JR北海道事故の裏にJR総連・革マル派の影

カテゴリー: ウェブ記事 | タグ: | 投稿日: | 投稿者:
By 宮部 龍彦

三品純(取材・文)

90年代半ばのことだ。著者の母校の正門前で中核派による奇っ怪なビラが配布された。ビラにはこのような趣旨のことが書かれていた。自民党元国対委員長・金丸信かねまるしん(故人)が全盛の頃、革マル派の幹部と密会しこう話したという。

「金丸(カネマル)も革マル(カクマル)も一字違いだ。仲良くやろうじゃないか」

長らく金権政治、反動、権力の権化のようにまつりあげられた金丸信との癒着ゆちゃくを中核派は指弾したわけだ。この密会の真偽はともかくとして、案外まんざらでもない話だと思った。旧国鉄が分離分割民営化する際に主要な労働組合が反対の立場をとったのに対して、革マル派の影響下にあった一派は「全日本鉄道労働組合総連合会」(鉄道労連後に総連)を結成。そして政府や経営陣の方針に従った。このとき総連が自民党の一部議員とも関係を深めることになったとそうだ。

当時、国鉄の長期債務は約25兆円という莫大なもの。職員の数も飽和状態でなにしろ「窓口で行き先を聞く駅員、切符を渡す駅員、切符を切る駅員、一人でできる仕事を複数の職員でやると揶揄やゆされていた」(元国鉄職員)。

赤字解消のためには民営化、人員整理あるいは赤字路線の見直しは当然のことだった。だが当時の国鉄職員にとって解雇は晴天の霹靂へきれきなどというレベルではない。

国鉄OBは嘆息たんそく混じりにこう振り返る。

「当時、JRはリストラ対象になった職員の受け入れ先としてJR直営の立ち食いソバ店、コンビニを作った。スキー場まで作って雇用を生み出そうとしたがこれが閑古鳥かんこどり。別の意味で“滑りっぱなし”だ(笑)。私らが若い頃、面倒を見てもらった元駅長が駅構内のスタンドそば屋でソバを盛っている姿はあまりに哀れだった」

赤い大地のJR総連

激しい民営化反対闘争があったにも関わらず総連だけは国の方針に従ったのだから、一部保守派からも評価されたことは言うまでもない。革マル‐金丸密会の一件もその最中で築かれた縁だったのかもしれない。

“毒をもって毒を制す”という図式がものの見事に当てはまるこの民営化の舞台裏。実は共産党や新左翼は政府ないし体制の方針に従って逆に発言権や立場を得るというパターンがある。60~70年代の学園闘争をへて大学を郊外に移転する動きが各大学で見られた。国は郊外に大学を移転させ地域を活性化させる学園都市構想を進め、一方大学の共産党系の教授らはセクト色を大学から一掃するために郊外移転に賛同した。

だがこの手法は現状の問題解決には特効薬となるがなにせ後に禍根かこんを残す。国鉄の民営化についてもまさにその図式で、民営化後、少なくとも東日本にあるJR各社は長年にわたり総連・革マル派の影響を強く受けることになった。

中でも日教組などその他、労働組合が強いため”赤い大地”と呼ばれる北海道のJR北海道は特に総連の強い影響下におかれてきた。そして”走るトラブル”と化したJR北海道の相次ぐ不祥事の裏に総連の影が取り沙汰されているのだ。JR北海道はいわゆるJR三島会社(JR北海道、四国、九州)の中でも厳しい経営状態にあった。詳細は後述するが赤い大地・北海道でもJR総連は強い基盤を持っているのだ。

民主党も認めた革マル派と総連の関係

革マルと総連の関係はあの民主党政権ですら認めたことだ。民主党内には革マル派の組織内候補や関係が深い議員もいる。しかもそもそも労働組合の支持を基盤とする民主党にとって総連も重要な票田である。JR総連は結成時に全日本民間労働組合協議会(全民労連)に加盟し、そして全民労連は1989年の日本労働組合総連合会(連合)に合流した。連合といえば民主党の最大の支持基盤であり、連合の会長は民主党代表とも定期的に会談の場を設けてきた。だから本来なら民主党の本音としては触れたくない話題ではある。

ところが2011年9月27日、革マル派との関係を問うた質問主意書に対して野田政権はこう回答した。

「全日本鉄道労働組合総連合会(以下「JR総連」という。)及び東日本旅客鉄道労働組合内には、影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透していると認識している」

今さらと言えば今さらの話なのだが、改めて政権が革マルと総連の関係に言及した異例の事態だった。さて2011年といえばこんなJR北海道内でこんな事件も起きていた。

5月27日に発生した石勝線、特急「スーパーおおぞら14号」の脱線火災事故は負傷者39名を出す大惨事となった。すすで顔が黒くなった乗客の映像は事故の深刻さを物語っていた。

会計検査院によると同年に実施した約3千回の車両検査のうち約28%で基準が守られていなかったことも発覚。2013年に入ってからもJR北海道の運転手が覚せい剤使用で逮捕されるなど種々のトラブルが続き、不祥事の数々が大きく報じられることになった。この薬物使用についてもJR関係者によれば「覚せい剤使用の運転手も総連系だった」と話す。

