina

LGBTは同和と同じ道を歩んではいけない! 「LGBTの人権文化を育む2018」で自由同和会中央本部事務局長・平河秀樹氏が語ったことはとても意義があったと思う。またややもすると「LGBTは左翼の専売特許」というイメージを払拭させようとする諸氏の意図も理解できる。しかし同時に疑問点も感じた。後編は保守派がLGBTを考える意味と課題を検証していく。まずは平河氏の話の続きだ。

話は80年代。相次ぐ同和事業の不祥事を受け、平河氏が同和事業の正常化を模索していた頃だ。もともと同和対策事業特別措置法(同対法)は時限立法で期限→延長を繰り返してたのはご存知の通り。さすがに政府、自民党内でも延長に難色を示していたという。そこで延長の条件として平河氏に新しい団体の結成が求められた。そもそも延長が必要だったのか、という議論もあるがともかく平河氏らが「正常化」を目指したのである。ところが新団体を作るという情報が広まると「ヤクザ連中が派遣され鉄砲玉が飛んでくる」(平河氏)という状況だった。しかし粘り強く活動を続け、12県が賛同して自由同和会の結成に至った。これが認められ、1987年、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(地対財特法)が制定された。

話は同和と金の話にも及ぶ。「当時の同和融資は約1千万円くらい。延滞率が高かった。差別される要因が我々にあるなら自分たちで変えていこうと考えた。お金を返さない人と真っ向対決した。ある支部は“平河は県と一緒に借金取りをしている”と言った。はっきり言いましょう。部落解放同盟は会員を獲得するために施策を使った。差別を受けてきた贖罪だからお金を返さなくてもいいといって会員を獲得してきた。ある支部長は(融資の)手数料として3割を部落解放同盟に取られた。実際は7割しかもらってないが返さないといけないのか? と言った。私は“そうだ”と言った。こういうことを地道に続けていたら一般融資よりも同和融資の方が返還率が高くなった。部落解放同盟はこういうことをしない」

借りたものは返すのは至極当然の話。とは言え当たり前ができなかった時代の話だから大変な苦労だ。また同和事業で建設された公営住宅についても「改善事業で公営住宅が建ったが、同和関係者以外は入れなかった。ここ10年で一般住民でも入れるようになった。忌避意識が強いというが募集をしたら応募が20倍ということもある」と説明した。

おそらくここに集まった企業、行政は普段、人権関係の研修で真逆のことを教えられているだろう。果たして一同が平河氏の話をどう受け止めたのか分からない。しかし同和団体の幹部から過去の反省や実態とは異なる同和問題が伝えられたのは意義深いことだ。

「LGBTの運動も左派が活発に見えるが、同和運動を考えると解放同盟と同じようにしか見えない。これでは国民の理解は深まっていかない。タブー化させてはいけない」

こう締めくくった。性的マイノリティに同和事業のような莫大な予算措置が講じられた訳でもないし、同和よりも遥かに自立している。当事者からすれば同和などと同一視されたくないだろう。その点は申し訳なく思う。しかし「差別」と相手を吊し上げ、税金で「人権」が囲われるとどういう事態を引き起こすのかぜひ理解してもらいたい。何も体制に従順になれというわけではない。運動が過激化しても逆にマイナスだということは言っておきたい。

面倒くさいヤツになってはいけない!

LGBT施策はここ数年で一気に活発になり、全国の自治体に波及している。だが現状のままでは「同和化」するという危惧はよく分かる。おかしなことに本来、LGBTは「性的指向」にすぎない。それがまるで「団体」「勢力」であるかのような扱いを受けている。それぞれ異なる問題を抱えているにも関わらず「LGBT」というカテゴライズ。これは地域性、歴史などを無視して「同和地区住民」と定義付けられてしまったことに酷似している。「みんなちがっていい」と言いつつ、なぜ十把一絡げに「LGBT」としてしまうのだろう。実際に「LGBT」という言葉に舞い上がり、恩恵を被っているのは一部の議員、あるいはファッション、コスメのメーカー関係者だ。ところが現状のままでは性的マイノリティが面倒臭い人というイメージ付けをされてしまいそうだ。

海外の当事者はごく普通に国旗を振るが、ここで堂々と日の丸を振れない不思議。

レインボープライド、あるいは関連イベントには多くの外国人も訪れる。そして様々な国々の国旗が翻る。ところがここに「日の丸」が掲げられることの違和感。これがある。傍目にはLGBTの右翼と受け止める人もいるだろう。さすがに「弱者に寄り添う」と公言する左派の面々もおそらく訝しく思うはずだ。いやひょっとしたら「このホモ右翼」と罵声を浴びせるかもしれない。もちろんLGBTの個々人が右派左派、保守リベラルどちらを好むか。それは当然、自由。あるいは双方とも、あるいは政治自体に興味がないという選択肢もあるはずだ。

保守系、リベラル系、右派左派、無党派、政治的無関心、いずれに属しても個人の自由と権利だ。しかし左翼的、解放同盟的な運動スタイルを持つのは正直、メリットがないと思う。

同和、在日、沖縄基地問題、アイヌ問題、ジェンダー、様々な政治運動シーン。当事者でもなければ全く無関係の団体が権利闘争に加わることがある。その時、なんと主張するか? 例えば「沖縄も同和問題とつながっている」「基地問題と在日差別はつながっている」といったものだ。そうだろうか? 課題が異なるのになぜか彼らは便乗して闘争に加わる。この“つながっている系”なる面々の言い分。要は動員、あるいはトピックスになる運動へ相乗りする時のエクスキューズにすぎない。

