【中国女性秘書問題】「ホテルに2人 で一カ月」は印象操作?『松下新平‐週刊文春』裁判の 裏を読む

カテゴリー: 中国, 政治 | タグ: , | 投稿日: | 投稿者:
By Jun mishina

中国問題に敏感な人は記憶にあるはずだ。週刊文春は「自民「大臣候補」が溺れる中国人秘書とカネ」(2021年12月23日号)で自民党・松下新平参院議員が中国人女性秘書と親密関係と報じた。衝撃的な内容だが、松下氏は同誌を提訴し一審で勝訴。それもそのはず。メディア強者、文春砲の割に取材、構成ともに雑すぎだ。

外交顧問兼外交秘書は 米国籍、台湾籍の秘書にも

中国文化センター記事より。

週刊文春同号が世に出るや自民支持層、保守論壇へ波及し紛糾。松下バッシングが展開された。あたかも「中国側が用意したハニートラップ にハメられた」というストーリーで受け止められたのだろう。当の中国人女性秘書、本稿では「何某」(文春記事ではⅩ氏)と呼ぶ。その名こそ黒塗りにされたが「外交顧問兼外交秘書」という名刺が誌面で掲載された。

松下氏から寵愛を受け、外交顧問兼外交秘書の肩書をもって「何某」が日本政界で暗躍する。そんな感想も散見された。何を隠そう筆者もその一人だったと白状しておく。調べてみると松下氏と何某を男女の仲とする報道はあまりに乱暴だった。

裁判記録を読むと相当、無理筋な論法で構成された記事だという他ない。「日本政界に忍び寄る中国」というリスクが現実的であっても、本件は切り離して考える必要がある。

反響があった記事だが念のため経緯を説明しておく。週刊文春(2021年12月23日号)は「自民「大臣候補」が溺れる中国人秘書とカネ」と題した記事で松下氏が中国人女性秘書と親密で中国人脈をバックに多額のパーティー券収入を得たと報じた。

対して松下氏は2022年に週刊文春の発行元、文藝春秋社を提訴。

今年9月6日、東京地裁は同社に対して275万円の支払いを命じる判決を下した。反中の面々にすれば判決は国会議員や中国への忖度や配慮と受け止めたむきもあったことだろう。心情的に理解できるが松下氏勝訴とした一審は「妥当」と考えざるをえない。

本件を読み解く上で、誌面上の重要な文言を紹介しておこう。記事は合計5ページという大特集。最初の見開きに注目だ。

リードにはこうある。

迫り来る中国への対抗が課題の岸田政権。その足元で国会議員が2年前から中国人女性を「外交秘書」に据え、親密な関係となった。妻は実家に帰る一方、パーティー券収入は2.5倍に増え会場には〝マオタイ酒タワー〟、中国人が大挙して…。

それから見開き左には

ニューオータニに 二人で一カ月

という小見出しがある。リードとは記事の要約、概略だ。

リードだけ読むと松下氏は中国人女性秘書と親密で中国人脈を背景に多額のパー券で収入を増やしたかのようだ。なおかつ見出しの「ニューオータニで一カ月」という点からしても明らかに男女関係、肉体関係を連想させる。

右上写真(スクープ撮の隣)はキス現場?

それからタイトル横の写真は人同士が接触しているかのような写真が掲載された。一般的な読者は松下氏の男女スキャンダルの現場写真と判断するだろう。

先述したが、見開き左には松下氏が何某へ支給した「外交顧問兼外交秘書」の肩書が印字された名刺も掲載。しかしこの肩書きを与えられたのは何某だけではなかったとすれば…。

日本の政財界に中国陣営が食い込むのは紛れもない事実。だがこの肩書きで中国の危険性を指摘することはできない。「外交顧問兼外交秘書」なる名刺は松下事務所のアメリカ国籍、台湾国籍スタッフにも支給されていた。つまり中国人の何某だけ特別に与えた役職ではなかった。これだけでも印象が変わるのではないか。

