2012年の暴力団対策法(暴対法)改定、各都道府県の暴力団排除条例によって暴力団の活動が大幅に制限された。当時は暴力団犯罪の抑制効果が期待されたが、関係人物による事件は後を絶たない。そして各地の事件からは絶望、自暴自棄の心境が伝わる。暴対法で追い詰めすぎた結果、無敵の人化したのか。
暴対法改定に 反対した お馴染みのメンバー
2012年の暴対法改定によって新たに「特定危険指定暴力団」を指定し取り締まることが可能になった。「暴力団排除」は公共事業、祭礼、不動産、娯楽施設、宿泊など幅広い分野で取り組まれてきた。それを象徴するのが今年4月に元神戸山口組傘下「宅見組」幹部らが甲子園でプロ野球を観戦中、建造物侵入で逮捕されたことだ。
例外なくプロ野球界も暴力団排除に取り組んできた。野球好きとしては観戦ぐらいは…という思いもあったが、警察も関係団体の取り締まりは徹底している。
宿泊にも制限がある。山口組の幹部で2次団体、平井一家組長が2019年に他人名義で関東のホテルに宿泊した容疑で今月、逮捕された。妻と異なる女性と同伴し偽名で宿泊。4年前の出来事で逮捕されたのは周辺を驚かせた。
一方で同情を禁じ得ないケースも見逃せない。
郵便局のアルバイト、駐車場を借りて逮捕、このような微罪逮捕が「市民生活の安全と平穏の確保」につながるのか疑問である。
厳格な取り締まりが治安対策で貢献したのかは別問題。現在でも暴力団関係の事件は日々、発生している。暴対法改正前後から法の運営について問題視する声はあった。
暴対法改正の2012年5月、6月と二度に渡り、野党議員、文化人、労組関係者らが「暴排条例と暴対法改定に異議あり」として反対集会を行った。
会合の呼びかけ人の一人、全日本建設運輸連帯労働組合(全日建)・小谷野穀書記長。いわゆる連帯ユニオン、激しい労働闘争で知られる関西地区生コン支部労働組合をルーツとする団体だ。
暴対法改正の反対集会には田原総一朗氏、宮台真司、宮崎学氏、鈴木邦男氏、青木理氏、福島みずほ参院議員といったメディア関係者、文化人がズラリ。ある意味ではいつもの顔である。これが護憲集会であっても何ら違和感がない。
奇妙なものでマスコミ関係者、文化人らの間では“アウトロー賛美 ”という現象がある。本来、暴力とは対極的に位置する人々のはずが、「ヤクザ」「暴力団」に触れる時はあたかも“青春群像 ”のように語るものだ。こういった面々からは人権擁護というよりも、社会に虐げられた暴力団を擁護する我ら気高い文化人という思惑が透けて見えてならない。
一方、集会の趣旨としてはもう一点、「警察批判」がある。
暴力団排除活動の受け皿組織「暴力追放運動推進センター」が警察の天下り先になっているという批判だ。この点は同意できる。
そして厳格すぎる暴対法、暴排条例は逆に関係者を追い詰め、治安を悪化させる可能性がないか。このところ多発する暴力団関係の事件からは行き詰まりを感じさせる。
死なば 諸共、自暴自棄化した 事件
今年に入って暴力団関係者による陰惨な事件が目立つ。
4月22日、ラーメン店主と6代目山口組3次団体トップを兼ねていた湊興業・余嶋学組長が射殺。5月26日、東京都町田市で山口組系極粋会関口会三代目露崎会・鈴木英東代行が暴力団関係者に射殺された。両名は同門でFX絡みの金銭トラブルがあったとの報道も。町田の事件から間もなく29日、新宿歌舞伎町で暴力団同士の抗争で一名が死亡した。
どこにでもSNSユーザーはいるものだ。町田の事件などは複数の目撃者がおり、現場写真をTwitterなどに投稿した。
殺人に限らず小競り合い、暴行絡みのトラブルなどとにかく枚挙に暇がない。事件からは突発的、場当たり的な犯行、自暴自棄の雰囲気が伝わる。特に印象的なのは6月29日、神戸山口組の井上邦雄組長宅に対する放火の疑いで49歳の暴力団員が現行犯逮捕されたこと。
暴力団に詳しい人物は首を傾げる。
「放火をしようとした暴力団員はペットボトルのような容器からガソリンをまいていたところを現行犯逮捕でした。現住住居放火はとても罪が重いのに、まるで警察に“ 捕まえてください”という態度でしょ。わざと捕まろうとした可能性があります」
放火を企てた暴力団員も決して楽な経済状況ではなかっただろう。かといって組を抜けるのも躊躇してしまう。こうした絶望感から自暴自棄になって犯罪に向かうことは起こりえる。暴力団までが失うものがなく犯罪に何の躊躇もないいわゆる「無敵の人」になっては恐怖どころの話ではない。防止すべきである。
厄介なのはこうした問題提起が「暴力団擁護」と受け止められることだ。しかし少なくとも現状の制度が効果的なのか検証する時期にきてはいないか。
確かに当局側も制限の一部を緩和する動きにある。昨年、警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課長で通達された「暴力団離脱者の口座開設支援について」という文書には元暴力団員の銀行口座開設について関係機関に支援を求めた。
口座も所有できないならば仮に社会復帰したとしても給料の受け取りすらままならない。単なる規制一辺倒では限界にきたという当局の判断だろう。
しかし警察側の思惑も見逃せない。元暴力団関係者の不信感は強い。
「支援対象の条件として『都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)
の支援により協賛企業に就労していること』とあるでしょ。これは警察の天下り団体なんです。暴排条例の条文にはたいてい“ 県暴力追放運動推進センター等との連携を図りながら”という一文は見逃せません。逆に言えば更生や組抜けをするには同センター利用が前提なのかという疑問があります」
暴力団排除という理念の前で警察行政の肥大化という問題もあるようだ。
暴力団員を締め付けた結果、やぶれかぶれで突発的な犯罪に走る。一般人が巻き込まれるリスクは非常に高い。暴対法改正から10年が過ぎたが運用、効果を検証してもいい時期ではないか。でもなければ暴力団の無敵の人化が進むだけだろう。