鳩山由紀夫元首相が新党結成で政界復帰へ!? しかもその党名が「共和党」というのだから驚くほかない。10月25日、霞が関ビルディング東海大学校友会館で共和党主義宣言「次の日本へ」出版報告会および第1回共和党結党準備会を開催した。 鳩山が棟梁=代表、首藤信彦元衆議院議員が物差=党首、という執行部で新しい政治を目指すという。なにしろ鳩山氏と言えば「宇宙人」と呼ばれるなど奇行が目立つ。この肩書もなんだか不思議な空間を醸し出しているが、金もゆとりもある元政治家たちの優雅な戯れとしか思えないのだ。
日本で生まれた共和理念 ?
ご存知の通り、由紀夫氏の祖父、鳩山一郎元首相が1954年に「日本民主党」を結党した。その翌年、自由党との保守合同により「自由民主党」が誕生した。そして1996年に由紀夫氏が菅直人元首相らと旧民主党を結成する。それから1998年に新進党などの分裂諸党が合流して、新たに民主党が結成された。その後、2009年に政権交代を果たし、2016年に解散に至る。いずれにしても鳩山由紀夫が民主党の創設メンバー、中心人物であることは間違いない。鳩山一族にとって「民主党」とはある意味、象徴的な党名なのに、それが「共和党」というのだからごく普通の政治知識を持っている人ならば不思議に思うことだろう。
なにしろ鳩山元首相と言えば予想外の行動をする。共和党結成というわけだから、まさか全米ライフル協会と交流する? メガチャーチに通う? と思いきやアメリカの「共和党」が持つ意味とは違うようだ。
これを読み解くには鳩山と首藤の共著『次の日本へ 共和主義宣言』を引用しよう。
ここに、西洋列強にアジアの国が対抗する手段としての「富国強兵」路線が登場し、それに強く影響を受けた日本で、幕末から明治そして太平洋戦争に至るまで国家の針路を呪縛することになった。一方で、当時の世界地図「坤輿図識」は地理学者の箕作省吾(高名な洋学者箕作麟祥の父)が翻訳したが、その際にオランダ語のrepublick(レピュブリック)の翻訳に悩み、当世随一と言われた漢学者の大槻磐渓に相談したところ、「共和」を示唆された。それは孔子が理想社会とした古代「周」においても非道の王が出現し、彼が出奔し王が空位となった政治を、有識有力者が協力して国の統治にあたった時期があり、それを「共和」と称した故事によるものだった。世界地図においては 箕作省吾 はアメリカを共和政治州と紹介した。中国の伝説上の歴史期間が箕作等の手によって、新しい政体の意味を持った瞬間だった。
共和の「共」は古代の金文では大事なものを左右の手で支える姿を意味し、「和」は旗の前で平和を誓うことを意味する象形文字である。この幕末の日本発の発想が、やがて中国が清朝から近代国家への改革を目指す運動の過程で採用され、いつしか「共和」がアジアの新時代の政治システムとして中国そしてアジア諸国に伝播していたったのである。
共和という概念は日本人が作り出したと強調している。それから共和制と言えば君主制と対立する概念だ。講演に立った鳩山氏。「今日は天皇陛下が即位の礼を終えられて、饗宴の儀に参加してきた」と話を切り出したが、共和主義を掲げる鳩山氏が即位の礼に参加することなど言語道断では?
