北海道アイヌ探訪記(6)「イランカラプテ、アイヌ政策推進室です」

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By 宮部 龍彦

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「イランカラテ、アイヌ政策推進室です」。北海道庁のアイヌ政策推進室に電話をかけると、最初に職員がこのような挨拶をする。イランカラテというのは、アイヌ語の挨拶で「こんにちは」に当たるものだそうだ。

もちろん、アイヌ政策推進室の職員がアイヌであるというわけではなく、数年ごとにローテーションされて配属される、単なる道の1職員である。北海道では「イランカラテ」キャンペーンというのが行われていて、空港や駅などでもこのフレーズを見かける。言ってみれば、アイヌ文化への知名度向上と、観光対策のようなものだ。

道庁に「アイヌはどこにいますか?」と聞いても、やはり言われてしまうのは、アイヌの伝統的な集落は現存していないということだ。

ただ、戸籍の問題に関しては少し答えが違っていた。戸籍に「アイヌ」とか「旧土人」といった直接的な書き方はされていないが、例えばカタカナで書かれている「アイヌっぽい名前」の先祖が存在することで判断できるというのだ。

しかし、直接的に判断するのは北海道アイヌ協会であって、行政ではない。あくまで協会はそのような方法で認定しているのだろうということだ。個人がアイヌであるかどうかを判断する必要があるのは、例えば進学奨励金のような、個人給付的な事業を行う場合で、これは税金の使い方に直結する。

それでは、協会の判断が間違っていた場合は、どうなのか。そもそも。行政には正しいかどうか調査することすら出来ないのではないか。この点について、道の担当者はこう話す。

「悪いことはしないとは思うのですが…推薦書が提出された方について、いちいち我々がチェックするということはしていないです」

では、逆に明らかにアイヌである人を、アイヌ協会が認定をしなかった場合に、道庁が出てきて「いえ、この人は確かにアイヌだ」と認定することが出来るのかというと、

「我々がそういったことはしないです」

ということだ。

行政側としては、アイヌの認定は全くアイヌ協会に丸投げしている状態だ。

「アイヌ差別があると考えるか?」筆者のこの質問に対しては、

「昔より減ってきているが、道内のアイヌを対象とした実態調査では今でも差別があると回答する人がいる。進学等の面でも一般と格差があると考えている」

という答えである。

しかし、調査に関しては、そもそも「どのように調査の対象を決めるか」ということが課題なのだという。北海道から出て行った人は調査の対象にならないし、北海道内でさえ、全てのアイヌを網羅した調査は不可能だ。

筆者の考えでは、誰かをアイヌと認定することを前提とした政策は、既に相当の無理が生じていると思う。

例えば、個人給付的事業については行政はアイヌ協会に丸投げをしているのが実態である。アイヌ協会は一民間団体にすぎないので、不正があっとしても調査することは難しい。特に「アイヌの認定」の問題に関しては、仮に認定を間違ったとしても、間違っているという証拠を示す手段がない。

それどころか、あからさまに間違った認定が行われたとしても、いったい何の罪に問えるのか定かではない。「アイヌでもないのに、アイヌを騙って公金を詐取した」のだとしても、「アイヌを騙った」と認定できるのはアイヌ協会だけなのだから、警察や検察が「こいつはアイヌでもないのにアイヌを騙った」という証拠を示して詐欺として立件するというのは、非常に想像しにくい。

実態調査に関しても、そもそも調査対象の選び方についての問題が全く解決されていない。北海道にはアイヌを先祖に持つ人が2万人以上いると言われているが、アイヌ協会の会員はその1割程度である。仮にアイヌ協会の会員を調査対象としても、それがアイヌ全体の実態を反映しているとはとても考えられない。例えるなら、朝鮮総連や民団の会員を対象として実態調査を行ったとしても、それが全ての在日コリアンの実態を反映しているとは言えないのと同じである。

また、調査対象となる場合は何らかの形で「自分はアイヌだ」と名乗り出る必要がある。言わなければ分からないものを、進んで名乗り出る動機はいったい何だろうか。北海道内に関して言えば、行政による個人給付的事業がその1つである。それでは、個人給付的施策を必要としないような高学歴・高収入なアイヌが自らアイヌだと名乗り出る動機があるかというと、かなり限られてくるだろう。

さて、例の「金子発言」について聞くと、北海道庁にも様々な反響があったという。しかし、はっきり言ってここでも金子支持のメールが多かったそうだ。

そしてもう1つ聞いた興味深い話が、交渉事などで市役所を訪れるアイヌが、アイヌ紋様の入った民族衣装を着てくるということは道庁でも度々あるのだという。

ちなみに、昔アイヌは普段は簡素ないでたちで過ごしており、アイヌ紋様の入った衣装は祭りの時に着るものである。例えるなら、あれは法被はっぴか、あるいは羽織袴はおりはかまを着て役所に交渉に来るようなものだ。

(次回に続く)

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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北海道アイヌ探訪記(6)「イランカラプテ、アイヌ政策推進室です」」への7件のフィードバック

    1. 斉藤ママ

      北海道は民芸品や博物館の観光資源で活性化を化図るのではなく
      外国の威圧から漁民を守り、漁業を復活させる事に専念するべき。

      漁師がロシアにつかまっても、日弁連は助けに行かないのですから、怖くて漁業が出来ません。
      一晩100万円ぐらいになるらしいですよ。私も北海道で漁師になりたい。
      ホッケを腹いっぱい食べたいです。安かったホッケがいつのまにか高値になって買えなくなった。
      万が一ロシアにつかまっても、見殺しにされるのですから、そりゃあ怖いですよ。

      昔の漁業を復活させて、地域の人を豊かにして、課税するだけで、
      公務員は退職後も悠々自適で暮らしていけるというのに、バカですね。

      返信
      1. 斉藤ママ

        アイヌの民芸品には全く興味がないですね。
        ホッケには多くの国民が悔しいと思っているでしょう。
        漁業交渉に国は力を入れてほしいです。
        日弁連の反日をなくすことも必要です。

        返信
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