B-CASカード書き換えで捕まった“平成の龍馬”氏の公判が始まる

By 鳥取ループ

鳥取ループ(取材・文)

弊舎刊「B-CAS 事故 ‘8674422’ 2012年テレビ視聴制限崩壊の真実」で取り上げたB-CASカード書き換え問題に関連し、昨年の6月20日に逮捕された“平成の龍馬”こと多田光宏被告の公判が9月3日から始まりました。既に複数のメディアが報じていますが、本誌はどこよりも詳しくレポートします。

初公判は9月3日13時20分から京都地裁で行われました。

担当は高橋孝治裁判官です。当初は206号法廷で行われる予定でしたが、急遽101号法廷に変更されました。冒頭でその理由について裁判官から、傍聴人が多くなることが予想されたので、傍聴席が多い法廷に変更したと説明がありました。なお、傍聴人は20人前後で、主に記者、放送業界関係者と思われる人が来ていました。

被告席には弁護士が3人、現在保釈中の身である多田被告は黒いスーツ姿で、終始落ち着いた様子でした。もっとも、殺人のような凶悪犯罪でもなく、破廉恥罪とも言いがたいので、裁判官、検察官、被告関係者、そして今回証人として出席した放送業界関係者も1つの手続きとして淡々と裁判を進めているという状況でした。

最初に行われたのは、裁判官から被告人の身上(姓名、住所、本籍地、生年月日、職業)の確認という型通りの手続きです。そして、検察官が起訴状を読み上げました。

起訴状によれば、今回の罪状は刑法161条の2、1項・2項。つまり「電磁的記録不正作出及び供用」であり、なおかつそれ以外の罪状はないことが示されました。

次に、これも型どおりに裁判官から黙秘権の告知がされた上で、被告人側の罪状認否が行われました。これは被告側が事前に提出した文書を、多田被告本人が読み上げる形式で行われました。被告側はカードを書き換えてタダ見した事実は認めたものの、これは罪にはあたらないとして無罪を主張しました。

次に、検察から犯罪事実について詳細な説明がされました。それによれば、多田被告は自宅と実家で計2回多田被告B-CASカードを書き換えてタダ見し放題にし、実際にWOWOW等の有料放送チャンネルと難視対策衛星を視聴していました。

次に、なぜ無罪なのかについて、弁護士から説明がされました。

まず、そもそも今回の逮捕は“見せしめ逮捕”であり、当初は多田被告がB-CAS書き換えプログラムをばらまいたとして不正競争防止法違反で捜査したものの、そのような事実がなかったことから“脱法的”に刑法161条の2を適用したものだと弁護士は主張しました。

では、なぜ脱法的なのかと言えば、有料放送のスクランブル解除については放送法・不正競争防止法・著作権法により規制されるものであって、なおかつこれらの法律は有料放送のタダ身には罰則を設けていないことから、有料放送のタダ見を罰しないことが立法者の意図するところであるということです。

そして、刑法161条の2が適用されるためには、改ざんされたデータが「権利義務に関する電磁的記録」「人の事務処理の用に供する」ものであるという条件があるります、改ざんされたのはデータではなく「プログラム」であること、そしてスクランブル解除は被告が所有する機器の中で完結しており、放送事業者とは何もやり取りをしていないのだから「人の事務処理」にあたらないということです。

また、確かに有料放送も受信したがそれは3番組だけで、ほとんどは難視対策衛星であり、被告の興味は専らそちらで有料放送を受信する意図は最初からなかったという点、なおかつ難視対策衛星は無料放送であって本来は誰でも受信する権利があることも主張しました。

ここで憲法の「知る権利」ということを弁護士は述べていたので、最終的に最高裁まで行くことになった場合に、そこでは主に憲法問題でしか争えないので、そのための布石かなという印象を受けました。

もちろん、多田被告の兼ねてからの持論である「B-CASは独占禁止法違反」という主張もされました。

ここで、裁判官から今回の裁判の、5つの争点が示されました。それは次の通りです。

  1. 検察の主張は刑法161条の2の脱法的適用で、罪刑法定主義に反するか
  2. B-CASカードの中にある情報は権利義務に関する電磁的記録にあたるか
  3. B-CASカードによる有料衛星放送の視聴が人の事務処理にあたるか
  4. B-CASカードを改ざんした目的は何であったのか
  5. 専ら難視対策衛星を受信するという目的であっても罪にあたるか