正確に言えば覚せい剤を使用した職員が総連というよりも、職員はたいてい総連といった方がJR北海道の場合、適切かもしれない。通常、JRの労働組合の勢力版図は、東の総連、西のJR連合と言われている。東日本は総連系が占めているが北海道は特に強い勢力を誇る。JR北海道内の労組の構成を現役職員はこう解説する。

「もっとも多数派が総連で約84%を占める。次にJR北海道労働組合(JR北労組)、国労、建公労の順番だ」

北労組は全国的には大きな組織だが、北海道ではまだ10年前に結成された程度。長年、解雇闘争で国と争い続けた国労(国鉄労働組合)も北海道ではさほど強くない。一般の人にはあまり聞きなれないのが建公労だろうか。建公労とは建交労全国鉄道本部の略称で、元は動力車労働組合(JR総連の前身)から分裂した一派だ。このため現在の総連とは対立した関係にある。といっても組合員は「実質、4~5人程度」(同前職員)というから少数派。つまり北海道は実質、総連の一強状態にある。

北労組が発足した当時、総連は「平和共存否定」を通知してきたという。これはざっくり言えば他労組と協力もしなければ、交流もしない旨を伝えた文書である。著者もJR職員から話を聞いて驚くのだが、このご時世でもまだJR内部では他組合員は無視しろ、相手にするな、場合によっては業務上の連絡事項も伝えないといった行為が横行しているというのだ。

また「北労組系の組合員はレクレーションや飲み会などの交流会も参加させないし、結婚にも出席してはいけないし呼んでもいけない」(同前職員)というほど露骨なものだ。

安全を確保する上で重要となるアルコール検査の導入もJR北海道が一番遅かった。検査についてもちろん総連の反対によるところが大きい。その理由というのも「体質的にアルコールを受け付けない者が多いから検査の必要がない」(他組合員)という不可解な理由を挙げたという。数々の不祥事や事故の裏にはこうした労組の怠慢や横暴があったのではないか。

労働組合の意義とは? 総連に救われた職員も

JR北海道の立て直しには経営陣の努力だけではなく労組4団体の協力が求められている。JR総連とJR北海道労組は 10月31日、「JR北海道脱線事故問題取組報告会」を参議院議員会館で開催した。また北労組は11月17日、信頼回復に向け、札幌市内で「JR北海道の信頼回復と再生を目指す11・17集会」を行い会社側に提案する再生プランを発表した。

各労組で再建向けた取り組みが続くが彼らの”連帯”はまだ遠い話だろう。

対して総連側は『JR総連通信』(2013 年 11 月 11 日)でこう主張する。

北労組からの「共同行動拒否」など、的外れな宣伝や誹謗がJR北海道労組への労組攻撃として意図的に行われていることも明らかになった。これらは安全への取り組みを阻害するものであり、断じて許されるものではないと意見が出された。

紙面からは対立関係の根の深さがにじみ出るようだ。社会的にも総連側に対しては厳しい視線が集まっているのは否めないところだろう。それに総連がJRの労働現場に落としてきた影も否定できないし、JR総連と革マルの実態については過去、メディア、ジャーナリストたちがたびたび報じてきた。

しかし現場の声を聞くと意外な反応を示すこともある。総連の影響力が薄い中部地方のJR職員はこう疑問を投げかける。中部地方ということは賢明なる読者ならお分かりかもしれないがJR東海のこと。ここは総連の勢力はさほどでもない。同氏はこんな話をしてくれた。

「電車が1分でも遅れたら乗客がツイッターなどにクレームを書き込む。しかも乗務員の名前まで書くからたまらない。管理職もネットの書き込みにピリピリ。かつては駅長と言えば乗務員を守ってくれたものだが、理不尽な乗客に対しても平身低頭。そして軽微なミスでも処罰対象になりえる。またJR西日本のJR福知山線脱線事故の結果、経営体質や職場環境を改革するのではなく運転手や乗務員に責任を転嫁した。だから指導や管理が厳しくなってきて、トイレに行くのにも報告が必要な異常な状態だ」

こうした職場環境に対して非総連系の同氏はこんな評価をする。

「ある時、若い職員が些細なミスをして懲罰を受けると真っ青になっていた。ところが結局、懲罰はなかった。しばらくしたらこの若い職員が総連の書記として会合に出席するようになった。なんでも総連の組合員が懲罰について管理職にかけあい、擁護してくれたそうだ。その縁で総連に加盟したという。この場合、その他労組が何もできない中、かばったのが東海内では決して強くない総連。労組としてそれなりの役割を果たしているのかなとさえ思った」

この評価は難しいところだ。ある意味、組織拡大のために職員を守り組合員を増やしたという見方もできるが、その一方で職員を懲罰から守ったのも事実である。各種の労働組合の運動が形骸化する中、労使交渉ができるのも総連ということなのだろうか。

しかし他組合員に対して容赦ない態度を取るのも総連であり、いざ労働とは無関係の闘争ともなればいかつい活動家たちが大挙する。彼らが真に守るべきものは人、安全、組織、イデオロギーのどれなのか。総連のみならずJRの労組全体が原点に立ち戻り、北海道問題に対処すべきだろう。とは言え想像以上に根深い労労対立という図式。JR北海道内部が正常化するのはまだ遠い先と言えそうだ。(三)

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。