何某と「ニューオータニに 二人で一カ月」は誤り

ここで中国人女性「何某」の素性を紹介しておこう。彼女は1979年9月21日、中国福建省生まれ。2000年に日本語学校に留学。現在は新橋で海産物を扱う会社の社長だ。2019年、何某は札幌市の海王物産(文春記事では帝王商事)社長と知り合い同社スタッフとして知りあう。

記事中で何某は海王物産東京支店長と紹介されているが事情は異なる。東京に出店された海王物産を何某の会社が運営するという形だ。松下氏は2019年9月15日、海王物産の女性社長に真似から組合設立総会に出席した。そこで働く何某は機転が効くと評価し、同社社長に断った上で自身の秘書にスカウト。2019年から2021年秋頃まで秘書として働いた。何某への名刺支給は2019年10月、2021年2月頃に通行証が発行と裁判記録にある。

そして文春記事は秘書を務める何某と松下氏の関係を追及した。ポイントは3つだ。

ポイント①「ニューオータニに 二人で一カ月」の内容はいずこ

同記事で最も疑問に思ったがこれだ。タイトルにも(中国人女性秘書に)溺れるという文言があるが、松下氏が「溺れる」という根拠が乏しい。

「ニューオータニに二人で一カ月」は見出しにもなった。ところがこの事実を説明する本文が一字もない。例えば松下氏と何某がホテルで逢瀬を重ねた決定的な証拠写真や裏付けエピソードは皆無。内容はいずこへ? 事実関係以前に「校閲記者」は一体、どこに目をつけていたのかというレベル。あるいはあえて見出しだけを残して印象操作の可能性も排除できない。

確かに松下氏の人的交流は中国に偏り過ぎた感は払拭できない。何某を同伴して中国系企業幹部らとの会食が紹介されているが、中国人と交流する政治家は何も松下氏に限ったことではないだろう。

またニューオータニで2021年12月2日、松下氏の政治資金パーティ―「松下新平政経セミナー」が開催された際の様子として妻が不在で「そんな妻に代わるように、薄紫のワンピースを身にまとい、甲斐甲斐しく中国人客の案内をする一人の美女がいた」との記述がある。もちろんこの美女とは何某。

妻が欠席なのは事実だが、妻に代わって松下氏とともにゲストを迎えたのは2人の娘。その様子は写真も提出された。何某によれば単に中国人客のアテンドをしたという。対して文春側は出席者の証言のみが根拠だ。記事だけみれば何某が妻の代役といったニュアンスだが、これも実態と異なる。

同伴宿泊、親密写真も 証拠なし

ポイント②成田へ 同伴前泊ゴルフ

親密さを示すエピソードとして2021年5月8日からのゴルフ&宿泊。松下氏が同月8日、何某を伴い千葉県成田市で前泊し、中国人社長らとゴルフをプレーし、その晩も成田市で宿泊。翌日、2人は東京を経由し愛知県に一泊したとある。ところが松下氏は何某のゴルフ参加を認めたものの、前泊していないと反論。5月8日の当日、中国人1名が麹町の議員宿舎まで迎え、成田市まで送ってもらったというのだ。

それから9日、松下氏は議員会館で仕事をした後、新幹線で愛知県豊橋市入り。何某は同行していない。9、10日と豊橋市に滞在したが、いずれも現地の支援者やその関係者と会食した。文春側は松下氏の反論を覆す証拠を提出していない。

意図が分からない写真。

ポイント③会食後の タクシー車中でキス?

