2022年7月8日、奈良市の近鉄「大和西大寺駅」前付近で発生した安倍晋三元首相暗殺事件。当時、奈良県警本部長だった鬼塚友章氏が責任をとって辞職した。その後、鬼塚氏は大阪市の「HESTA大倉」に再就職し2024年6月には代表取締役社長に就任。当初は鬼塚氏はTVCMにも出演したがここ最近、CMはおろかWebサイトからも消えた。代わって昨年末に元プロ野球選手の広澤克実氏が社長に昇格した。実に不思議な人事だが…。(写真は同社CM。左が鬼塚氏、右が広澤氏)
今や夏の甲子園の風物詩
関西地方の場合、夏の甲子園は朝日放送テレビ(ABCテレビ)で放送されるが、ここ数年、「HESTA大倉」の企業CMが増えていることにお気付きだろうか。CMでは先の鬼塚氏、または元プロ野球選手の広澤克実氏、北島康介氏ら同社役員の他、お笑い芸人のココリコ・遠藤章造氏(元高校球児)、現役では日本ハムファイターズ・新庄剛志監督らが出演してきた。
基本的に野球関係者が多く起用されるのは清瀧静男・代表取締役CEO兼COOが甲子園出場経験を持つ野球好きだからだろう。ただCMを一見しただけでは一体、何の会社なのかよく分からない。1962年創業の「大倉建設」を前身とした総合不動産・住宅メーカーなのだが、Webサイトのトップページには「HESTAソーラー」という太陽光発電パネルが掲載されている。
不動産会社、住宅メーカーといってもコンシューマー向けの賃貸住宅、または注文住宅・建売住宅を宣伝しているわけでもない。冒頭に挙げたCM動画でも「HESTA大倉は地方創生に取り組む」というセリフから始まる。C向け商品というよりも公共事業に注力するイメージだ。
それ以前に不動産会社と住宅メーカーに元警察官僚の鬼塚氏が社長、また元プロ野球選手の広澤氏と元金メダリストの北島氏が副社長にどれだけの意味や効果があるのか不思議でならない。警備会社・施設管理会社の場合、確かに天下り先として警察官僚OBが再就職するケースはある。ただそれは警備業という性質上、「警察人脈」というのは整合性がつく。
だが鬼塚氏、広澤氏、北島氏が不動産開発や住宅建設の経験や知見があるとは思えない。また彼らを広告塔にすることでエンドユーザーに訴求力があるかといえば疑問だ。それに鬼塚氏はあの暗殺事件で保守派の恨みを買った。CMが放送されるたびにSNSが揺れる。
HESTA大倉Webサイトから鬼塚氏、中国要素が消えた
しかしあの異常な暗殺事件が起きるなど誰が予想できただろうか。個人的には鬼塚氏がパブリック・エネミー(民衆の敵)のような扱いになるのは気の毒な気もする。
しかしセキュリティ専門家に言わせれば
「失敗は許されない任務。それに奈良は皇室ゆかりの神武天皇陵、春日大社、正倉院といった文化財が多く皇族の訪問もあるでしょ。奈良県警は要人警護には慣れたはずなのに目の前で銃撃されたのは大失態ですよ」
というシビアな世界。しかし反面、決して世間的に芳しくないイメージの鬼塚氏が堂々と広告に登場する意味が分からない。先のセキュリティ専門家は「警察官僚OBを表に出すということは〝もしトラブルがあった場合、警察が動くぞ〟という警告の意味があるかも」と話す。なるほど、それ以外に不動産会社・住宅メーカーが警察OBを前面に出す積極的な理由が見つからない。ところが鬼塚氏に異変が…。

「昨年12月に広澤氏が社長に昇格したのです。現在、同社Webサイトで広澤社長、北島副社長が紹介されていますが、逆に鬼塚氏の情報が消えています。同じくWebサイトには清瀧CEOと中国・習近平国家主席とのツーショット写真などが掲載されていましたが〝中国人脈〟も一斉に消えました」(事情通)
広澤社長、北島副社長の両氏に実務能力があるとは思えない。また気になるのは清瀧氏と中国の関係だ。習近平国家主席の幼なじみであるZホールディングス株式会社・周帆社長が製作総指揮をとった日中友好40周年記念映画『明日に架ける愛』に清瀧氏はエグゼクティブプロデューサーとして参加。習近平国家主席とのツーショット写真は映画製作のプロモーションで表敬訪問した際のものだ。これらが一斉にサイトから消えた。


安倍元首相 銃撃事件で 辞職した 奈良県前警本部長が 新社長“中国好き”不動産会社の ナゾ
次いで顧問弁護士として橋下綜合法律事務所も掲載されていた。橋下氏も知名度、発信力がある弁護士だから牽制役としては適任だろう。だが現在は別の弁護士事務所に変更していた。
鬼塚氏という警察人脈の看板を外したが、昨年11月27日に開催された近畿2府4県の優秀な警察官をたたえる第139回「近畿の警察官」表彰のつどいではHESTA大倉は協賛企業として名を連ねた。行政、警察とのパイプは残したということだろう。
鬼塚氏はインテリジェンス系シンクタンクの顧問へ
一方、当の鬼塚氏は一般社団法人 サイバー空間総合研究所(JICSS)の顧問に就任していた。同研究所はアメリカの安全保障分野の専門家を顧問に迎えたインテリジェンス、サイバーセキュリティのシンクタンクだ。言うまでもなくアメリカ人脈が非常に強い団体である。

そこに中国との関係が深いHESTA大倉の社長を務める鬼塚氏が顧問に就任というのは妙だ。
それ以前に鬼塚氏は現在もHESTA大倉の社長なのかそれもWebサイトからは読み取れない。
同社の登記簿を調べてみたが、登記変更の処理中になっていた。では鬼塚氏はすでに退任したのか。またなぜ清瀧氏と習近平国家主席のツーショット写真などは削除されたのか、清瀧氏と鬼塚氏に取材を申し込んだ。すると総務担当者からこう返答があった。
「過去、習近平氏との写真については古い話でございますので会社としてはもうお答えはしておりません。また清瀧も昔からお付き合いがあるメディアとの取材を受けることはあるかもしれませんが一般的な取材はもうお受けしておりません。現在、鬼塚については社長が2人体制で、広澤が表に出るような形でそれぞれ役割が異なります。ですので(鬼塚氏)が表に出るということはございません。取材はご容赦ください」
社長が広澤氏、鬼塚氏の2人体制という説明だ。確かに株式会社であるならば代表取締役が2人以上という体制はありえる。だが表に出るのは広澤氏。ということは警察官僚OBの鬼塚氏を前面に出す必要がなくなったということか。甲子園中継のCMなど過去の鬼塚氏の露出を考えると随分、様変わりしたものだ。
一方で清瀧氏と中国との交流が削除されたことについて前出セキュリティ専門家はこう推測する。
「習近平独裁体制が進み〝神格化〟されているでしょ。日本の一企業に過ぎないHESTA大倉のWebサイトに写真が載っているのは〝不敬〟と受け止められたかもしれませんね。そこで削除を求められた可能性があります」
日本の国内事情を考えてみても中国要人との親交がビジネス上、メリットがあるとは思えない。そこで広澤氏、北島氏ら有名元スポーツ選手を前面に出して中国色を抑えたのか。かといって広澤氏、北島氏が〝広告塔〟としてどの程度の価値があるのか疑問符がつく。謎が多いHESTA大倉の人事である。



