官公需を狙う吉本興業の未来図

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By Jun mishina

吉本興業所属タレントらが反社会組織の関与する宴席への闇営業問題は今年上半期のニュースを賑わせた。また同社役員、一部芸人らの政界人脈との交流や政治発言、行政・自治体事業に参入など「吉本興業」が注目されている。関西ローカルの芸能事務所にすぎなかった吉本興業は今や「お笑い」の枠を超えて総合エンターテインメント企業に変貌した。そして同社の今後のカギを握るのが「官公需」ではないかと予想する。吉本と公共事業、その事情を探ってみた―――。

DTマネージャーが会長・社長の時代

「タレント、社員を含めて吉本興業は全員が家族、ファミリーであると考えております」。7月22日、吉本興業・岡本昭彦社長が記者会見に応じた。会見開始前からネット上では「笑ってはいけない記者会見」などと揶揄する声もあった。というのも岡本社長はダウンタウンの元マネージャーで『ガキの使いやあらへんで』などのTV番組に出演した過去がある。現場のタレントにとってみれば深刻な問題に違いない。しかしマネージャー時代の岡本社長は裸で猫を抱いたり芸人並みのパフォーマンスをしていた。

当時の岡本社長を知る視聴者にとってはあの会見自体を“ネタ ”扱いしてしまうのはよく分かる。会見自体が企画と錯覚してしまう。また同社・大崎洋会長もまたダウンタウンの元マネージャーで、大崎会長も「どっきり企画」などでテレビ出演していたものだ。そんなご両人が今や会長・社長というのだから大変な出世だ。

かつての敏腕マネージャー・大崎会長は政界、行政ともパイプを深めている。政府の知的財産戦略本部、「大阪・関西万博具体化検討会」の委員に名を連ねてきた。政府が進めるクールジャパン戦略にも参加。吉本興業など数社が行うエンターテインメント発信事業に対してクールジャパン機構が12億円を出資。あるいは地元、大阪府内でも公共事業は強く、吉本は万博記念公園マネジメント・パートナーズの代表法人として大阪万博記念公園(吹田市)の指定管理者だ。

クールジャパンでも存在感を発揮している吉本。
政財界や有識者に交じって大崎会長が名を連ねる。

とてつもない巨大企業になったものだ。その原動力はやはりダウンタウンではないか、と。振り返ってみれば90年代はダウンタウンがTVを席巻していた。そして今でもダウンタウン人気は健在で「笑ってはいけないシリーズ」は大晦日の看板番組だ。吉本興業の東京進出が成功したのはダウンタウンの存在があまりに大きい。このことは万人が認めるところだろう。かつての関西弁は「怖い」「汚い」といったイメージから東京では敬遠されたが、ダウンタウン及び関西芸人の存在によって関東出身者であっても「おかん」「めっちゃ」「あかんやつ」といった言葉を使用するようになった。生活様式にも吉本興業のお笑いが影響をもたらしたのか。それも明石家さんま、ダウンダウンらスターから末端の芸人まで総勢約6000人ものタレントを擁する吉本興業のなせる業だろう。

ケンコバ、小籔千豊のギャラは?

とにかくその幅は広い。キー局番組で司会を務める大物から、高学歴芸人、女性芸人、スポーツ、政界、文化人などなど、ありとあらゆる分野で才能を持つタレントを抱える。だからあらゆるイベントに対応できるわけだ。そしてこうした特性を活かして今、吉本興業が強化しているのが「官公需」というのである。「官公需」、中小企業庁HPでは「国や独立行政法人、地方公共団体等が、物品を購入したり、サービスの提供を受けたり、工事を発注したりすることを『官公需』といいます」と定義している。

この場合、吉本興業は所属タレント、コンテンツを提供する。国、行政、自治体は広報活動、啓発活動、PR活動を行う時がある。当然、こういう場合は著名人を起用するわけだが、幅広い人材を抱えなおかつイベントプロデュース能力にも長ける吉本興業はとても有力な業者だ。そして最近では官公庁の仕事も受注している。省庁の仕事を受ければより企業価値も高まるというものだ。

こういう風潮を一般メディアも感じとっている。『日刊ゲンダイ』(8月8日)は「ケンコバは外務省「たびレジ」推進大使 吉本公共営業続々」と題し、吉本の官公需を報じた。ケンコバとは吉本興業のケンドーコバヤシさんのこと。吉本内では「中堅」どころに位置するが、大変な人気芸人だ。「たびレジ」とは外務省が提供する海外旅安全情報サービスのこと。ケンドーコバヤシさんはこのPRイベントに起用されたのだ。外務省にたびレジの仕様書、予算書などを情報公開請求をしてみた。

政治を語り、官公庁のイベントに参加する。お笑い芸人の地位も変わったものだ。

さて今回は外務省、厚労省、法務省の3団体に請求してみたが、外務省・厚労省ともに手続きは異なったものの、要求通りの文書が公開された。まずはケンコバ氏のたびレジだ。事業の目的は8月7日の「こども霞が関見学デー」で外務省を訪れる小中学生と保護者に対して『たびレジ』登録推進大使を務めるケンドーコバヤシさんがイベントに参加し、海外安全対策の啓発を行うというもの。吉本側は海外安全対策啓発に関わる〇×クイズの作成、クイズに必要な衣装の手配なども担う。

