IT事件史に刻まれる「ヤフーBB顧客データ流出事件」(2004年)をめぐり、逮捕されたヤフーBB代理店元代表の竹岡誠治氏は当時、創価学会幹部だ。また竹岡氏は宮本顕治委員長宅盗聴事件(1970年)の主犯格だったことは国会でも取り上げられた。陰惨な過去を持つ竹岡氏だが現在、邪馬台国阿波説を唱える財団で活動中なのだ。(写真は竹岡氏のWebサイトより。)
各地で配布されたヤフーBBの懐かしい光景

2000年代初頭、インターネット過渡期。従来のナローバンドから本格的なブロードバンドを普及させるため多くの事業者がADSLに参入していった。
業界最大手のソフトバンクは2001年9月に「Yahoo! BB ADSL」ブロードバンド総合サービスを開始。各地で赤い袋に入ったモデムの配布キャンペーンを展開した。40代以上の方ならご記憶にあるだろう。
ブロードバンドは同年の「新語・流行語大賞」に選ばれ当時のソフトバンク・孫正義氏(当時社長、現会長)が受賞。このようにネット普及に貢献したヤフーBBだったが、2004年に約450万件分の大規模な顧客データ流出事件が発生した。
この際、顧客データを入手した右翼団体代表がヤフーBB代理店「エスエスティー」(SST)社長だった竹岡誠治氏に相談。竹岡氏はSST社副社長をソフトバンクとの交渉役に立てた。その上で右翼団体代表らはデータと引き換えにソフトバンクから30億円を脅し取ろうとして犯行に及んだ。
その結果、同年2月に右翼団体代表と恐喝実行役の副社長、両者を仲介した竹岡氏が恐喝未遂罪で逮捕。竹岡氏は従属的だったとして処分保留で終わったが、右翼団体代表と副社長は有罪判決となる。しかし竹岡氏が創価学会幹部という背景を重視したメディアが追跡。特に『赤旗』は意欲的に報じた。
今の『赤旗』とは異なる。2004年頃はまだ日本共産党、『赤旗』が同和行政・創価学会批判では断トツの取材力を誇った時代である。処分保留で終わった学会幹部、竹岡氏に『赤旗』は焦点を当てた。
「創価学会と自民の“影のパイプ役”ヤフー恐喝未遂事件で逮捕創価学会幹部の竹岡容疑者」(2004年3月1日)が詳しい。
「ヤフーBB」の顧客データをめぐる恐喝未遂事件で逮捕された会社社長で創価学会幹部の竹岡誠治容疑者(55)は、創価学会・公明党と自民党の“影のパイプ役”を果たしている人物であることが二十九日、わかりました。自公連立政権下、選挙協力や創価学会幹部と自民党議員を引き合わせたり、パーティー券を引き受けるなどしていました。
竹岡氏が自民党と公明党のパイプ役、政治フィクサーだったことも『赤旗』は重視したのだろう。またそれ以上に竹岡氏が1970年、日本共産党・宮本顕治委員長宅盗聴事件の中心人物だったことは恨み骨髄に徹したはずだ。
一方、政界でも事件の関心が高く竹岡氏は国会でも取り上げられた。2004年3月16日の衆議院総務委員会で民主党(当時)の樽井良和氏がこう指摘した。
今回の流出事件、これはまさにその内部。いわゆるエスエスティーという代理店、これを経営していた竹岡容疑者なんですが、この容疑者、ただの容疑者ではありません。かつて、一九七〇年に、当時、共産党の委員長、宮本顕治宅盗聴事件の主犯格なんですね。
処分保留に終わった竹岡氏だが政界もメディアも要注意人物として受け止めたようだ。事件後、竹岡氏は表舞台から姿を消す。
そして創価学会から離れることになるが「長年の功績から子息を良い役につけるということで円満退会でした」と学会関係者は打ち明ける。
阿波ヤマト財団設立に参加

かつては自公政権のパイプ役だった竹岡氏。宗教、スピリチュアル活動については継続しているようだ。仏教研究、出版事業を行う一般社団法人サンロータス研究所を設立し、執筆や講演活動に取り組む。しかし国家観は様変わりしたようだ。