今後は以上の点が重要であり、逆に言えばそれ以外の主張(B-CASは独占禁止法違反であるなど)は裁判官により無視される可能性が高いと考えられます。

次に、証拠の取り調べ手続きで双方の証拠が提出されました。

検察側から出されたのは、改ざんされたB-CASカードの解析結果や被告のPCやレコーダーの解析結果で、特に被告に不利な証拠としては有料放送番組の番組表を見ていたこと、WOWOW等の番組を録画していたことが示されました。

一方、弁護士側からは特に被告に有利な証拠として、有料放送のタダ見は処罰されるほどの重罪ではないとの議論がされてきたことが、法律の解説書や国会の議事録、政府の審議会の議事録により示されました。

ここで20分ほど休廷となり、公判は放送業界関係者に対する証人尋問が行われました。個人的にはここから先が見どころでした。裁判の証人尋問では、証人が事実を語ること、知っていることを隠し立てしない旨を宣誓し、嘘をつくと偽証罪にあたることを裁判官から注意された上で証言をします。すると、普段は大っぴらに語ることができないことを、公開の法廷で語らなければならないという特別な状況が生じます。

この日の証人は3人、それぞれWOWOW、スターチャンネル、スカパーJSATで今回のB-CAS改ざん問題への対応を担当している社員です。最初に検察官から、後に弁護士から証人に質問がされました。

全体的な印象ですが、検察官は特に被告に不利な事実を引き出そうとするというよりは、各社の業務内容、B-CAS社との契約内容についてなるべく詳しく答えてもらうように、淡々と質問していました。一方弁護士は、どうして今回の問題に対処できないのか、各社はどのような権限を持っているのか、視聴者の情報をどれだけ把握しているのかに興味を持っていました。

おそらく問題について一番知識があり、詳しく答えたのは最初のWOWOWの証人の方でした。検察官からB-CAS社との契約内容について突っ込んで聞かれた時に、事業者番号の占有料とシステム利用料としてそれぞれ年間で2400万円、計4800万円を支払っていることが明らかにされました。

「事業者番号の占有」というのは、B-CASカードの中に事業者ごとに視聴期間を記録する部分があり、そこを変更する権限がB-CAS社から各放送事業者に与えられていて、契約した視聴者のカードに対して電波を送って視聴期間を最大で1年先に設定するという運用をしているということでした。

また、なぜ今回のカード書き換え問題に対処できないのかという弁護士からの質問について、各社とも自社ではどうにもできずB-CAS社に対応を丸投げしている状態であることが証言されました。また、WOWOWの証人によれば視聴を不可能にするEMM(いわゆる“毒電波”)は、月あたり2~3万枚のカードに送るのが限界であって、既に2億7000万枚発行されたカードに送ることは現実的には不可能であるといいます。

今後の裁判の流れは

次回公判は9月10日13時20分に設定されました。この日は引き続き証人尋問が主となります。

その次は10月30日13時20分で、この日は論告弁論で検察官から求刑が行われます。

そして、予定通りに進めば12月上旬に判決が言い渡される見込みです。

平成の龍馬氏に勝算はあるか

日本の裁判では起訴されたら無罪判決を得ること自体が非常に難しいので、今回もその例に漏れないことには変わりはないですが、「放送法・不正競争防止法・著作権法でタダ見行為への罰則の適用が見送られたのに、同様の行為に刑法を適用するのは脱法的だ」という弁護側の主張には一定の理があるので、勝算が全くない裁判ではないと見ています。

また、仮に負けても執行猶予が付くでしょう。多田氏の場合は否認して真っ向から検察と対立してはいますが、B-CAS書き換え絡みで他の事例では執行猶予付き判決になっている例があり、なおかつ多田氏の場合はその中でも最も悪質性が少ないケースだからです。多田氏が実刑になってしまえば、他の事例との整合性が付きません。

次回もレポートする予定です。