石井章参院議員の秘書給与詐欺容疑で揺れる日本維新の会。新体制で再スタートを切った直後の衝撃ニュースに落胆の声が漏れる。野党でも特に不祥事が多い同党。一方、現職ではないが岐阜県総支部副幹事長で第5区支部長の山田良司氏の政治資金収支報告書がおかしいと地元の市民オンブズマンらが耳打ちするのだ。報告書を元に現地を調査すると確かに不可解な点が目立つ。
「中津川に最高裁を誘致」がライフワーク
先の参院選、和歌山選挙区・岐阜選挙区で立憲民主党と日本維新の会による予備選が行われ、和歌山選挙区が維新候補また岐阜選挙区が立民候補で一本化したことは筆者が6月13日に報じた。両選挙区とも統一候補は落選に終わったのが、そのうち岐阜選挙区で立民候補に譲ったのが下呂市元市長(1期)、旧民主党の元衆院議員(1期)、山田良司氏だ。
維新は総じて旧民主党出身者など転籍組を厚遇する傾向がある。これに不遇感を抱く現職は少なくないのではないか。〝政党クラッシャー〟こと前原誠司衆院議員が共同代表(前)で迎え入れられたのは最たるものだ。
山田氏も旧民主党出身者だ。2021年、2024年の総選挙岐阜県5区(多治見市、恵那市、中津川市、土岐市、中津川市)に維新から立候補したが落選。この夏の参院選では立民との予備選で漏れたとは言え維新の候補だった。同じく維新で言えば現職だった梅村みずほ参院議員ですら、公認の選考から漏れたのは記憶に新しい。支持者からも疑問が寄せられたものだ。ところが戦績の割に山田氏は3度もチャンスを与えられてきたのは不思議でならない。
どうやら事情がありそうだ。古参の支援者はこう明かす。
「岐阜県総支部を立ち上げる時に党本部が提示した条件が『党員100人を集めること』だったのです。山田さんはそのうち70人を集めました。そういう意味では県総支部の功労者と言えますね。それから彼は岐阜県(中津川市)へ最高裁判所誘致を掲げて活動しています。リニア新幹線で中津川市に新駅ができたら司法の町にするというのです。これが党本部に刺さったようなんですよ」
選挙パンフレットにも最高裁を地元の木材を使って建設し、地域を活性化させるといった主張が掲載されていたという。
非常に維新らしい方針だ。「大阪都構想」「社会保険料を下げる改革」といったワンフレーズのスローガンや国家機能の分散化政策を重視する傾向がある。その点、「中津川市に最高裁」というのも維新が好みそうなフレーズではないだろうか。しかも過去には「東京から東濃へ」といった推進運動もあったので地元有権者にもなじみがある。
恵那峡が一望できる紅岩山荘が元事務所
山田氏は旧民主党政権が誕生した2009年の総選挙で当選、2012年の総選挙には立候補を断念。2016年の下呂市長選で落選。現職から離れて長い。その間、塾講師を生業としてきた。塾のエリアは広く中津川市、美濃市、多治見市、岐阜市などだ。
「中津川市の教室に毎週木曜日、維新の街宣車でやってきたので〝法律的に大丈夫なのか〟と噂になったこともあります。同業者らは〝良司さんの塾は安い。あそこまでは下げられない〟という評価でしたね。政治資金を塾運営に流用していたと疑われても仕方がないでしょう」(地元住民)。
この疑問は当然だろう。街宣車、そしてガソリン代は政治資金だ。ということは政治資金で塾に通勤していたことになる。


山田氏が代表を務める政治団体「日本維新の会衆議院岐阜県第5選挙区支部」の令和3年度、4年度、5年度の政治資金収支報告書によれば主たる事務所は中津川市蛭川の旧紅岩山荘という宿舎になっている。大井ダム上流にある景勝地「恵那峡」が一望できる場所だ。中津川市中心部からは離れた山間部で選挙事務所に相応しい場所とは思えない。
現在は今年2月からリニア新幹線工事に従事する関係者の宿舎として建設会社が使用している。
周辺住民はこう話す。
「旧紅岩山荘の所有者は恵那市の工事会社で、同社T会長が維新の支援者なんですよ。その厚意で山田さんが借りていたのでしょう。ただあそこ(山荘)に街宣車が止まったり、支援者が集まったとかは見たことがありません」
となると政治資金収支報告書には旧紅岩山荘に支払った事務所費または家賃が計上されてなければおかしい。ところが記載はない。
同社役員を介して社長に聞いてみると「確かに2021年の選挙の時に2か月ほどお貸ししました。結局、落選したので気の毒だったから家賃は受け取っていませんよ」との説明だ。これはおかしい。なぜなら政治資金規正法第4条第3項によれば事務所の無償提供は実質的に寄附とみなされるため、その時価相当額を収支報告書に記載しなければならないからだ。
だがその記載はない。それに約2か月程度しか借りてない旧紅岩山荘をその後も政治団体の主たる事務所として報告してあるのもおかしい。
ところが令和3年度分の収支報告書には「家賃」として11月、12月に5万1330円が計上されている。支払先は多治見市の不動産会社だ。もしや同不動産会社がX社から旧紅岩山荘の管理を委託された可能性も考えたが、不動産会社とは無関係だった。