本来、創価学会の理念は左翼的である。
しかし現在の竹岡氏の主張はむしろ保守派・右派に近い。竹岡氏が寄稿した中斎塾フォーラム季刊誌『知足』(2024年10月)「「君が代」に込められた精神とは」にはこんな記述があった。
本年(2024年)4月、『皇都ヤマトは阿波だった』が発刊され大反響を呼んでいます。著者は笹田孝至氏で、徳島県内の式内社を丹念に検証するなどして、古代阿波に大和朝廷のルーツがあったと論証し、記紀神話の通説を覆した興味深い内容です。
そのこともあって先日徳島に行ったところ、古神道の大家I氏にお会いして、明治維新や太平洋戦争時の国家神道とは違う、古くからの神道の精神を教わりました。
あわせて「君が代」に歌われる「さざれ石」をいただきました。ちょうど手の平大の大きさですが、粒状の石が凝固して一つになったものです。徳島の鮎喰川の上流で美しい「さざれ石」が採れると聞き、探索したが見つけられずにいたので、ありがたく頂戴しました。
その石を見ながら、先般の自民党総裁選を思いました。各候補はいわば「さざれ石」であり、バラバラのままでは力は発揮されませんが、調和し団結することで国を導き繁栄の道を開けるのではないかと。「君が代」の「さざれ石の巌となりて」は「和を以て貴しと為す」の精神であり、調和と団結が「千代に八千代に」栄える道だと教えるものだと思いました。 この精神をもって、うるわしい時代を開こうではありませんか。(原文ママ)
神道、君が代に思いを馳せる内容。特に「神社の鳥居をくぐらない」とされてきた創価学会員だが、竹岡氏は神道に関心を持つようだ。さらに興味深いことは竹岡氏のコラムの文中にあるワード。『皇都ヤマトは阿波だった』という書籍を紹介している。これが現在の同氏のライフワークなのだ。
現在、竹岡氏は徳島県(阿波)に都があったと主張する「一般財団法人阿波ヤマト財団」に評議員として加わった。
同財団は昨年4月に設立。古代の都の位置について「阿波説」を唱え、YouTubeや講演会で情報発信などを行う。確かに阿波説は歴史ロマンが溢れている。
邪馬台国の阿波説は『魏志倭人伝』の「南至邪馬台国」という記述を「九州から四国への移動」と解釈したもの。畿内説、九州説よりも根拠は乏しいがそれでもミステリー本などで人気が高い。また現地では邪馬台国阿波説で地域振興、町おこしを狙う動きがある。
同様に阿波ヤマト財団も研究以上に地域振興を重視しているようだ。財団の概要でも「徳島古代史の研究発表をしている各団体で力を合わせて地域に活気と誇りを取り戻し、より良い地域の発展を目指し、徳島の未来がより明るく楽しくなるよう県民を巻き込み一緒に地域社会に寄与します」と目的を掲げた。
昨年4月の設立記念パーティーには後藤田正純徳島県知事も来賓として出席。地元政界からも一目置かれたということだろう。

それにしても一時は政界フィクサーとして活動した創価学会の元幹部、竹岡氏が邪馬台国説に参戦とは興味深い。
古代における日本特有のスタイル「角髪」姿でPR活動を務める阿波ヤマト財団の山本高弘事務局長に竹岡氏が参加した経緯を聞いた。
「竹岡氏が当財団に参加された理由ですか? 竹岡氏が内科医師・小説家の香川宜子理事の大ファンだったことから、香川理事の紹介で入会して頂きました。創価学会との関係は存じませんし、話題にもなりません。ただ仏教についてお話してもらったことはありますね」
古代史や邪馬台国に知見があった上での参画ではなさそうだ。古代史研究におけるスピリチュアル要素に惹かれたといったところだろう。
「竹岡氏は『NPO神戸平和研究所』の理事もされています。同研究所は毎年、様々な宗教団体を集めて『Pray祈』という世界平和を祈る行事を行っています。また世界連邦運動など政治的なテーマの講演会もありました」(前出宗教団体関係者)
『Pray祈』では竹岡氏が設立報告も行った。評議員の一人とは言え団体内でも存在感があるようだ。
竹岡氏の活動や人脈は当節流行りの陰謀論系保守との共通点を感じてしまう。ここ数年、一線を退いた政治家や文化人が陰謀論に走る傾向がある。かつては池田大作氏の側近、そして自公政権のフィクサー役だった異色の宗教家、竹岡氏も同じ道を歩むのか。