本稿の焦点ともいえる7月16日の会食。この際、松下氏は何某の紹介で食事の誘いがあった。帰宅するタクシー車中にて二人がキスをしたかのような記述がある。直接的にキスと断定しないのがさすが匠の技。文芸の名門らしい表現で「徐々に身を寄せ合う二人。やがて二人の後頭部のシルエットは、一つになったー」とある。

まるで80年代ラブソングの一節。

なんとも叙情的、官能的な表現で読者の想像をかきたてる。ただもちろん松下氏は反論しており「記事ではピンぼけした写真を証拠であるかのように提出されていますが、あえてこうした不明瞭な写真を出したのは悪意を感じる」とした。

なるほど確かにこの写真をもって「キス」を匂わせるのは無理がある。しかも当時、張りこみをしていた記者の一名が「キスしている」と発したことを根拠とした。また文中で何某が「松下さんの子どもを産みたい」と発言したことも紹介されているが、伝聞に過ぎない。

松下氏は妻とトラブルがあり、その関係人物からのリークで取材が進められたと考えられる。かなり内情に精通した人物だっただろうが、それにしても証言に依拠し過ぎたのではないか。

文春記者たちの 説明は?

記事は複数の記者を動員し意欲的に取材した様は確かに伝わる。しかしかなり強引な構成とロジックと思えてならない。同誌記者らも証人尋問に立ったが説得力に欠けた。

特に問題なのは先のポイント①「ニューオータニに二人で一カ月」だ。小見出しにあるのに本文に説明がない状態である。担当記者はこう証言した。

何某(*筆者の呼び名)も伴っていたというふうに、私が情報提供を受けたと誤認しておりまして、当初、原稿中に記載をしておりました。それを情報提供者、事務所関係者のかたに確認していただいたときにそれは誤りであるという指摘を受け、原稿を修正しました。ただその際、ゲラと言いますが、雑誌発行前に出来上がるレイアウト上のもので、その部分、段間見出しの部分を修正するのを失念してあったという次第です。

ホテル滞在という情報は事実誤認なので削除したが、見出しを修正するのを忘れたというのだ。またゴルフについても「確かだと判断して掲載に至った」とした。何某との親密さを示す例えば動画、音声といった決定的な物証がない。よく読めばかなり無理がある記事構成だ。しかしそこが週刊文春のブランド力と筆力。記述は雑だが、スキャンダルという雰囲気を醸し出している。

あくまで綿密な取材をもって作られた記事だと主張するが、それも怪しい。

というのは「外交顧問兼外交秘書」という肩書について米国籍、台湾籍のスタッフに与えられた事実を知っていたか?という質問に対してある記者は「そういう情報は、私は聞いておりません」とした。

タイトルで誇示するように掲載した「外交顧問兼外交秘書」という名刺は全く意味をなさない。取材が不十分、または特定の情報源のみを採用した記事といえる。松下家のプライバシーに深く踏み込みながら、事務所の基本情報が乏しいのはアンバランスで不可解だ。

2021年10月14日、松下氏が参議院会館で開催された「日中一帯一路促進会基調講演」で講演会をしたとの記述がある。ところが松下氏は出席していなかった。事実誤認も目立つ。

それから記事の特徴として合計5ページ中、政治資金についての分量が多いこと。何某が売りさばいたというパーティー券収入が高額だというわけだ。確かに中国人が日本の政治家のパーティー券を買うのは不気味だ。しかし仮に高額だとしても、違法行為とまではいえない。

後半はこのパーティー券問題に誌面を割いたが男女スキャンダル要素が弱いため政治資金問題にスライドしたかのようだ。

週刊文春といえばご存知の通りダウンタウン・松本人志氏の性行為要求報道で同氏から提訴されたが最終的に取り下げ。事実上、週刊文春の勝利といってもいいだろう。そんな週刊文春が松下氏の秘書問題についてはあまりに粗略。政治家、それも自民議員だから少々の『飛ばし』も容認されるという判断があったならば公正さに欠ける。

解せない 日本福州十邑社団 聯合総会との関係

これまで検証してきた「松下氏が中国人秘書と親密」というスキャンダル報道は根拠が薄く印象操作という批判も免れないだろう。しかし何某を「一般的な中国人女性」と断じることも難しい。あるいは同記事が後年のものであればより刺激的で大きなスクープになった可能性が高いのだ。