「5万1330円の物件Zは多治見市内にある山田さんの住居兼実際の事務所ですよ。本来はZが収支報告書に主たる事務所として報告すべきでしょう。なぜ令和3、4、5年とも旧紅岩山荘を主たる事務所としてきたのか不思議。うっかりミスでは済みません」(地元オンブズマン)
同氏はこう続ける。
「しかも令和4年分の報告書には光熱費が約143万円も計上されています。県内の大物国会議員N事務所の光熱費ですら5万円、18万円でしたよ。現職でもない野党の一候補が150万円近い光熱費というのは一体、何に使ったのか」
そもそも選挙事務所には不向きな場所を「主たる事務所」として、高額な光熱費を計上している。山田氏はこれまで「政治と金」を厳しく指弾してきた人物だ。余計に反発が強まる。
報告書の提出期限は遅れ、資格のない監査人
山田氏には市長、衆院議員経験者とはいえ失礼だが一介の浪人だ。読者諸氏にすれば〝重箱の隅を楊枝でほじくる〟ように映るかもしれない。あるいは維新の関係者、支持者にすれば「過去のこと」と擁護するだろう。しかし本稿は山田氏の問題以上に政治資金収支報告書がいかに〝ザル〟なのかを追求する意味もあるのだ。
通常、国会議員関係政治団体の政治資金収支報告書の提出期限は例年5月31日である。ところが山田氏の政治団体「日本維新の会衆議院岐阜県第5選挙区支部」は令和3年分の提出日が翌年8月31日で3か月遅れ、令和4年分は翌年9月13日で約3か月半遅れである。
例年2月になると各都道府県の選挙管理委員会が報告書の提出期限を周知して、遅れた場合は催促状を送るという流れだ。
「政治資金収支報告書の提出の遅れ」はそう甘い話ではない。大阪府の松浪武久府議は2023年、 同報告書の遅れを理由に離党勧告処分を受け離党。現職以外も同様だ。同年、神奈川4区の支部長だった高谷清彦氏が同職を解任している。ところが山田氏の場合、処分されたという話は聞かない。
「最高裁を誘致する」という目的を掲げた山田氏が政治資金規正法上のルールを破っていることになる。それ以外でも令和3年の政治資金監査報告書では舩坂誠司という監査人が署名しているが「登録政治資金監査人の資格を持っていない地元実業家」(前出オンブズマン)という。
登録政治資金監査人とは政治資金団体の収支報告が適正であるのかを監査する役目で弁護士、公認会計士、税理士が有資格者となる。ただし総務省に登録し研修を受ける必要がある。
本来なら政治資金規正法第19条の14で「登録政治資金監査人が作成した政治資金監査報告書を当該報告書に併せて提出しなければならない」とある。令和3年分の場合、監査人として無資格者が署名したものだからそもそも無効の報告書なのだ。同法25条では「報告書又はこれに併せて提出すべき書面の提出をしなかった者」「政治資金監査報告書の提出をしなかった者」は5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金刑である。
本来ならば政治資金収支報告書は非常に厳格なのだ。1期とは言え衆院議員を務め2021年以来、3度も国政に挑戦してきた山田氏が知らないはずがなかろう。
令和4年分についてはさすがに税理士の監査人に変わったが、選挙管理委員会収受印は翌年9月13日だが、不思議なことに監査人の署名は9月15日だ。これでは選管に提出後、監査人が書き加えたとしか思えないが、そんなことはありえない。


キャリアがある山田氏ですら杜撰な報告書の上、選管もチェック機能が働いていないということか。これでは公正な選挙制度が保証されるのか疑問でならない。
当の山田氏に質問状を送り取材を申し込むと、本人から電話で回答があった。
‐中津川市の旧紅岩山荘が事務所として使われたのは令和3年のわずか2か月程度です。実際の事務所は多治見市の物件Zですが、なぜ旧紅岩山荘が事務所として報告されているのですか。
変更の遅れなんですよ。この辺りのミスは認めますよ。みんな素人で少ない人数でやっていますから。自分も神輿に乗っているだけだから。ただの変更の遅れなんです。それはお詫びします。しかし悪さしているような先入観を持たれるのは心外です。
‐旧紅岩山荘の所有者によると「落選したので家賃は受け取らなかった」という説明です。この場合、無償提供は寄付行為に当たるため政治資金収支報告書に記載すべきではないでしょうか。
紅岩山荘の件は何も実態はないんですよ。作業をしているわけじゃありません。選管から指摘されたら訂正しますが、僕の判断としては名前を借りただけです。
‐何も実態のない事務所を3年度分も報告していたんですか。それに令和4年は光熱費が約143万円も計上されています。どこでこれだけの光熱費を使用したのですか。
それは他の会場費などを光熱費として計上していました。抜けているところがあったのは申し訳ないのだけど、悪意があったわけじゃないですから。僕はそんな人間ではありません。
‐実態のない事務所を収支報告書に記載していいんですか。ただの空き地でも主たる事務所にできますが?
