左右両陣営から総スカン状態の音喜多駿前参院議員。先の衆院選では比例復活もかなわぬ大敗で終わった。話題性、発信力はあったが街頭演説は閑古鳥。そんな音喜多氏の落選は東京維新が空中分解の鏑矢ということにお気づきだろうか。党本部周辺では大阪回帰を求め、東京維新を切れとの声も挙がっているのだ。
コンサル会社取締役に 就任した音喜多氏
参院議員一期ながら日本維新の会の政調会長を務めた音喜多氏。本人も公言する通り元は政治ブロガー。それが有力野党の幹部になったのは恐れ入る。衆院に鞍替えで当選した暁にはいよいよ我が世の春、だった。だがそんな狙いは挫折した。
落選後、早々に次期参院選へ意欲をみせたが、変わり身の早さに党内から批判が起きた。特に戸山いつき元参院議員がX上で「参院を辞めて衆院に鞍替え出馬するなら、たとえ落選しても腰を据えて続けるべき」と批判したのは強烈なパンチ。
馬場伸幸代表のお気に入りという関係上、音喜多氏に対する批判は鈍かったがここに至って不満が爆発した。
現在は“ただの人”になったわけだが12日、政策コンサル会社「株式会社キャピトルシンク」は音喜多氏が取締役に就任したことを発表。同社のニュースリリースによると「『野党』『地方議員』『参議院議員』『民間でビジネス』の経験があり、『制度改革』や『法改正』に強みを持つ音喜多氏を取締役に迎えることで、経営体制の強化および事業展開の拡大をしていくことが狙い」とした。政策コンサル役員という立場上、政界とのパイプは残ったわけだ。
これで当面の収入源は確保した。問題は衆参問わず国会議員の返り咲きを目指したところで活動拠点が残っているとは限らない。東京維新が本部から切られる可能性があるからだ。
これを読み解く上で代表選(17日告示、12月1日投開票)の影響に注目したい。現在、共同代表の吉村洋文大阪府知事が立候補を表明し有力視されている。
吉村氏が代表になった場合“大阪回帰 ”が進み、非大阪議員は梯子を外されるというのだ。あるいは「維新」の看板を掲げるのは自由だが、公認料など一切、支援をしない“ゆる解散 ”状態に陥る可能性が高い。
特に音喜多氏を通してみると一層、党内の混乱と不満は鮮明。そういう意味でも実に興味深い存在なのだ。
そして国会議員としても経験が浅い音喜多氏が党内で発言権を高めた背景と維新の内情は連動してきたともいえる。
維新は大阪を 頂点とした 逆ピラミッド
通常、政党は本部から各都道府県の支部という具合にトップダウンで運営されるものだ。
ところが例外的に日本維新の会は大阪府議、大阪市議らを頂点とした逆ピラミッド状態。つまり力関係では大阪がトップに位置する。
これまで筆者が維新の内情をレポートした中で地方組織内で意見が出ると「大阪のやり方とちゃう」といった大阪至上主義の傾向がはっきりしている。
ところが大阪第一の同党にあって音喜多氏は東京維新の所属ながら本部役員を務めた。東京維新とはある意味、フランチャイズのような存在。そのフランチャイズオーナーが本社役員になったとイメージしてもらいたい。
本来の維新からすると異例の好待遇だった。ただ大阪を地盤にする議員団にとっては不快そのもの。それでも音喜多氏がなぜ党中枢に食い込んだのか東京維新関係者はこう話す。
「小池都知事に反発し都民ファーストを離党後、2019年に北区長選に立候補しましたが落選。これで行き場がなくなりました。その際、柳ヶ瀬裕文氏(当時都議)が維新の勢力を拡大したいという方針から音喜多氏をスカウト。当時、大阪では都構想問題が盛んで音喜多氏も大阪で推進活動に関わりました。ところがその時分は松井(一郎)氏も馬場氏も“小池さんを裏切ってフラフラしている奴は信用できん ”とけんもほろろ。しかしそこでめげないのが彼の凄いところ。都構想関係の資料を集めたり、様々な提案していました」
当時の音喜多氏をつぶさに見てきた元支援者は「まるで織田信長の草履を温める藤吉郎(豊臣秀吉)でしたよ」と一笑していた。
肯定的に評価するとすれば行動力と処世術に長ける、否定的にみれば軽い。しかしどうあれ旧みんなの党参加以来、政党を渡り歩き国会議員にまでなった努力と勝負勘はたいしたものだ。しかも妙なところで政治運を持っていた。
「2020年に松井一郎氏が引退した後、党を全国展開するべく非大阪の人材を登用したいという方針になりました。そこで音喜多氏が重用されるようになったのです。それまで維新の政策立案のトップは浅田均参院議員、足立康史前衆院議員でしたが、音喜多氏が頭角をあらわしていきます」(前出元支援者)
