注目の参院選・和歌山選挙区、二階伸康氏が危うくなってきた。事前調査では二階家の政敵、世耕弘成衆院議員が推す望月良男氏優勢という結果が出ている。やはり〝二階派の番頭〟鶴保庸介参院議員の「失言」は自民への大打撃。また当初は泡沫候補扱いだった参政党・林元政子氏も着々と支持を伸ばしている。二階氏は終盤で巻き返すのか、二階王国の終焉か。
疫病神化した父の側近、鶴保参院議員

二階氏、そして自民党全体のダメージになった鶴保庸介氏の問題発言。
政治家の失言と言えばマスコミの「キリトリ」による作為的なケースが多々ある。鶴保氏のそれもキリトリには違いないが、正真正銘の舌禍だ。それは今月8日、和歌山市内で開催された二階伸康氏の応援集会で起こった。
当初の報道では「運のいいことに能登で地震があった」という発言だけが独り歩きした。一般的にもこうした理解だろう。
しかし実際はより筋が悪い発言だったのをご存じだろうか。鶴保氏は都市部と地方の2か所に生活拠点を持つ「2地域居住」を推進してきた。そして問題発言は2地域居住を説く中で起きたものだ。
「2地域居住は総務省が難色を示してきました。ところが能登半島地震によって図らずも2地域居住が復興プランとして採用されたのです。鶴保氏は〝運のいいことに地震〟や〝チャンス〟と発言しました。地震のおかげで政策が実現できたという趣旨だから、よりタチが悪いし被災者にすれば〝ふざけるな〟という思いでしょうね。しかも当日、鶴保氏は珠洲市を正確に読めなかったのも被災地を軽んじていますよ」(地元記者)
師匠の二階俊博氏は国土強靭化を掲げていただけに、恩師の顔にも泥を塗った格好だ。気の毒なことに伸康氏の失言ではないが、無関係という訳にはいかない。当然、二階陣営のダメージとなり支持率にも影響を与えたようだ。
それでなくとも鶴保氏には失点がある。和歌山選挙区には鶴保氏と内縁関係にあった実業家、末吉亜矢氏が立候補している。末吉氏は二階氏を脅かすほどの有力候補ではないにせよ、鶴保氏の元交際相手が対立候補というのはひんしゅくを買った。まるで疫病神と化したかのようだ。
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一方、世耕弘成衆院議員が推す前有田市長・望月良男氏は終盤で支持を広げた。公示前・前半戦は二階氏はダブルスコアで望月氏をリード。当初は次点が維新・浦平美博氏だったが、過去の暴行事件や筆者が報じた公選法違反疑惑の影響もあり急落。代わって参政党・林元政子氏が伸ばしてきた。
7月に入ってから二階氏優勢と報じたメディアはごく一部。各社が接戦とする中でFNN・産経新聞と毎日新聞が望月氏優勢と報じた。
「観測的な意味もあるかもしれませんが、7月11~13日の自民党調査ですら望月氏が25ポイント、二階氏が20ポイントですよ」(前出記者)
親中派の権化だった父・俊博氏、また世襲候補という点でも二階氏には保守層からも反発がある上、仲間の失言と好材料が全く見つからない。
二階氏の頼みは町村会
着々と支持を伸ばす望月氏は自民党の一部はもちろん、また立民・国民両党にも浸透している。気になるのは公明党の動きだが「この参院選は自主投票になりました」(同党関係者)という状況だ。
二階氏は公明票の2割程度しか取り込めていないという。
昨年10月の衆院選で世耕氏が近畿大学関係者の名簿を公明党に提供した代わりに、公明党からの協力を得たという内幕を報じた。
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無所属の世耕氏にとって公明党の協力なくして圧勝はなかっただろう。この流れで公明党票が望月氏に流れた可能性は大だ。また電力総連の組織内候補、片桐章浩県議が望月陣営に加わり、連合票も期待できる。
二階氏にとってプラス要素があるとすれば、県内の首長たちが応援してきたことだろう。首長たちの動向も興味深い。象徴的なのは望月氏の事務所が開設した直後に神出政巳海南市長が為書きを送ったが公示日に入ると外された。神出市長は反二階を鮮明にしてきた珍しい首長だ。