いいんじゃないですか。制度上はできるんじゃないですか。変更していなかったのはこちらの不備でした。
‐令和3、4年と続けて提出期限が遅れた理由はなんでしょうか。
事務作業の遅れです。遅れる事例は他にもあるみたいですよ。ただ遅れたというのはお恥ずかしい話です。
‐令和4年度の収支報告書は選管の収受の印が9月13日なのに監査人の署名がそれより後の9月15日になっているのはなぜですか。提出後だから選管に忍び込んで署名したとしか思えませんが。
一度、受け付けたけど不備があったので再提出したということですね。選管は書類が不備だから後から持ってきてくださいね、ということはありますよ。
‐選管が収受の印を押したのにですか?この場合、選管の印は9月15日以降になっていないとおかしくないですか。
それは「受け付けました」という印ですよ。受付と完了は違います。
‐そんな収受の印は軽いものなんですか。
行政ってそういうものですよ。
‐受付日より後で監査人が署名するなんて書面上だと偽造かと思われますよ。
完了印じゃないですから。行政ってそういうものだから僕に言われても仕方がない。受け付ける時に印を押すんですよ。「完了」の意味ではありません。
‐選管が「この政治資金収支報告書は適正ですよ」という意味の収受印ではないんですか。
受け付けましたよという印とは異なります。それぐらいファジーなところはあるんですよ。遅れたら罰金、罰則というものではありません。
「政治資金収支報告書は緩やかですよ」って本当?
‐そんな緩いものですか。
いろいろな人がいますから。行政は厳しいですから、一字一句違っていたらダメだけど、収支報告書はいろいろな立場の人がいることを踏まえて割と緩やかです。
‐罰則はありますよ。
一般論としてはそうなんです。全部それに適用するかと言うと、みんなポスターでもフライイングして貼っている人がいるじゃないですか。規定があるからといって全部当てはまるかといってケースバイケースで見るんですよ。道路交通法だってそうじゃないですか。50㎞制限で51㎞出したら捕まるかって話ですよ。
‐道交法とはかなり違うと思いますよ。
同じなんです。立候補する人にもいろいろな人がいることを踏まえての話です。行政だから全部ガチガチとかそういうものじゃありませんよ。50㎞制限の道で60㎞で走っても警察は何も言わないでしょ。ある程度、ハンドルの遊びみたいなものがあるんですよ。
‐東濃に最高裁を誘致するという方がイリーガルなことを言って大丈夫ですか。
運用の面ですよ。法律と運用は違うんですよ。法律にもよりますよ、厳格にやる法律とケースバイケースでやらないといけない法律と。そうじゃないと杓子定規で、血の通わない政治になりますよ。
‐普段、政治と金を厳しく批判されているのにですか。
もちろんそうです。今は行政の受付に関してのことで背景を言っているんですよ。
‐しかし政治資金収支報告書は政治と金の原点ですよ。
僕の場合は説明した通り下手くそな部分があったので有権者の方には謝罪しなければなりませんが、悪意があったわけではないのでそこのところは理解してほしいです。
市長、衆院議員の経験者にしては手続きがかなり雑で、独自解釈が目立つ。問題はほぼ同様のケースの地方議員、支部長が処分されているにも関わらず山田氏の場合はおとがめなしで3度の国政選挙の候補になってきたことだ。この不公平な運営も維新の闇を感じてしまう。
「維新はガバナンスが効いていない」とは過去、同党に在籍してきた関係者たちが異口同音で漏らすことだ。山田氏の政治資金収支報告書がまかり通ってきたのも最たるものではないか。