特に馬場氏が音喜多氏を重用することになる。「基本的に維新は大阪第一ですが、もっといえば大阪市の府市議の発言権が強い。堺市(大阪17区)出の馬場氏は代表でも実は傍流なんですよ」(維新国政議員)。こういう点からして非大阪市で“都会風”の音喜多氏を取り込んだ馬場氏の心情は理解できる。
ところがベテランの政策通を置きざりにして政調会長にまで押し上げたのは党内の不満を高めたわけだ。
騒乱と狂乱の 東京15区補選の 維新の内幕
2019年の参院選、この時は柳ヶ瀬裕文氏とコンビを組み街頭演説でも掛け合い風トークが注目されて当選。このスタイルを考案したのが当時の選対本部長、下地幹郎元参院議員だった。
当の下地氏はIR事業を巡る現金受領問題で除名処分。ところが下地氏への経験や貢献を考えこの処分に対し疑問を持つ維新関係者は少なくない。
対して音喜多氏は2021年に政調会長に就任。要職につくとこれまでレポートしてきたように運営方針は「専制」とすら思えた。
だが転機となったのが音喜多氏が率いた昨年の江東区長選。擁立した候補は最下位だ。しかも江東区は音喜多氏の地元。惨敗どころの話ではなかった。
この結果に対してさすがに大阪本部が激怒。そしてあのつばさの党騒動の現場、今年4月の東京15区補選に圧力をかけた。
「議員には一人30時間、現場に入って応援、できない場合は罰則。こんな厳しいノルマが課せられました。つばさの党からも激しい妨害行為がありましたが、大阪からのプレッシャーも強かったのです」(東京維新関係者)
維新陣営が違法スレスレの運動を展開したのもこうした焦りがあったのだ。結果はご存じの通り、敗北。しかも音喜多氏自身も衆院選落選という憂き目。良くも悪くもSNS上では目立つ人物だが、自民と立民で争ってきた東京1区を崩すことはできなかった。
非大阪維新、国会議員は もう用済み
こうした背景を踏まえた上で、気になるのは音喜多氏が戻る場所=東京維新が残っているのか、だ。
東京維新をめぐっては早くもデイリー新潮(11月1日)で分裂の可能性が指摘された。
「石丸新党に合流する可能性も」 敗戦続きの「維新」東京勢が“反乱”か
東京勢が反乱というよりも大阪勢が東京切りという表現も成立する。
「維新はもともと全国政党化という考えはありません。都構想上、法改正が必要になるため国会議員が必要だっただけの話。しかし都構想に目途が立たない今、もう府外の国会議員は無用というわけです」(前出国政議員)
東京維新としては「EXPO 2025 大阪・関西万博」「IR事業」が失敗した場合、煽りを食うのも避けたいところ。
そこで東京維新所属議員らの受け皿になりそうなのが石丸伸二氏が発表した新党構想だ。石丸氏は12日、YOUTUBE上で来年の都議選に向け地域政党を結成すると発表。東京維新メンバーらが石丸陣営に走るのはありえる。なぜならその多くは維新の理念に集ったのではなく議員になる最短距離が維新という面々だ。
先の東京維新関係者も石丸新党流れは「ありえる話」と話す。
「曲がりなりにも昨年の統一地方選で多数の地方議員が当選しました。ただあれは維新が評価されたのではなくて第三極で改革風の政党が都民に好まれただけです。大阪の場合、いわゆる行政の無駄をズバズバと切り、また身を切る改革で議員報酬にまで手を入れ府民から喝采されました。東京は逆です。“ 議員報酬を増額してもいいから改革しろ”という考え。つまり本質的に維新流の方針は東京都民とミスマッチなのです。だから国民民主党も肌が合いますが、玉木雄一郎代表がスキャンダルで評価を下げましたよね。ということは石丸新党が都民の望む改革派第三極になりえます。東京維新メンバーの避難所としては最適です」
無論、東京維新の面々が改革志向とは思えない。あくまで改革派の第三極風というだけの話。
その上、維新の創業者、橋下徹氏もX上で「東京は石丸さんに任せればいい」とバッサリ。まるで東京維新はお役御免とさえ解釈できる。現在も大阪では橋下氏の意向を重視されており、大阪回帰は進む可能性大だ。
さらにはっきり「東京維新切り」を明言してしまったのが、同氏の13日のXだ。
「大阪維新は関西以外の国会議員を切り離してしまえ」と完璧な絶縁宣言。国会議員がこの扱い。いわんや自治体議員など眼中にもないだろう。東京維新が本格的に分裂の危機を迎えた瞬間だった。
仮に音喜多氏が政界に再挑戦した場合、居場所は残っているだろうか。東京維新という看板だけ残った有名無実団体では勝負にならない。もっともそこは政界の渡り鳥、令和の木下藤吉郎。近い将来、得意なダンスを交え石丸氏を讃える街頭演説をしている姿が容易に想像できてしまう。
またこう思わせてしまうところが音喜多駿という政治家なのだ。