しかしそうした声の大きな人々は「今なお根強い部落差別は存在する」と訴える一方で、それに付随する知識がない。つまり往々にして“隣保館ナニそれ?美味しいの?”状態だ。驚くなかれ。同和問題に関心があるという報道機関や研究者ですらこの程度のことはザラだ。つまり声の高さの割に関連知識が乏しいし、現状認識が足りない。しかもこの“つながっている系”の面々は「面倒臭い人」の正体でもある。そして面倒臭い人々の存在が人権問題をタブー化させてしまった。その枠組みにLGBTが組み込まれることは、理解促進どころか「やっぱりLGBTも面倒」という結果を迎えるだろう。だから平河氏を始め、LGBT理解増進会の危惧も痛いほど分かる。しかしそこに自民党という存在が加わると話は異なる。

LGBT版融和運動!? 意気込みは分かる、しかし課題も・・・

LGBTと日の丸が並ぶ。本会はとても珍しい光景だった。政権与党の政治家が並び、当事者や大手企業、行政も協力する。お世辞にも洗練されたとは言えないロゴもいかにも「保守派」的である。なんだろうこの雰囲気は? そう! まるでかつての「融和会」を連想させる。融和会とは戦前、平沼騏一郎元首相を会長として結成された「中央融和事業協会」のことだ。水平社以来、部落民たちが激しい権利闘争を繰り広げたのに対して、融和運動は部落民が一般国民以上に天皇、国家に忠誠を誓い、地位向上を目指すものだった。簡単に言えば保守系の穏健な解放運動。左翼系の水平社への対抗策であった。

融和運動下で作った枠組みがやがて同和事業に発展した。平河氏が問題提起をした同和不祥事の根源を辿れば同和対策事業特別措置法であり、同法を制定したのは誰でもない自民党だ。部落解放同盟と言えばもちろん解放運動とともに反天皇、反体制を訴えるが妙なことに体制側が作った制度に依存してきた。ご丁寧にもわざわざ「同和地区指定」を行い、「ここが部落でござーい」とおやりになったのは他でもない自民党そのものだ。

こうした過去がありながら、同和事業の問題点と自民党議員の前で言われても反応に苦しむ。「声が大きい勢力」は金や制度で黙らせるという自民党的な体質を総括しなければ”歴史は繰り返す”だけだ。「LGBTは左翼に取り込まれている」という以前に、こうした政治手法を反省すべきではないか。同和事業の悪用と言ってももともと自民党が何もしなければ起きなかったこと。もちろん水平社がやった暴力的な運動は残ったとしても、少なくとも「カネ」にまつわるトラブルがこれほど多発することもなかった。つまり左翼あるいは暴力団といった存在が便乗するレールを敷いたのは自民党なのだ。

だから自民党がLGBTに関わることで逆に左派が相乗りする制度が成立してしまうのではないか? 過去の失敗を見るとそう思わざるをえない。加えて本来、反体制を訴える側が「法律の規制」「警察に取り締まり」と体制側への依存を強めているのが現在だ。LGBTについても同様の現象が起きる可能性はある。むしろ自民党の介入はLGBT内の分断を招きかねない。もちろん取り組むこと自体は大切なことだが、自民党が行ってきた「過去」を検証してもらいたい。

そして保守派に求められるとすれば制度でも法案でもなく「寛容」の精神だろう。もはや右派・左派両陣営問わず、この「寛容さ」を失っている。だから「少子化につながる」「家族制度が崩壊する」と言ったお門違いの批判はもっての他だ。もし保守側がLGBTと向き合うというのならば、必要なのは法案でも制度でもない。むしろ「寛容の精神」「鷹揚さ」がLGBTを左傾化させない良策となるだろう。 *一部画像の記述に誤りがあったので削除致します。

フォーラムでの企業の取り組み紹介のスライド。「理解不足」という言い方も食傷気味。かえって反発を招く。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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保守派からのLGBT施策が 持つ意味と課題(後編)」への6件のフィードバック

  1. .

    質問ですが、灘本昌久は昔は解放同盟員だった、今は自由同和会の会員である、そう考えて宜しいでしょうか。

    返信
  2. .

    灘本氏の『ヒューマンジャーナル』の連載は面白いですね。特に1990年、京都部落史研究所で起きそうになった犯罪行為(公金の不正還流)の件が興味深いです。
    https://megalodon.jp/ref/2018-0622-1344-44/www.jiyuudouwakai.jp/human220.pdf

    同研究所に部落史編纂を依頼していた「京都府外のある市」の解放同盟市協が、900万円の借金を公金で穴埋めすべく同研究所に不正会計を依頼し、当時の所長がそれをあっさり了承した、とのこと。

    おそらく滋賀県近江八幡市のことでしょうかね。同研究所からは1995年に『近江八幡の部落史』が出ています。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      ありがとうございます。京都の取材をしているので参考にさせて頂きます

      返信
  3. 斉藤ママ

    「LGBT 公明党」
    「LGBT 創価学会」
    「部落解放同盟 公明党」

    あたりで検索をすると、普通の人が予測していない興味深いサイトが見つかります。

    LGBT権利団体は一橋大学をはじめ過激な訴訟をいくつか起こしています。
    票田ばかりでなく、弁護士の稲田議員は、心から応援したい団体であると感じています。

    返信