町村会の首長の大方が二階氏を推すというが、中でも由良町・山名実町長は主戦派と言える。
7月4日、同町長のFacebookが話題だ。

私は人を悪く言うのは好きではありませんが皆さんに事実を知ってもらいたくてFacebookに投稿させて頂きます。7月6日に世耕衆議院議員からこのような内容の電話がありました。いきなり、私に「動かないで下さい」「SNSの拡散はしないで下さい」「私らは必ず勝ちます」「これからの関係が大切でしょう」と、私はびびりました。私は悩みました。私は信念を持って伸康君を応援しています。望月候補との戦いの中で世耕議員からこのような電話が来ると言うのは脅しにあたると思います。動くなと言うことは選挙の自由の妨害にもあたると私は思います。このような事が許されるのでしょうか?由良町民の皆さんの為に黙っていたほうが波風を立てないほうが良いのではないかと悩みに悩みぬいた結果発表することにしました。私は不安で不安でたまりません。今打ってる手が震えています。私は脅しには屈しません。これからも伸康君を応援していきます。
山名町長が世耕氏からの圧力があったと訴えた。
また身内からも援護射撃があった。二階家長男・俊樹氏が今月2日、Facebookに「宮﨑知事は二階伸康を応援していない」 という根拠のないデマが出回っているようです」と投稿。

岸本周平前知事の急逝を受けて、今年6月に就任した宮﨑泉知事が二階氏支持から望月氏に鞍替えした。こんな情報が筆者の元にも伝わった。俊樹氏は火消しに走るが、宮﨑知事の二階離れがフェイク情報だとは言い切れない。
こういう話だ。宮﨑知事の後援会組織の主力はいわゆる「岸本党」である。岸本党とは故・岸本周平知事が国会議員時代からの支援者グループで非常に強い組織だ。岸本氏が衆院時代、自民党候補を退けてきた原動力が岸本党。知事選では宮﨑陣営の責任者を岸本党重鎮K氏が務めた。
岸本党は必ずしも自民党支持という訳ではなく、日本維新の会・林佑美衆院議員に票が流れたという経緯がある。仮に岸本氏が健在であったならば、二階氏を推したであろう。
岸本氏の知事選は二階俊博氏も望んだことであり、鶴保氏が選対責任者を務めた。岸本氏が県知事を退任したら、鶴保氏が知事を継ぐというプランがあった。
ところが岸本氏の死で状況が一変。鶴保氏が知事選へ鞍替えという可能性もあったが、自民党内からも拒否反応が強く白紙。そこで宮﨑知事が誕生したという経緯だ。宮﨑知事にすれば特に二階家に義理立てする理由もない。望月陣営になびく可能性は排除できない。
K氏を直撃してみると「知事や私が二階氏から離れた? フェイクですね(笑)」と一蹴した。
「そういう噂は私も聞いていますが、伸康氏を応援するというのは岸本さんの遺志です。本来は岸本さんが亡くなった時に事務所を閉める予定でしたが、参院選が最後のおつとめだと思ってやっています」(K氏)
だが岸本党の中にも少なからず世耕派がいることを指摘した。
「そういうこともあるでしょう。岸本党と言ってもガチガチの後援会組織ではありませんよ。岸本さんのファンクラブのようなものです。芸能人で言えば御三家(舟木一夫、橋幸夫、西郷輝彦)で舟木さんのファンに〝橋幸夫のファンになってよ〟と言ってもならないでしょ。昔から〝岸本周平の応援はするけど(他の選挙では)自民党だよ〟ということはありました」(同)
K氏は宮﨑知事も二階支持であることを強調した。それでもK氏の説明をそのまま受け止めることはできない。
「県知事選で宮﨑さんの当選が決まり万歳三唱をする場に世耕さんがいたのです。石田真敏自民党県連会長が挨拶をした後で、世耕さんがマイクを握りスピーチをしました。本来、あの場に無所属の世耕さんがいるのは異例のことですよ。世耕さんと宮﨑知事の関係を物語ってはいないでしょうか」(選挙通)
勝ち馬に乗るのか、義理か有力者たちも揺れている。だが知事、多くの首長が二階氏を応援したとしても現状の逆風を抑えることは困難だ。それに県内で二階家の威光が失墜しているのは明白である。
「昨年11月、二階俊博氏の側近だった冨安民浩県議が道路工事入札をめぐり地方公務員法違反で逮捕されました。二階氏が現役バリバリであれば、あの程度のことで冨安県議が捕まることはなかったでしょう」(県関係者)
二階陣営の関係人物らは主にFacebookで世耕氏批判を繰り広げるが、いかんせん内輪の〝恨み節〟の範囲を出ない。二階王国終焉の時が確実に近づいているのだ。