稚拙な脚本、雑な編集、撮影現場のトラブルなど今や令和の迷画になった『名もなき池』。監督の新原光晴氏が市に提出した経歴、実績も疑わしい。加えて当事者からはキャスティング権、人脈、編集スキルが皆無との証言が相次ぐ。これに本人はどう反論するのか。イロハ社が運営する板取川観光案内所で新原氏を直撃してみた。
シン・ベートーベン新原氏がいた!
【関市】映画『名もなき池』騒動 当初キャストは新東名事故〝お騒がせ芸能人〟の広末涼子だった!
【関市】映画『名もなき池』騒動② 撮影現場は監督交代とセクハラで混乱 市とイロハ社の癒着疑惑も!
【映画『名もなき池』騒動③】 関市と新原氏の癒着を暴く 観光案内所タダ貸し&約400万円随契の闇
大型連休の初日4月26日。快晴のこの日、関市板取の「モネの池」は多くの観光客で賑わった。印象的なのは若者の姿が目立つことだ。岐阜県全体を見てもこれだけ若者を惹きつける観光スポットが他にどれだけあることか。
池付近ではキッチンカーが営業を始めるようになってから以前よりも観光地らしくなってきたように感じられる。
「今日はまだ少ない方じゃないかなあ。5月の連休に入ったら駐車場待ちで車の行列ができると思いますよ」(キッチンカーのスタッフ)
このキッチンカースペースから道路を隔てて問題の板取川流域観光案内所SEKIMORIがある。イロハ社が経営していることは過去記事でもお伝えした。新原氏も店に立ち接客することがある。店の隣にイロハ社名義のミニクーパーが駐車してあれば新原氏がいるという合図だ。

訪問してみるとカウンター越しにいきなりあの御仁が――。
「監督? 新原監督ですよね」
「違います」
否定するがどこからどう見てもシン・ヴェートヴェンこと新原光晴氏だ。そして店の奥に去っていく。新原氏とのファーストコンタクトは一瞬で終わった。

店内には女性スタッフが1名。新原氏を呼んでもらうよう促したが「分からない」という。一旦、周辺を散策した後、もう一度新原氏を訪ねた。
今度は新原氏であることを本人が認めた。最初は手で「×」を作り言葉を発しなかったが、そのうち多少態度は和らいだ。「私からお話はできません。質問は弁護士を通してください。今、連絡先を印刷して持ってきます」と手渡してくれた。なぜ最初は新原氏と認めなかったのか聞いてみた。
「こういう時期ですしね。店先でしたから」
プロフィールなどでは気鋭のクリエイター風だが、土産店を営むごく普通の中年男性という印象だ。そんな彼が今、補助金返還をめぐり全国ニュースの渦中にいる。
新原氏にキャスティング権はない!
周辺住民は苦笑交じりでこう語る。
「自分ではないととぼけた? 少し前に元気なおばあちゃんが観光案内所に来て〝アンタ、何やっとんの。早く補助金返しゃー〟なんて新原氏にからんでいきました。そんな出来事もあるから本人だと認めなかったのでしょう」
補助金返還の期限日が過ぎても、関市側は期限を延長して返還を求める意向だ。市としても速やかに返還され幕引きしたいところだろう。仮に法的措置になった場合、市にとっても不都合な情報が公になるおそれがあるからだ。
それに元凶はイロハ社・新原氏に対する関市の甘い審査にあった。芸能事務所「タイタン」の太田光代社長が総指揮をとった『怪獣ヤロウ!』も関市映像作品撮影事業補助金の対象になった。『怪獣ヤロウ!』は大成功を収めたが、おかしなことに補助金審査では新原氏の企画よりも点数が低かった。
『怪獣ヤロウ!』の製作幹事社・(株)ファニーパンドラと差が開いたが「どう考えても『怪獣ヤロウ!』の提案の方が優れていたと思います。それから審査員に映画や映像の専門家を入れなかったことも失敗でした」(市関係者)と内部からも疑問の声が挙がっている。
審査については第1弾で検証したが再掲しよう。



審査項目のうち「監督、スタッフ、キャスト等の実績、知識及びノウハウ等は十分であるか」という評価ポイントはほぼ満点の58点。新原氏が提示した主要キャスト(予定)は永瀬正敏、柄本明、宮崎美子、広末涼子、前田敦子各氏。地上波ドラマでもあり得る陣容だ。
ただしイロハ社側は企画書に「*キャストスケジュール都合により変更になる場合がございます(原文ママ)」とした。この注意書きが通用するならば、どんな豪華キャストを挙げてもいいことになる。
例えば俳優の綾野剛氏、アニメ『鬼滅の刃』の主題歌を歌った歌手・LiSA氏ら関市出身の有名人も「出演予定」という提案もできるだろう。予定キャストであっても審査の高得点になるならばブラフでもいいわけだ。なので筆者は最初の提案を「見せ球」と評した。
しかし当初の予定キャストと異なるならば、一旦審査は取り消すべきではないのか。新原氏が先の俳優陣らから「内諾」を得た、あるいは人脈があるというわけでもない。
先に挙げた俳優陣の事務所に確認したところ無回答が続いた。しかし1社だけ「(新原氏からの)オファーはありませんでした。ただ一般論として映画やドラマの企画会議で〝こんなキャストでいきたい〟ということはあると思いますよ」と話す。
確かにTV局や映画会社でキャスティング権を持つプロデューサーや監督ならばそれもあり得るだろう。あるいは先の太田光代社長ならばそれだけの力量、人脈があるはずだ。
しかし新原氏にそのような人脈や権限があるはずがない。予定キャストというだけで加点されたのは手心や贔屓と思われても仕方がないことだ。
後に『名もなき池』で集まった出演者の多くは主演の伊達直斗氏の人脈によるもの。奇遇なことだが、伊達氏は静岡県熱海市出身。土石流事件にも心を痛め復興イベントを行った。筆者も土石流取材に関わったため伊達氏の活動はそれとなく耳にしていたものだ。
「伊豆山神社の奉納行事でも伊達さんは地元市議や俳優の半田健人さんを連れて出席されました」(熱海市住民)
伊達氏と半田氏は盟友だという。同じく本作に出演した宮川一朗太氏も伊達氏の俳優仲間。『名もなき池』のキャストは伊達氏の人脈がなくては集められなかったのだ。つまり伊達氏に丸投げ。新原氏にキャスティング権、人脈、編集能力は皆無である。『名もなき池』は失敗するべくして失敗したとしか言いようがない。
皮肉にも『名もなき池』騒動で関市が大々的に報じられ結果的に大きなシティプロモーションになってしまった。「宣伝費用と考えたら2千万円は安い」とはある市民の皮肉だが、実に痛々しい話。市長、そして担当職員たちは何を思うか。