しかし事情は異なる。鳩山流の共和主義では「天皇制」も許容するという。
なぜ薩長藩閥政府は絶対君主としての天皇を必要としたか? それは共和制のように、天皇・朝廷をはじめ、さまざまな有識・有資格勢力が政権運営に参加するとなると、当然のことながら旧幕府勢力も政権運営に参加することになり、その結果、外様大名にすぎなかった自分たちの支配力が弱まるからである。それゆえに、薩長藩閥勢力はかたくなに共和主義を否定し、天皇を現人神に祭り上げた。しかし戦後において、日本国憲法にあるように天皇は象徴であって実体的な政治権力を有しておらず、共和制と矛盾するものではないことは明らかである。共和党は日本において伝統のある政治集団であり、またそれは西洋におけるローマ時代からの共和党概念(respublica)だけではなく、また現在、世界の多くの国で与党となり保守化している共和党=RepublicanPartyではない。むしろ儒教や墨子思想などアジアにおける政治理想・政治理念の集合と進化の上にある。
要は反天皇という地雷を踏まないよう必死で解釈したようにも見えるが、ともかくも既存の共和主義とはかなり異なる政体のようだ。
「お前が今の政治に対して責任があるんじゃないか。そんな人間がまた新たな政治勢力を作ろうというのはけしからんと思う人もいるかもしれない」というのだから自身の力量や過去については一応、自覚的なようだ。せっかくだから実際の講演の模様を聞いた方がいいかもしれない。
著書では日本の共和主義は箕作省吾の訳が由来で伝統的な概念と記していたが、鳩山氏の講演では少し違っていた。曰く
「勉強会を続ける中でコミュニタリアニズムの良さ、コミュニティーというものを大事にするということが答えとしてあり得るなということになった。コミュニティー、コミュニタリアニズムという言葉自体がなかなか分かりにくいというか、舌をかんでしまう可能性があるようなことで、それでは理解はいただけないだろうということで、さらに勉強を進めていくなかで、今日、共和主義という考え方を、これは重要ではないかという思いに至った」
この話からするとむしろ「共同体主義」(communitarianism)に近いような気もした。
ならば民主党支持者は無能だった?
鳩山棟梁の講演の後、首藤物差から説明があった。そもそもこの妙な肩書は一体、何か?
首藤氏によると中国戦国時代の思想家、墨家の始祖、墨子は指導者のことを鉅子と呼んだ。この鉅子とは大工道具の「金尺」で、つまりは物差しである。また有名なハムラビ法典のエピソードを引用し、バビロン王が太陽神シャマシュから棒=物差を渡されたことを紹介した。つまり墨子の話を含めて「物差」が指導者を意味するということで、この肩書を考案したそうだ。
「漫画みたいな話だねという人もいるかもしれないけどそれぐらいあたらしい風を引き込みたい」と首藤氏は言うが、果たしてこの意図が伝わるものか?
そんな首藤物差によれば日本版共和党とは「自立した一人一人の国民の参加によって成立する政党」だという。日本発の中国古代理想社会を念頭に置いたというのは著書通りだ。
また「共和党は自立した個人が参加する。党費を払うから党員ではない。当の活動を自らやってくれるから党員だ」という。だったら政権交代をした時の民主党党員や支持者たちは自立した個人ではなかったのか、と。
そこで共和党は旧来の県連組織などには頼らず、コミュニティや団体を結合したフランチャイズ組織にするのだとか。例としては核廃絶国際連帯、再生可能エネルギー推進の会、港区中学連帯、といった団体がそれぞれ支持基盤になっていくのだという。それって保守派が揶揄するところの「プロ市民?」という気もするがまあともかく確実に言えることは共和党という看板に変えた「民主党」ということである。
その証拠が最後の一幕のこと。「もう何もなければもう時間になりたい(終わりに)と思いますが、まだ『民主党』、何も決まったわけではありません」こう言いながら締めの言葉を選んでいる。と、首藤物差は共和党のロゴを指し「これ民主党の玄関、民主党の…」と連呼。すると会場からは失笑とともに「共和党」「共和党」とのツッコミが入る。
首藤氏も苦笑しながら「民主党はロマンの党だったんですよ。理想にかけた人たちがいるですよ。そういう意味で誇りを持っています」とお茶を濁した。なんでもこの共和党のロゴは部分集合と絶対集合を表現し、多様性を示しているという。これも民主党時代によく聞いたフレーズだ。看板こそ共和党と変更したものの、やはりこの面々にとって根っこは「民主党」にあることを実感し共和主義宣言とは「民主党復活宣言」に思えたのだ。
とにかく第三極となる政党づくりがしたいことだけは解りましたが。何分解せませんね。