そこで「一般社団法人日本福州十邑社団聯合総会」なる団体が重要となる。

中国側が在日中国人を監視するために設置した「海外警察」拠点として指摘を受けたのが「日本福州十邑社団聯合総会」。ネット上の記事でも確認できるが、何某は同団体役員だった。そして日本福州十邑社団聯合総会が2020年、経営する長野の風俗店を整体院と称し新型コロナウイルス対策の持続化給付金100万円を詐取。何某も書類送検されたのは今年2月末に報道各社が報じた。

文春との裁判でも証人尋問に立った何某は日本福州十邑社団聯合総会について問われたが、回答を拒否。そもそも松下氏との関係によって社会的には「スパイ疑惑」もかけられた。ならば身の潔白を証明するためにも同会との関係を説明してもいいはずだ。

国内では最強メディアの座に君臨する週刊文春だが本件についてはタイミングが悪かった。

何某の会社が経営する物産展。
日本福州十邑社団聯合総会の花輪が。

仮に何某氏が「日本福州十邑社団聯合総会」役員で持続化給付金詐取が判明していたとすれば――。

そんな危うい人物を松下氏が秘書に起用していたとして週刊文春の大スクープになったことだろう。

しかも興味深いことに2020年、東京・日本橋人形町に「海王物産」がオープン。もともと松下氏と何某が知り合った会社だ。運営は何某が経営する会社である。当時の花輪をみると日本福州十邑社団聯合総会から贈られた。

この謎団体との関係性はまだ続く。次は松下氏との関係だ。2020年頃に投稿された日本福州十邑社団聯合総会関係者と松下氏のツーショット。

松下氏(左)、施洪清代表理事(当時)。
高級顧問の文字が。

盾を拡大すると「高級顧問」という文言が確認できた。「海外警察」拠点と指摘を受けている団体の顧問に国会議員が就任するとは驚きだ。この点については2022年、参政党・神谷宗幣代表が質問主意書を提出している。これに対する回答は「政府としてコメントすることは差し控えたい」に留まった。

実に不誠実な回答であり、国が中国の脅威と真剣に向き合っているのか疑問だ。結局、松下氏と何某との間に男女関係があるかのような記事は公正な報道といえない。ただそのことと何某‐日本福州十邑社団聯合総会の関係は別問題。今後も注視しておきたい団体である。

以上が3年前の松下新平参院議員と中国人秘書スクープの裏側だ。記事の内容と実相が大きく異なると理解してもらえただろうか。現在、週刊文春側は控訴しており逆転する可能性もありえるにしても「ホテル滞在‐ゴルフ‐タクシー車中の密着」この三点の論拠は崩れている。これ以上、文春側に有利な材料はなさそうだ。

ただ週刊文春側の取材に不備不足があったとしても松下氏へも苦言したい。

松下氏への証人尋問で「何某氏は不起訴になったが議員事務所に出入りしていたことの是非」についてこう答えた。

やっぱり僕は問題があると思いますね。その指摘は。やはり中国のかたも立派なかたもいらっしゃるし、頑張っているかたもいらっしゃいます、それをそのことだけで、そういう言い方をするのは、日本に行く、そしてこれからグローバルに、そして多様性の時代に、私は問題だと思います。 

外部から「海外警察拠点」といわれる日本福州十邑社団聯合総会の関係人物が議員会館に出入りすることは有権者にすれば非常に不安であらぬ疑いをかけたくもなる。しかも相手は覇権主義で挑発的な外交を続ける中国だ。

それを「グローバル」「多様性」という言葉で片付けてしまって良いのだろうか。それも松下氏は外交畑をライフワークする政治家だ。本邦要人たちの対中外交に危うさと軽薄さを感じるのは筆者だけではあるまい。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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