ズバリこの受注額が27万円。これを吉本とケンドーコバヤシさんが分配するというわけだ。週刊誌の芸能担当によれば「俗に吉本芸人ギャラの配分は9(事務所):1(芸人)とネタにもされるが、ケンコバさんクラスでそれはさすがにないと思います」と解説する。確かにあれだけの人気芸人のギャラが1割の2万7千円というのも考えにくい。

このうちケンコバさんの報酬は?

さて一方、厚労省では人生会議(ACP=アドバンス・ケア・プランニング)国民向け普及啓発事業の選定委員として小藪一豊さんが起用されている。小藪さんは吉本新喜劇の座長を務めたほどの芸人で、現在は討論番組、報道バラエティ番組にも出演している。事業内容は人生会議を周知するため北海道・東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州(沖縄含む)の各ブロックごとに 1回以上、全体で10回以上のイベントの実施。全体で15000人程度の集客で1回あたり1000~1500人を見込めるということが条件。委託契約期間は令和2年3月31日までというからその間にイベントを実施するというわけだ。

厚労省の事業はHPで公開されていた。左は予定額。右は契約額。

この場合はイベント期間が多岐に及び、広範囲の地域で実施するわけだから受注額も大きくなり4070万円。厚労省の場合、最初に問い合わせたところ契約額だけはHP上で公開されていると担当課が案内してくれた。仕様書などは任意公開という形式で入手した。

人生会議の小藪さんのメッセージ。

かつて行政のイベントと言えばやる気がない、投げやりという印象があったものだ。今では「ゆるキャラ」も人気で有力コンテンツになったが、元をただせば行政や自治体が作るキャラクターが洗練されていないため逆にそのゆるさが人気になった。たださすがに昨今、行政と言えども納税者の厳しい目というものがあり、いい加減な催事はできない。そこでタレントを抱え企画、集客能力にも長けた興業のプロ、吉本は行政にとって最適な存在のはずだ。

これだけの芸人がまさかタダ働きで法務省の仕事をするとは思えない。

さて続いては法務省の「法務省×よしもと もっと知ってほしい!」。この事業は吉本の芸人たちが非行歴やいじめ問題などを語り動画で青少年を対象にメッセージを送るというものだ。法務省といえば入国管理などの情報公開をめぐり市民団体と日常的に火花を散らしている。今回も情報公開と窓口で問い合わせたところ「入管関係ですか」と聞かれた。それほどこの関係の問い合わせが多いのだろう。外務省、厚労省と同様に事業名を記入した申請書を送付したが、結果は「文書不存在」。契約自体がないから不存在という不思議な回答だ。

「ならば吉本は無料の法務省の仕事をするのか?」

こう問うても法務省は「不存在」を繰り返すのみだ。とりあえず法務省分は申請方法を変えて文書を入手しいずれ公開したいと思う。この通り中央官庁や自治体など幅広く公共事業に参入する吉本興業。今後もこうした傾向は強まると先の芸能記者は説明する。

「役所の仕事なら報酬のとりっぱぐれはまずないし、テレビほどのクオリティは求められないから事務所としては取りくみやすいんです。それと今、吉本興業はIR(インベスター・リレーションズ)を強化しています。そんな時に取引先が外務省、厚労省みたいに官公庁だと株主らにもPRになります。テレビ事業も先細りするから今後はもっと官公庁の仕事が増えるんじゃないですか」

タレントもノウハウもある吉本にとって政界や役所の事業は有利に違いない。しかし受注するにあたりやはり「暴力団」「反社会勢力」との関係が取り沙汰されるのは何より避けたいところ。ここ数年、吉本興業、そして大崎会長が過敏になるのは官公需狙いの思惑があるかもしれない。

厚労省の仕様書より。暴力団や反社との関係があっては入札が無効になってしまう。

では今後、テレビだけではなく、政府広報も自治体のPR事業も吉本芸人一色になってしまうのか。当の吉本興業側に外務省、厚労省、法務省のギャラの配分や今後の事業の展望について尋ねてみたが、期限日までに回答はなかった。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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官公需を狙う吉本興業の未来図」への2件のフィードバック

  1. 山田

    ガチです。自分が示現舎の宮部さんと知り合いだと、ばれたようで、自分は差別する側になったので古田君からこれから裁判おこすと言っていました。嫁にはおまえ殺されるよ。気をつけてと。まじで怖い。

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  2. うましかの一つ覚え

    反社使って『もっと知ってほしい!法務省!』とかブラックジョークの類なんでしょうかね?
    芸能人使うことが国政への理解を深めたり周知させやすくなるとは到底思えないのですが。
    意味のないお金の使い方だけは得意なお役所らしいですね。

    返信